◇第七十六話◇残酷な世界に打ちあがる花火が姫を守ってくれますように
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自室の扉を開いたまま、リヴァイはじっと立っていた。
真っすぐに見つめる視線の向こうには、珍しく、期日通りに提出物を届けに来たなまえの背中がある。
リヴァイが握りしめる書類には、見慣れた眠たそうな字よりも、右肩上がりのクセのある字の方が多い。
非番だったはずの補佐官が手を貸したのなんて、わざわざ聞かなくたって分かった。
「あれ?なまえは?」
酒とつまみを抱えたハンジがやってきて、リヴァイの背中越しに部屋の奥を覗き込む。
毎年恒例のトラオム祭りの今夜、浮足立っている若い調査兵達に紛れて、ハンジも友人達と一緒に酒とつまみを楽しみながら、窓越しに花火を見ようと考えたらしい。
勝手にリヴァイの部屋をその会場にしたことを叱るつもりはない。
なぜなら、毎年、そうだからだ。
だから、ハンジは、いつもならそこにいるはずのなまえの姿が見えないことに疑問を抱いたのだろう。
「婚約者のクソガキと花火デートらしい。」
「え、本当?」
「あぁ。」
「—————大丈夫なの?」
しばらく眉間に濃い皴を作って深く考えるように黙り込んだ後、ハンジが心配そうに訊ねた。
「さぁな。」
リヴァイは、いつの間にか見えなくなった背中を追いかけ続けるように廊下の奥を見つめる。
なまえが大丈夫なのかなんて分からない。
でも、大丈夫ではないと思っていたから、リヴァイは、毎年、この日になると、彼女に大量の仕事を押し付けて、何も考えられないようにしていたのだ。
ハンジは、酒とつまみを持ってリヴァイの部屋にやってきて、いつの間にかナナバとゲルガー、エルヴィンも現れて、酒盛りを始める。
そして、そこにいる仲間達は、普段通りのくだらない冗談を交わし合っては、真っ黒な夜空に打ちあがる花火が、彼女に涙を思い出させないことを願った。
今夜だって、なまえが、夜空に美しく咲く花火を見上げて泣いてしまわないか、苦しんでしまわないか、心配でたまらないのだ。
でも———。
『ジャンに花火デートに誘われたんです。』
珍しく書類を終わらせてやってきたことに驚いたリヴァイに、なまえはそう言って照れ臭そうにはにかんだ。
とても幸せそうに微笑む彼女を、どうやって引き留めればよかったのだろう。
大丈夫なのか、と心配をして、哀しさを思い出させることなんて、出来なかった。
結局、書類を渡した後、必要な報告事項を伝えてから、なまえは少し不安そうにしながらも、ジャンを信じることを選んで、リヴァイに背を向けたのだ。
「よし!じゃあ、今夜は私と一緒にとことん飲もう!!」
リヴァイは、意気揚々と部屋に入ろうとしたハンジの笑顔の眼前で、ピシャリ、と扉を閉じた。
真っすぐに見つめる視線の向こうには、珍しく、期日通りに提出物を届けに来たなまえの背中がある。
リヴァイが握りしめる書類には、見慣れた眠たそうな字よりも、右肩上がりのクセのある字の方が多い。
非番だったはずの補佐官が手を貸したのなんて、わざわざ聞かなくたって分かった。
「あれ?なまえは?」
酒とつまみを抱えたハンジがやってきて、リヴァイの背中越しに部屋の奥を覗き込む。
毎年恒例のトラオム祭りの今夜、浮足立っている若い調査兵達に紛れて、ハンジも友人達と一緒に酒とつまみを楽しみながら、窓越しに花火を見ようと考えたらしい。
勝手にリヴァイの部屋をその会場にしたことを叱るつもりはない。
なぜなら、毎年、そうだからだ。
だから、ハンジは、いつもならそこにいるはずのなまえの姿が見えないことに疑問を抱いたのだろう。
「婚約者のクソガキと花火デートらしい。」
「え、本当?」
「あぁ。」
「—————大丈夫なの?」
しばらく眉間に濃い皴を作って深く考えるように黙り込んだ後、ハンジが心配そうに訊ねた。
「さぁな。」
リヴァイは、いつの間にか見えなくなった背中を追いかけ続けるように廊下の奥を見つめる。
なまえが大丈夫なのかなんて分からない。
でも、大丈夫ではないと思っていたから、リヴァイは、毎年、この日になると、彼女に大量の仕事を押し付けて、何も考えられないようにしていたのだ。
ハンジは、酒とつまみを持ってリヴァイの部屋にやってきて、いつの間にかナナバとゲルガー、エルヴィンも現れて、酒盛りを始める。
そして、そこにいる仲間達は、普段通りのくだらない冗談を交わし合っては、真っ黒な夜空に打ちあがる花火が、彼女に涙を思い出させないことを願った。
今夜だって、なまえが、夜空に美しく咲く花火を見上げて泣いてしまわないか、苦しんでしまわないか、心配でたまらないのだ。
でも———。
『ジャンに花火デートに誘われたんです。』
珍しく書類を終わらせてやってきたことに驚いたリヴァイに、なまえはそう言って照れ臭そうにはにかんだ。
とても幸せそうに微笑む彼女を、どうやって引き留めればよかったのだろう。
大丈夫なのか、と心配をして、哀しさを思い出させることなんて、出来なかった。
結局、書類を渡した後、必要な報告事項を伝えてから、なまえは少し不安そうにしながらも、ジャンを信じることを選んで、リヴァイに背を向けたのだ。
「よし!じゃあ、今夜は私と一緒にとことん飲もう!!」
リヴァイは、意気揚々と部屋に入ろうとしたハンジの笑顔の眼前で、ピシャリ、と扉を閉じた。