◇百十四話◇会いたいときに会えたなら、運命と呼べたかもしれないのに
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顔を合わせることがあれば、そのときに礼を伝えればいい———少し前までとは真逆の言い訳を自分に言い聞かせながら、ジャンは自室のあるフロアへ向かっていた。
なまえを探すのにだいぶ時間を使ってしまったようだった。一応、食堂にも顔を出したのだけれど、セルフになっている食事はすべて片付けられた後だった。
(まぁ、いいか。今日はずっと書類整理ばっかで
腹も減ってねぇし。)
ジャンは、自分の腹を軽くさする。
部屋に戻ったら寝よう。そして、早く明日が来ればいい。それを何度か繰り返せば、自分が積み重ねてきた数年のすべてとお別れだ。
今、振り返れば、自分はいつも貧乏くじを敢えて引いてきていたような気がする。
その最たるものが、調査兵団への入団だ。
本当なら、マルコと一緒に憲兵団本部に所属しているはずだった。
そこで、適当に任務をこなしながら、美人の彼女でも作って、贅沢もしつつ、平穏無事に生きていこうと思っていたのだ。
それが、なぜか調査兵団に入団して、恐ろしい巨人のいる壁の外へと何度も飛び出しては、『今度こそマジで死ぬ!』という思いを何度もする羽目になった。
そして、調査兵達が『1、2位を争う地獄の労働』と口を揃える眠り姫の助手に立候補した。
それさえなければ、調査兵団を辞めるという今の決断に至ることもなかったかもしれない。
そう考えれば、なまえの助手になったのは間違いでもなかったような気もする。
漸く、残酷な現実から逃げられるのだから————。
そんなこと悶々と考えながら、なんとなく覗いた廊下の窓の向こうに、濃い紺色の空を覆い尽くす雲を見つける。
窓辺に近づいたのは、無意識だった。
でも、あの雲の向こう側にあるものを知りたかった。
わざわざ窓を開ければ、夜風を顔いっぱいに浴びる。ひんやりと頬に触れた冷たい空気が、気持ちいい。
そういえば、今日は一度も外に出ていなかった。
何もすることもないし、散歩にでも出ようか———そう思って、見下ろした兵舎の裏庭。普段、誰もいないそこに、ジャンがずっと探していた人の姿を見つける。
きっと、それは偶然で、お互いに予期したものではなかったはずだ。
でも、ジャンはそのタイミングで視線を下げていて、なまえもふと夜空を見上げた。
視線が重なる。
(会いたくねぇと思ってたんだけどな。)
何度でも言おう。
人生なんて、思い通りにならないことの連続だ。
会いたくないと思っているときに限って顔を合わせてしまうし、会いたいときに限って会えないことの方が多い。
それならばもし、会いたいときに会えたのなら、それは運命なのだと、そう呼んでもいいのだろうか。
————2人は、重なった視線を離さなかった。
なまえを探すのにだいぶ時間を使ってしまったようだった。一応、食堂にも顔を出したのだけれど、セルフになっている食事はすべて片付けられた後だった。
(まぁ、いいか。今日はずっと書類整理ばっかで
腹も減ってねぇし。)
ジャンは、自分の腹を軽くさする。
部屋に戻ったら寝よう。そして、早く明日が来ればいい。それを何度か繰り返せば、自分が積み重ねてきた数年のすべてとお別れだ。
今、振り返れば、自分はいつも貧乏くじを敢えて引いてきていたような気がする。
その最たるものが、調査兵団への入団だ。
本当なら、マルコと一緒に憲兵団本部に所属しているはずだった。
そこで、適当に任務をこなしながら、美人の彼女でも作って、贅沢もしつつ、平穏無事に生きていこうと思っていたのだ。
それが、なぜか調査兵団に入団して、恐ろしい巨人のいる壁の外へと何度も飛び出しては、『今度こそマジで死ぬ!』という思いを何度もする羽目になった。
そして、調査兵達が『1、2位を争う地獄の労働』と口を揃える眠り姫の助手に立候補した。
それさえなければ、調査兵団を辞めるという今の決断に至ることもなかったかもしれない。
そう考えれば、なまえの助手になったのは間違いでもなかったような気もする。
漸く、残酷な現実から逃げられるのだから————。
そんなこと悶々と考えながら、なんとなく覗いた廊下の窓の向こうに、濃い紺色の空を覆い尽くす雲を見つける。
窓辺に近づいたのは、無意識だった。
でも、あの雲の向こう側にあるものを知りたかった。
わざわざ窓を開ければ、夜風を顔いっぱいに浴びる。ひんやりと頬に触れた冷たい空気が、気持ちいい。
そういえば、今日は一度も外に出ていなかった。
何もすることもないし、散歩にでも出ようか———そう思って、見下ろした兵舎の裏庭。普段、誰もいないそこに、ジャンがずっと探していた人の姿を見つける。
きっと、それは偶然で、お互いに予期したものではなかったはずだ。
でも、ジャンはそのタイミングで視線を下げていて、なまえもふと夜空を見上げた。
視線が重なる。
(会いたくねぇと思ってたんだけどな。)
何度でも言おう。
人生なんて、思い通りにならないことの連続だ。
会いたくないと思っているときに限って顔を合わせてしまうし、会いたいときに限って会えないことの方が多い。
それならばもし、会いたいときに会えたのなら、それは運命なのだと、そう呼んでもいいのだろうか。
————2人は、重なった視線を離さなかった。