◇第九十五話◇好きだから『大丈夫』と笑った
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リヴァイが、最後に残った書類をまとめ、デスクの上に並べていると、ベッドの方で人が動いた気配を感じた。
振り向けば、見違えるほど綺麗になった部屋のベッドの上で、相変わらず、顔色の悪いなまえがゆっくりと身体を起こそうとしているところだった。
「まだ寝とけ。」
ベッドに歩み寄りながら、リヴァイが声をかければ、なまえは驚いたように肩を跳ねさせて視線を向ける。
ひとりだと思っていたようだ。
どうして———言わずとも、なまえの顔にはそう書いてある。
「ぶっ倒れて、デスクの角で頭を打ったんだ。
痛みはねぇか。」
ベッドの縁に腰を降ろしたリヴァイは、なまえの額に手を乗せる。
疲れも溜まっているなまえは、怪我による細菌によって熱を出す可能性もあると言われている。
だが、寒々しい部屋で、毛布はかけていたとはいえ、熱どころかむしろ身体が冷え切っている。
「あ…、包帯…。」
なまえは、自分の頭に触れると、呟くように言う。
そして、「い…ッ。」と小さく顔を顰めた。
まだ痛むらしい。
縫うほどの傷だったのだから、仕方ない。
「お前を、仕事のし過ぎだと叱りつける日が来るとはな。」
「・・・・・すみませんでした。」
なまえは俯いて、小さな声で謝る。
心細そうな華奢な肩を見下ろして、既に追いつめられているなまえをこれ以上、苦しめたいわけではないと思い直す。
なまえは、間違っていた。
彼女の志や、覚悟は、大したものだ。エルヴィンも褒めていた。
でも、本当は、もっと誰かを頼るべきだった。
もっと———。
「俺を…。」
「え?何ですか?」
気づけば、心の声が漏れていた。
なまえが顔を上げる。
リヴァイの想いには気づかないくせに、心の声は聞こえてしまったらしい。
視線は重なっているのに、心は重ならない。
いつも空を舞っていたなまえの心は今、医療棟にいるジャンの元にある。
もし、ジャンがそばにいれば、彼女はそれが当然であるように、彼に頼ったのだろう。
今だって、ジャンが戻ってくる日の為に、なまえは無理をしている。
戻ってきたとき、思う存分、頼れるように。甘えられるように———。
「俺じゃ、ダメなのか。」
苦しむなまえを前にして、もう、我慢できなかった。
「え?」
言葉の意味を理解できていないなまえを、リヴァイは引き寄せるようにして抱きしめた。
腕の中で、華奢な身体が驚きで小さく跳ねたのを感じる。
でも、離してやるつもりはなく、リヴァイは抱きしめる腕に力を込めた。
なまえを抱きしめたことは、何度もある。
確かに、なまえは、兵士の割には華奢だ。でも、こんなにも小さかっただろうか。細く、折れそうだっただろうか。
いつの間に、こんなにもやつれていたのか。
自分がそばにいてやれば、こんな風にはさせなかったのに————。
「戻ってくるかもわからねぇヤツより、俺を選べばいい。」
「リヴァイ兵長?急にどうし———。」
「急じゃねぇ。
———ずっと、好きだった。アイツにお前が見つけられちまう前から、
ずっと昔から、なまえだけ、見てた。」
腕の中で、「へ。」と間抜けな小さな声が漏れたのが聞こえた。
本当に、全く、気づいていなかったらしい。
リヴァイが自分に惚れているなんて、大好きな妄想でもしたことがなかったのだろう。
きっと、そういう対象ですらなかったのだ。
なまえはいつも、リヴァイの向こうに夢を見ていた。
強くて、仲間想いの人類最強の兵士で、憧れと夢を具現化した存在。きっとそれだ。
リヴァイという現実の男は、見ていなかった。
そしてそれを、リヴァイも仕方がないと諦めてきた。
でも、もう、やめた。
こうして、勇気を出して一歩踏み出せば、なまえは気づくはずだ。
リヴァイも、現実に存在する、男なのだ、と————。
「アイツはもう起き上がれてるって話だ。でも、どうして、お前に会いに来ねぇ。
誰に何を言われても俺なら、お前に会いに行く。誰が何と言おうとも、俺の知ってるお前を信じる。
俺ならお前を誰にも傷つけさせたりなんか…!」
「ごめんなさい。」
小さな手の感触を胸板に感じてすぐに、そっと押された。
強いとは決して言えないその力を、まるで、世界の全てのように感じたのだ。
世界の全てから、拒絶されたみたいに、ショックを受けた。
分かりきっていたことなのに、悔しくて、苦しくて、虚しくなる。
そんなリヴァイの気持ちを知ってか知らずか、なまえは一度、目を伏せたままで、口を開こうとしたのだ。
でも、それではいけないと思ったのだろう。
きちんと伝えなければいけないと、残酷なほどに優しいなまえは、きっとそう思ったのだ。
「それでも私…、ジャンが好きなんです…。
信じるのも、信じて、くれるのも…他の誰でもなく、ジャンが、いいんです。
ジャンじゃなくちゃ…、ダメなんです。」
なまえの頬に、一粒の涙が落ちる。
思わず、拭ってやろうとして動いた手は、大切なことに気が付いて、行く宛もなく、寂し気に彷徨う。
いや、もう随分と前から、わかっていた。
彼女の涙を拭い、『大丈夫だ。』と抱きしめてやるのは、ジャンなのだ。
彼でなくては、なまえの涙が渇くことはない———。
「あぁ、わかってる。
困らせちまって、悪かった。」
リヴァイは、彷徨っていた手で、なまえの頭をいつものように優しく撫でる。
でも、もう、気持ちを伝えてしまったせいで、抱きしめることは出来ない。
でも結局、行く宛を見つけられなかったリヴァイは、物わかりの良い男を選ぶしかなかった。
なまえが、小さく首を横に振る。
だから、リヴァイはまた、謝る。
「ごめんな。」
好きになってしまったことも、それを言葉にして、戸惑わせてしまったことも、優しい彼女に『ごめんなさい』を言わせてしまったことも、申し訳なく思っている。
でも、一番、悪いと思っているのは———。
「ジャンなら、きっとお前を信じてる。
アイツが、お前に背を向けるなんてありえねぇから、心配しねぇで
少し、肩の力を抜け。また倒れちまったら、アイツにまた叱られちまうぞ。」
ひどく気を遣って言葉を選べば、なまえが「うん。」と小さく頷く。
その途端に、ズキンと心臓が痛くなって、ドロドロとした感情が溢れだしたのは————。
振り向けば、見違えるほど綺麗になった部屋のベッドの上で、相変わらず、顔色の悪いなまえがゆっくりと身体を起こそうとしているところだった。
「まだ寝とけ。」
ベッドに歩み寄りながら、リヴァイが声をかければ、なまえは驚いたように肩を跳ねさせて視線を向ける。
ひとりだと思っていたようだ。
どうして———言わずとも、なまえの顔にはそう書いてある。
「ぶっ倒れて、デスクの角で頭を打ったんだ。
痛みはねぇか。」
ベッドの縁に腰を降ろしたリヴァイは、なまえの額に手を乗せる。
疲れも溜まっているなまえは、怪我による細菌によって熱を出す可能性もあると言われている。
だが、寒々しい部屋で、毛布はかけていたとはいえ、熱どころかむしろ身体が冷え切っている。
「あ…、包帯…。」
なまえは、自分の頭に触れると、呟くように言う。
そして、「い…ッ。」と小さく顔を顰めた。
まだ痛むらしい。
縫うほどの傷だったのだから、仕方ない。
「お前を、仕事のし過ぎだと叱りつける日が来るとはな。」
「・・・・・すみませんでした。」
なまえは俯いて、小さな声で謝る。
心細そうな華奢な肩を見下ろして、既に追いつめられているなまえをこれ以上、苦しめたいわけではないと思い直す。
なまえは、間違っていた。
彼女の志や、覚悟は、大したものだ。エルヴィンも褒めていた。
でも、本当は、もっと誰かを頼るべきだった。
もっと———。
「俺を…。」
「え?何ですか?」
気づけば、心の声が漏れていた。
なまえが顔を上げる。
リヴァイの想いには気づかないくせに、心の声は聞こえてしまったらしい。
視線は重なっているのに、心は重ならない。
いつも空を舞っていたなまえの心は今、医療棟にいるジャンの元にある。
もし、ジャンがそばにいれば、彼女はそれが当然であるように、彼に頼ったのだろう。
今だって、ジャンが戻ってくる日の為に、なまえは無理をしている。
戻ってきたとき、思う存分、頼れるように。甘えられるように———。
「俺じゃ、ダメなのか。」
苦しむなまえを前にして、もう、我慢できなかった。
「え?」
言葉の意味を理解できていないなまえを、リヴァイは引き寄せるようにして抱きしめた。
腕の中で、華奢な身体が驚きで小さく跳ねたのを感じる。
でも、離してやるつもりはなく、リヴァイは抱きしめる腕に力を込めた。
なまえを抱きしめたことは、何度もある。
確かに、なまえは、兵士の割には華奢だ。でも、こんなにも小さかっただろうか。細く、折れそうだっただろうか。
いつの間に、こんなにもやつれていたのか。
自分がそばにいてやれば、こんな風にはさせなかったのに————。
「戻ってくるかもわからねぇヤツより、俺を選べばいい。」
「リヴァイ兵長?急にどうし———。」
「急じゃねぇ。
———ずっと、好きだった。アイツにお前が見つけられちまう前から、
ずっと昔から、なまえだけ、見てた。」
腕の中で、「へ。」と間抜けな小さな声が漏れたのが聞こえた。
本当に、全く、気づいていなかったらしい。
リヴァイが自分に惚れているなんて、大好きな妄想でもしたことがなかったのだろう。
きっと、そういう対象ですらなかったのだ。
なまえはいつも、リヴァイの向こうに夢を見ていた。
強くて、仲間想いの人類最強の兵士で、憧れと夢を具現化した存在。きっとそれだ。
リヴァイという現実の男は、見ていなかった。
そしてそれを、リヴァイも仕方がないと諦めてきた。
でも、もう、やめた。
こうして、勇気を出して一歩踏み出せば、なまえは気づくはずだ。
リヴァイも、現実に存在する、男なのだ、と————。
「アイツはもう起き上がれてるって話だ。でも、どうして、お前に会いに来ねぇ。
誰に何を言われても俺なら、お前に会いに行く。誰が何と言おうとも、俺の知ってるお前を信じる。
俺ならお前を誰にも傷つけさせたりなんか…!」
「ごめんなさい。」
小さな手の感触を胸板に感じてすぐに、そっと押された。
強いとは決して言えないその力を、まるで、世界の全てのように感じたのだ。
世界の全てから、拒絶されたみたいに、ショックを受けた。
分かりきっていたことなのに、悔しくて、苦しくて、虚しくなる。
そんなリヴァイの気持ちを知ってか知らずか、なまえは一度、目を伏せたままで、口を開こうとしたのだ。
でも、それではいけないと思ったのだろう。
きちんと伝えなければいけないと、残酷なほどに優しいなまえは、きっとそう思ったのだ。
「それでも私…、ジャンが好きなんです…。
信じるのも、信じて、くれるのも…他の誰でもなく、ジャンが、いいんです。
ジャンじゃなくちゃ…、ダメなんです。」
なまえの頬に、一粒の涙が落ちる。
思わず、拭ってやろうとして動いた手は、大切なことに気が付いて、行く宛もなく、寂し気に彷徨う。
いや、もう随分と前から、わかっていた。
彼女の涙を拭い、『大丈夫だ。』と抱きしめてやるのは、ジャンなのだ。
彼でなくては、なまえの涙が渇くことはない———。
「あぁ、わかってる。
困らせちまって、悪かった。」
リヴァイは、彷徨っていた手で、なまえの頭をいつものように優しく撫でる。
でも、もう、気持ちを伝えてしまったせいで、抱きしめることは出来ない。
でも結局、行く宛を見つけられなかったリヴァイは、物わかりの良い男を選ぶしかなかった。
なまえが、小さく首を横に振る。
だから、リヴァイはまた、謝る。
「ごめんな。」
好きになってしまったことも、それを言葉にして、戸惑わせてしまったことも、優しい彼女に『ごめんなさい』を言わせてしまったことも、申し訳なく思っている。
でも、一番、悪いと思っているのは———。
「ジャンなら、きっとお前を信じてる。
アイツが、お前に背を向けるなんてありえねぇから、心配しねぇで
少し、肩の力を抜け。また倒れちまったら、アイツにまた叱られちまうぞ。」
ひどく気を遣って言葉を選べば、なまえが「うん。」と小さく頷く。
その途端に、ズキンと心臓が痛くなって、ドロドロとした感情が溢れだしたのは————。