◇第九十五話◇好きだから『大丈夫』と笑った
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ベッド脇の椅子に座るリヴァイは、頭に包帯を巻いて眠るなまえを見つめながら、彼女が初めてジャンの両親に拒絶された日のことを思い出していた。
心配して会いに行けば、なまえは強い覚悟と深い愛を見せたのだ。
だから、自分を痛めつけようとしているなまえに、何も言えなかった。
守って、やれなかった———。
「なまえの様子はどう?」
開いた扉から顔を覗かせるようにしながら、ハンジがゆっくりと部屋に入ってくる。
リヴァイは、彼女に顔を向けた後に、小さく首を横に振った。
想定通りではあったのか、ハンジは首を竦めて返す。
「全く。眠り姫の名が聞いて呆れるよ。寝不足で倒れちゃうなんてさ。」
ベッドに、そっと腰かけたハンジは、困ったように眉尻を下げながらも、口元には優しい笑みを浮かべ、なまえの髪をそっと撫でる。
ハンジの指に触れるのは、柔らかい髪の感触だけではない。
頭に巻かれた痛々しい包帯は、なまえが仕事中に倒れたときに、デスクの角で頭を打ってしまって数針縫う怪我をしたせいだ。
今朝から顔色の悪かったなまえのことを心配したリヴァイがやってこなければ、ゴミと脱ぎ捨てられた服、書類の山で散らかった部屋の真ん中で血だらけで倒れたまま朝を迎えるところだった。
どれほど、リヴァイが驚いたか。心配したか。なまえまで失うことになるのか、と怖い思いをしたか。
なまえは、きっと一生知らないままなのだろう。
でも、知らないままでもいい。
生きていてさえ、くれるのなら———。
リヴァイは、ベッドに両肘を乗せて、頭を抱える格好で、大きく息を吐く。
(俺がもっとちゃんと叱ってやってれば…。)
ジャンが刺されてからというもの、なまえは、午前中は誰よりも真剣に訓練にとりくみ、午後からは憲兵団に送るための書類を寝る間も惜しんで作り続ける生活を続けていた。
いつか倒れてしまうと心配したハンジ達が声をかけても「大丈夫だ。」とヘラヘラと笑うばかりで、誰の言葉も彼女の胸には届かなかった。
その理由を痛いほどに知っていたリヴァイ達は、彼女に強くは言えなかった。
でも、言うべきだった。
正直、後悔している。
どこから、間違っていたのか。
ジャンとなまえが偽物の婚約者だと気づけたらよかったのか。
応援など、するべきではなかったのかもしれない。
それとも、ジャンがなまえの補佐官に立候補したそのとき、もっと強く反対をすればよかったのか。
いや、あのトロスト区への巨人襲来の日、無理やりにでもなまえを壁外調査へ連れて行っていれば、こんなことにはならなかった。
————違う。
後悔しているのは、もっと前だ。
自分の気持ちに気づいたとき、なまえに伝えればよかったのだ。
その答えが何だったとしても、少なくとも今、こんなもどかしい思いはせずに済んだはずだからだ。
「こんな傷だらけの指で、何時間もよくペンが持てるものだよ。」
ハンジが、なまえの指にそっと触れる。
華奢で細い指先には、切り傷が幾つも残っている。
訓練でついてしまった擦り傷とは違う。
なまえに届いた嫌がらせの手紙の中に入っていた、剃刀の刃で切ってしまった傷だ。
仕事の為、憲兵団からの返事を待っているなまえは、届いた手紙を確認もせずにすぐに開いてしまう。
その度に、何度だって届く嫌がらせの手紙で、指に怪我をするのだ。
気をつけろ、それが無理なら先に俺に見せろ———リヴァイが何度そう言っても、ヘラヘラと笑うばかりなのは、なまえが〝わざと〟嫌がらせの手紙を開いて、怪我をしているからだ。
それが、自分に対する戒めだとでも思っているのかもしれない。
嫌がらせは、それだけではない。
必要な書類がなまえの元に届かないのは日常茶飯事で、訓練中、彼女の指示を聞く調査兵は少ないだけではなく、彼女専用の超硬質ブレードの刃が古いものに入れ替わっていたり、立体起動装置からガスが抜けていたこともあった。
きっと、リヴァイやハンジが気づいていない姑息ないじめのようなものが、毎日、なまえを襲っているのだろう。
こんな最低な日々は、いつまで続くのだろうか。
次の壁外調査が決まり、作戦が成功したら、なまえは心から笑ってくれるようになるのだろうか。
あのヘラヘラとした嘘くさい笑顔をしなくなるのだろうか。
顔を上げたリヴァイは、疲れた顔で眠っているなまえの頬に、ゆっくりと手を伸ばす。
「早く、ジャンが仕事復帰できたらいいね。
ジャンに会えたら、きっと、なまえも元気になって、笑ってくれる。」
「————あぁ、そうだな。」
なまえの頬に触れる前に、リヴァイの手がビクリと止まる。
そしてそれはそのまま、力なく、ベッドの端へと沈んだ。
心配して会いに行けば、なまえは強い覚悟と深い愛を見せたのだ。
だから、自分を痛めつけようとしているなまえに、何も言えなかった。
守って、やれなかった———。
「なまえの様子はどう?」
開いた扉から顔を覗かせるようにしながら、ハンジがゆっくりと部屋に入ってくる。
リヴァイは、彼女に顔を向けた後に、小さく首を横に振った。
想定通りではあったのか、ハンジは首を竦めて返す。
「全く。眠り姫の名が聞いて呆れるよ。寝不足で倒れちゃうなんてさ。」
ベッドに、そっと腰かけたハンジは、困ったように眉尻を下げながらも、口元には優しい笑みを浮かべ、なまえの髪をそっと撫でる。
ハンジの指に触れるのは、柔らかい髪の感触だけではない。
頭に巻かれた痛々しい包帯は、なまえが仕事中に倒れたときに、デスクの角で頭を打ってしまって数針縫う怪我をしたせいだ。
今朝から顔色の悪かったなまえのことを心配したリヴァイがやってこなければ、ゴミと脱ぎ捨てられた服、書類の山で散らかった部屋の真ん中で血だらけで倒れたまま朝を迎えるところだった。
どれほど、リヴァイが驚いたか。心配したか。なまえまで失うことになるのか、と怖い思いをしたか。
なまえは、きっと一生知らないままなのだろう。
でも、知らないままでもいい。
生きていてさえ、くれるのなら———。
リヴァイは、ベッドに両肘を乗せて、頭を抱える格好で、大きく息を吐く。
(俺がもっとちゃんと叱ってやってれば…。)
ジャンが刺されてからというもの、なまえは、午前中は誰よりも真剣に訓練にとりくみ、午後からは憲兵団に送るための書類を寝る間も惜しんで作り続ける生活を続けていた。
いつか倒れてしまうと心配したハンジ達が声をかけても「大丈夫だ。」とヘラヘラと笑うばかりで、誰の言葉も彼女の胸には届かなかった。
その理由を痛いほどに知っていたリヴァイ達は、彼女に強くは言えなかった。
でも、言うべきだった。
正直、後悔している。
どこから、間違っていたのか。
ジャンとなまえが偽物の婚約者だと気づけたらよかったのか。
応援など、するべきではなかったのかもしれない。
それとも、ジャンがなまえの補佐官に立候補したそのとき、もっと強く反対をすればよかったのか。
いや、あのトロスト区への巨人襲来の日、無理やりにでもなまえを壁外調査へ連れて行っていれば、こんなことにはならなかった。
————違う。
後悔しているのは、もっと前だ。
自分の気持ちに気づいたとき、なまえに伝えればよかったのだ。
その答えが何だったとしても、少なくとも今、こんなもどかしい思いはせずに済んだはずだからだ。
「こんな傷だらけの指で、何時間もよくペンが持てるものだよ。」
ハンジが、なまえの指にそっと触れる。
華奢で細い指先には、切り傷が幾つも残っている。
訓練でついてしまった擦り傷とは違う。
なまえに届いた嫌がらせの手紙の中に入っていた、剃刀の刃で切ってしまった傷だ。
仕事の為、憲兵団からの返事を待っているなまえは、届いた手紙を確認もせずにすぐに開いてしまう。
その度に、何度だって届く嫌がらせの手紙で、指に怪我をするのだ。
気をつけろ、それが無理なら先に俺に見せろ———リヴァイが何度そう言っても、ヘラヘラと笑うばかりなのは、なまえが〝わざと〟嫌がらせの手紙を開いて、怪我をしているからだ。
それが、自分に対する戒めだとでも思っているのかもしれない。
嫌がらせは、それだけではない。
必要な書類がなまえの元に届かないのは日常茶飯事で、訓練中、彼女の指示を聞く調査兵は少ないだけではなく、彼女専用の超硬質ブレードの刃が古いものに入れ替わっていたり、立体起動装置からガスが抜けていたこともあった。
きっと、リヴァイやハンジが気づいていない姑息ないじめのようなものが、毎日、なまえを襲っているのだろう。
こんな最低な日々は、いつまで続くのだろうか。
次の壁外調査が決まり、作戦が成功したら、なまえは心から笑ってくれるようになるのだろうか。
あのヘラヘラとした嘘くさい笑顔をしなくなるのだろうか。
顔を上げたリヴァイは、疲れた顔で眠っているなまえの頬に、ゆっくりと手を伸ばす。
「早く、ジャンが仕事復帰できたらいいね。
ジャンに会えたら、きっと、なまえも元気になって、笑ってくれる。」
「————あぁ、そうだな。」
なまえの頬に触れる前に、リヴァイの手がビクリと止まる。
そしてそれはそのまま、力なく、ベッドの端へと沈んだ。