◇第七十二話◇嫉妬が醜くさせる
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「すみません。」
ジャンが、後ろから私を抱きしめた。
まるで、こうすれば彼女が許してくれると知っているズルい恋人みたいだ。
そんな経験はないけど、本で読んだことがある。
そうすると、彼女達は、悔しいと思いながらいつも彼を許すのだ。
でも、私とジャンは恋人ではないし、別に怒ってるわけでもないから、許してやることはそもそもできないのだ。
だから、気にしなくていいよ、怒ってないよって言ってあげればいいのに、私は声が出なかった。
ジャンの温もりが嬉しくて、でもなぜかすごく苦しくて、唇を噛んだのだ。
「からかい過ぎました。」
「…ジャンは、本当のことを言っただけでしょ。
ステラはすごく良い娘だし、仕事も出来るいい女って感じで、
私より、美人だよ。」
「なまえさんの方が可愛いです。」
ずっとステラを褒めてたくせに、急にジャンがそんなことを言うから、無節操にドキドキしてしまった。
どう考えたってステラより私の方が仕事は出来なさそうだし、それを知ってるジャンは、お世辞すら言わない。
そして結局は、彼女の方が美人だと言ってることに、気づかなかったわけじゃないのに。
「歳上に可愛いなんて、失礼だよ。」
「すみません。でも、俺にとっては、世界一、可愛い人だから。」
「そうやってご機嫌をとろうとしてるの?
別にそんなことしなくたって、私は怒ってるわけじゃ———。」
「でも、ヤキモチ妬いてたでしょ。」
言い当てられて、私は驚きとショックに思考が止まってしまった。
恥ずかしさと情けなさが一気に押し寄せてくる。
そんな私を、ジャンはギュウッと抱きしめる腕に力を込めた。
「俺とステラが中庭で話してるの見たんですよね。
裏庭で泣いちまったのって、そのせいでしょ。」
「…いろいろ、あるの。」
どうせバレてしまう嘘なんか吐けなくて、私は曖昧に誤魔化した。
「ここの正面玄関でステラと話してるときも、
さっきこの部屋に来てるステラを見たときも、
なまえさん、泣きそうな顔してましたよ。」
私は、肯定も否定も出来ないで黙り込む。
しばらくの沈黙の後に、ジャンが続けた。
「俺、性格悪ぃから…。
なまえさんが、他の女に嫉妬して泣きそうな顔してんのが嬉しかったんです。
だから少し、いや結構、調子に乗り過ぎました。」
傷つけて、すみません———と、耳元から、申し訳なさそうなジャンの声がして、私は泣きたくなる。
ジャンを困らせて、私は何がしたいんだろう。
恋は、面倒くさい。
もうやだ。眠ってしまいたい。
やっぱり、夢の世界の方が、私は好きだ。
胸も痛くならないし、醜い顔をした私もいない。
私の心と体が血塗れになることもない。
キラキラ輝くお姫様が、騎士と楽しい恋が出来る夢の世界の方が、私は好き。
「眠たいから機嫌が悪かったんだと思う。
だから気にしないで。もう寝ようか。」
分かりました、とジャンが頷いて、身体が離れた。
その途端に寂しくなって、私はジャンの手を握る。
すぐに強く握り直してくれる大きな手に、私はまたドキドキして嬉しくなってしまう。
嫉妬も、恋も、現実の世界も、私は好きじゃない。
でも、一番嫌いなのは、矛盾だらけで我儘な自分の心かもしれない。
ジャンが、後ろから私を抱きしめた。
まるで、こうすれば彼女が許してくれると知っているズルい恋人みたいだ。
そんな経験はないけど、本で読んだことがある。
そうすると、彼女達は、悔しいと思いながらいつも彼を許すのだ。
でも、私とジャンは恋人ではないし、別に怒ってるわけでもないから、許してやることはそもそもできないのだ。
だから、気にしなくていいよ、怒ってないよって言ってあげればいいのに、私は声が出なかった。
ジャンの温もりが嬉しくて、でもなぜかすごく苦しくて、唇を噛んだのだ。
「からかい過ぎました。」
「…ジャンは、本当のことを言っただけでしょ。
ステラはすごく良い娘だし、仕事も出来るいい女って感じで、
私より、美人だよ。」
「なまえさんの方が可愛いです。」
ずっとステラを褒めてたくせに、急にジャンがそんなことを言うから、無節操にドキドキしてしまった。
どう考えたってステラより私の方が仕事は出来なさそうだし、それを知ってるジャンは、お世辞すら言わない。
そして結局は、彼女の方が美人だと言ってることに、気づかなかったわけじゃないのに。
「歳上に可愛いなんて、失礼だよ。」
「すみません。でも、俺にとっては、世界一、可愛い人だから。」
「そうやってご機嫌をとろうとしてるの?
別にそんなことしなくたって、私は怒ってるわけじゃ———。」
「でも、ヤキモチ妬いてたでしょ。」
言い当てられて、私は驚きとショックに思考が止まってしまった。
恥ずかしさと情けなさが一気に押し寄せてくる。
そんな私を、ジャンはギュウッと抱きしめる腕に力を込めた。
「俺とステラが中庭で話してるの見たんですよね。
裏庭で泣いちまったのって、そのせいでしょ。」
「…いろいろ、あるの。」
どうせバレてしまう嘘なんか吐けなくて、私は曖昧に誤魔化した。
「ここの正面玄関でステラと話してるときも、
さっきこの部屋に来てるステラを見たときも、
なまえさん、泣きそうな顔してましたよ。」
私は、肯定も否定も出来ないで黙り込む。
しばらくの沈黙の後に、ジャンが続けた。
「俺、性格悪ぃから…。
なまえさんが、他の女に嫉妬して泣きそうな顔してんのが嬉しかったんです。
だから少し、いや結構、調子に乗り過ぎました。」
傷つけて、すみません———と、耳元から、申し訳なさそうなジャンの声がして、私は泣きたくなる。
ジャンを困らせて、私は何がしたいんだろう。
恋は、面倒くさい。
もうやだ。眠ってしまいたい。
やっぱり、夢の世界の方が、私は好きだ。
胸も痛くならないし、醜い顔をした私もいない。
私の心と体が血塗れになることもない。
キラキラ輝くお姫様が、騎士と楽しい恋が出来る夢の世界の方が、私は好き。
「眠たいから機嫌が悪かったんだと思う。
だから気にしないで。もう寝ようか。」
分かりました、とジャンが頷いて、身体が離れた。
その途端に寂しくなって、私はジャンの手を握る。
すぐに強く握り直してくれる大きな手に、私はまたドキドキして嬉しくなってしまう。
嫉妬も、恋も、現実の世界も、私は好きじゃない。
でも、一番嫌いなのは、矛盾だらけで我儘な自分の心かもしれない。