◇第百十七話◇これ以上、あなたに軽蔑されてしまう前に
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思わず抱きしめたジャンの腕の中で、なまえが息を呑んだ。
誰のかも分からない部屋の窓から落ちる明かりが頼りの薄暗い裏庭には、風の音もなかった。
「俺の望むようにって、言いましたよね。」
訊ねるというよりも、責めるみたいだった。
だからなのか、なまえは少しだけ肩を揺らして、戸惑いながら頷いた。
「なら、結婚なんかするなよ。」
「え…。」
「アンタは、馬鹿みたいに夢ばっか見てればいい。
その度に俺が叱ってやるし、面倒な仕事も押し付ければいいから。
俺は…、元に戻りたい。…それ以上は望まねぇから、ただ前みたいに
ただの補佐官として、なまえさんの隣にいれたらそれでいい。
誰かのものになんか、なるなよ…っ。」
静かな裏庭に、普段よりも低くなったジャンの声が静かに響く。
最低な言葉でなまえを突き放しておいて、勝手なことを言っている自覚ならあった。
でもこれは、ジャンにとっては譲歩した我儘だった。
好きだと言って、困らせたくはない———結婚を決めた女性に、結婚するなと言っておいて、矛盾しているのかもしれない。
けれど、今のジャンに出来る精一杯の悪足掻きだったのだ。
ほんの数秒だけ、なまえの呼吸すら聞こえない時間が流れた。
答えが怖いけれど、己惚れかもしれない期待も僅かに胸に残して、その時を待つ。
永遠にも思われた緊張は、なまえがジャンの胸元を押し返したことで、唐突に断たれた。
「…私は、嫌だよ。」
なまえは、目を伏せたまま呟くように言った。
小さすぎて、よくは聞こえなかったけれど、何を言ったのかは分かってしまった。
どうやら、分かりやすい拒絶をされたらしい。
自分はもっとひどいことを彼女に投げつけておきながら、胸が痛くなって苦しい。
でも、彼女は続ける———。
「それ以上を望んじゃう。」
「え・・・?」
もしかして————期待がなかったと言ったら、大嘘になる。
だから、ジャンは、目を伏せるなまえの顔を覗き込んだのだ。
彼女は、大きな瞳に涙をいっぱいためて、それでも唇を噛んでなんとか堪えていた。
そして、目が合うと、ゆっくりと顔を上げて、唇を開く。
「ジャンが、好きなの。」
視線が重なる。逸らせるわけもない。
呼吸が止まって、ただなまえを見つめ続ける。
ずっと、ずっと夢見ていた言葉だったはずだ。
でもなぜだろうか。心臓が悲鳴を上げるのだ。
この先を、聞きたくないと思っている。
「いつからなのかは、自分でも分からないけど…
気づいたときにはもう、ジャンが好きだった。
偽物の婚約者じゃなくて、本物になれたらって思ってた。それ以上を望んじゃう。
だからもう、元には戻れない。ただの上司と補佐官にはもう、戻れない…。」
「なら、それ以上になりましょう。結婚なんかやめちまえばいい。
俺だって、その方が…っ。」
早口で捲し立てるジャンに、なまえが首を横に振る。
「なんでだよ…!」
ジャンは、なまえの両肩を強く握りしめて声を荒げた。
何を必死になっているのか自分でも分からないくらい、ジャンは必死だった。
焦りにも似ていた。
なまえは、ジャンのことを好きだと言っているのに、嬉しくなんかなかった。
ただ、怖かった。このまま引き下がったら彼女を永遠に失うことになる気がして、怖くて仕方なかった。
もうとっくに、二度となまえに触れることは出来ないのだと諦めていたはずなのに———。
まるで『そばにいてくれ!』と懇願するように、なまえの両肩を強く握りしめている。
逃がさない———そんな弱くも強い意志は、その肩を震わせる痛みから、なまえにも伝わっているはずだ。
「私と一緒になったら、ジャンを苦しめてしまうから。」
「なん、だよそれ。そんなことで俺が納得すると思うなよ…っ。
確かに…、ヒデェこと言ったけど、本当はあんなこと思ってない…!
なまえさんを信じてるからっ。もしも想像以上の苦労が待ってたとしても、
俺は、なまえさんとなら、どんな地獄だって越えられる…!」
なんとか説得しなくては————使命感か焦りか分からない感情が、ジャンを襲っていた。
そうしないと、こうして話すのも最後になる。
もう二度と触れられない場所へと、なまえが行ってしまう。
だからどうか———。
願いを込めて、なまえを見つめる目頭に力が入る。
でも、なまえはその瞳から逃げるように、目を伏せてしまう。
「私も…、そう思ってたよ。ジャンと一緒なら。きっと、ジャンなら。
そう思って、ジャンが目を覚ますまで待ってた。目を覚ましてからもずっと。
誰に何を言われても、どんなにツラくても、ジャンさえ味方でいてくれたら大丈夫だって、思ってた。
————あの日まで。」
なまえが、最後に零すように付け足した。
その言葉が聞こえた瞬間に、ジャンの足元にあった地面がガラガラと音を立てながら崩れていくような絶望に襲われた。
〝あの日〟が、いつを示しているのかなんて、聞かなくても分かっている。
言ってはいけないことを言ってしまった。
後悔したところで、あの瞬間にもう、知らぬうちに2人が重ねていた未来は、消え失せていた。
今さら、気持ちを確かめ合ったところで、既にもう、手遅れだったのだ。
「手紙の返事、今してもいいかな?」
「手紙?」
「あの日、手紙とお菓子をくれて、ありがとう。」
「あぁ…。」
そのことか———。
小さく漏らすようにジャンが答えれば、なまえはさらに続けた。
「私の宝物になったよ。大切に仕舞ってあるの。
私もね…、好きになってごめんなさい。」
「…謝るなよ。」
なまえの大きな瞳から、ついに堪え切れなくなった涙が零れ落ちていく。
その涙を拭いながら、明日にはもうそれすらも許してもらえなくなるのだろうと感じていた。
「聞いていいですか。」
「…うん。答えられることなら…。」
「俺じゃなくて、リヴァイ兵長を選んだ理由は何ですか?
———あの日、俺が最低なこと言ったから?嫌いに、なった…?」
力を失っていく手が、握りしめていたなまえの細い肩から、ゆるゆると解けていく。
情けないことを言ってしまった。
でも、確かめておきたかったのだ。
目を伏せたジャンは、暗くてよく見えないベンチの節を見つめながら、答えを待った。
あの日の最悪な間違いのせいじゃないことを願っていたような気もするし、すべてをあの日のせいにしてしまいたかったような気もする。
とにかく、聞かなくては———そう思った。
知りたいとは思わないはずなのに、なぜだろうか———。
「ジャンは何も悪くないよ。
あんなことをジャンに言わせてしまった、悪いのは全部、私。」
なまえの答えを聞いた瞬間、伏せていたジャンの目が見開く。
無意識に想定していた。その通りの答えだった。
(あぁ…そうか…、俺は…っ。)
つまりは、ジャンは、すべてをなまえのせいにしてただ楽になりたかったのだ。
情けない質問の理由に気づいたのと同時に、ドクッと鼓動が跳ねるように鳴り響き、心をぶん殴り始めていた。
胸が痛い。でも、自分が蒔いた種なのだから、嘆くことも出来ない。
すべてをなまえのせいにする代わりに、この胸の痛みくらいには堪えるべきだ。
「ジャンは、優しいよ。」
自己嫌悪に陥っているジャンの心が、まるで見えたようだった。
慰めに聞こえたそれに甘えようとしている自分が許せなくて、ジャンは顔を上げる。
そして、なまえに『そうじゃない。』と言おうとしたのだ。
でも、なまえの顔を見たら、それも出来なくなってしまう。
ひどく優しい泣き顔だ。なまえはきっと本気で、ジャンのことを『優しい』と思っている。
自分を守ることに精一杯で、大切な人を傷つけてばかりいるのに——。
優しい男は、最後の最後に、結婚を控えている女性をこんな風に困らせたりしない。
それが、惚れている女性なら尚更だ。
幸せになれという言葉ひとつもかけられない男のどこが、優しいというのか。
でも、なまえは、ジャンの頬に手を添えて、悲しそうに微笑み、こう言うのだ。
「ひとりだと怖くて、寂しくて、ツラくって
ジャンの優しさに甘えようとしてた。
ごめんね。」
「…っ。」
あぁ、もう本当に駄目なんだ———そう思うと泣けてきて、ジャンは唇を噛む。
甘えてくれていいのだと気持ちを込めて首を横には振ってみたけれど、なまえの謝罪が取り消されることはないのだろう。
「大好き。私、ジャンが大好きだった。だから…、バイバイさせて。
——こ・・・、あ・・・・・され・・・・・に。」
最後に、なまえが何かを言った。
とても大切なことだったはずだ。でもそれはすごく小さくて、こんな静かな場所でさえ、聞き取れなかった。
「じゃあ、私は部屋に戻るね。
ジャンも風邪ひいちゃう前に早めに戻って、良い夢見てね。」
頬に触れていたなまえの手が離れていく。
また、温度が分からなくなってしまう。
なまえがベンチから立ち上がって背を向けるから、追いかけようとしたジャンの手は、夜風に冷えるだけだった。
「あ、」
数歩進んだ先で、なまえが立ち止まり振り返った。
「次の壁外調査、私が立案した作戦なんだ。
頑張ってくるね。」
なまえが、白い歯を覗かせてニシシと笑う。
口の端が震えて見えたのは、ジャンの瞳が涙で潤んでいたからか。
本当にそれだけだったのだろうか。
誰のかも分からない部屋の窓から落ちる明かりが頼りの薄暗い裏庭には、風の音もなかった。
「俺の望むようにって、言いましたよね。」
訊ねるというよりも、責めるみたいだった。
だからなのか、なまえは少しだけ肩を揺らして、戸惑いながら頷いた。
「なら、結婚なんかするなよ。」
「え…。」
「アンタは、馬鹿みたいに夢ばっか見てればいい。
その度に俺が叱ってやるし、面倒な仕事も押し付ければいいから。
俺は…、元に戻りたい。…それ以上は望まねぇから、ただ前みたいに
ただの補佐官として、なまえさんの隣にいれたらそれでいい。
誰かのものになんか、なるなよ…っ。」
静かな裏庭に、普段よりも低くなったジャンの声が静かに響く。
最低な言葉でなまえを突き放しておいて、勝手なことを言っている自覚ならあった。
でもこれは、ジャンにとっては譲歩した我儘だった。
好きだと言って、困らせたくはない———結婚を決めた女性に、結婚するなと言っておいて、矛盾しているのかもしれない。
けれど、今のジャンに出来る精一杯の悪足掻きだったのだ。
ほんの数秒だけ、なまえの呼吸すら聞こえない時間が流れた。
答えが怖いけれど、己惚れかもしれない期待も僅かに胸に残して、その時を待つ。
永遠にも思われた緊張は、なまえがジャンの胸元を押し返したことで、唐突に断たれた。
「…私は、嫌だよ。」
なまえは、目を伏せたまま呟くように言った。
小さすぎて、よくは聞こえなかったけれど、何を言ったのかは分かってしまった。
どうやら、分かりやすい拒絶をされたらしい。
自分はもっとひどいことを彼女に投げつけておきながら、胸が痛くなって苦しい。
でも、彼女は続ける———。
「それ以上を望んじゃう。」
「え・・・?」
もしかして————期待がなかったと言ったら、大嘘になる。
だから、ジャンは、目を伏せるなまえの顔を覗き込んだのだ。
彼女は、大きな瞳に涙をいっぱいためて、それでも唇を噛んでなんとか堪えていた。
そして、目が合うと、ゆっくりと顔を上げて、唇を開く。
「ジャンが、好きなの。」
視線が重なる。逸らせるわけもない。
呼吸が止まって、ただなまえを見つめ続ける。
ずっと、ずっと夢見ていた言葉だったはずだ。
でもなぜだろうか。心臓が悲鳴を上げるのだ。
この先を、聞きたくないと思っている。
「いつからなのかは、自分でも分からないけど…
気づいたときにはもう、ジャンが好きだった。
偽物の婚約者じゃなくて、本物になれたらって思ってた。それ以上を望んじゃう。
だからもう、元には戻れない。ただの上司と補佐官にはもう、戻れない…。」
「なら、それ以上になりましょう。結婚なんかやめちまえばいい。
俺だって、その方が…っ。」
早口で捲し立てるジャンに、なまえが首を横に振る。
「なんでだよ…!」
ジャンは、なまえの両肩を強く握りしめて声を荒げた。
何を必死になっているのか自分でも分からないくらい、ジャンは必死だった。
焦りにも似ていた。
なまえは、ジャンのことを好きだと言っているのに、嬉しくなんかなかった。
ただ、怖かった。このまま引き下がったら彼女を永遠に失うことになる気がして、怖くて仕方なかった。
もうとっくに、二度となまえに触れることは出来ないのだと諦めていたはずなのに———。
まるで『そばにいてくれ!』と懇願するように、なまえの両肩を強く握りしめている。
逃がさない———そんな弱くも強い意志は、その肩を震わせる痛みから、なまえにも伝わっているはずだ。
「私と一緒になったら、ジャンを苦しめてしまうから。」
「なん、だよそれ。そんなことで俺が納得すると思うなよ…っ。
確かに…、ヒデェこと言ったけど、本当はあんなこと思ってない…!
なまえさんを信じてるからっ。もしも想像以上の苦労が待ってたとしても、
俺は、なまえさんとなら、どんな地獄だって越えられる…!」
なんとか説得しなくては————使命感か焦りか分からない感情が、ジャンを襲っていた。
そうしないと、こうして話すのも最後になる。
もう二度と触れられない場所へと、なまえが行ってしまう。
だからどうか———。
願いを込めて、なまえを見つめる目頭に力が入る。
でも、なまえはその瞳から逃げるように、目を伏せてしまう。
「私も…、そう思ってたよ。ジャンと一緒なら。きっと、ジャンなら。
そう思って、ジャンが目を覚ますまで待ってた。目を覚ましてからもずっと。
誰に何を言われても、どんなにツラくても、ジャンさえ味方でいてくれたら大丈夫だって、思ってた。
————あの日まで。」
なまえが、最後に零すように付け足した。
その言葉が聞こえた瞬間に、ジャンの足元にあった地面がガラガラと音を立てながら崩れていくような絶望に襲われた。
〝あの日〟が、いつを示しているのかなんて、聞かなくても分かっている。
言ってはいけないことを言ってしまった。
後悔したところで、あの瞬間にもう、知らぬうちに2人が重ねていた未来は、消え失せていた。
今さら、気持ちを確かめ合ったところで、既にもう、手遅れだったのだ。
「手紙の返事、今してもいいかな?」
「手紙?」
「あの日、手紙とお菓子をくれて、ありがとう。」
「あぁ…。」
そのことか———。
小さく漏らすようにジャンが答えれば、なまえはさらに続けた。
「私の宝物になったよ。大切に仕舞ってあるの。
私もね…、好きになってごめんなさい。」
「…謝るなよ。」
なまえの大きな瞳から、ついに堪え切れなくなった涙が零れ落ちていく。
その涙を拭いながら、明日にはもうそれすらも許してもらえなくなるのだろうと感じていた。
「聞いていいですか。」
「…うん。答えられることなら…。」
「俺じゃなくて、リヴァイ兵長を選んだ理由は何ですか?
———あの日、俺が最低なこと言ったから?嫌いに、なった…?」
力を失っていく手が、握りしめていたなまえの細い肩から、ゆるゆると解けていく。
情けないことを言ってしまった。
でも、確かめておきたかったのだ。
目を伏せたジャンは、暗くてよく見えないベンチの節を見つめながら、答えを待った。
あの日の最悪な間違いのせいじゃないことを願っていたような気もするし、すべてをあの日のせいにしてしまいたかったような気もする。
とにかく、聞かなくては———そう思った。
知りたいとは思わないはずなのに、なぜだろうか———。
「ジャンは何も悪くないよ。
あんなことをジャンに言わせてしまった、悪いのは全部、私。」
なまえの答えを聞いた瞬間、伏せていたジャンの目が見開く。
無意識に想定していた。その通りの答えだった。
(あぁ…そうか…、俺は…っ。)
つまりは、ジャンは、すべてをなまえのせいにしてただ楽になりたかったのだ。
情けない質問の理由に気づいたのと同時に、ドクッと鼓動が跳ねるように鳴り響き、心をぶん殴り始めていた。
胸が痛い。でも、自分が蒔いた種なのだから、嘆くことも出来ない。
すべてをなまえのせいにする代わりに、この胸の痛みくらいには堪えるべきだ。
「ジャンは、優しいよ。」
自己嫌悪に陥っているジャンの心が、まるで見えたようだった。
慰めに聞こえたそれに甘えようとしている自分が許せなくて、ジャンは顔を上げる。
そして、なまえに『そうじゃない。』と言おうとしたのだ。
でも、なまえの顔を見たら、それも出来なくなってしまう。
ひどく優しい泣き顔だ。なまえはきっと本気で、ジャンのことを『優しい』と思っている。
自分を守ることに精一杯で、大切な人を傷つけてばかりいるのに——。
優しい男は、最後の最後に、結婚を控えている女性をこんな風に困らせたりしない。
それが、惚れている女性なら尚更だ。
幸せになれという言葉ひとつもかけられない男のどこが、優しいというのか。
でも、なまえは、ジャンの頬に手を添えて、悲しそうに微笑み、こう言うのだ。
「ひとりだと怖くて、寂しくて、ツラくって
ジャンの優しさに甘えようとしてた。
ごめんね。」
「…っ。」
あぁ、もう本当に駄目なんだ———そう思うと泣けてきて、ジャンは唇を噛む。
甘えてくれていいのだと気持ちを込めて首を横には振ってみたけれど、なまえの謝罪が取り消されることはないのだろう。
「大好き。私、ジャンが大好きだった。だから…、バイバイさせて。
——こ・・・、あ・・・・・され・・・・・に。」
最後に、なまえが何かを言った。
とても大切なことだったはずだ。でもそれはすごく小さくて、こんな静かな場所でさえ、聞き取れなかった。
「じゃあ、私は部屋に戻るね。
ジャンも風邪ひいちゃう前に早めに戻って、良い夢見てね。」
頬に触れていたなまえの手が離れていく。
また、温度が分からなくなってしまう。
なまえがベンチから立ち上がって背を向けるから、追いかけようとしたジャンの手は、夜風に冷えるだけだった。
「あ、」
数歩進んだ先で、なまえが立ち止まり振り返った。
「次の壁外調査、私が立案した作戦なんだ。
頑張ってくるね。」
なまえが、白い歯を覗かせてニシシと笑う。
口の端が震えて見えたのは、ジャンの瞳が涙で潤んでいたからか。
本当にそれだけだったのだろうか。