◇第七十二話◇嫉妬が醜くさせる
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そこが憲兵団本部でも、私とジャンがしていることは同じだった。
ソファに並んで座って、濡れた私の髪をジャンがタオルで拭いてかわかしてくれる。
でも、話の内容は違う。
さっきからずっと、ジャンの口から出るのはステラのことばかりだ。
最初は、まるで浮気をしてしまった男が恋人に言い訳をしているみたいな状況説明から入った。
ジャンがアルミンと一緒に憲兵団本部に出張に行ったときに、仕事の内容を説明してくれたのが、ステラだったのだそうだ。
それからずっと、彼女はジャン達と共に任務を遂行していて、さっき、この部屋に来ていたのも、ジャンが作った書類に分からないところがあったから、確認の為にやって来たということだった。
でも、今は———。
「ミカサと同じでぶっちぎりで主席だったらしくて、
一緒に仕事してても、悔しいけど、俺より全然頭の回転が速ぇんですよ。」
「そうなんだ。すごいね。雰囲気もミカサに似てるもんね。
クールビューティーなところとか。」
「あぁ、そうっすね。美人ですしね。
パーティーも、美人だから同伴させられるんでしょうね。
毎回だってぼやいてましたよ。」
「そうなんだ。パーティーは疲れるし、眠たくなるもんね。」
「眠たくなるのはなまえさんだけっすよ。
ステラは仕事をしたいらしいですよ。
早く出世して、憲兵団を変えるって意気込んでました。」
「そうなんだ、凄いね。」
「えぇ、本当に。見た目はミカサに似てるけど、世渡り上手なんですよ、アイツ。
態度は少し冷てぇけど、先輩を立てるのも得意だし。
遠回りなマルコとはやり方は違ぇけど、自分の仕事に誇り持ってて、すげぇなって思います。」
ジャンの弾むような声と息が、耳に少しだけかかる。
その度に、私は胸が痛くなる。
言葉数が少ない方ではないけれど、特別にお喋りなわけでもないジャンが、こんなに楽しそうに話し続けるのを聞くのは、初めてだった。
どちらかと言えば、いつも私が夢の話をしていて、それをジャンが聞いている方が多かったのだ。
あるとすれば、エレンの愚痴や、親友のマルコのことばかりで、女の子の話なんて、サシャと芋の想い出しか聞いたことがない。
こんな風に、女の子のことを嬉しそうに話しているジャンなんて、今まで見たことなかった。
「そうだね、すごいね。」
私は、耳を塞ぎたくて、でも出来なくて、膝の上で両手を強く握りしめていた。
ジャンの口から、他の女の子の名前が出るのは、あまり嬉しくない。
ジャンの声で、他の女の子のための「美人」なんて、聞きたくない。
あぁ、早く、眠ってしまいたい。
「さっきから、凄いばっかりっすね。」
「だって、凄いなって思うから。」
「本当にそれだけ?」
終わりましたよ———と付け足して、ジャンが私の顔を覗き込んだ。
「それだけ!」
私は、ソファにあったクッションをジャンの顔面に押しつけて、自分の顔を隠した。
ぶはっと少し驚いたような声と苦しそうな息が聞こえてすぐに、ジャンが強引にクッションをどかそうとする。
「顔、見せてくださいよ。」
「やだ。」
「どうしてっすか。」
「嫌だから!」
「だから、どうして。」
「なんででも!」
私は、ジャンの顔にクッションを押しつけた。
怒ってそうしたわけじゃなくて、ただ、顔を見られたくなかっただけだ。
きっと今私は、凄く醜い表情をしている。
だって、私の嫌いな私が、ジャンの声を胸に沁み込ませてしまう度に、じわりじわりと侵食していたから。
「ステラの方が、なまえさんより美人だから?」
クッションの向こうから聞こえてきたジャンの声に、私はもう、抗う気力を奪われた。
必死に押さえつけていた手から力が抜けると、クッションが床に落ちる。
「うん、そう。」
私は短く答えながら立ち上がった。
そして、振り返ってジャンをみることもせずに背を向けたまま、奥のベッドへと向かう。
知ってる、それくらい。
ステラは美人だ。綺麗だし、私より歳下なのに色気がある。
お姫様なんて呼ばれてしまう子供っぽい顔をしてる私とは違う。
全然、違う。
10年という月日の中で、血塗れになった私とは、比べものにならないくらいに、彼女は綺麗だ。
ソファに並んで座って、濡れた私の髪をジャンがタオルで拭いてかわかしてくれる。
でも、話の内容は違う。
さっきからずっと、ジャンの口から出るのはステラのことばかりだ。
最初は、まるで浮気をしてしまった男が恋人に言い訳をしているみたいな状況説明から入った。
ジャンがアルミンと一緒に憲兵団本部に出張に行ったときに、仕事の内容を説明してくれたのが、ステラだったのだそうだ。
それからずっと、彼女はジャン達と共に任務を遂行していて、さっき、この部屋に来ていたのも、ジャンが作った書類に分からないところがあったから、確認の為にやって来たということだった。
でも、今は———。
「ミカサと同じでぶっちぎりで主席だったらしくて、
一緒に仕事してても、悔しいけど、俺より全然頭の回転が速ぇんですよ。」
「そうなんだ。すごいね。雰囲気もミカサに似てるもんね。
クールビューティーなところとか。」
「あぁ、そうっすね。美人ですしね。
パーティーも、美人だから同伴させられるんでしょうね。
毎回だってぼやいてましたよ。」
「そうなんだ。パーティーは疲れるし、眠たくなるもんね。」
「眠たくなるのはなまえさんだけっすよ。
ステラは仕事をしたいらしいですよ。
早く出世して、憲兵団を変えるって意気込んでました。」
「そうなんだ、凄いね。」
「えぇ、本当に。見た目はミカサに似てるけど、世渡り上手なんですよ、アイツ。
態度は少し冷てぇけど、先輩を立てるのも得意だし。
遠回りなマルコとはやり方は違ぇけど、自分の仕事に誇り持ってて、すげぇなって思います。」
ジャンの弾むような声と息が、耳に少しだけかかる。
その度に、私は胸が痛くなる。
言葉数が少ない方ではないけれど、特別にお喋りなわけでもないジャンが、こんなに楽しそうに話し続けるのを聞くのは、初めてだった。
どちらかと言えば、いつも私が夢の話をしていて、それをジャンが聞いている方が多かったのだ。
あるとすれば、エレンの愚痴や、親友のマルコのことばかりで、女の子の話なんて、サシャと芋の想い出しか聞いたことがない。
こんな風に、女の子のことを嬉しそうに話しているジャンなんて、今まで見たことなかった。
「そうだね、すごいね。」
私は、耳を塞ぎたくて、でも出来なくて、膝の上で両手を強く握りしめていた。
ジャンの口から、他の女の子の名前が出るのは、あまり嬉しくない。
ジャンの声で、他の女の子のための「美人」なんて、聞きたくない。
あぁ、早く、眠ってしまいたい。
「さっきから、凄いばっかりっすね。」
「だって、凄いなって思うから。」
「本当にそれだけ?」
終わりましたよ———と付け足して、ジャンが私の顔を覗き込んだ。
「それだけ!」
私は、ソファにあったクッションをジャンの顔面に押しつけて、自分の顔を隠した。
ぶはっと少し驚いたような声と苦しそうな息が聞こえてすぐに、ジャンが強引にクッションをどかそうとする。
「顔、見せてくださいよ。」
「やだ。」
「どうしてっすか。」
「嫌だから!」
「だから、どうして。」
「なんででも!」
私は、ジャンの顔にクッションを押しつけた。
怒ってそうしたわけじゃなくて、ただ、顔を見られたくなかっただけだ。
きっと今私は、凄く醜い表情をしている。
だって、私の嫌いな私が、ジャンの声を胸に沁み込ませてしまう度に、じわりじわりと侵食していたから。
「ステラの方が、なまえさんより美人だから?」
クッションの向こうから聞こえてきたジャンの声に、私はもう、抗う気力を奪われた。
必死に押さえつけていた手から力が抜けると、クッションが床に落ちる。
「うん、そう。」
私は短く答えながら立ち上がった。
そして、振り返ってジャンをみることもせずに背を向けたまま、奥のベッドへと向かう。
知ってる、それくらい。
ステラは美人だ。綺麗だし、私より歳下なのに色気がある。
お姫様なんて呼ばれてしまう子供っぽい顔をしてる私とは違う。
全然、違う。
10年という月日の中で、血塗れになった私とは、比べものにならないくらいに、彼女は綺麗だ。