◇第九十三話◇悲劇を生んだ眠り姫の悪夢
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「————そこから先は、ジャンも知っている通りだ。」
アルミンが立案した作戦は、エレンが巨人の力を掌握しきれず、一時は大失敗もあり得る事態に陥ったものの、なんとか正気を取り戻したことで、なんとか持ち直した。だが、巨人達が人間に目もくれず、エレンを襲うために集まり始めたことで、駐屯兵団の精鋭兵達が囮となるしかなかった。その捨て身の頑張りにより、精鋭兵達はエレンを守りきり、人類が初めて巨人に勝利するという大成功に終わった。
だが、リコがなまえと共に花火を打ち上げ、勝利を祝う打ち上げをすることはなかった。
きっと、これからも永遠にない。
駐屯兵団の精鋭兵は殆どが壮絶な戦死を遂げたのだ。
巨人に勝利するために、人類が支払わなければならない代償は大きすぎた。
なまえが、そのことを知ったのは、人類初勝利の日から10日が経った頃だった。
目を真っ赤に泣き腫らしたなまえが、駐屯兵団本部の兵門をくぐったときにはもう、彼女が『夢』を言い訳にして、精鋭兵達を見殺しにしたことは、駐屯兵のほとんどが知っていた。
『アンタのせいだ。アンタさえ、ちゃんと任務を遂行してくれていれば…!
アンタが、イアン達を殺した…!この…っ、人殺し!!』
本部内で任務中だったリコを見つけ、泣きながら謝るなまえを罵った。
これでもかというほどに、責めて、責めて、責め立てた。
彼女を絶望させたかったのだ。そして、死んでも死にきれない程の後悔を味わせたかった。
あれから4年が経つが、親しい友人だったはずのなまえとまともに顔をあわせたのは、ジャンの見舞いに来たあの1度きりだ。
「あの時、なまえが、ピクシス司令の作戦を面倒だと思わずに
きちんと任務にあたってくれていたら、きっとイアン達も今も生きていた…!」
絞り出すようなリコの声は、思い出したくない過去の回想に付き合わされて、掠れていた。
あのときの怒り、後悔、悲しみ、言葉では簡単に言い表せない感情が蘇り、椅子に座ったままの脚が震え、拳に力が入る。
「—————事情は…、分かりました。
でもそれって、逆恨みっすよね。
駐屯兵団の精鋭兵達を殺したのは、なまえさんじゃなくて、巨人ですよ。」
ゆっくりと咀嚼するように時間をかけた後、ジャンが言った。
どうやら彼は、言葉を選ぶことや、オブラートに包むということは出来ない性格らしい。
だが、痛いほどの正論だ。
「なまえさんは、友人を見捨てたのではなくて
精鋭兵としての実力を信じていただけでしょう。」
「その期待を裏切って死んでいったイアン達が悪いと言いたいのか!?」
気づいたら、声を荒げていた。
ジャンが本当に死んだ精鋭兵達が悪いと言っているわけではないことは分かっている。
なまえがあのとき、イアン達が死ぬだなんて夢にも思っていなかったのだということは、リコだって、わかっていないわけではない。
でも、そういう問題では納得できないのが、人間の心理というものなのだ。
少なくとも、精鋭兵達が死んだ理由の一端に、なまえがいないとは誰も言い切れないはずだ。
「あの日、なまえに助けられた駐屯兵は多くいた。」
「ですよね。なまえは目の前の命を見捨てるような人じゃないですから。」
「だからこそ、あのとき、なまえさえいてくれたら
イアン達は死んでなかったはずなんだ、絶対に…!」
「そんなことは、」
「分からない、というのか?本気か?」
リコが食い気味で訊ねれば、ジャンは初めて、言葉を切った。
彼の目に迷いが生まれ始める。
「あの時、壁を塞いだ直後、人類最強の兵士がやってきた。
そして、イアン達が命を落としながら戦うしかなかった巨人達をあっという間に討伐したよ。
なまえの実力が、そのリヴァイも認めるものだと、アンタも知ってるだろ。」
リコは一度目を伏せた。
あのとき、リヴァイが現れてから、辺り一帯の巨人が討伐されるまで、本当にあっという間の出来事だった。
あそこまでとはいかずとも、なまえならば、イアン達が捨て身の囮に出る前に、どうにかできたはずだ。捨て身の囮になったイアン達を救うために、必死に戦ってくれたはずだ。
でも、彼女はそれをしなかった。
あの場に、戦友として、仲間として、友人としてさえ、いてくれなかった。
「なまえなら、イアン達の死なない未来を選ぶことも出来たはずなのに、そうはならなかった…。
この悔しさを…、私達はどこにぶつけたらいい…!?」
リコは顔を上げる。
頬に流れる涙を見て、それでも正論をぶつけられるほどの図太い神経は持っていなかったらしい。
ジャンは息を呑むと、目を逸らすようにして唇を噛んだ。
アルミンが立案した作戦は、エレンが巨人の力を掌握しきれず、一時は大失敗もあり得る事態に陥ったものの、なんとか正気を取り戻したことで、なんとか持ち直した。だが、巨人達が人間に目もくれず、エレンを襲うために集まり始めたことで、駐屯兵団の精鋭兵達が囮となるしかなかった。その捨て身の頑張りにより、精鋭兵達はエレンを守りきり、人類が初めて巨人に勝利するという大成功に終わった。
だが、リコがなまえと共に花火を打ち上げ、勝利を祝う打ち上げをすることはなかった。
きっと、これからも永遠にない。
駐屯兵団の精鋭兵は殆どが壮絶な戦死を遂げたのだ。
巨人に勝利するために、人類が支払わなければならない代償は大きすぎた。
なまえが、そのことを知ったのは、人類初勝利の日から10日が経った頃だった。
目を真っ赤に泣き腫らしたなまえが、駐屯兵団本部の兵門をくぐったときにはもう、彼女が『夢』を言い訳にして、精鋭兵達を見殺しにしたことは、駐屯兵のほとんどが知っていた。
『アンタのせいだ。アンタさえ、ちゃんと任務を遂行してくれていれば…!
アンタが、イアン達を殺した…!この…っ、人殺し!!』
本部内で任務中だったリコを見つけ、泣きながら謝るなまえを罵った。
これでもかというほどに、責めて、責めて、責め立てた。
彼女を絶望させたかったのだ。そして、死んでも死にきれない程の後悔を味わせたかった。
あれから4年が経つが、親しい友人だったはずのなまえとまともに顔をあわせたのは、ジャンの見舞いに来たあの1度きりだ。
「あの時、なまえが、ピクシス司令の作戦を面倒だと思わずに
きちんと任務にあたってくれていたら、きっとイアン達も今も生きていた…!」
絞り出すようなリコの声は、思い出したくない過去の回想に付き合わされて、掠れていた。
あのときの怒り、後悔、悲しみ、言葉では簡単に言い表せない感情が蘇り、椅子に座ったままの脚が震え、拳に力が入る。
「—————事情は…、分かりました。
でもそれって、逆恨みっすよね。
駐屯兵団の精鋭兵達を殺したのは、なまえさんじゃなくて、巨人ですよ。」
ゆっくりと咀嚼するように時間をかけた後、ジャンが言った。
どうやら彼は、言葉を選ぶことや、オブラートに包むということは出来ない性格らしい。
だが、痛いほどの正論だ。
「なまえさんは、友人を見捨てたのではなくて
精鋭兵としての実力を信じていただけでしょう。」
「その期待を裏切って死んでいったイアン達が悪いと言いたいのか!?」
気づいたら、声を荒げていた。
ジャンが本当に死んだ精鋭兵達が悪いと言っているわけではないことは分かっている。
なまえがあのとき、イアン達が死ぬだなんて夢にも思っていなかったのだということは、リコだって、わかっていないわけではない。
でも、そういう問題では納得できないのが、人間の心理というものなのだ。
少なくとも、精鋭兵達が死んだ理由の一端に、なまえがいないとは誰も言い切れないはずだ。
「あの日、なまえに助けられた駐屯兵は多くいた。」
「ですよね。なまえは目の前の命を見捨てるような人じゃないですから。」
「だからこそ、あのとき、なまえさえいてくれたら
イアン達は死んでなかったはずなんだ、絶対に…!」
「そんなことは、」
「分からない、というのか?本気か?」
リコが食い気味で訊ねれば、ジャンは初めて、言葉を切った。
彼の目に迷いが生まれ始める。
「あの時、壁を塞いだ直後、人類最強の兵士がやってきた。
そして、イアン達が命を落としながら戦うしかなかった巨人達をあっという間に討伐したよ。
なまえの実力が、そのリヴァイも認めるものだと、アンタも知ってるだろ。」
リコは一度目を伏せた。
あのとき、リヴァイが現れてから、辺り一帯の巨人が討伐されるまで、本当にあっという間の出来事だった。
あそこまでとはいかずとも、なまえならば、イアン達が捨て身の囮に出る前に、どうにかできたはずだ。捨て身の囮になったイアン達を救うために、必死に戦ってくれたはずだ。
でも、彼女はそれをしなかった。
あの場に、戦友として、仲間として、友人としてさえ、いてくれなかった。
「なまえなら、イアン達の死なない未来を選ぶことも出来たはずなのに、そうはならなかった…。
この悔しさを…、私達はどこにぶつけたらいい…!?」
リコは顔を上げる。
頬に流れる涙を見て、それでも正論をぶつけられるほどの図太い神経は持っていなかったらしい。
ジャンは息を呑むと、目を逸らすようにして唇を噛んだ。