◇第七十二話◇嫉妬が醜くさせる
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満月の明かりを背中に浴びる美しい彼女を例えるのなら、物語に出てくる王女様だ。
涼しげな目元に真っ赤な口紅が似合う大人っぽい雰囲気に、真っ白な綺麗な肌。
兵士の中ではあまり背が高い方ではない私とは違って、身長も高くてスタイルがいい。
たぶん、ミカサくらいあるんじゃないだろうか。
身体のラインが綺麗に出るブラウンのドレスを堂々と着こなして、凛としている彼女にとても似合う。
彼女は、何もかもが、私と正反対だった。
「こん、ばんは。」
私は気後れして、ジャンの腕を掴み背中に半分ほど隠れてしまう。
情けない先輩兵士の姿に、彼女は少しだけ驚いたように目を見開いた後、クスリと笑った。
それが、嫌味でも何でもなくて、ただただ大人っぽくて妖艶で、思わず見惚れてしまったのだ。
「お前も今、帰りか。」
「先輩にはまだ残って欲しいって言われたんだけど、
お得意様達への挨拶回りも終わったし、帰らせてもらったの。」
「大変だな。」
「調査兵団のお姫様程じゃないわよ。」
彼女は、私の方を見ると、また小さく笑った。
中庭で、ジャンと一緒にいるのを見たとき、ドレス姿の彼女の雰囲気が、貴族の娘らしくはないとは感じた。
でもこの会話からすると、憲兵なのだろうか。
そう思いながら、会話を聞いていた私に、自己紹介を始めたのは、彼女の方だった。
「はじめまして。
憲兵団所属のステラ・シェーファーと申します。」
ステラと名乗った彼女は、細く綺麗な手をスッと私に差し出す。
後輩達に友達のように声をかけられるか、遠目に見られることしかなかった私は、こんな風に丁寧に挨拶をされたのが初めてで戸惑った。
慌てて手を出して、私も彼女の手を握る。
「あっ、私は調査兵団第——。」
「ふふ、知ってますよ。なまえさんのことは、憲兵団でも有名ですから。
———まぁ、今はジャンもですけどね。」
ステラはそう続けて、私の手をしっかりと握り返した。
凛とした表情が妖艶で、思わずドキリとしてしまって、私は何も返事が出来なかった。
「俺と同じ104期で、マルロとヒッチと同じ訓練兵団出身なんです。」
「そうなんだ。」
ジャンと同じ歳くらいかなという印象は当たっていたらしい。
挨拶が終わると、ジャンは待っていたとばかりに彼女に話しかける。
「さっきはありがとうな。」
「ううん、こっちこそ雑用を頼まれてくれて助かったから。」
「さっき?」
「あ~、マルコに頼まれて迷子の親を探してたんすよ。
でも、いつまでもなまえさんを放っておけねぇし、どうしようかと思ってたら
ステラが代わりに、迷子を預かってくれたんです。」
「そうだったんだ。ありがとうね、ステラ。」
「なまえさんは関係ないので、お礼を言われる理由はありません。」
急に冷たく突き放されて、私は驚いてしまった。
すると、ジャンが彼女を庇うように口を開いた。
「なまえさん、気にしないでください。
言い方がキツいだけで、怒ってるわけじゃないんで。
いつも、誰に対してもこうなんです。」
「こうって何よ。失礼な言い方やめてくれない?」
面倒そうに首をすぼめるジャンに、ステラがムッとしたように返した。
とても親し気な様子に、私は胸が痛くて苦しくて、早くこの場から立ち去りたくて仕方がなかった。
ジャンとステラのやりとりが見えない場所に、出来ればジャンと一緒にどこかへ———。
「私は気にしてないから。」
私は、ジャンの腕をスーツ越しにギュッと握りしめる。
補佐官としていつも私の隣にいるから、ジャンと一番親しいのは自分だと、漠然とそう信じていた。
でも、私には私の、ジャンの知らない世界が確かに存在するように、ジャンにだって、ジャンの、私の知らない世界が存在するに決まってる。
同期の前にいるジャンは、私といるときよりもフランクで、気が楽そうで、年相応に子供っぽい。
私といるときは、随分と大人びて感じるのは、頼りにならない上官の為に自分がしっかりしないといけないと気が張っているからなのかもしれない。
私は、きっと、19歳のジャンに無理をさせて———。
「じゃ、俺のお姫様がここで寝落ちしてしまいそうだから、もう行くわ。」
そう言うや否や、ジャンは私の背中と膝の後ろに手をまわして、あっという間に横向きに抱きかかえる。
私を抱え上げたジャンを見た彼女がどんな表情をしているのか知りたくなくて、ジャンの首に両腕をまわして、ギュッと抱きついた。
こういうところが、上官としてダメなのだと分かっていても、私をうんと甘やかしてくれるジャンの優しさが頼りだった。
彼女が見てる今は、特に———。
涼しげな目元に真っ赤な口紅が似合う大人っぽい雰囲気に、真っ白な綺麗な肌。
兵士の中ではあまり背が高い方ではない私とは違って、身長も高くてスタイルがいい。
たぶん、ミカサくらいあるんじゃないだろうか。
身体のラインが綺麗に出るブラウンのドレスを堂々と着こなして、凛としている彼女にとても似合う。
彼女は、何もかもが、私と正反対だった。
「こん、ばんは。」
私は気後れして、ジャンの腕を掴み背中に半分ほど隠れてしまう。
情けない先輩兵士の姿に、彼女は少しだけ驚いたように目を見開いた後、クスリと笑った。
それが、嫌味でも何でもなくて、ただただ大人っぽくて妖艶で、思わず見惚れてしまったのだ。
「お前も今、帰りか。」
「先輩にはまだ残って欲しいって言われたんだけど、
お得意様達への挨拶回りも終わったし、帰らせてもらったの。」
「大変だな。」
「調査兵団のお姫様程じゃないわよ。」
彼女は、私の方を見ると、また小さく笑った。
中庭で、ジャンと一緒にいるのを見たとき、ドレス姿の彼女の雰囲気が、貴族の娘らしくはないとは感じた。
でもこの会話からすると、憲兵なのだろうか。
そう思いながら、会話を聞いていた私に、自己紹介を始めたのは、彼女の方だった。
「はじめまして。
憲兵団所属のステラ・シェーファーと申します。」
ステラと名乗った彼女は、細く綺麗な手をスッと私に差し出す。
後輩達に友達のように声をかけられるか、遠目に見られることしかなかった私は、こんな風に丁寧に挨拶をされたのが初めてで戸惑った。
慌てて手を出して、私も彼女の手を握る。
「あっ、私は調査兵団第——。」
「ふふ、知ってますよ。なまえさんのことは、憲兵団でも有名ですから。
———まぁ、今はジャンもですけどね。」
ステラはそう続けて、私の手をしっかりと握り返した。
凛とした表情が妖艶で、思わずドキリとしてしまって、私は何も返事が出来なかった。
「俺と同じ104期で、マルロとヒッチと同じ訓練兵団出身なんです。」
「そうなんだ。」
ジャンと同じ歳くらいかなという印象は当たっていたらしい。
挨拶が終わると、ジャンは待っていたとばかりに彼女に話しかける。
「さっきはありがとうな。」
「ううん、こっちこそ雑用を頼まれてくれて助かったから。」
「さっき?」
「あ~、マルコに頼まれて迷子の親を探してたんすよ。
でも、いつまでもなまえさんを放っておけねぇし、どうしようかと思ってたら
ステラが代わりに、迷子を預かってくれたんです。」
「そうだったんだ。ありがとうね、ステラ。」
「なまえさんは関係ないので、お礼を言われる理由はありません。」
急に冷たく突き放されて、私は驚いてしまった。
すると、ジャンが彼女を庇うように口を開いた。
「なまえさん、気にしないでください。
言い方がキツいだけで、怒ってるわけじゃないんで。
いつも、誰に対してもこうなんです。」
「こうって何よ。失礼な言い方やめてくれない?」
面倒そうに首をすぼめるジャンに、ステラがムッとしたように返した。
とても親し気な様子に、私は胸が痛くて苦しくて、早くこの場から立ち去りたくて仕方がなかった。
ジャンとステラのやりとりが見えない場所に、出来ればジャンと一緒にどこかへ———。
「私は気にしてないから。」
私は、ジャンの腕をスーツ越しにギュッと握りしめる。
補佐官としていつも私の隣にいるから、ジャンと一番親しいのは自分だと、漠然とそう信じていた。
でも、私には私の、ジャンの知らない世界が確かに存在するように、ジャンにだって、ジャンの、私の知らない世界が存在するに決まってる。
同期の前にいるジャンは、私といるときよりもフランクで、気が楽そうで、年相応に子供っぽい。
私といるときは、随分と大人びて感じるのは、頼りにならない上官の為に自分がしっかりしないといけないと気が張っているからなのかもしれない。
私は、きっと、19歳のジャンに無理をさせて———。
「じゃ、俺のお姫様がここで寝落ちしてしまいそうだから、もう行くわ。」
そう言うや否や、ジャンは私の背中と膝の後ろに手をまわして、あっという間に横向きに抱きかかえる。
私を抱え上げたジャンを見た彼女がどんな表情をしているのか知りたくなくて、ジャンの首に両腕をまわして、ギュッと抱きついた。
こういうところが、上官としてダメなのだと分かっていても、私をうんと甘やかしてくれるジャンの優しさが頼りだった。
彼女が見てる今は、特に———。