◇第九話◇騎士が姫の部屋を訪れる理由
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訪問の理由に全くの検討もつかないまま、私は、リヴァイ兵長を部屋の中に招き入れた。
とりあえず、放り出されていたシャツやスカートをソファの上からどかして、ベッドに置いた。
そして、リヴァイ兵長に、ソファに座るように促す。
「どうぞ。」
「…いや、立ったままでいい。」
ソファを見下ろして凝視した後、数秒の間を置いて、リヴァイ兵長は断った。
いつも、何を考えているのか分からない人だけれど、今はさすがに、心の声が聞こえた。
「汚くありませんから!!ほら、シミもないでしょう!?
この前、ソファカバーを新しいのに換えたばかりです!!」
ジャンが———、というのは伏せておいた。
かろうじて私に残った、女の意地とプライドと、虚しい恋心だ。
あからさまに、渋々という様子でリヴァイ兵長は、ソファに腰を降ろした。
「何か飲み物でも——。」
「いや、いい。それは本当に必要ない。やめてくれ。お願いだ。」
リヴァイ兵長は、食い気味に断って来た。
珍しく早口で多めに喋るから、必死さが嫌というほどにひしひしと伝わった。
女の意地もプライドも、虚しい恋心も、あっという間に粉々だ。
昔、私の部屋のティーカップから、黒光りする気持ちの悪い虫が顔を出したことを、まだ覚えているのかもしれない。
早く忘れてくれたらいいのに———。
「・・・・分かりましたよ。」
頬を膨らませながら、私はベッドの縁に腰を降ろした。
だって、床の上には、放り投げられた洋服や、旅行セットが散らばっていて、ベッドくらいしか座る場所が残されていなかったのだ。
リヴァイ兵長が、私の部屋を見て『相変わらず汚い』と眉を顰めてしまうのは仕方ないことくらい、理解している。
「それで、急にどうしたんですか?
この前、ハンジ班が捕獲したソニーとビーンのことですか?」
自分が座るベッドの縁に両手をついた私は、自分の膝を見ながら訊ねた。
私の部屋にリヴァイ兵長が来るのなんて、久しぶり過ぎて、緊張していた。
すぐそこに、私がいつも座っているソファにリヴァイ兵長がいる——。
それだけで、心臓が飛び出してしまいそうなくらいにドキドキしている。
「あれはどうでもいい。ハンジが勝手にやってる。」
「そうですか。それなら、んー、なんだろう。
じゃあ、クイズにします。リヴァイ兵長の用事を
私が当てみせますから、絶対に言わないでくださいよ~。」
「お前、あの馬と結婚するのか。」
リヴァイ兵長が私の部屋を訪れる用事とは何だろう——。
必死に頭をまわしていた私に、リヴァイ兵長は、想像もしていなかった質問を投げかけた。
団長とリヴァイ兵長は仲がいいから、雑談の中で聞いたのかもしれない。
何かな———、呑気に喋っていた私の言葉が一瞬だけ途切れた。
「もう~。なんで、リヴァイ兵長、喋っちゃうんですか~。
クイズだって言ったじゃないですか~。」
私は、相変わらず、自分の膝を眺めたまま、ヘラヘラと笑った。
本当は、驚きで止まりかけた心臓が、キリキリと痛んで、悲鳴を上げていた。
ジャンには、腹を括ったって言った。
調査兵団に残るためなら、大切な両親を騙す嘘だって吐くと、覚悟も決めた。
でもやっぱり、好きな人に、他の男性と恋人だと思われるのは、気持ちのいいものではない。
むしろ、苦しい。
でも、私のそんな気持ちを読もうとはしないリヴァイ兵長は、さらに、答えたくない質問を続ける。
「そこのは旅行鞄だろ。
明日の休暇を使って、両親に結婚の承諾を貰いに行くのか。」
「アハハ~、私が馬と結婚ですか~?
さすがに馬鹿な私でも馬とは結婚しないですよ~。
私の恋愛対象は、雄じゃなくて、男です~。」
私は、少し大袈裟にアハハと笑った。
こんなに自分の膝を凝視したのは初めてかもしれない。
悪足掻きだと分かっていた。
でも、嘘が壊滅的に下手だとジャンに言われた私は、リヴァイ兵長に顔を見られるわけにはいかなかった。
それに、リヴァイ兵長が、どんな顔で、歳下の補佐と恋人なのかを聞いてきたのかなんて、知りたくなかった。
「そうだったみたいだな。」
ポツリ—、リヴァイ兵長が呟くような声がした後、ソファから立ち上がったような気配を感じた。
下手くそな誤魔化しに呆れて、自分の部屋に戻るのかな——。
そう思ったら、右隣に人の気配を感じた。
その瞬間に、ベッドが軋んだ音を立てながら、リヴァイ兵長が隣に腰を降ろした。
驚いて思わず顔を上げた私は、リヴァイ兵長の方を見てしまった。
顔を見られたら、嘘がバレると分かっているのに———。
この世のものとは思えないくらいに美しいリヴァイ兵長の顔が、すぐそばにあったせいだ。
綺麗な瞳に絡めとられてしまった私の目も、心も、身体も、リヴァイ兵長を向いたまま、動けなくなってしまった。
「正直に答えろ。お前は、ジャン・キルシュタインに惚れてるのか。」
リヴァイ兵長は、私の腕を掴むと、食い入るように瞳を覗き込んできた。
途方に暮れそうなくらいに透き通る瞳が、真実を見抜こうとしているみたいに、じっと見つめてくる。
答えなくちゃ———。
必死に答えを探す私の口だけが、酸素をなくした魚みたいに開いたり閉じたりを繰り返す。
でも、声が出ない。
ため息が出そうなほどに美しい顔がすぐそばにあって、意識が遠のいてしまいそうだった。
「早く答えねぇと、その馬鹿みてぇに開いたままの口、俺が塞いでやる。」
私の腕を掴むリヴァイ兵長の手に力が入ったようだった。
少しだけ、痛かった。
でも、痛みに眉を顰める余裕もないどころか、私の身体は薄い皮膚1枚も動かせないくらいに、固まっていた。
時間が止まっている、という表現が一番近い気がする。
私の周りだけ、時間が止まっていて、リヴァイ兵長の美しい顔がゆっくりと近づいてくるのを、ただジッと見つめながら、夢を見ていた。
ここは、夢の世界。目の前にいるのは、私がずっとずっと憧れていた騎士で、私は、彼の愛するお姫様。
異国の王子様との結婚式前日、騎士は、王様の目を盗んで私の部屋を訪れる。
騎士は、一体、何のために、部屋にやってきたのだろう。
『自分を選んでくれ、必ず守るから共に逃げよう。』
そんな情熱的な台詞で、私を攫ってくれたら、どんなに素敵だろう。
不意に、意識が現実に戻った。
あと少しで唇が触れる——。
それだけを唐突に理解して、私は思わずギュッと目を瞑った。
とりあえず、放り出されていたシャツやスカートをソファの上からどかして、ベッドに置いた。
そして、リヴァイ兵長に、ソファに座るように促す。
「どうぞ。」
「…いや、立ったままでいい。」
ソファを見下ろして凝視した後、数秒の間を置いて、リヴァイ兵長は断った。
いつも、何を考えているのか分からない人だけれど、今はさすがに、心の声が聞こえた。
「汚くありませんから!!ほら、シミもないでしょう!?
この前、ソファカバーを新しいのに換えたばかりです!!」
ジャンが———、というのは伏せておいた。
かろうじて私に残った、女の意地とプライドと、虚しい恋心だ。
あからさまに、渋々という様子でリヴァイ兵長は、ソファに腰を降ろした。
「何か飲み物でも——。」
「いや、いい。それは本当に必要ない。やめてくれ。お願いだ。」
リヴァイ兵長は、食い気味に断って来た。
珍しく早口で多めに喋るから、必死さが嫌というほどにひしひしと伝わった。
女の意地もプライドも、虚しい恋心も、あっという間に粉々だ。
昔、私の部屋のティーカップから、黒光りする気持ちの悪い虫が顔を出したことを、まだ覚えているのかもしれない。
早く忘れてくれたらいいのに———。
「・・・・分かりましたよ。」
頬を膨らませながら、私はベッドの縁に腰を降ろした。
だって、床の上には、放り投げられた洋服や、旅行セットが散らばっていて、ベッドくらいしか座る場所が残されていなかったのだ。
リヴァイ兵長が、私の部屋を見て『相変わらず汚い』と眉を顰めてしまうのは仕方ないことくらい、理解している。
「それで、急にどうしたんですか?
この前、ハンジ班が捕獲したソニーとビーンのことですか?」
自分が座るベッドの縁に両手をついた私は、自分の膝を見ながら訊ねた。
私の部屋にリヴァイ兵長が来るのなんて、久しぶり過ぎて、緊張していた。
すぐそこに、私がいつも座っているソファにリヴァイ兵長がいる——。
それだけで、心臓が飛び出してしまいそうなくらいにドキドキしている。
「あれはどうでもいい。ハンジが勝手にやってる。」
「そうですか。それなら、んー、なんだろう。
じゃあ、クイズにします。リヴァイ兵長の用事を
私が当てみせますから、絶対に言わないでくださいよ~。」
「お前、あの馬と結婚するのか。」
リヴァイ兵長が私の部屋を訪れる用事とは何だろう——。
必死に頭をまわしていた私に、リヴァイ兵長は、想像もしていなかった質問を投げかけた。
団長とリヴァイ兵長は仲がいいから、雑談の中で聞いたのかもしれない。
何かな———、呑気に喋っていた私の言葉が一瞬だけ途切れた。
「もう~。なんで、リヴァイ兵長、喋っちゃうんですか~。
クイズだって言ったじゃないですか~。」
私は、相変わらず、自分の膝を眺めたまま、ヘラヘラと笑った。
本当は、驚きで止まりかけた心臓が、キリキリと痛んで、悲鳴を上げていた。
ジャンには、腹を括ったって言った。
調査兵団に残るためなら、大切な両親を騙す嘘だって吐くと、覚悟も決めた。
でもやっぱり、好きな人に、他の男性と恋人だと思われるのは、気持ちのいいものではない。
むしろ、苦しい。
でも、私のそんな気持ちを読もうとはしないリヴァイ兵長は、さらに、答えたくない質問を続ける。
「そこのは旅行鞄だろ。
明日の休暇を使って、両親に結婚の承諾を貰いに行くのか。」
「アハハ~、私が馬と結婚ですか~?
さすがに馬鹿な私でも馬とは結婚しないですよ~。
私の恋愛対象は、雄じゃなくて、男です~。」
私は、少し大袈裟にアハハと笑った。
こんなに自分の膝を凝視したのは初めてかもしれない。
悪足掻きだと分かっていた。
でも、嘘が壊滅的に下手だとジャンに言われた私は、リヴァイ兵長に顔を見られるわけにはいかなかった。
それに、リヴァイ兵長が、どんな顔で、歳下の補佐と恋人なのかを聞いてきたのかなんて、知りたくなかった。
「そうだったみたいだな。」
ポツリ—、リヴァイ兵長が呟くような声がした後、ソファから立ち上がったような気配を感じた。
下手くそな誤魔化しに呆れて、自分の部屋に戻るのかな——。
そう思ったら、右隣に人の気配を感じた。
その瞬間に、ベッドが軋んだ音を立てながら、リヴァイ兵長が隣に腰を降ろした。
驚いて思わず顔を上げた私は、リヴァイ兵長の方を見てしまった。
顔を見られたら、嘘がバレると分かっているのに———。
この世のものとは思えないくらいに美しいリヴァイ兵長の顔が、すぐそばにあったせいだ。
綺麗な瞳に絡めとられてしまった私の目も、心も、身体も、リヴァイ兵長を向いたまま、動けなくなってしまった。
「正直に答えろ。お前は、ジャン・キルシュタインに惚れてるのか。」
リヴァイ兵長は、私の腕を掴むと、食い入るように瞳を覗き込んできた。
途方に暮れそうなくらいに透き通る瞳が、真実を見抜こうとしているみたいに、じっと見つめてくる。
答えなくちゃ———。
必死に答えを探す私の口だけが、酸素をなくした魚みたいに開いたり閉じたりを繰り返す。
でも、声が出ない。
ため息が出そうなほどに美しい顔がすぐそばにあって、意識が遠のいてしまいそうだった。
「早く答えねぇと、その馬鹿みてぇに開いたままの口、俺が塞いでやる。」
私の腕を掴むリヴァイ兵長の手に力が入ったようだった。
少しだけ、痛かった。
でも、痛みに眉を顰める余裕もないどころか、私の身体は薄い皮膚1枚も動かせないくらいに、固まっていた。
時間が止まっている、という表現が一番近い気がする。
私の周りだけ、時間が止まっていて、リヴァイ兵長の美しい顔がゆっくりと近づいてくるのを、ただジッと見つめながら、夢を見ていた。
ここは、夢の世界。目の前にいるのは、私がずっとずっと憧れていた騎士で、私は、彼の愛するお姫様。
異国の王子様との結婚式前日、騎士は、王様の目を盗んで私の部屋を訪れる。
騎士は、一体、何のために、部屋にやってきたのだろう。
『自分を選んでくれ、必ず守るから共に逃げよう。』
そんな情熱的な台詞で、私を攫ってくれたら、どんなに素敵だろう。
不意に、意識が現実に戻った。
あと少しで唇が触れる——。
それだけを唐突に理解して、私は思わずギュッと目を瞑った。