◇第百六話◇貴方のいない空っぽの世界で
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「あ、ねぇ、これ前にジャンが……っ。」
面白そうって言ってた本の新刊だよ————そう続くはずだった言葉は、空っぽの隣を見ると、ハッとして途切れる。
何をしているのだろう、と自分にため息が漏れる。
本を読んで過ごすのなら、書庫から本を大量に借りたいとやって来て、好きに選んでいいと言って窓際の椅子に座って待ってくれているリヴァイ兵長とは別行動している。
部屋で待っていていいと言ったのだけれど、どうせなら外でゆっくり本を読むのも良いんじゃないかとリヴァイ兵長が提案してくれたので、本を借りた後はそのまま兵舎庭へと向かう予定だ。
『今日は、お前の大好きな昼寝日和だろ。』
少し意地悪く口の端を上げたリヴァイ兵長は、長い付き合いなだけあって、私のことをよく分かってくれている。
今回だけではない。いろんな場面で、私はそう思うのだ。
そして、その度に、私のことを誰よりも知っているのはジャンではないのだと知って、寂しくなるのを繰り返している。
(借りようかな。)
見つけた本の背表紙に指をかける。
せっかくの新刊だ。物語の内容も面白かったのも覚えている。
でも、しばらく考えて、私は背表紙に触れていた指を離した。
今の私は、出来る限りでジャンとの想い出を排除しようとしている。
「なまえさん、お疲れ様です。」
すぐ後ろから声をかけられて、ビクッとして後ろを振り返った。
目が合うと、フレイヤが、ニコリと微笑む。
綺麗な金髪をクルクルに巻いて、可愛らしいワンピースに身を包むその姿は、現実のお姫様みたいだ。
メイクもしているのか、いつもよりもほんのりとピンク色に色づいた唇と頬が、彼女の魅力をより一層際立たせている。
「あっちにリヴァイ兵長もいましたけど、もしかして書庫デートですか?
なんか…おふたりらしい。」
フレイヤは、口元を手で隠して、クスクスと笑う。
「せっかくの休みだから、たくさん本を読もうと思って。」
「私は、せっかくの休みなので、ジャンさんとデートなんです。」
あぁ、だから————フレイヤがいつも以上に御洒落をしている理由を理解した。
「そ、っか。よかったね。楽しんで来てね。」
「なまえさんも、新しい婚約者と堂々とデートが出来るようになってよかったですね。
ジャンさんも、やっと本物の恋愛が出来るようになったって嬉しそうですよ。」
フレイヤが、嬉しそうに微笑む。
本物の恋愛———。夢ばかり見ていた私にとっては、ジャンは、初めての本物の恋愛だった。
確かに、始まりは偽物だった。けれど、ジャンの優しさと強さに惹かれていったのは、嘘じゃない。
それを、本物のカタチにする前に、壊してしまったけれど、ジャンにとっても、そうだったと思いたい。
たとえ最後が、最低最悪でも————思わず、抱えていた本を両手で包むようにギュッと抱きしめた。
「ジャンさんがいつも言ってますよ。
我儘なお姫様の子守から解放されて、やっと自由が満喫できるって。
大怪我させられたのは災難でしたけど、調査兵団内で一番キツい仕事から離れられたのは幸運でしたね。」
「…そう、だね。」
ついに、堪えられなくなって、私は目を伏せた。
そして彼女は、最後に、幸せそうな笑みで、私に追い打ちをかける。
満足した彼女が、飛び跳ねるような軽い足取りで、立ち去っていく。
向かうのは、ジャンの元なのだろう。
今頃ジャンは、可愛く着飾った恋人がやってくるのを、今か今かと待っているのだろうか。
面白そうって言ってた本の新刊だよ————そう続くはずだった言葉は、空っぽの隣を見ると、ハッとして途切れる。
何をしているのだろう、と自分にため息が漏れる。
本を読んで過ごすのなら、書庫から本を大量に借りたいとやって来て、好きに選んでいいと言って窓際の椅子に座って待ってくれているリヴァイ兵長とは別行動している。
部屋で待っていていいと言ったのだけれど、どうせなら外でゆっくり本を読むのも良いんじゃないかとリヴァイ兵長が提案してくれたので、本を借りた後はそのまま兵舎庭へと向かう予定だ。
『今日は、お前の大好きな昼寝日和だろ。』
少し意地悪く口の端を上げたリヴァイ兵長は、長い付き合いなだけあって、私のことをよく分かってくれている。
今回だけではない。いろんな場面で、私はそう思うのだ。
そして、その度に、私のことを誰よりも知っているのはジャンではないのだと知って、寂しくなるのを繰り返している。
(借りようかな。)
見つけた本の背表紙に指をかける。
せっかくの新刊だ。物語の内容も面白かったのも覚えている。
でも、しばらく考えて、私は背表紙に触れていた指を離した。
今の私は、出来る限りでジャンとの想い出を排除しようとしている。
「なまえさん、お疲れ様です。」
すぐ後ろから声をかけられて、ビクッとして後ろを振り返った。
目が合うと、フレイヤが、ニコリと微笑む。
綺麗な金髪をクルクルに巻いて、可愛らしいワンピースに身を包むその姿は、現実のお姫様みたいだ。
メイクもしているのか、いつもよりもほんのりとピンク色に色づいた唇と頬が、彼女の魅力をより一層際立たせている。
「あっちにリヴァイ兵長もいましたけど、もしかして書庫デートですか?
なんか…おふたりらしい。」
フレイヤは、口元を手で隠して、クスクスと笑う。
「せっかくの休みだから、たくさん本を読もうと思って。」
「私は、せっかくの休みなので、ジャンさんとデートなんです。」
あぁ、だから————フレイヤがいつも以上に御洒落をしている理由を理解した。
「そ、っか。よかったね。楽しんで来てね。」
「なまえさんも、新しい婚約者と堂々とデートが出来るようになってよかったですね。
ジャンさんも、やっと本物の恋愛が出来るようになったって嬉しそうですよ。」
フレイヤが、嬉しそうに微笑む。
本物の恋愛———。夢ばかり見ていた私にとっては、ジャンは、初めての本物の恋愛だった。
確かに、始まりは偽物だった。けれど、ジャンの優しさと強さに惹かれていったのは、嘘じゃない。
それを、本物のカタチにする前に、壊してしまったけれど、ジャンにとっても、そうだったと思いたい。
たとえ最後が、最低最悪でも————思わず、抱えていた本を両手で包むようにギュッと抱きしめた。
「ジャンさんがいつも言ってますよ。
我儘なお姫様の子守から解放されて、やっと自由が満喫できるって。
大怪我させられたのは災難でしたけど、調査兵団内で一番キツい仕事から離れられたのは幸運でしたね。」
「…そう、だね。」
ついに、堪えられなくなって、私は目を伏せた。
そして彼女は、最後に、幸せそうな笑みで、私に追い打ちをかける。
満足した彼女が、飛び跳ねるような軽い足取りで、立ち去っていく。
向かうのは、ジャンの元なのだろう。
今頃ジャンは、可愛く着飾った恋人がやってくるのを、今か今かと待っているのだろうか。