◇第九十八話◇理想と現実と、君を想う妄想【前編】
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医療棟から宿舎まで、ジャンが誰かとすれ違うことはなかった。
少し離れた距離から、夜勤の見張り担当を見つけたくらいだ。
だが、さすがに宿舎の中に入れば、調査兵達の声や姿を確認できるようになる。
(声をかけられたら面倒だな。)
ジャンは、見覚えのある調査兵達の姿を遠くから確認する度に、避けるように遠回りをした。
真っ直ぐになまえの部屋に向かうよりも時間はかかってしまうが、怪我を心配した友人や、余計なおせっかいをする誰かに、なまえの元へ行くことを咎められるよりはマシだと思ったのだ。
だいぶ時間がかかったジャンは、いつの間にか技巧室や書庫の並ぶフロアにやってきていた。
昼間でも薄暗い窓のない狭い廊下は、なまえは気味悪がってあまり立ち寄ろうとしない。
そのせいで、この廊下の一番奥にある資料室へ行く必要のある仕事は、ほとんどジャンが押し付けられている。
今夜は、そんななまえの大嫌いな資料室に、誰かがいるらしく、廊下に灯りと共に、数名ほどの声が漏れている。
(こんな時間に珍しいな。)
そう思ったが、確認するつもりはなかった。
この廊下の先にあるのは資料室だけで、その先は行き止まりだ。
でも、ジャンが、引き返そうとした。そのときだった。
「ほら、なまえもこっち来なよ。」
なまえという名前が耳に届いたジャンは、思わず立ち止まり、引き返そうとしていた身体を振り返らせる。
(今のは…、ナナバさんの声だったか?)
一緒にいるのだろうか———そう思いながら、ジャンは、引き返すはずだった廊下を先に進んだ。
漏れ聞こえてくる声は、資料室が近づくにつれて次第にハッキリしてくる。
それと反比例するように、歩く度に聞こえていた廊下の板が軋む音は、資料室が近づくほどに小さくなっていった。
資料室は、騒がしいとまではないが、笑い声や冗談が飛び交い、とても賑やかだ。
どうやら、資料室にいるのは、なまえとナナバだけではないらしい。
「・・・・は?」
ジャンは、資料室の扉の上部にある窓から中を覗いて、目を見開いた。
資料室が、宴会場と化しているのだ。
なまえは、奥の窓際にある長棚に上がり、膝を抱えて座り、酒を飲んでいた。その隣に、ナナバがいて、楽しそうに彼女に話しかけている。
なぜか、資料室で開催されている宴会に参加しているのは、なまえとナナバの他に、彼らの同期で友人でもあるゲルガーもいた。
仕事終わりのこの時間だからか、彼らは兵団服ではなく、普段着になっている。
なまえが着ているオーバーサイズのワンピースは、見覚えもあった。
その他にもハンジとモブリットがいたが、彼らは研究所帰りにやってきたのか、まだ白衣姿だった。
ハンジの白衣には、オレンジか緑か紫だか分からない染みが幾つも出来ている。それが、酒やつまみのせいなのか、はたまた、また実験で作ったおかしな薬品をこぼしたのかは分からない。
ただ、彼らは、とても楽しそうだった。
椅子だけではなく、棚やテーブルにまで腰かけて、酒を飲みながら談笑している彼らの足元には、飲み干された酒瓶が大量に転がっている。
大きな白いテーブルには、沢山の酒の瓶とつまみが並んでいて、食い散らかされたそれを見るだけで、相当長い時間、この場所で宴会を続けていたのがよくわかる。
団長のエルヴィンや、綺麗好きのリヴァイが、この状態を知ったら大激怒だろう。
「へぇ。」
ジャンから漏れたのは、渇いた声だった。
表情と共に、なまえに対する期待も希望も消え失せた。
気づいた時にはもう、ジャンは、今度こそ、狭く暗い廊下を引き返して歩いていた。
楽しそうな笑い声が、遠ざかっていく。
他の誰かがなまえを呼ぶ声が、遠くなっていく————。
少し離れた距離から、夜勤の見張り担当を見つけたくらいだ。
だが、さすがに宿舎の中に入れば、調査兵達の声や姿を確認できるようになる。
(声をかけられたら面倒だな。)
ジャンは、見覚えのある調査兵達の姿を遠くから確認する度に、避けるように遠回りをした。
真っ直ぐになまえの部屋に向かうよりも時間はかかってしまうが、怪我を心配した友人や、余計なおせっかいをする誰かに、なまえの元へ行くことを咎められるよりはマシだと思ったのだ。
だいぶ時間がかかったジャンは、いつの間にか技巧室や書庫の並ぶフロアにやってきていた。
昼間でも薄暗い窓のない狭い廊下は、なまえは気味悪がってあまり立ち寄ろうとしない。
そのせいで、この廊下の一番奥にある資料室へ行く必要のある仕事は、ほとんどジャンが押し付けられている。
今夜は、そんななまえの大嫌いな資料室に、誰かがいるらしく、廊下に灯りと共に、数名ほどの声が漏れている。
(こんな時間に珍しいな。)
そう思ったが、確認するつもりはなかった。
この廊下の先にあるのは資料室だけで、その先は行き止まりだ。
でも、ジャンが、引き返そうとした。そのときだった。
「ほら、なまえもこっち来なよ。」
なまえという名前が耳に届いたジャンは、思わず立ち止まり、引き返そうとしていた身体を振り返らせる。
(今のは…、ナナバさんの声だったか?)
一緒にいるのだろうか———そう思いながら、ジャンは、引き返すはずだった廊下を先に進んだ。
漏れ聞こえてくる声は、資料室が近づくにつれて次第にハッキリしてくる。
それと反比例するように、歩く度に聞こえていた廊下の板が軋む音は、資料室が近づくほどに小さくなっていった。
資料室は、騒がしいとまではないが、笑い声や冗談が飛び交い、とても賑やかだ。
どうやら、資料室にいるのは、なまえとナナバだけではないらしい。
「・・・・は?」
ジャンは、資料室の扉の上部にある窓から中を覗いて、目を見開いた。
資料室が、宴会場と化しているのだ。
なまえは、奥の窓際にある長棚に上がり、膝を抱えて座り、酒を飲んでいた。その隣に、ナナバがいて、楽しそうに彼女に話しかけている。
なぜか、資料室で開催されている宴会に参加しているのは、なまえとナナバの他に、彼らの同期で友人でもあるゲルガーもいた。
仕事終わりのこの時間だからか、彼らは兵団服ではなく、普段着になっている。
なまえが着ているオーバーサイズのワンピースは、見覚えもあった。
その他にもハンジとモブリットがいたが、彼らは研究所帰りにやってきたのか、まだ白衣姿だった。
ハンジの白衣には、オレンジか緑か紫だか分からない染みが幾つも出来ている。それが、酒やつまみのせいなのか、はたまた、また実験で作ったおかしな薬品をこぼしたのかは分からない。
ただ、彼らは、とても楽しそうだった。
椅子だけではなく、棚やテーブルにまで腰かけて、酒を飲みながら談笑している彼らの足元には、飲み干された酒瓶が大量に転がっている。
大きな白いテーブルには、沢山の酒の瓶とつまみが並んでいて、食い散らかされたそれを見るだけで、相当長い時間、この場所で宴会を続けていたのがよくわかる。
団長のエルヴィンや、綺麗好きのリヴァイが、この状態を知ったら大激怒だろう。
「へぇ。」
ジャンから漏れたのは、渇いた声だった。
表情と共に、なまえに対する期待も希望も消え失せた。
気づいた時にはもう、ジャンは、今度こそ、狭く暗い廊下を引き返して歩いていた。
楽しそうな笑い声が、遠ざかっていく。
他の誰かがなまえを呼ぶ声が、遠くなっていく————。