◇第六十三話◇臆病者たちは願いを結びたい
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微かな寝息が聞こえ始めて、私はゆっくりと瞼を上げた。
暗闇に慣れない瞳が最初に認識したのは、規則正しい鼓動を鳴らす綺麗な胸だった。
少し視線を上げれば、太い首筋に、紅い花を見つけた。
キスマークなんて初めてつけたから、やり方もよく分からなくて、少し薄いし、小さい。
まるで、私の迷いがそのまま、この花になってるみたいだ。
『なまえさん、俺を…、どうしてぇの?』
寝たフリの私にジャンが漏らした弱々しい声に、ズキズキと刺さるような胸の痛みが消えない。
私は、ジャンを起こさないように、シーツの中からそっとを手を抜き出すと、下手くそなキスマークに触れた。
くすぐったかったのか、ジャンが、少しだけ肩を上げた。
起きてしまったかと焦ったけれど、すっかり眠っている彼が、起きることはなくて、ホッとする。
「そばにいて。」
眠るジャンに、聞こえない願いを告げる。
叶わない願いだと思っているのか、まるで泣き声のようだった。
泣いて、縋っているみたいだった。
でも、他の誰が、私の元を去って行っても、ジャンの背中だけは、見たくないのだ。
いつも、私が何処で何をしていたって、振り返ると呆れた顔のジャンがいて、悪いことは悪いと叱りながら、最後には困ったように笑って、甘やかしてくれる。
私は、ジャンの前でだけ、安心していられる。
彼なら、どんな私も許してくれる気がして、安心して我儘が言える。
だから、彼が何者でも、私が何者でも、そばにいたい。
せめて、この赤い花が、ジャンの首筋に咲いている間は———。
「…何してんすか。」
首筋につけた紅い花の上に、もう一度、紅い花を咲かせていたら、ジャンが眉を顰めた後、起きてしまった。
「願いごと、かな?」
「何すかそれ。」
ジャンが可笑しそうに言って、クスリと笑う。
そして———。
「またヤりてぇって願いなら、叶えてやってもいいですけど。」
「え、ちょっと、待っ…っ、ちが…んーっ。」
慌てて否定しようとした私は、あっという間に身体に覆いかぶさってきたジャンに唇を塞がれてしまった。
押しつけた唇を離すと、ジャンが意地悪く口の端を上げた。
「もう遅いですよ。俺、起きちまいましたから。
———いろいろと。」
わざと私の耳元に口を近づけて、ジャンが低い声で囁く。
カッと赤くなる私が、きっと面白くて仕方がないんだろう。
「ちゃんと責任、とってくださいよ。
このままじゃ、眠れねぇから。」
「…馬鹿。」
「そうだって、さっきも言っただろ?」
ジャンが、私の頬にかかった髪をかき上げながら、クスリと笑う。
口元は意地悪な癖に、目元はひどく優しいなんて、ズルい。
ズルい———。
「キスからね。」
乱れて目にかかっている長い前髪を指に絡めて、ジャンの耳にかけた。
「好きですね。」
クスリ、とジャンが笑う。
「うん、…好き。」
「俺も、好きです。」
何を——かは言えない、臆病者同士。
でも、きっと、本当は伝えたいのだ。
だから、伝えるチャンスを、いつも探してる。
もしも、未来にあるのは幸せだけだと、予言者が教えてくれたら、もしかしたら、素直になれるかもしれないのに。
でも、この世で、明日の約束ほど曖昧なものはないから、私達はお互いの唇を塞ぎ合うのだ。
臆病な恋の行方よ、どうか、最後のページを開いた彼が、笑っていますように。
その隣にいるのが、私でありますように————。
暗闇に慣れない瞳が最初に認識したのは、規則正しい鼓動を鳴らす綺麗な胸だった。
少し視線を上げれば、太い首筋に、紅い花を見つけた。
キスマークなんて初めてつけたから、やり方もよく分からなくて、少し薄いし、小さい。
まるで、私の迷いがそのまま、この花になってるみたいだ。
『なまえさん、俺を…、どうしてぇの?』
寝たフリの私にジャンが漏らした弱々しい声に、ズキズキと刺さるような胸の痛みが消えない。
私は、ジャンを起こさないように、シーツの中からそっとを手を抜き出すと、下手くそなキスマークに触れた。
くすぐったかったのか、ジャンが、少しだけ肩を上げた。
起きてしまったかと焦ったけれど、すっかり眠っている彼が、起きることはなくて、ホッとする。
「そばにいて。」
眠るジャンに、聞こえない願いを告げる。
叶わない願いだと思っているのか、まるで泣き声のようだった。
泣いて、縋っているみたいだった。
でも、他の誰が、私の元を去って行っても、ジャンの背中だけは、見たくないのだ。
いつも、私が何処で何をしていたって、振り返ると呆れた顔のジャンがいて、悪いことは悪いと叱りながら、最後には困ったように笑って、甘やかしてくれる。
私は、ジャンの前でだけ、安心していられる。
彼なら、どんな私も許してくれる気がして、安心して我儘が言える。
だから、彼が何者でも、私が何者でも、そばにいたい。
せめて、この赤い花が、ジャンの首筋に咲いている間は———。
「…何してんすか。」
首筋につけた紅い花の上に、もう一度、紅い花を咲かせていたら、ジャンが眉を顰めた後、起きてしまった。
「願いごと、かな?」
「何すかそれ。」
ジャンが可笑しそうに言って、クスリと笑う。
そして———。
「またヤりてぇって願いなら、叶えてやってもいいですけど。」
「え、ちょっと、待っ…っ、ちが…んーっ。」
慌てて否定しようとした私は、あっという間に身体に覆いかぶさってきたジャンに唇を塞がれてしまった。
押しつけた唇を離すと、ジャンが意地悪く口の端を上げた。
「もう遅いですよ。俺、起きちまいましたから。
———いろいろと。」
わざと私の耳元に口を近づけて、ジャンが低い声で囁く。
カッと赤くなる私が、きっと面白くて仕方がないんだろう。
「ちゃんと責任、とってくださいよ。
このままじゃ、眠れねぇから。」
「…馬鹿。」
「そうだって、さっきも言っただろ?」
ジャンが、私の頬にかかった髪をかき上げながら、クスリと笑う。
口元は意地悪な癖に、目元はひどく優しいなんて、ズルい。
ズルい———。
「キスからね。」
乱れて目にかかっている長い前髪を指に絡めて、ジャンの耳にかけた。
「好きですね。」
クスリ、とジャンが笑う。
「うん、…好き。」
「俺も、好きです。」
何を——かは言えない、臆病者同士。
でも、きっと、本当は伝えたいのだ。
だから、伝えるチャンスを、いつも探してる。
もしも、未来にあるのは幸せだけだと、予言者が教えてくれたら、もしかしたら、素直になれるかもしれないのに。
でも、この世で、明日の約束ほど曖昧なものはないから、私達はお互いの唇を塞ぎ合うのだ。
臆病な恋の行方よ、どうか、最後のページを開いた彼が、笑っていますように。
その隣にいるのが、私でありますように————。