◇第五十六話◇寂しがりの眠り姫が眠る部屋
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無反応の扉を開いたジャンは、ショックで荷物をすべて落とした。
就寝時間だというのに、なまえの部屋は、もぬけの殻だった。
そして、片付ける係になっているジャンがいなかったはずなのに、部屋が綺麗なのだ。
まるでもうずっと、この部屋を使っていないみたいに———。
「あれ、ジャン。おかえり~。帰ってきてたんだねぇ。」
後ろから呑気そうな声が聞こえてきた。
それが、上官のものだということは分かっていたが、ショックが大きくて返事をすることが出来なかった。
だが、ハンジは、そんなことを気にするような上官でもなく、空気を読むということが出来る人間でもない。
彼女は、今度は、呑気なままでジャンの肩に手を置いた。
「なまえが、ずっとジャンに会いたいって寂しがってたよぉ。」
「…それで、この部屋にいないんすね。」
「そうそう。ジャンがいないと部屋にいても怖い夢しか見れないらしくてね。
どんどんやつれていくなまえをリヴァイが心配して声をかけたんだよ。」
「そっすか…、それで…。」
それで、自分の部屋に彼女を連れ込んだのか———。
口にするのも嫌で、続きは喉の奥に閉じ込めた。
でも、言葉にしてもしなくても、事実は事実としてあるのだから、あまり意味はなかった。
本当の恋人ではないのだから、惚れている男に誘われてホイホイついていってしまった彼女を責めることなんて出来ない。
むしろ、それは自然なことだし、そもそも、彼女とのこの奇妙な関係は、お互いに本当の恋人が出来るまでという期限付きだ。
(あぁ、終わった。俺のお守りもここまでか。)
ジャンは、ため息を吐きながら足元のバッグに手を伸ばした。
だが、ハンジの話はまだ終わっていなかったのだ。
「寝れないなら話し相手になってやろうと思ったらしいんだけどさぁ。
会いに行った途端に、なまえが寝不足で倒れちゃて。」
バッグを掴もうとしていたジャンの手がピタリと止まった。
驚いたのだ。
まさか、倒れたなんて想像もしていなかった。
ジャンは、バッグを掴み損ねたまま、屈めていた身体を勢いよく起こした。
「なまえさん、大丈夫なんすか!?」
急に振り向いたジャンに、一瞬だけたじろいだ後、ハンジは、ニィッと口の両端を上げた。
アルミンの腹黒い笑みに似ているそれを見て、ジャンは少しだけホッとした。
「大丈夫だよ。君の部屋でぐっすり寝てる。」
「…は?俺の部屋?」
「とにかく寝かせようとしたんだけど、自分の部屋では寝れないって言うし
リヴァイの部屋じゃ緊張して寝れないって断られたらしくて
仕方なく、リヴァイが、真夜中にミケを叩き起こしてジャンの部屋の合鍵を借りたんだよ。」
出張や壁外調査なんかで長期で兵舎を離れるときくらいしか自室の鍵をかけない調査兵が多い。
ジャンもそれだ。
だが、それでも、全員に部屋の鍵が支給されていて、合鍵は自分が所属する分隊の隊長が預かることになっている。
ハンジの分隊だけは、彼女は必ずなくすに決まっているからという理由で、副隊長のモブリットが持っているが、ジャンの場合は、例に漏れずに分隊長であるミケが合鍵を預かってくれていた。
「それで、俺の部屋に?」
「ジャンの部屋のベッドに寝かせたら、魔法みたいにグッスリ。
それから、毎日、なまえはジャンの部屋にいるんだけど
蹴り飛ばしても起きなくなって最悪だってリヴァイが愚痴ってたよ。」
思わず想像してしまったジャンは、小さく吹き出した。
すると、ハンジがニィィッと笑みを濃くして、ジャンの肩に自分の腕を回す。
「なまえのとこのベッドの方が寝心地がいいはずなのに
どうしてジャンのベッドがいいのか、コッソリ聞いてみたんだよ。」
「それで、何か言ってました?」
「ベッドからジャンの匂いがすると安心して眠れるそうだよ。
なまえってさ…、見かけによらず、変態なんだね。」
ハンジが、ジャンの耳元でククッと喉を鳴らした。
「そうなんすよ。でも、誰にも秘密ですよ。」
「ハハ、分かってる、分かってる。
ジャンだけしか知らないなまえの一面だもんな。
私もすぐに忘れることにするよ。」
ハンジが楽しそうに声を上げて笑った。
偶々、通りかかったモブリットに、こんな時間に煩いと叱られていた。
就寝時間だというのに、なまえの部屋は、もぬけの殻だった。
そして、片付ける係になっているジャンがいなかったはずなのに、部屋が綺麗なのだ。
まるでもうずっと、この部屋を使っていないみたいに———。
「あれ、ジャン。おかえり~。帰ってきてたんだねぇ。」
後ろから呑気そうな声が聞こえてきた。
それが、上官のものだということは分かっていたが、ショックが大きくて返事をすることが出来なかった。
だが、ハンジは、そんなことを気にするような上官でもなく、空気を読むということが出来る人間でもない。
彼女は、今度は、呑気なままでジャンの肩に手を置いた。
「なまえが、ずっとジャンに会いたいって寂しがってたよぉ。」
「…それで、この部屋にいないんすね。」
「そうそう。ジャンがいないと部屋にいても怖い夢しか見れないらしくてね。
どんどんやつれていくなまえをリヴァイが心配して声をかけたんだよ。」
「そっすか…、それで…。」
それで、自分の部屋に彼女を連れ込んだのか———。
口にするのも嫌で、続きは喉の奥に閉じ込めた。
でも、言葉にしてもしなくても、事実は事実としてあるのだから、あまり意味はなかった。
本当の恋人ではないのだから、惚れている男に誘われてホイホイついていってしまった彼女を責めることなんて出来ない。
むしろ、それは自然なことだし、そもそも、彼女とのこの奇妙な関係は、お互いに本当の恋人が出来るまでという期限付きだ。
(あぁ、終わった。俺のお守りもここまでか。)
ジャンは、ため息を吐きながら足元のバッグに手を伸ばした。
だが、ハンジの話はまだ終わっていなかったのだ。
「寝れないなら話し相手になってやろうと思ったらしいんだけどさぁ。
会いに行った途端に、なまえが寝不足で倒れちゃて。」
バッグを掴もうとしていたジャンの手がピタリと止まった。
驚いたのだ。
まさか、倒れたなんて想像もしていなかった。
ジャンは、バッグを掴み損ねたまま、屈めていた身体を勢いよく起こした。
「なまえさん、大丈夫なんすか!?」
急に振り向いたジャンに、一瞬だけたじろいだ後、ハンジは、ニィッと口の両端を上げた。
アルミンの腹黒い笑みに似ているそれを見て、ジャンは少しだけホッとした。
「大丈夫だよ。君の部屋でぐっすり寝てる。」
「…は?俺の部屋?」
「とにかく寝かせようとしたんだけど、自分の部屋では寝れないって言うし
リヴァイの部屋じゃ緊張して寝れないって断られたらしくて
仕方なく、リヴァイが、真夜中にミケを叩き起こしてジャンの部屋の合鍵を借りたんだよ。」
出張や壁外調査なんかで長期で兵舎を離れるときくらいしか自室の鍵をかけない調査兵が多い。
ジャンもそれだ。
だが、それでも、全員に部屋の鍵が支給されていて、合鍵は自分が所属する分隊の隊長が預かることになっている。
ハンジの分隊だけは、彼女は必ずなくすに決まっているからという理由で、副隊長のモブリットが持っているが、ジャンの場合は、例に漏れずに分隊長であるミケが合鍵を預かってくれていた。
「それで、俺の部屋に?」
「ジャンの部屋のベッドに寝かせたら、魔法みたいにグッスリ。
それから、毎日、なまえはジャンの部屋にいるんだけど
蹴り飛ばしても起きなくなって最悪だってリヴァイが愚痴ってたよ。」
思わず想像してしまったジャンは、小さく吹き出した。
すると、ハンジがニィィッと笑みを濃くして、ジャンの肩に自分の腕を回す。
「なまえのとこのベッドの方が寝心地がいいはずなのに
どうしてジャンのベッドがいいのか、コッソリ聞いてみたんだよ。」
「それで、何か言ってました?」
「ベッドからジャンの匂いがすると安心して眠れるそうだよ。
なまえってさ…、見かけによらず、変態なんだね。」
ハンジが、ジャンの耳元でククッと喉を鳴らした。
「そうなんすよ。でも、誰にも秘密ですよ。」
「ハハ、分かってる、分かってる。
ジャンだけしか知らないなまえの一面だもんな。
私もすぐに忘れることにするよ。」
ハンジが楽しそうに声を上げて笑った。
偶々、通りかかったモブリットに、こんな時間に煩いと叱られていた。