◇第六十八話◇クモに囚われた心は追いかけ始める
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
調理場にはジャンの姿はなかった。
他にもいそうな場所に行ってみたけれど、見つけられなかった私は、中庭へと向かっていた。
どうしてこんなに必死にジャンを探しているのだろう———。
パーティー会場で美味しい料理を食べていれば、そのうちジャンは戻ってくるのだ。
別に焦って探さなくてもいいはずなのに、私は忙しなく瞳を左右に動かして、ジャンの姿を追いかける。
今までだって、同伴としてついてきたジャンが、仕事や雑用でそばを離れることはあった。
でも、今夜は違うのだ。
たぶんそれは、私の気持ちと、ジャンの———。
(ジャンが、今夜に限ってなんかすごく…カッコいいからいけないんだ。)
私は心の中で、ジャンが聞いたら調子に乗りそうな文句を繰り返していた。
ドレスに着替えた憲兵団本部で、ホールで待ってくれていたジャン達の元へ向かうために階段を降りたとき、私は息を呑んだのだ。
今までの私なら、正装をしているリヴァイ兵長に胸をときめかせていたはずだった。
何度だって、彼を騎士と重ねてドキドキしていた。
でも、今夜の私の瞳には、ジャンしか映らなかった。
長身で、筋肉で引き締まったスタイルのいい彼には、ブラウンのスーツがよく似合っていた。
まだ19のはずなのに、凄く大人に見えた。
ジャンのスーツ姿なら何度だって見たことがあるし、見慣れているはずだった。
でも、今夜の彼は、いつも以上に大人で、色っぽくて、目と心を奪われたのだ。
少なくとも、私にとってはそうだった。
でも実際、それは、私だけではなかったのだろう。
中庭に向かう途中の廊下で、私は憲兵の若い女の子達が話している噂話を聞いてしまった。
パーティー会場でも、何度でも何度でも、ジャンの話を聞いてしまったのだ。
『ねぇ、ジャンのこと見た?』
『見た!少し前に出張で来たときも顔がいいとは思ったけど、
今夜のスーツ姿はすごく似合ってて、素敵だったよね。』
『そうなの!フェロモンってやつ?
同じ歳のはずなのに、子供っぽい他の同期とは纏う雰囲気が違ってたの!』
『仕事も出来るし、冷たくてヤな奴な印象だったんだけど、
私が困ってたらさりげなく助けてくれて、思わずドキッとしちゃった。』
『それは惚れちゃう!あー、もっと早く気づいてたらなぁ。
確かもう婚約しちゃってるんだよね。』
『そうそう、ヒッチが言ってたよ~。
ねぇ、でもさ————。』
ついさっき聞いたばかりの可愛らしい声が、私の頭でガンガンと響いていた。
パーティー会場に着いた時から、ジャンに向かう女の子達の視線を感じていた。
ただそれは、私の気持ちの変化が、意識させているせいだと思っていたのだ。
でも、それは間違いだった。
以前から、なんとなくは思っていた。
ジャンは、冷たい印象は与えるけれど容姿も恵まれているし、仕事も出来る。親しくなれば、彼が本当はすごく優しくて、面倒見の良い性格だということも分かる。
モテないわけがないし、女の子達が放っておくわけがない。
分かっていたのだ。そんなこと、でも———。
今まで、そのことは、私を惑わせて、焦らせて、不安にさせることではなかったはずなのに———。
「あ…。」
中庭に出てすぐに、私はジャンを見つけた。
彼のそばにいたのは、可愛らしい男の子ではなかった。
女性らしい綺麗なシルエットのドレスを纏った若い女性だった。
涼しげな目元が印象的な美人だ。
大人っぽく見えるけれど、笑うと幼くて、たぶん、年齢はジャンと同じくらいだろうか。
2人は向かい合って話していて、とても親し気だ。
まるでお揃いのようなブラウンのドレスが、余計に、私の瞳に、彼らをとてもお似合いに映した。
(あぁ、そうか…。)
無意識に、痛いくらいに握りしめていた拳のおかげで、私は漸く気づいた。
私は、嫉妬していたのだ。
女の子達の視線に、今になって彼に好意を寄せる女の子達に、私よりもずっと若くて、彼とお似合いの女の子達に———。
あぁ、だって———。
私は、ジャンに声をかけることが出来ずに、中庭に背を向けた。
『ねぇ、でもさ、歳上の女の人に憧れる時期なだけかもよ。
アピールしたら、案外いけちゃうかも。
きっと、ジャンだって、若い女の方がいいよ。』
『来年、本当に結婚する前に心変わりとか、全然ありえちゃいそう。』
『ありえそう!』
『アハハ、絶対そうだよ~。』
ドレスをたくし上げて走る私を、可愛らしい女の子達の無邪気な声が追いかけてくる。
逃げても逃げても、追いかけてきた。
いつか逃げ切れるのだろうか。
それとも、この声に追いつかれて、私は泣くことになるのだろうか。
あぁ、だからほら、私は恋なんてしなくてよかった。
現実よりも、夢の中で、騎士にドキドキしていた方が、幸せだったのに———。
他にもいそうな場所に行ってみたけれど、見つけられなかった私は、中庭へと向かっていた。
どうしてこんなに必死にジャンを探しているのだろう———。
パーティー会場で美味しい料理を食べていれば、そのうちジャンは戻ってくるのだ。
別に焦って探さなくてもいいはずなのに、私は忙しなく瞳を左右に動かして、ジャンの姿を追いかける。
今までだって、同伴としてついてきたジャンが、仕事や雑用でそばを離れることはあった。
でも、今夜は違うのだ。
たぶんそれは、私の気持ちと、ジャンの———。
(ジャンが、今夜に限ってなんかすごく…カッコいいからいけないんだ。)
私は心の中で、ジャンが聞いたら調子に乗りそうな文句を繰り返していた。
ドレスに着替えた憲兵団本部で、ホールで待ってくれていたジャン達の元へ向かうために階段を降りたとき、私は息を呑んだのだ。
今までの私なら、正装をしているリヴァイ兵長に胸をときめかせていたはずだった。
何度だって、彼を騎士と重ねてドキドキしていた。
でも、今夜の私の瞳には、ジャンしか映らなかった。
長身で、筋肉で引き締まったスタイルのいい彼には、ブラウンのスーツがよく似合っていた。
まだ19のはずなのに、凄く大人に見えた。
ジャンのスーツ姿なら何度だって見たことがあるし、見慣れているはずだった。
でも、今夜の彼は、いつも以上に大人で、色っぽくて、目と心を奪われたのだ。
少なくとも、私にとってはそうだった。
でも実際、それは、私だけではなかったのだろう。
中庭に向かう途中の廊下で、私は憲兵の若い女の子達が話している噂話を聞いてしまった。
パーティー会場でも、何度でも何度でも、ジャンの話を聞いてしまったのだ。
『ねぇ、ジャンのこと見た?』
『見た!少し前に出張で来たときも顔がいいとは思ったけど、
今夜のスーツ姿はすごく似合ってて、素敵だったよね。』
『そうなの!フェロモンってやつ?
同じ歳のはずなのに、子供っぽい他の同期とは纏う雰囲気が違ってたの!』
『仕事も出来るし、冷たくてヤな奴な印象だったんだけど、
私が困ってたらさりげなく助けてくれて、思わずドキッとしちゃった。』
『それは惚れちゃう!あー、もっと早く気づいてたらなぁ。
確かもう婚約しちゃってるんだよね。』
『そうそう、ヒッチが言ってたよ~。
ねぇ、でもさ————。』
ついさっき聞いたばかりの可愛らしい声が、私の頭でガンガンと響いていた。
パーティー会場に着いた時から、ジャンに向かう女の子達の視線を感じていた。
ただそれは、私の気持ちの変化が、意識させているせいだと思っていたのだ。
でも、それは間違いだった。
以前から、なんとなくは思っていた。
ジャンは、冷たい印象は与えるけれど容姿も恵まれているし、仕事も出来る。親しくなれば、彼が本当はすごく優しくて、面倒見の良い性格だということも分かる。
モテないわけがないし、女の子達が放っておくわけがない。
分かっていたのだ。そんなこと、でも———。
今まで、そのことは、私を惑わせて、焦らせて、不安にさせることではなかったはずなのに———。
「あ…。」
中庭に出てすぐに、私はジャンを見つけた。
彼のそばにいたのは、可愛らしい男の子ではなかった。
女性らしい綺麗なシルエットのドレスを纏った若い女性だった。
涼しげな目元が印象的な美人だ。
大人っぽく見えるけれど、笑うと幼くて、たぶん、年齢はジャンと同じくらいだろうか。
2人は向かい合って話していて、とても親し気だ。
まるでお揃いのようなブラウンのドレスが、余計に、私の瞳に、彼らをとてもお似合いに映した。
(あぁ、そうか…。)
無意識に、痛いくらいに握りしめていた拳のおかげで、私は漸く気づいた。
私は、嫉妬していたのだ。
女の子達の視線に、今になって彼に好意を寄せる女の子達に、私よりもずっと若くて、彼とお似合いの女の子達に———。
あぁ、だって———。
私は、ジャンに声をかけることが出来ずに、中庭に背を向けた。
『ねぇ、でもさ、歳上の女の人に憧れる時期なだけかもよ。
アピールしたら、案外いけちゃうかも。
きっと、ジャンだって、若い女の方がいいよ。』
『来年、本当に結婚する前に心変わりとか、全然ありえちゃいそう。』
『ありえそう!』
『アハハ、絶対そうだよ~。』
ドレスをたくし上げて走る私を、可愛らしい女の子達の無邪気な声が追いかけてくる。
逃げても逃げても、追いかけてきた。
いつか逃げ切れるのだろうか。
それとも、この声に追いつかれて、私は泣くことになるのだろうか。
あぁ、だからほら、私は恋なんてしなくてよかった。
現実よりも、夢の中で、騎士にドキドキしていた方が、幸せだったのに———。