結果は、数秒で出た。
誰もが想像した通り、リヴァイの圧勝だ。
長い脚を蹴り上げられたジャンは、そのまま重たい拳が背中に落ちたと思った時にはもう、地面に叩きつけられていた。
体感として、ほんの一瞬での出来事だった。
殴られたのは背中だけだったはずなのに、全身が痛みと恐怖に悲鳴を上げている。
地面を蹴る音がして、うっすらと瞼を上げれば、ブーツが目の前に現れた。

「く…ッ。」

ゆっくりと視線を上げた先にいたのは、冷たい視線で自分を見下ろすリヴァイだった。
————負けた。
完膚なきまで倒されていればまだ惨めさも誤魔化せたかもしれない。
でも、そんなことも必要ないほどに、実力差は大きかった。それこそ、巨人と赤ん坊くらいの違いを、リヴァイが動いたその一瞬に感じたのだ。
悔しかった。腹立たしかった。許せなかった。

「付き合ってやったんだ。約束は守れよ。クソガキ。」

リヴァイはそれだけ言うと、これで終わりだとばかりに、ジャンに背を向けた。

「勝つまで！！逃げませんから！！
　俺、絶対に逃げねぇから！！」

立ち去っていくリヴァイの背中に、地面に倒れたまま起き上がらない身体で、ジャンが必死に叫ぶ。
けれど、リヴァイが振り向くことはなかった。
その代わり、リヴァイ班が、戸惑いがちにジャンの方をチラチラと見ながら、リヴァイを追いかけていく。

「ジャン、お前…本物の馬鹿だったんだな。」

誰かが肩に手を置いたと思ったら、長髪が目の前でチラチラと揺れた。
エレンだ。
膝を折り曲げて屈み、地面に突っ伏したジャンの顔を覗き込んでくる。哀れんだ瞳を向けられて、死ぬほど腹が立つ。

「エレン、今そんなこと言う必要はない。あなたはいつもどうしてそうやって———」
「あー、はいはい。わかったから。」

説教を始めたミカサに、エレンは面倒くさそうに言って立ち上がった。
そして、他のリヴァイ班を追いかける前に、もう一度、ジャンを振り返る。

「これでもう、死に急ぎ野郎なんて俺に言えねぇな。」

嬉しそうなエレンの端正な顔に、パンチの一発でも食らわせてやりたいが、今のジャンにそんな気力はない。
リヴァイ班が見えなくなれば、ミケやハンジ達も今日の決闘の結果をエルヴィンに報告しに行くと立ち去る。
そうなれば、ギャラリーも次第に減っていく。
残ったのは、ライナーとベルトルトだけだった。
彼らは、いまだに倒れているジャンの両隣に腰をおろす。
何も言わない彼らの優しさが、ジャンの惨めさを際立たせたけれど、それよりもなによりも、仲間がいることの安心感が勝っていた気がする。

「お前はよくやった。」

ライナーが、土埃で汚れたジャンの髪ををクシャリと撫でた。

「そうだよ！エレンの言う通り、リヴァイ兵長に決闘を挑むなんて
　巨人を討伐するより勇気のいることだと思うよ！！」

ライナーに続いて、ベルトルトも力強くジャンを慰める。

「あぁ、勇気のあるバカにしか出来ねぇ。」
「———うるせぇ。」

ジャンが口を尖らせる。
ライナーとベルトルトは互いに顔を見合わせると、思わず吹き出す。
そして、腹を抱えて笑った。