◇第百三十一話◇崩れ落ちた足元から地獄が顔を出す
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足元にあったはずの地面は崩れ、砕け散った瓦礫と共に落下していく。
土埃が舞っているせいか、視界も濁り、止まってしまった思考と同様にぼやけている。
何が起こっているのか、ジャンには理解出来ないままだった。
考えることもやめてしまっていたのかもしれない。
ただ、瓦礫だらけのぼやけた視界の向こうに、月明かりを探していた気がする。
だからきっと、ジャンは右腕だけを空に伸ばしていたのだ。
だが、その手に触れたのは、月明かりでも希望でもなかった。
月明かりに黒髪が照らされて煌めく。
相変わらず、ミカサは綺麗だ。月明かりを浴びる彼女が、あまりに現実離れした美しさを放つから、ここは、小説の世界に飛ばされたのだろうかと本気で混乱してしまう。
引っ張り上げられた身体が浮遊する感覚さえも、悪夢の演出のように思えた。
けれど、違うのだ。
崩れ落ちた地面と暗闇から飛び出してきた見たことのない巨人、それらはすべて、現実だった。
「ジャン、しっかりして。」
声をかけられてやっと、ミカサが引っ張り上げて助けてくれたのだと理解した。
そうでなければ、数秒後のジャンは、瓦礫と共に地面に叩きつけられていた。
「あぁ…、悪い。助かった。」
一体何が起こっているのか———。
額に手を添えて、ジャンは当たりを見渡した。
どうやらミカサは、なんとか無事だった屋上の端の方にジャンを運んでくれたようだ。
これは現実なのだと理解し始めたジャンが、最初に認識したのは、巨人の大きな背中だった。
その巨人は、見たこともない鋼のような皮膚に覆われていた。
「なんだ、あれ…。」
呆然と呟くジャンの声は、立体起動装置が勢いよく吹かした幾つものガスの噴射音にかき消される。
そして、まだ夢見心地のジャンの視界いっぱいに、調査兵団の精鋭兵達の背中が飛び上がって現れた。
そこには、別作戦に参加しているはずのミケ班の姿もあった。
彼らは皆、とても怖い顔をしていた。でもなぜか、泣きそうな目をしているのだ。
なぜだろう————。
「なまえ!どうなってんだ!?」
リヴァイ兵長が張り上げた声にハッとして、ジャンはなまえの姿を探す。
彼女は、崩れた図書館から飛び上がって来た精鋭達の中にいた。
「ごめんなさい、リヴァイ兵長…!私…ッ、ライナーにとどめをさせなくて…っ。」
「・・・・は?」
泣きそうな顔のなまえが、叫ぶ。
長い髪を振り乱し、取り乱しているようだ。
きっと、だから、可笑しなことを言っているのだろう。
だって、ジャンは、彼女が何を言っているのか、理解できなかったのだ。
「後から好きなだけ叱ってやる!
まずは、状況を説明しやがれ!!」
「…ッ。地下まで誘導は成功しましたが、ハンジさんの誘導尋問前に
彼らに作戦に感づかれブレードを抜いた為、ミケ班が、ベルトルト・フーバーを捕獲!
ライナー・ブラウンは、私が切りましたが、僅かに首元がズレてしまい失敗。
今、ライナーが巨人化して、ベルトルトを奪い逃走中です!!」
「…クソッ!お前ら!!」
盛大な舌打ちをしたリヴァイが、自身の班員たちに声をかける。
それだけでは、何の指示なのかが分からないジャンとは違って、リヴァイ班の精鋭達は、立体起動装置のガスを吹かせて飛び上がった。
そして、まるで、ソレが現れることが分かっていたかのように、逃げていく大きな背中を追いかけていく。
「エレン!ハンジさんの許可がまだ出てない!!
巨人化したらダメ!!」
「分かってる!クソ…ッ、あの裏切り野郎ども…!!
捕まえたら、ぶっ飛ばしてやる!!」
ミカサに叱られたエレンは、悔しそうな顔をして唇を噛むと、立体起動装置のワイヤーを飛ばした。
「ジャン、あなたもすぐに追いついて。
アレを捕らえなければいけない。
————なんとしてでも。」
そう言ったミカサは、目にも止まらぬ速さで飛んでいく。
前を見据えるミカサの横顔からは、強い覚悟を感じとれた。
ミカサとエレンは、まるで、こうなることが分かっていたようなやり取りだった。
まさか、この地獄を予想していたというのか。
でも、ジャンは一体〝何を〟追いかけるべきなのかが分からないのだ。
あぁ、分かっている。巨人だ。この建物から飛び出してきたあの恐ろしい巨人を追いかければいいのだろう。
けれど、なんだかとても嫌な予感がするのだ。
頭が、この状況を理解することを認めてくれない。
「おい!いつまで呆けてやがる!!
追いかけるぞ!!」
「追いかけるって…?何を…。」
そこまで言って、ジャンはハッとした。
さっき、なまえやハンジ班が崩れる瓦礫の中から飛び上がって現れたとき、なぜかミケ班までいた。
けれど、そこに、ライナーとベルトルトはいただろうか———。
「リヴァイ兵長!!ライナーとベルトルトがまだ瓦礫の中に取り残されてるかもしれません!!
俺は、アイツらを助けに————。」
「ジャン、落ち着け。」
慌てて立ち上がり、焦って叫んだジャンに、リヴァイは哀れんだような視線を向けた。
立体起動装置のトリガーに指をかけたまま、背中に、嫌な汗が流れる。
でもこのときはまだ、その理由を理解できずにいた。
「すみません。でも、友人が瓦礫の中に取り残されてるのに落ち着いてなんか———。」
「問題ねぇ。」
「問題ねぇって…っ、あんなデカいヤツが隠れてた建物の中に取り残されてんのに
問題ねぇわけが…!!」
「向こうで、デカいケツ晒して逃げていってんのが、お前の友人だから
問題ねぇと言ったんだ。」
「・・・・・は?」
一体、彼は何を言っているのか———。
ジャンは、咄嗟に、なまえの方を見た。
彼女はまだ、リヴァイのそばにいた。
そしてきっと、彼女なら、リヴァイの質の悪い冗談を不謹慎だと怒ってくれると思ったのだ。
けれど、なまえは泣きそうな顔で唇を噛むばかりで、この冷めた空気が辛気臭くなだけだった。
「ジャン。」
久しぶりに、なまえがジャンの名前を呼ぶ。
ドキリと心臓が鳴る。
でも、いつもとは何かが大きく違う。
冷や汗が止まらない。
「あのね、」
聞きたくない。
聞いてはいけない———何かが頭の中で叫ぶ。
どこか遠くで、何かが爆発するような大きな音が聞こえた。
エレンが、ハンジさんの指示を無視して巨人化したのかもしれない。
なぜか、エレンはものすごく、思いつめた顔をしていたから———。
「超大型巨人と鎧の巨人は、ベルトルトとライナーだったの。」
ガツン、と頭を鈍器で殴られた———なまえの読む小説にもよく出てくる使い古された言い回しが、しっくりきた。
その後に襲ってきたのは、鋭利な刃物だ。
尖った刃先は、遠慮の欠片もなくジャンの心臓を抉る。
腹を刺されたときの方が痛くなかったと思ってしまったくらいだ。
「ごめんね。」
どうして、なまえが謝るのだろう。
立体起動装置のガスを吹かして飛び上がったなまえの頬には、涙が流れていた。
土埃が舞っているせいか、視界も濁り、止まってしまった思考と同様にぼやけている。
何が起こっているのか、ジャンには理解出来ないままだった。
考えることもやめてしまっていたのかもしれない。
ただ、瓦礫だらけのぼやけた視界の向こうに、月明かりを探していた気がする。
だからきっと、ジャンは右腕だけを空に伸ばしていたのだ。
だが、その手に触れたのは、月明かりでも希望でもなかった。
月明かりに黒髪が照らされて煌めく。
相変わらず、ミカサは綺麗だ。月明かりを浴びる彼女が、あまりに現実離れした美しさを放つから、ここは、小説の世界に飛ばされたのだろうかと本気で混乱してしまう。
引っ張り上げられた身体が浮遊する感覚さえも、悪夢の演出のように思えた。
けれど、違うのだ。
崩れ落ちた地面と暗闇から飛び出してきた見たことのない巨人、それらはすべて、現実だった。
「ジャン、しっかりして。」
声をかけられてやっと、ミカサが引っ張り上げて助けてくれたのだと理解した。
そうでなければ、数秒後のジャンは、瓦礫と共に地面に叩きつけられていた。
「あぁ…、悪い。助かった。」
一体何が起こっているのか———。
額に手を添えて、ジャンは当たりを見渡した。
どうやらミカサは、なんとか無事だった屋上の端の方にジャンを運んでくれたようだ。
これは現実なのだと理解し始めたジャンが、最初に認識したのは、巨人の大きな背中だった。
その巨人は、見たこともない鋼のような皮膚に覆われていた。
「なんだ、あれ…。」
呆然と呟くジャンの声は、立体起動装置が勢いよく吹かした幾つものガスの噴射音にかき消される。
そして、まだ夢見心地のジャンの視界いっぱいに、調査兵団の精鋭兵達の背中が飛び上がって現れた。
そこには、別作戦に参加しているはずのミケ班の姿もあった。
彼らは皆、とても怖い顔をしていた。でもなぜか、泣きそうな目をしているのだ。
なぜだろう————。
「なまえ!どうなってんだ!?」
リヴァイ兵長が張り上げた声にハッとして、ジャンはなまえの姿を探す。
彼女は、崩れた図書館から飛び上がって来た精鋭達の中にいた。
「ごめんなさい、リヴァイ兵長…!私…ッ、ライナーにとどめをさせなくて…っ。」
「・・・・は?」
泣きそうな顔のなまえが、叫ぶ。
長い髪を振り乱し、取り乱しているようだ。
きっと、だから、可笑しなことを言っているのだろう。
だって、ジャンは、彼女が何を言っているのか、理解できなかったのだ。
「後から好きなだけ叱ってやる!
まずは、状況を説明しやがれ!!」
「…ッ。地下まで誘導は成功しましたが、ハンジさんの誘導尋問前に
彼らに作戦に感づかれブレードを抜いた為、ミケ班が、ベルトルト・フーバーを捕獲!
ライナー・ブラウンは、私が切りましたが、僅かに首元がズレてしまい失敗。
今、ライナーが巨人化して、ベルトルトを奪い逃走中です!!」
「…クソッ!お前ら!!」
盛大な舌打ちをしたリヴァイが、自身の班員たちに声をかける。
それだけでは、何の指示なのかが分からないジャンとは違って、リヴァイ班の精鋭達は、立体起動装置のガスを吹かせて飛び上がった。
そして、まるで、ソレが現れることが分かっていたかのように、逃げていく大きな背中を追いかけていく。
「エレン!ハンジさんの許可がまだ出てない!!
巨人化したらダメ!!」
「分かってる!クソ…ッ、あの裏切り野郎ども…!!
捕まえたら、ぶっ飛ばしてやる!!」
ミカサに叱られたエレンは、悔しそうな顔をして唇を噛むと、立体起動装置のワイヤーを飛ばした。
「ジャン、あなたもすぐに追いついて。
アレを捕らえなければいけない。
————なんとしてでも。」
そう言ったミカサは、目にも止まらぬ速さで飛んでいく。
前を見据えるミカサの横顔からは、強い覚悟を感じとれた。
ミカサとエレンは、まるで、こうなることが分かっていたようなやり取りだった。
まさか、この地獄を予想していたというのか。
でも、ジャンは一体〝何を〟追いかけるべきなのかが分からないのだ。
あぁ、分かっている。巨人だ。この建物から飛び出してきたあの恐ろしい巨人を追いかければいいのだろう。
けれど、なんだかとても嫌な予感がするのだ。
頭が、この状況を理解することを認めてくれない。
「おい!いつまで呆けてやがる!!
追いかけるぞ!!」
「追いかけるって…?何を…。」
そこまで言って、ジャンはハッとした。
さっき、なまえやハンジ班が崩れる瓦礫の中から飛び上がって現れたとき、なぜかミケ班までいた。
けれど、そこに、ライナーとベルトルトはいただろうか———。
「リヴァイ兵長!!ライナーとベルトルトがまだ瓦礫の中に取り残されてるかもしれません!!
俺は、アイツらを助けに————。」
「ジャン、落ち着け。」
慌てて立ち上がり、焦って叫んだジャンに、リヴァイは哀れんだような視線を向けた。
立体起動装置のトリガーに指をかけたまま、背中に、嫌な汗が流れる。
でもこのときはまだ、その理由を理解できずにいた。
「すみません。でも、友人が瓦礫の中に取り残されてるのに落ち着いてなんか———。」
「問題ねぇ。」
「問題ねぇって…っ、あんなデカいヤツが隠れてた建物の中に取り残されてんのに
問題ねぇわけが…!!」
「向こうで、デカいケツ晒して逃げていってんのが、お前の友人だから
問題ねぇと言ったんだ。」
「・・・・・は?」
一体、彼は何を言っているのか———。
ジャンは、咄嗟に、なまえの方を見た。
彼女はまだ、リヴァイのそばにいた。
そしてきっと、彼女なら、リヴァイの質の悪い冗談を不謹慎だと怒ってくれると思ったのだ。
けれど、なまえは泣きそうな顔で唇を噛むばかりで、この冷めた空気が辛気臭くなだけだった。
「ジャン。」
久しぶりに、なまえがジャンの名前を呼ぶ。
ドキリと心臓が鳴る。
でも、いつもとは何かが大きく違う。
冷や汗が止まらない。
「あのね、」
聞きたくない。
聞いてはいけない———何かが頭の中で叫ぶ。
どこか遠くで、何かが爆発するような大きな音が聞こえた。
エレンが、ハンジさんの指示を無視して巨人化したのかもしれない。
なぜか、エレンはものすごく、思いつめた顔をしていたから———。
「超大型巨人と鎧の巨人は、ベルトルトとライナーだったの。」
ガツン、と頭を鈍器で殴られた———なまえの読む小説にもよく出てくる使い古された言い回しが、しっくりきた。
その後に襲ってきたのは、鋭利な刃物だ。
尖った刃先は、遠慮の欠片もなくジャンの心臓を抉る。
腹を刺されたときの方が痛くなかったと思ってしまったくらいだ。
「ごめんね。」
どうして、なまえが謝るのだろう。
立体起動装置のガスを吹かして飛び上がったなまえの頬には、涙が流れていた。