◇第百七話◇君のいない空っぽの世界で
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「ありがとうございましたーー!」
高級ブティックの女店員が、馬鹿みたいに高い靴を買わされた不憫な男に、清々しいほどの綺麗なお辞儀を送る。
ジャンの隣では、共犯者に全く興味のなくなったフレイヤが、紙袋の中に入っている高級靴を嬉しそうに覗き込んでいる。
「じゃあ、そろそろ帰———。」
「なんか疲れちゃいましたねぇ。何か食べに行きませんか?」
フレイヤに提案されて、疲れていたジャンは受け入れてしまった。
今までたくさんの間違った選択をしてきたけれど、それもまたそのひとつだった。
フレイヤが嬉しそうにジャンを連れて行ったのは、女の子たちが好きそうな甘いものばかりのデザートカフェだったのだ。
当然、会計は、甘いものが得意ではないせいでコーヒーしか飲めなかったジャンだ。
後輩で年下のフレイヤに、食事の支払いをさせようとは思わない。
年上で上司のなまえだって、いつも自分が支払おうとしていた。
それでも、出来る限りジャンが支払っていたのは、ジャン自身がそうしたかったからだ。
きっと、これがなまえとのデートなら、2人で何が食べたいかを決めたり、食べ物をシェアしたりして、楽しく過ごしていたに違いない。
カフェを出た後も、フレイヤに振り回されるデートが続いた。
それでも、デートはデートだ。
それなのに、なぜだろうか。
何を見ても、キラキラと輝いて見えないのだ。
隣にいるのがなまえではない。ただそれだけなのに、飽きるほどに見慣れたはずのトロスト区の街が、見たこともない知らない場所のように感じてしまう。
何処にいてもひどく孤独で、つまらない。
確かに、トロスト区の街では、幸せそうに生活を営んでいる人たちの姿があちこちにある。
でも、そのどれもがどこか遠くて、声も聞こえてこないのだ。
隣で楽しそうに喋っているフレイヤでさえも、何かを言っているのが分かるくらいで、言葉までは頭に入ってこない。
全てから色が消えて、音もなくなった。
まるで、白黒の世界に放り込まれたようだ。
そして、思い知るしかなくなる。愛する人は、世界の全てだった。
だから、なまえが隣にいないと、世界から色が消えた。音もなくなった。
これを、何と呼ぶのだろう。何と言えばいいのだろう。
(あぁ…そうだ…。)
空っぽだ。すべてが消えて、空っぽになったのだ。
そして、心の真ん中に残った大きな穴だけが、隣になまえがいた日々は夢ではなかったことを教えてくれる悲しい証だ。
高級ブティックの女店員が、馬鹿みたいに高い靴を買わされた不憫な男に、清々しいほどの綺麗なお辞儀を送る。
ジャンの隣では、共犯者に全く興味のなくなったフレイヤが、紙袋の中に入っている高級靴を嬉しそうに覗き込んでいる。
「じゃあ、そろそろ帰———。」
「なんか疲れちゃいましたねぇ。何か食べに行きませんか?」
フレイヤに提案されて、疲れていたジャンは受け入れてしまった。
今までたくさんの間違った選択をしてきたけれど、それもまたそのひとつだった。
フレイヤが嬉しそうにジャンを連れて行ったのは、女の子たちが好きそうな甘いものばかりのデザートカフェだったのだ。
当然、会計は、甘いものが得意ではないせいでコーヒーしか飲めなかったジャンだ。
後輩で年下のフレイヤに、食事の支払いをさせようとは思わない。
年上で上司のなまえだって、いつも自分が支払おうとしていた。
それでも、出来る限りジャンが支払っていたのは、ジャン自身がそうしたかったからだ。
きっと、これがなまえとのデートなら、2人で何が食べたいかを決めたり、食べ物をシェアしたりして、楽しく過ごしていたに違いない。
カフェを出た後も、フレイヤに振り回されるデートが続いた。
それでも、デートはデートだ。
それなのに、なぜだろうか。
何を見ても、キラキラと輝いて見えないのだ。
隣にいるのがなまえではない。ただそれだけなのに、飽きるほどに見慣れたはずのトロスト区の街が、見たこともない知らない場所のように感じてしまう。
何処にいてもひどく孤独で、つまらない。
確かに、トロスト区の街では、幸せそうに生活を営んでいる人たちの姿があちこちにある。
でも、そのどれもがどこか遠くて、声も聞こえてこないのだ。
隣で楽しそうに喋っているフレイヤでさえも、何かを言っているのが分かるくらいで、言葉までは頭に入ってこない。
全てから色が消えて、音もなくなった。
まるで、白黒の世界に放り込まれたようだ。
そして、思い知るしかなくなる。愛する人は、世界の全てだった。
だから、なまえが隣にいないと、世界から色が消えた。音もなくなった。
これを、何と呼ぶのだろう。何と言えばいいのだろう。
(あぁ…そうだ…。)
空っぽだ。すべてが消えて、空っぽになったのだ。
そして、心の真ん中に残った大きな穴だけが、隣になまえがいた日々は夢ではなかったことを教えてくれる悲しい証だ。