◇第八十二話◇責任の所在を探し続ける【前編】
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結局、リコは午後までで仕事を早退した。
そうして、自室に戻りもしないで、兵団服のままやってきたのは、調査兵団の兵舎にある重傷者病棟だった。
門兵達の守る入口を通り抜けたときからずっと、駐屯兵団の兵舎でも聞いたのに似ている噂話がリコの耳に届いている。
すぐそばを通り過ぎて歩くリコが、その噂話に少なからず関わっている人物だと気づかずに、駐屯兵達と似た表情で、彼らは調査兵団の兵舎の至る所で、嘘と事実が入り乱れる噂話を広げていくのだ。
だがそれは、駐屯兵団で聞いた噂と全く同じということではなかった。
『眠り姫は、人殺し。』
『友人の婚約者を寝取り、挙句の果てに殺して捨てた。』
『それが原因で友人は精神を病んだ。』
『ジャン・キルシュタインは、その復讐による被害者だ。』
どこかで悪意が混ざったとしか思えない噂話は、調査兵達の無責任な口によって、最低な〝事実〟となっていく。
その様子は、調査兵団本部会議室で起こった惨劇と同じくらいに、恐ろしい事件のように思えた。
薬品の匂いがつんと鼻を刺激する廊下を進むリコは、病室の扉についているネームプレートをひとつひとつ確認しながら、目的の名前を探す。
そうして、一番奥の病室にジャン・キルシュタインと書かれたネームプレートを見つけた。
大きく深呼吸をしてから扉を叩くと、すぐに「はい。」と凛とした綺麗な声が返ってきた。
なまえの声だ。
漠然としていた不安が、震えるほどの緊張となってリコを襲う。
でも、逃げるという選択肢は、リコにはなかった。
扉の取っ手を掴んで、ゆっくりと回しながら押し開く。
なまえは、ベッド脇にいた。
椅子に座って、ただじっと、婚約者の寝顔を眺めていた。
その横顔は、眠り姫でもなければ、〝人殺し〟でもない。
遠い昔、見たことがある————愛する人をただ一途に想う、ただの〝女〟だった。
そうして、自室に戻りもしないで、兵団服のままやってきたのは、調査兵団の兵舎にある重傷者病棟だった。
門兵達の守る入口を通り抜けたときからずっと、駐屯兵団の兵舎でも聞いたのに似ている噂話がリコの耳に届いている。
すぐそばを通り過ぎて歩くリコが、その噂話に少なからず関わっている人物だと気づかずに、駐屯兵達と似た表情で、彼らは調査兵団の兵舎の至る所で、嘘と事実が入り乱れる噂話を広げていくのだ。
だがそれは、駐屯兵団で聞いた噂と全く同じということではなかった。
『眠り姫は、人殺し。』
『友人の婚約者を寝取り、挙句の果てに殺して捨てた。』
『それが原因で友人は精神を病んだ。』
『ジャン・キルシュタインは、その復讐による被害者だ。』
どこかで悪意が混ざったとしか思えない噂話は、調査兵達の無責任な口によって、最低な〝事実〟となっていく。
その様子は、調査兵団本部会議室で起こった惨劇と同じくらいに、恐ろしい事件のように思えた。
薬品の匂いがつんと鼻を刺激する廊下を進むリコは、病室の扉についているネームプレートをひとつひとつ確認しながら、目的の名前を探す。
そうして、一番奥の病室にジャン・キルシュタインと書かれたネームプレートを見つけた。
大きく深呼吸をしてから扉を叩くと、すぐに「はい。」と凛とした綺麗な声が返ってきた。
なまえの声だ。
漠然としていた不安が、震えるほどの緊張となってリコを襲う。
でも、逃げるという選択肢は、リコにはなかった。
扉の取っ手を掴んで、ゆっくりと回しながら押し開く。
なまえは、ベッド脇にいた。
椅子に座って、ただじっと、婚約者の寝顔を眺めていた。
その横顔は、眠り姫でもなければ、〝人殺し〟でもない。
遠い昔、見たことがある————愛する人をただ一途に想う、ただの〝女〟だった。