◇第九十四話◇親友達からのお見舞い
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「それで、調査兵団内でなまえさんが人殺しだって言われてるのを知ったんだ。」
マルコの話を聞いて、ジャンは納得する。
まさか、フレイヤが、マルコにまでそんなことを言うとは思っていなかったから、驚きと共に腹も立ったが、それと同時に、良い意味でも悪い意味でも、他人が楽しくしている噂話に興味のないマルコの耳にまで、なまえの最悪な話が届いていたわけではなくて、安心もする。
「調査兵団内、じゃねぇよ。
むしろ、出どころは駐屯兵団で、噂好きの憲兵にも届いてんじゃねぇのか。」
「どういうこと?」
マルコは、フレイヤから〝人殺し〟だと聞いて、なまえのことをどう思ったのだろう———ほんの一瞬、ジャンは、確かめるのが怖くなった。
もしも、マルコにまで『人殺しのなまえとは距離を置いた方がいい。』と言われてしまったら、自分達には誰も味方はいないというのと同じだ。
それに、他人にも、自分自身にも、反論することに、疲れてしまった。
それでも、ジャンは、マルコのことは信じていた。
彼は、一匹狼で、友達とも呼べない同期の仲間から煙たがれることの多かったジャンの本質を最初に見てくれた友人なのだ。マルコが言うには、ジャンは〝とても繊細で優しくて、周りをよく見て理解できる心を持った人〟なのだそうだ。
そんなこと、自分では一欠けらだって思わない。
それでも、親友が思ってくれている自分でいたい、とは思うのだ。
ジャンの中には確かに、マルコが作ってくれた男が存在している。
マルコの言葉は、ジャンにとってはとても大きな意味を持つ。
だからこそ、なまえのことで、マルコに背中を押してほしい。だけど、怖い———。
それでも、勇気と覚悟を持って、ジャンはブランケットを握りしめた。
「お前は…、どう思う…?」
「どうって?」
「なまえさん…、なまえは、人殺しだから、距離を置いた方がいいとそう思うか?」
マルコの顔は見られなくて、ぼそぼそと喋りながら、ひたすらに布団を見下ろしていた。
すぐに、視界の向こうで、マルコが動いた気配を感じる。
でも、マルコはすぐには何も言わなかった。
ガサガサ———と、紙が擦れる音が続いた後に、いきなり飛び込んでくるように目の前に差し出されたマルコの手の上には、茶色いお菓子が乗っていた。
「これ、シュークリームって言うらしいよ。
パリッと焼いた生地の中に、甘いクリームが入ってて
今、ウォール・シーナで流行りだしてるんだ。」
初めて見るお菓子だと思ったが、ウォール・シーナで流行りだしたばかりのものだと知って、納得がいく。
袋から出されたことで、シュークリームの甘い匂いが鼻を刺激して、食欲を駆られる。
甘いものが大好きななまえがここにいたら、綺麗な顔を台無しにするくらいに涎を垂らして、食べてもいいかとジャンに催促するのだろう。
そしてジャンは、意地悪を言いながらも、最終的にはお見舞いとして貰ったほとんどをなまえにあげてしまうのだ。
パリッとした生地の中に入っているという甘いクリームよりも、甘くて可愛らしいなまえの笑顔を見たくて———。
自然にそんなことを考えてしまって、自己嫌悪と共に、会えない彼女の元に、まだ心はあるのだと思い知る。
だから、胸が痛くなって、病衣の上から心臓を握る。
だって、ツライのだ。
ウォール・シーナで流行りだしたばかりのお菓子が、トロスト区にまでやってくるのは、きっと数か月後だ。
早くなまえに食べさせてあげたい———そう思ってしまうのだ。
会えないし、会いにも来てくれないのに———。
「アニとヒッチに、お見舞いに持って行く手土産は何がいいかを訊ねたら、教えてくれたんだ。
2人とも、きっと甘いものが好きななまえさんが喜ぶって言うんだよ。
ジャンのお見舞いなんだって言ってもさ、今度はマルロが、なまえさんが喜べばジャンが元気になるだろって。」
困ったようなマルコの声に、思わず、ジャンは顔を上げた。
だって、さっき、ジャンが言った通り、噂好きの憲兵の耳には、なまえが人殺しだという話は届いているはずだからだ。
ヒッチが、知らないわけがない。お喋りなヒッチが、親友のアニや、マルロに話していないわけがない。
驚いた顔をしたジャンに、マルコは、困ったような笑みを返す。
「悪いけど、俺達はなまえさんを信じてるわけじゃない。
俺達は、ジャンの友達だから、ジャンを信じてるんだ。でも、それだけで十分だと思わないか?
ジャンが信じられる人なら、俺達はいつだって心から信じられるんだから。」
「あぁ…っ、そうだな…っ。」
ホッとしたのか、嬉しかったのかは、わからない。
ただ、目頭が、一気に熱くなったのだ。
零れ落ちるかもしれない涙を見られたくなくて、斜め上に視線を逸らした。
噛んだ唇から、息が漏れることすらも危険な気がして、必死に呼吸も止める。
「辛口批評で有名なヒッチが認めるほどに美味しいお菓子らしいんだけど
残念ながら、日持ちしないんだよ。
だから、早くなまえさんのところに持って行ってあげてくれよ。」
マルコが、ニッと笑った。
やっぱり、最高の親友だ。
いつの間にか、〝最高の親友〟が、たくさんできていたらしい。
マルコの話を聞いて、ジャンは納得する。
まさか、フレイヤが、マルコにまでそんなことを言うとは思っていなかったから、驚きと共に腹も立ったが、それと同時に、良い意味でも悪い意味でも、他人が楽しくしている噂話に興味のないマルコの耳にまで、なまえの最悪な話が届いていたわけではなくて、安心もする。
「調査兵団内、じゃねぇよ。
むしろ、出どころは駐屯兵団で、噂好きの憲兵にも届いてんじゃねぇのか。」
「どういうこと?」
マルコは、フレイヤから〝人殺し〟だと聞いて、なまえのことをどう思ったのだろう———ほんの一瞬、ジャンは、確かめるのが怖くなった。
もしも、マルコにまで『人殺しのなまえとは距離を置いた方がいい。』と言われてしまったら、自分達には誰も味方はいないというのと同じだ。
それに、他人にも、自分自身にも、反論することに、疲れてしまった。
それでも、ジャンは、マルコのことは信じていた。
彼は、一匹狼で、友達とも呼べない同期の仲間から煙たがれることの多かったジャンの本質を最初に見てくれた友人なのだ。マルコが言うには、ジャンは〝とても繊細で優しくて、周りをよく見て理解できる心を持った人〟なのだそうだ。
そんなこと、自分では一欠けらだって思わない。
それでも、親友が思ってくれている自分でいたい、とは思うのだ。
ジャンの中には確かに、マルコが作ってくれた男が存在している。
マルコの言葉は、ジャンにとってはとても大きな意味を持つ。
だからこそ、なまえのことで、マルコに背中を押してほしい。だけど、怖い———。
それでも、勇気と覚悟を持って、ジャンはブランケットを握りしめた。
「お前は…、どう思う…?」
「どうって?」
「なまえさん…、なまえは、人殺しだから、距離を置いた方がいいとそう思うか?」
マルコの顔は見られなくて、ぼそぼそと喋りながら、ひたすらに布団を見下ろしていた。
すぐに、視界の向こうで、マルコが動いた気配を感じる。
でも、マルコはすぐには何も言わなかった。
ガサガサ———と、紙が擦れる音が続いた後に、いきなり飛び込んでくるように目の前に差し出されたマルコの手の上には、茶色いお菓子が乗っていた。
「これ、シュークリームって言うらしいよ。
パリッと焼いた生地の中に、甘いクリームが入ってて
今、ウォール・シーナで流行りだしてるんだ。」
初めて見るお菓子だと思ったが、ウォール・シーナで流行りだしたばかりのものだと知って、納得がいく。
袋から出されたことで、シュークリームの甘い匂いが鼻を刺激して、食欲を駆られる。
甘いものが大好きななまえがここにいたら、綺麗な顔を台無しにするくらいに涎を垂らして、食べてもいいかとジャンに催促するのだろう。
そしてジャンは、意地悪を言いながらも、最終的にはお見舞いとして貰ったほとんどをなまえにあげてしまうのだ。
パリッとした生地の中に入っているという甘いクリームよりも、甘くて可愛らしいなまえの笑顔を見たくて———。
自然にそんなことを考えてしまって、自己嫌悪と共に、会えない彼女の元に、まだ心はあるのだと思い知る。
だから、胸が痛くなって、病衣の上から心臓を握る。
だって、ツライのだ。
ウォール・シーナで流行りだしたばかりのお菓子が、トロスト区にまでやってくるのは、きっと数か月後だ。
早くなまえに食べさせてあげたい———そう思ってしまうのだ。
会えないし、会いにも来てくれないのに———。
「アニとヒッチに、お見舞いに持って行く手土産は何がいいかを訊ねたら、教えてくれたんだ。
2人とも、きっと甘いものが好きななまえさんが喜ぶって言うんだよ。
ジャンのお見舞いなんだって言ってもさ、今度はマルロが、なまえさんが喜べばジャンが元気になるだろって。」
困ったようなマルコの声に、思わず、ジャンは顔を上げた。
だって、さっき、ジャンが言った通り、噂好きの憲兵の耳には、なまえが人殺しだという話は届いているはずだからだ。
ヒッチが、知らないわけがない。お喋りなヒッチが、親友のアニや、マルロに話していないわけがない。
驚いた顔をしたジャンに、マルコは、困ったような笑みを返す。
「悪いけど、俺達はなまえさんを信じてるわけじゃない。
俺達は、ジャンの友達だから、ジャンを信じてるんだ。でも、それだけで十分だと思わないか?
ジャンが信じられる人なら、俺達はいつだって心から信じられるんだから。」
「あぁ…っ、そうだな…っ。」
ホッとしたのか、嬉しかったのかは、わからない。
ただ、目頭が、一気に熱くなったのだ。
零れ落ちるかもしれない涙を見られたくなくて、斜め上に視線を逸らした。
噛んだ唇から、息が漏れることすらも危険な気がして、必死に呼吸も止める。
「辛口批評で有名なヒッチが認めるほどに美味しいお菓子らしいんだけど
残念ながら、日持ちしないんだよ。
だから、早くなまえさんのところに持って行ってあげてくれよ。」
マルコが、ニッと笑った。
やっぱり、最高の親友だ。
いつの間にか、〝最高の親友〟が、たくさんできていたらしい。