◇第百六話◇貴方のいない空っぽの世界で
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もっと眠っていたいような気もしたけれど、無駄な時間を過ごすよりは残酷な現実の方がマシのようにも思った。
だって、そこがどんなに残酷だとしても、夢の中では決して会えないジャンがいるのだ。
だから、私は、ゆっくりと目を開けた。
まだ、夢と現実の狭間にいるような感覚だ。
頭も視界も、ぼんやりとしている。
カーテンも閉まっているようで、太陽の光を遮っているから、部屋が少し薄暗くて、かろうじて夜ではないことが分かるくらいだ。
まだ明け方なのだろうか。沢山寝たような気はするのだけれど、昼は過ぎていないのかもしれない。それとも、もう夕方なのだろうか。それにしては、カーテンの向こうからかろうじて感じることのできる光は、夕焼けというよりも太陽の色に見える。
時間すらも分からない私にもなんとなく分かるのは、ベッドとちょうど反対側の壁に向けて置かれているデスクに向かって座っているその人は、兵団全体が非番になっている貴重なこの日に、私服のまま仕事をするくらいに真面目で忙しいのだということくらいだ。
私を起こさないようにベッドから抜け出した後に、私を起こさないためにカーテンを開けずにおいてくれたのだろう。
『いつまで寝てんすか。休みだからって昼まで寝るなって。』
わざと大きな音を立てながら勢いよくカーテンを開いた後、ジャンは、乱暴にシーツを剥がした。
眩しい太陽の光を顔中に浴びた私が、悲鳴を上げながらシーツの中に逃げ込もうとしても、ジャンに既にシーツを奪われていて、起き上がるしかなくなるのだ。
(今日も、私は、寒くない。)
身体をしっかりと包んでくれているシーツを見下ろして、心の中で呟く。
今の私には、夜中にシーツを蹴り落したって、何度でも諦めずにかけ直してくれる人がいる。
「んー…。お…はよ、う、ございます…。」
ゆっくりと身体を起こしながら、真面目な背中に声をかける。
「起きたのか。もう少し寝てても構わねぇぞ。」
リヴァイ兵長が振り返る。
これがジャンだったら、絶対にありえないセリフだ。
それとも、本当に、もう少し寝ててもいいくらいの早朝なのだろうか。
そんなことを思いながら、壁掛けの時計を確認する。
(1時。)
何度見ても、時計の針は1を指している。
真夜中の1時————ということは、ありえない。どう考えても、昼過ぎの13時だ。
だって、昨晩、私がやっとベッドに入ったのが、真夜中の3時過ぎなのだ。
リヴァイ兵長が、何度も、早く寝た方がいいと言っていたような気がしないでもないけれど、ソファに横になって本を読んでいたら、夢中になりすぎて時間が過ぎるのを忘れてしまったせいだ。
「起こさなかったんですね。」
いつもは叩き起こすのに———とは、言わなかったけれど、正直そう思っている。
婚約者になってから、リヴァイ兵長が優しくなった気がする。
大切にされているように感じるのだ。
ジャンとの想い出が残りすぎている自室に戻れない私を、自分の部屋で寝泊まりすればいいと言ってくれたのもリヴァイ兵長だ。恐縮しきりで、緊張して固まっている私が、生活しづらくないようにといろいろと気を遣ってくれている。
リヴァイ兵長が私のことを好きだなんて信じられなかったけれど、少しずつ、実感しているところだ。
でも、だからといって、仕事に対しては厳しいままで、怒られることばかりでもある。
居眠りをしていたら、恐ろしい顔で睨まれるし、一昨日も会議の後に説教を受けた。
毎朝、必ず、怖い顔で怒られて目が覚める。
「昨日は寝るのも遅かったしな。
まぁ、非番の日くらいは、好きなだけ寝てりゃいい。」
「———ありがとうございます。」
前は、非番の日くらい部屋の掃除をしろと怒っていたのにな———そんなことを思いながらも、リヴァイ兵長の優しさに礼を言う。
確かに、今、私が生活させてもらっているリヴァイ兵長の部屋は、掃除の必要がないくらいに綺麗だ。
(まぁ…、真夜中によく急に掃除を始めだしてビックリさせられるけど。)
ベッドから降りた私は、チェストから着替えを引っ張り出してから、奥のバスルームに向かう。
シャワーを浴びるためではなくて、着替えをするためだ。
ジャンの前でなら、平気で服を脱いでいたような気がする———パジャマを雑に脱ぎながら、だらしない生活を送っていた自分を思い出す。
『いい加減にしてくださいよ。部屋中、アンタの抜け殻だらけじゃねぇか。』
脱ぎながら歩く私の後ろから、脱ぎ捨てられた服を拾いながらジャンが追いかけてきていた。
呆れながら叱るジャンの声を面倒だと思いながら聞き流していた自分が、今はすごく羨ましい。
憧れのリヴァイ兵長に、こんなに良くしてもらっているのに、私はどうしてそんなことばかり考えているんだろう。
「今日は何をするんですか?」
着替えを終えた私がバスルームから出ると、リヴァイ兵長がデスクの上を片付けていた。
仕事は終わったらしい。
「せっかくの非番だ———。」
リヴァイ兵長が、私を見て言う。
でもそのセリフの向こうに、ジャンが見えたのだ。
『せっかくの非番なんすから、デート行きますよ。』
『えー、やだよ。せっかくの非番なんだから、いっぱいしたいことあるの。
本読んだり、お昼寝したり、本読んだり、お昼寝したり、本読んだり!』
『本読んで寝てるだけじゃねぇーか。いつもと変わらねぇよ。』
『質が違う!』
『はいはい。いいから行きますよ。俺、欲しい服があるんすよ。』
『いーーーーやーーーーーーー!!』
非番が重なる度に繰り返されていたくだらない言い争いだ。
そして、結局、私は、強引なジャンに負けて、トロスト区の街へと引っ張り出されるのだ。
あぁ、それでも、毎回、私が好きそうな本を一緒に選んでくれた。
あーだこーだと言いながら、一緒にあらすじを読むのがすごく楽しくて、本を読むよりもずっと大好きな時間だった。
「———ゆっくり本でも読むか。
読みてぇのがたまってんだろ。』
「・・・・え?何て言いましたか?」
「なにボーッとしてんだ。まだ寝惚けてんのか。
せっかくの非番なんだから、本でも読んで過ごすかと提案したんだ。」
リヴァイ兵長が呆れたように言いながら、私の大好きな休日の過ごし方を提案してくれる。
嬉しい———そう思うべきなのだろう。
きっと、偽物の婚約者だったジャンよりもずっと、リヴァイ兵長の方が私にとって理想の婚約者だ。
でもどうしてだろう。
くだらない言い争いと、非番だというのにあちこち歩きまわされて疲れるデートが、すごく恋しい。
「———そうですね!素敵な休日の過ごし方です!」
「だろうな。」
リヴァイ兵長がククッと喉を鳴らす。
私の心に、小さなヒビが入った音がした。
だって、そこがどんなに残酷だとしても、夢の中では決して会えないジャンがいるのだ。
だから、私は、ゆっくりと目を開けた。
まだ、夢と現実の狭間にいるような感覚だ。
頭も視界も、ぼんやりとしている。
カーテンも閉まっているようで、太陽の光を遮っているから、部屋が少し薄暗くて、かろうじて夜ではないことが分かるくらいだ。
まだ明け方なのだろうか。沢山寝たような気はするのだけれど、昼は過ぎていないのかもしれない。それとも、もう夕方なのだろうか。それにしては、カーテンの向こうからかろうじて感じることのできる光は、夕焼けというよりも太陽の色に見える。
時間すらも分からない私にもなんとなく分かるのは、ベッドとちょうど反対側の壁に向けて置かれているデスクに向かって座っているその人は、兵団全体が非番になっている貴重なこの日に、私服のまま仕事をするくらいに真面目で忙しいのだということくらいだ。
私を起こさないようにベッドから抜け出した後に、私を起こさないためにカーテンを開けずにおいてくれたのだろう。
『いつまで寝てんすか。休みだからって昼まで寝るなって。』
わざと大きな音を立てながら勢いよくカーテンを開いた後、ジャンは、乱暴にシーツを剥がした。
眩しい太陽の光を顔中に浴びた私が、悲鳴を上げながらシーツの中に逃げ込もうとしても、ジャンに既にシーツを奪われていて、起き上がるしかなくなるのだ。
(今日も、私は、寒くない。)
身体をしっかりと包んでくれているシーツを見下ろして、心の中で呟く。
今の私には、夜中にシーツを蹴り落したって、何度でも諦めずにかけ直してくれる人がいる。
「んー…。お…はよ、う、ございます…。」
ゆっくりと身体を起こしながら、真面目な背中に声をかける。
「起きたのか。もう少し寝てても構わねぇぞ。」
リヴァイ兵長が振り返る。
これがジャンだったら、絶対にありえないセリフだ。
それとも、本当に、もう少し寝ててもいいくらいの早朝なのだろうか。
そんなことを思いながら、壁掛けの時計を確認する。
(1時。)
何度見ても、時計の針は1を指している。
真夜中の1時————ということは、ありえない。どう考えても、昼過ぎの13時だ。
だって、昨晩、私がやっとベッドに入ったのが、真夜中の3時過ぎなのだ。
リヴァイ兵長が、何度も、早く寝た方がいいと言っていたような気がしないでもないけれど、ソファに横になって本を読んでいたら、夢中になりすぎて時間が過ぎるのを忘れてしまったせいだ。
「起こさなかったんですね。」
いつもは叩き起こすのに———とは、言わなかったけれど、正直そう思っている。
婚約者になってから、リヴァイ兵長が優しくなった気がする。
大切にされているように感じるのだ。
ジャンとの想い出が残りすぎている自室に戻れない私を、自分の部屋で寝泊まりすればいいと言ってくれたのもリヴァイ兵長だ。恐縮しきりで、緊張して固まっている私が、生活しづらくないようにといろいろと気を遣ってくれている。
リヴァイ兵長が私のことを好きだなんて信じられなかったけれど、少しずつ、実感しているところだ。
でも、だからといって、仕事に対しては厳しいままで、怒られることばかりでもある。
居眠りをしていたら、恐ろしい顔で睨まれるし、一昨日も会議の後に説教を受けた。
毎朝、必ず、怖い顔で怒られて目が覚める。
「昨日は寝るのも遅かったしな。
まぁ、非番の日くらいは、好きなだけ寝てりゃいい。」
「———ありがとうございます。」
前は、非番の日くらい部屋の掃除をしろと怒っていたのにな———そんなことを思いながらも、リヴァイ兵長の優しさに礼を言う。
確かに、今、私が生活させてもらっているリヴァイ兵長の部屋は、掃除の必要がないくらいに綺麗だ。
(まぁ…、真夜中によく急に掃除を始めだしてビックリさせられるけど。)
ベッドから降りた私は、チェストから着替えを引っ張り出してから、奥のバスルームに向かう。
シャワーを浴びるためではなくて、着替えをするためだ。
ジャンの前でなら、平気で服を脱いでいたような気がする———パジャマを雑に脱ぎながら、だらしない生活を送っていた自分を思い出す。
『いい加減にしてくださいよ。部屋中、アンタの抜け殻だらけじゃねぇか。』
脱ぎながら歩く私の後ろから、脱ぎ捨てられた服を拾いながらジャンが追いかけてきていた。
呆れながら叱るジャンの声を面倒だと思いながら聞き流していた自分が、今はすごく羨ましい。
憧れのリヴァイ兵長に、こんなに良くしてもらっているのに、私はどうしてそんなことばかり考えているんだろう。
「今日は何をするんですか?」
着替えを終えた私がバスルームから出ると、リヴァイ兵長がデスクの上を片付けていた。
仕事は終わったらしい。
「せっかくの非番だ———。」
リヴァイ兵長が、私を見て言う。
でもそのセリフの向こうに、ジャンが見えたのだ。
『せっかくの非番なんすから、デート行きますよ。』
『えー、やだよ。せっかくの非番なんだから、いっぱいしたいことあるの。
本読んだり、お昼寝したり、本読んだり、お昼寝したり、本読んだり!』
『本読んで寝てるだけじゃねぇーか。いつもと変わらねぇよ。』
『質が違う!』
『はいはい。いいから行きますよ。俺、欲しい服があるんすよ。』
『いーーーーやーーーーーーー!!』
非番が重なる度に繰り返されていたくだらない言い争いだ。
そして、結局、私は、強引なジャンに負けて、トロスト区の街へと引っ張り出されるのだ。
あぁ、それでも、毎回、私が好きそうな本を一緒に選んでくれた。
あーだこーだと言いながら、一緒にあらすじを読むのがすごく楽しくて、本を読むよりもずっと大好きな時間だった。
「———ゆっくり本でも読むか。
読みてぇのがたまってんだろ。』
「・・・・え?何て言いましたか?」
「なにボーッとしてんだ。まだ寝惚けてんのか。
せっかくの非番なんだから、本でも読んで過ごすかと提案したんだ。」
リヴァイ兵長が呆れたように言いながら、私の大好きな休日の過ごし方を提案してくれる。
嬉しい———そう思うべきなのだろう。
きっと、偽物の婚約者だったジャンよりもずっと、リヴァイ兵長の方が私にとって理想の婚約者だ。
でもどうしてだろう。
くだらない言い争いと、非番だというのにあちこち歩きまわされて疲れるデートが、すごく恋しい。
「———そうですね!素敵な休日の過ごし方です!」
「だろうな。」
リヴァイ兵長がククッと喉を鳴らす。
私の心に、小さなヒビが入った音がした。