◇第六十八話◇クモに囚われた心は追いかけ始める
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延々と聞かされ続ける自慢話と偶に入ってくる最悪な未来予想図に、地獄を通り越して無になっていた私を見つけてくれたのは、リヴァイ兵長だった。
そして、本物の睨みで、薄っぺらい男を追っ払ってくれたのも、リヴァイ兵長だった。
「お前の自慢の補佐官はどこ行きやがった。」
「あの男に、頑張って私を口説き落としてくださいって応援して
頼まれた仕事があるからって何処かへ行ってしまいました。」
私が恨みを込めて言えば、リヴァイ兵長がこれでもかというほどみ眉を顰めた。
「クソが。何考えてんだアイツは、それでも婚約者か。
もういい。今からは俺が、お前を——。」
「やっと自由になれたんで、ジャンのこと探してきます!」
「…あぁ、そうしろ。」
ため息がちに言ったリヴァイ兵長に見送られて、私はパーティーのホールを出た。
長い廊下には、等間隔で見張りの憲兵が並んでいた。
しばらく歩くとその中に、見覚えのある顔を見つけた。
ジャンの親友のマルコだ。
「マルコっ。」
声をかけると、マルコが少し驚いたように目を見開いた後に、柔らかい笑みを浮かべた。
「お久しぶりです、なまえさん。
相変わらず、すごく綺麗ですね。」
「ありがとう、マルコは相変わらず優しいね。」
「綺麗だって褒めてたのは、ジャンですよ。
会ってすぐに、なまえさんが綺麗すぎて
男が寄ってくるから困るってすごく怒ってましたから。」
そのときのジャンの様子を思い出したのか、マルコが可笑しそうにクスクスと笑う。
でも、私にはどうしてもそれが事実だとは思えなかった。
だって———。
「そんなことないよ。私を世界一つまらない男に押しつけた上に、
その馬鹿男に、頑張って口説き落としてくださいねって
応援までしたんだから。」
私が思いきり眉を顰めて文句を言うと、一瞬だけマルコは呆気にとられたような顔をした。
悪口を言うとは思わなかったのかもしれない。
私だって、他人のことを悪く言ってはいけないと育てられてきた。
でも、あの男に関しては無理だ。
それに、今はすごく腹が立っていて、文句でも言っていないとおさまらない。
正直、文句を言っても、おさまらない。
「アハハ、ジャンに聞きましたよ。
よく逃げてこられましたね。たぶん、俺が想像してる先輩で間違いなければ
一度捕まったらお終いだと思ってたんですけど。」
「リヴァイ兵長が助けてくれたの。」
「あ~、そういうことですか。それはジャンも想定外だったな。」
「私は、ジャンがあの男と私をくっつけようとしたことの方が想定外だったよ。
私とあの馬鹿野郎がどうにかなっても、ジャンは別にいいんだ。」
ムッと怒ったように眉を吊り上げて、文句を言ったつもりだった。
でも実際の私の顔は、泣きそうになっていたらしい。
だから、マルコは、一瞬だけ信じられないようなものを見たような顔をした後、嬉しそうにクスリと笑ったのだ。
「さぁ、どうかな。
ジャンは、昔から頭の回転が速くて、世界一ズルい男だから。」
親友のことを褒めてるようで意地悪く言いながら、マルコの表情はとても優しかった。
今ではもうそんな印象はないけれど、私の補佐官になるよりも前のジャンは、今よりももっと尖っていて、一匹狼だったと聞いたことがある。
そんなジャンと訓練兵の時代から親しくしていたのがマルコだ。
きっと彼は、ジャンのことを世界で一番よく知っているのだろう。
なんだか少し———。
「どうしました?」
「ううん、ただちょっと…、マルコが羨ましいなと思っただけだよ。」
「俺がですか?」
「私は、ジャンが何を考えてるのか全く分かんないから。
分かったかなと思ったときにはもう、分からないジャンがそこにいて。
じっと見ててもいつの間にかカタチが変わって、追いかけても掴めない雲みたい。」
「ハハ、ジャンのことを雲にたとえるのなんて
なまえさんだけですよ。
それに、曇っていうより、蜘蛛の方じゃないかな。」
マルコは少し悪戯っぽく笑った。
そして、納得がいかないという表情の私に、こう続ける。
「きっと難しく考え過ぎなんですよ。
ジャンは何でも考えてることが顔に出てしまう可愛い奴だから。」
「う~ん。」
首を傾げて眉を顰める私を、マルコが面白そうにクスクスと笑う。
確かに、考えてることが顔に出てしまうというのはあると思う。
それで、先輩兵士の機嫌を損ねてしまうことも多くある。
でも、ジャンの気持ちを、私は知りたいのだ。
分かったと思ったのに、ジャンに触れた途端に、分からなくなってしまった。
ううん、違う。不安になったのだ。そして、自信がなくなった。
だって私は、彼の上官で、彼は若いから。
それに、今夜の彼はすごく———。
「そうだ、ジャンは何処に行ったか知ってる?」
「あぁ、俺が見つけた迷子の親を探しに行ってくれたんですよ。」
「迷子?」
「親とはぐれたらしくて廊下で泣いてたんです。
一緒に探してやりたいけど俺はここから離れられないし、困ってたらジャンが通りかかって。
一度は、なまえさんのところに戻らなきゃいけないからって断られたんですけどね。」
「そういうことだったんだね。」
ジャンが私をあの最低な男のところに置き去りにした理由が、なんとも優しい彼らしくて、嬉しくなってしまった。
上官の元へ戻らなければならないとマルコの頼みを断りながらも、本当はずっと泣いている男の子のことが気になっていたのだろう。
「給仕の子供みたいだったので、奥の調理場の辺りに探しに行ったと思いますよ。
それか、ジャンのことだから、中庭で遊んでやってるかも。」
「そうだね。ありえるかも。」
「でしょう?それで、子供にムキになって本気で勝とうとしてるんですよ。」
「うわ~、絶対にそう。」
私とマルコは一緒にクスクスと笑った。
今頃、ジャンは、男の子と遊びながらクシャミをしているかもしれない。
それならいい。それが、いい。
そして、本物の睨みで、薄っぺらい男を追っ払ってくれたのも、リヴァイ兵長だった。
「お前の自慢の補佐官はどこ行きやがった。」
「あの男に、頑張って私を口説き落としてくださいって応援して
頼まれた仕事があるからって何処かへ行ってしまいました。」
私が恨みを込めて言えば、リヴァイ兵長がこれでもかというほどみ眉を顰めた。
「クソが。何考えてんだアイツは、それでも婚約者か。
もういい。今からは俺が、お前を——。」
「やっと自由になれたんで、ジャンのこと探してきます!」
「…あぁ、そうしろ。」
ため息がちに言ったリヴァイ兵長に見送られて、私はパーティーのホールを出た。
長い廊下には、等間隔で見張りの憲兵が並んでいた。
しばらく歩くとその中に、見覚えのある顔を見つけた。
ジャンの親友のマルコだ。
「マルコっ。」
声をかけると、マルコが少し驚いたように目を見開いた後に、柔らかい笑みを浮かべた。
「お久しぶりです、なまえさん。
相変わらず、すごく綺麗ですね。」
「ありがとう、マルコは相変わらず優しいね。」
「綺麗だって褒めてたのは、ジャンですよ。
会ってすぐに、なまえさんが綺麗すぎて
男が寄ってくるから困るってすごく怒ってましたから。」
そのときのジャンの様子を思い出したのか、マルコが可笑しそうにクスクスと笑う。
でも、私にはどうしてもそれが事実だとは思えなかった。
だって———。
「そんなことないよ。私を世界一つまらない男に押しつけた上に、
その馬鹿男に、頑張って口説き落としてくださいねって
応援までしたんだから。」
私が思いきり眉を顰めて文句を言うと、一瞬だけマルコは呆気にとられたような顔をした。
悪口を言うとは思わなかったのかもしれない。
私だって、他人のことを悪く言ってはいけないと育てられてきた。
でも、あの男に関しては無理だ。
それに、今はすごく腹が立っていて、文句でも言っていないとおさまらない。
正直、文句を言っても、おさまらない。
「アハハ、ジャンに聞きましたよ。
よく逃げてこられましたね。たぶん、俺が想像してる先輩で間違いなければ
一度捕まったらお終いだと思ってたんですけど。」
「リヴァイ兵長が助けてくれたの。」
「あ~、そういうことですか。それはジャンも想定外だったな。」
「私は、ジャンがあの男と私をくっつけようとしたことの方が想定外だったよ。
私とあの馬鹿野郎がどうにかなっても、ジャンは別にいいんだ。」
ムッと怒ったように眉を吊り上げて、文句を言ったつもりだった。
でも実際の私の顔は、泣きそうになっていたらしい。
だから、マルコは、一瞬だけ信じられないようなものを見たような顔をした後、嬉しそうにクスリと笑ったのだ。
「さぁ、どうかな。
ジャンは、昔から頭の回転が速くて、世界一ズルい男だから。」
親友のことを褒めてるようで意地悪く言いながら、マルコの表情はとても優しかった。
今ではもうそんな印象はないけれど、私の補佐官になるよりも前のジャンは、今よりももっと尖っていて、一匹狼だったと聞いたことがある。
そんなジャンと訓練兵の時代から親しくしていたのがマルコだ。
きっと彼は、ジャンのことを世界で一番よく知っているのだろう。
なんだか少し———。
「どうしました?」
「ううん、ただちょっと…、マルコが羨ましいなと思っただけだよ。」
「俺がですか?」
「私は、ジャンが何を考えてるのか全く分かんないから。
分かったかなと思ったときにはもう、分からないジャンがそこにいて。
じっと見ててもいつの間にかカタチが変わって、追いかけても掴めない雲みたい。」
「ハハ、ジャンのことを雲にたとえるのなんて
なまえさんだけですよ。
それに、曇っていうより、蜘蛛の方じゃないかな。」
マルコは少し悪戯っぽく笑った。
そして、納得がいかないという表情の私に、こう続ける。
「きっと難しく考え過ぎなんですよ。
ジャンは何でも考えてることが顔に出てしまう可愛い奴だから。」
「う~ん。」
首を傾げて眉を顰める私を、マルコが面白そうにクスクスと笑う。
確かに、考えてることが顔に出てしまうというのはあると思う。
それで、先輩兵士の機嫌を損ねてしまうことも多くある。
でも、ジャンの気持ちを、私は知りたいのだ。
分かったと思ったのに、ジャンに触れた途端に、分からなくなってしまった。
ううん、違う。不安になったのだ。そして、自信がなくなった。
だって私は、彼の上官で、彼は若いから。
それに、今夜の彼はすごく———。
「そうだ、ジャンは何処に行ったか知ってる?」
「あぁ、俺が見つけた迷子の親を探しに行ってくれたんですよ。」
「迷子?」
「親とはぐれたらしくて廊下で泣いてたんです。
一緒に探してやりたいけど俺はここから離れられないし、困ってたらジャンが通りかかって。
一度は、なまえさんのところに戻らなきゃいけないからって断られたんですけどね。」
「そういうことだったんだね。」
ジャンが私をあの最低な男のところに置き去りにした理由が、なんとも優しい彼らしくて、嬉しくなってしまった。
上官の元へ戻らなければならないとマルコの頼みを断りながらも、本当はずっと泣いている男の子のことが気になっていたのだろう。
「給仕の子供みたいだったので、奥の調理場の辺りに探しに行ったと思いますよ。
それか、ジャンのことだから、中庭で遊んでやってるかも。」
「そうだね。ありえるかも。」
「でしょう?それで、子供にムキになって本気で勝とうとしてるんですよ。」
「うわ~、絶対にそう。」
私とマルコは一緒にクスクスと笑った。
今頃、ジャンは、男の子と遊びながらクシャミをしているかもしれない。
それならいい。それが、いい。