◇第五十五話◇離れた場所でも君に一喜一憂
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ストヘス区にある憲兵団本部へやって来てから、ジャンが人生で一番長く感じた2週間が過ぎた。
任されていた調査や会議も予定通りに終わった。
だが、時間は正午をもうとっくに過ぎていた。
今からトロスト区へ帰れば、調査兵団兵舎に辿り着くのは真夜中だろう。
ナイルからも、明日の朝イチで馬車を用意すると提案があったが、今すぐに帰りたいとジャンは断った。
結局、明日の朝、帰るつもりだったらしいアルミンも一緒に、ナイルが新しく手配してくれた馬車に乗って、今日のうちにトロスト区へ帰れることになり、急いで部屋に荷物を取りに戻ったジャン達は、用意されたばかりの馬車に飛び乗った。
走り出した馬車は、普段通りの速度でトロスト区へ向かっているはずだ。
それなのに、車窓から流れる景色が、いつもよりもゆっくり過ぎていく気がして、ジャンからは舌打ちが止まらない。
「大丈夫だよ。なまえさんが、
リヴァイ兵長とどうにかなるなんてありえないから。」
窓の外から目を離せない様子のジャンに、アルミンが苦笑気味に言う。
ジャンは、片眉をピクリと反応させて、向かいの座席のアルミンの方を向いた。
「…どの口が言ってんだ?」
「ハハ。まさか本気でとられるなんて思わなかったんだよ。
君達はとてもお似合いだから。」
「どこが。」
取り繕うような笑みで言い訳をするアルミンに、ジャンは素っ気なく言って、また視線を窓の向こうに戻した。
お似合いなんて、お世辞で言われても嬉しくない。
釣り合っていないことを一番理解しているのが自分だと、要らない自信があるくらいなのだ。
なまえの隣が似合うのは、騎士の衣装がよく似合っていたと兵舎でも話題になっていたリヴァイだ。
ジャンが調査兵団に入団するよりもずっと前から、リヴァイはなまえの隣にいて、お互いに支え合い、厳しい戦いを生き抜いてきた。
新兵だった頃は、ジャン自身も、彼ら2人の背中を見てたくさんのことを学んだ。
なまえに補佐官がつくまでは、彼女の最も近くにいたのがリヴァイなのだ。
過去は、過去として存在し続けるし、歳の差はどうあがいても、何をどう努力しても縮まらない。
「前にさ、」
「…なんだよ。」
話を始めたアルミンに、ジャンは車窓の向こうを眺めながら、面倒くさそうに答えた。
相変わらず、車窓の景色は、苛つくほどにゆっくりと流れている。
「なまえさんに、恋人と喧嘩をしない秘訣を訊いたことがあるんだ。」
「あぁ…、聞いた。」
「うん、それも聞いた。」
「あ、そ。」
興味なさそうに言って、ジャンは短く答える。
楽しくお喋りをするような気分じゃなかった。
いつだったか、なまえから〝ワープマシン〟という空想上の装置の話を聞いたことがあった。
その装置を使うと、あっという間に自分の行きたい場所へ行けるらしい。
その装置を見つけたら、世界中の隅々まで自由に旅行してみたいと楽しそうに夢を語っていたなまえを、子供みたいだと笑ったのを覚えている。
でも今、ジャンは、喉から手が出そうなほどに、その装置が欲しい。
今すぐに、調査兵団の兵舎に行きたい。
なまえのいる場所へ、行きたい。
嫌な予感がするのだ。
とてつもなく、嫌な予感が————。
「その時は、喧嘩しないから分かんないって言われたんだけど
少しした後に、なまえさんが僕のとこに来て、秘訣を教えてくれたんだよ。」
「へぇ。」
「何だったか分かる?」
クイズみたいに訊ねられて、ジャンは無意識に視線を斜め上に向けていた。
なまえがわざわざアルミンに教えた〝恋人と喧嘩をしない秘訣〟とは、なんだろうか。
あのとき、なまえは、全然分からないと言っていた。
その後に、答えを見つけたのだろうか。
それなら何か———。
まぁきっと、子供のような素直な答えに違いない。
それなら———。
「喧嘩したくねぇからしない。」
ジャンは、アルミンの方を向いて導き出した答えを伝えた。
すると、とんでもなくひとを小馬鹿にしたような笑みが返って来た。
両目は不自然にニヤつき、口の端を耳の辺りまでつり上げて、心底ゲスい顔をしている。
馬鹿みたいに、ムカつく。
「なんだよ。」
チッと舌打ちをして、ジャンが言う。
それに、アルミンは、心底ゲスい顔を、さらに歪めて、悪い笑みを濃くした。
どうやら、なまえは、相当どうしようもない答えを———。
「ジャンに恋人になってもらうこと、だって。」
「…あ?」
「ジャンに恋人になって貰えたら、どんな自分も愛して許してもらえるし、
毎日、誰よりも大切にしてもらえて世界一幸せだから、
喧嘩することもないんだってさ。」
まぁ、簡単に言えば惚気られたんだけどね———。
アルミンは、意地悪く口の端を上げつつも、少しだけ頬を染めて楽しそうに言った。
簡単に言えば、からかわれたのだ。
「なんだ、それ。」
ジャンは、素っ気なく言って、視線を車窓の向こうに戻した。
でも、火傷したみたいに熱くなって赤い耳と緩む頬はどうにも出来ず、右手の甲で口を覆うフリをして隠す。
でも、そんな誤魔化しが、アルミンに通用するわけもなく、クスクスと笑われて、ジャンはさらに顔を赤らめた。
なまえが、そんな答えを出すなんて、誰が想像しただろう。
でも、そう言えば———。
(俺の恋人になれる女が羨ましいって言ってたな。
…寝ぼけてたけど。)
寝ぼけていたからこそ、本気だったのかもしれないなんて、期待をしてしまう。
もしかして、彼女は自分のことを本当に———。
「ジャンの恋人どころか婚約者になって
せっかく掴んだ世界一幸せになれるチャンスを
浮気なんかして棒に振るわけないと、僕は思うな。」
「…当たり前だろっ。なまえさんはそんな馬鹿な女じゃねぇ。」
「そうだね。僕も…っ、そう、思うよ…っ。」
急に強気になったジャンが可笑しくて、吹き出しそうになったアルミンは、右手の甲で口を抑えて、漏れそうになる笑いを必死に堪えた。
任されていた調査や会議も予定通りに終わった。
だが、時間は正午をもうとっくに過ぎていた。
今からトロスト区へ帰れば、調査兵団兵舎に辿り着くのは真夜中だろう。
ナイルからも、明日の朝イチで馬車を用意すると提案があったが、今すぐに帰りたいとジャンは断った。
結局、明日の朝、帰るつもりだったらしいアルミンも一緒に、ナイルが新しく手配してくれた馬車に乗って、今日のうちにトロスト区へ帰れることになり、急いで部屋に荷物を取りに戻ったジャン達は、用意されたばかりの馬車に飛び乗った。
走り出した馬車は、普段通りの速度でトロスト区へ向かっているはずだ。
それなのに、車窓から流れる景色が、いつもよりもゆっくり過ぎていく気がして、ジャンからは舌打ちが止まらない。
「大丈夫だよ。なまえさんが、
リヴァイ兵長とどうにかなるなんてありえないから。」
窓の外から目を離せない様子のジャンに、アルミンが苦笑気味に言う。
ジャンは、片眉をピクリと反応させて、向かいの座席のアルミンの方を向いた。
「…どの口が言ってんだ?」
「ハハ。まさか本気でとられるなんて思わなかったんだよ。
君達はとてもお似合いだから。」
「どこが。」
取り繕うような笑みで言い訳をするアルミンに、ジャンは素っ気なく言って、また視線を窓の向こうに戻した。
お似合いなんて、お世辞で言われても嬉しくない。
釣り合っていないことを一番理解しているのが自分だと、要らない自信があるくらいなのだ。
なまえの隣が似合うのは、騎士の衣装がよく似合っていたと兵舎でも話題になっていたリヴァイだ。
ジャンが調査兵団に入団するよりもずっと前から、リヴァイはなまえの隣にいて、お互いに支え合い、厳しい戦いを生き抜いてきた。
新兵だった頃は、ジャン自身も、彼ら2人の背中を見てたくさんのことを学んだ。
なまえに補佐官がつくまでは、彼女の最も近くにいたのがリヴァイなのだ。
過去は、過去として存在し続けるし、歳の差はどうあがいても、何をどう努力しても縮まらない。
「前にさ、」
「…なんだよ。」
話を始めたアルミンに、ジャンは車窓の向こうを眺めながら、面倒くさそうに答えた。
相変わらず、車窓の景色は、苛つくほどにゆっくりと流れている。
「なまえさんに、恋人と喧嘩をしない秘訣を訊いたことがあるんだ。」
「あぁ…、聞いた。」
「うん、それも聞いた。」
「あ、そ。」
興味なさそうに言って、ジャンは短く答える。
楽しくお喋りをするような気分じゃなかった。
いつだったか、なまえから〝ワープマシン〟という空想上の装置の話を聞いたことがあった。
その装置を使うと、あっという間に自分の行きたい場所へ行けるらしい。
その装置を見つけたら、世界中の隅々まで自由に旅行してみたいと楽しそうに夢を語っていたなまえを、子供みたいだと笑ったのを覚えている。
でも今、ジャンは、喉から手が出そうなほどに、その装置が欲しい。
今すぐに、調査兵団の兵舎に行きたい。
なまえのいる場所へ、行きたい。
嫌な予感がするのだ。
とてつもなく、嫌な予感が————。
「その時は、喧嘩しないから分かんないって言われたんだけど
少しした後に、なまえさんが僕のとこに来て、秘訣を教えてくれたんだよ。」
「へぇ。」
「何だったか分かる?」
クイズみたいに訊ねられて、ジャンは無意識に視線を斜め上に向けていた。
なまえがわざわざアルミンに教えた〝恋人と喧嘩をしない秘訣〟とは、なんだろうか。
あのとき、なまえは、全然分からないと言っていた。
その後に、答えを見つけたのだろうか。
それなら何か———。
まぁきっと、子供のような素直な答えに違いない。
それなら———。
「喧嘩したくねぇからしない。」
ジャンは、アルミンの方を向いて導き出した答えを伝えた。
すると、とんでもなくひとを小馬鹿にしたような笑みが返って来た。
両目は不自然にニヤつき、口の端を耳の辺りまでつり上げて、心底ゲスい顔をしている。
馬鹿みたいに、ムカつく。
「なんだよ。」
チッと舌打ちをして、ジャンが言う。
それに、アルミンは、心底ゲスい顔を、さらに歪めて、悪い笑みを濃くした。
どうやら、なまえは、相当どうしようもない答えを———。
「ジャンに恋人になってもらうこと、だって。」
「…あ?」
「ジャンに恋人になって貰えたら、どんな自分も愛して許してもらえるし、
毎日、誰よりも大切にしてもらえて世界一幸せだから、
喧嘩することもないんだってさ。」
まぁ、簡単に言えば惚気られたんだけどね———。
アルミンは、意地悪く口の端を上げつつも、少しだけ頬を染めて楽しそうに言った。
簡単に言えば、からかわれたのだ。
「なんだ、それ。」
ジャンは、素っ気なく言って、視線を車窓の向こうに戻した。
でも、火傷したみたいに熱くなって赤い耳と緩む頬はどうにも出来ず、右手の甲で口を覆うフリをして隠す。
でも、そんな誤魔化しが、アルミンに通用するわけもなく、クスクスと笑われて、ジャンはさらに顔を赤らめた。
なまえが、そんな答えを出すなんて、誰が想像しただろう。
でも、そう言えば———。
(俺の恋人になれる女が羨ましいって言ってたな。
…寝ぼけてたけど。)
寝ぼけていたからこそ、本気だったのかもしれないなんて、期待をしてしまう。
もしかして、彼女は自分のことを本当に———。
「ジャンの恋人どころか婚約者になって
せっかく掴んだ世界一幸せになれるチャンスを
浮気なんかして棒に振るわけないと、僕は思うな。」
「…当たり前だろっ。なまえさんはそんな馬鹿な女じゃねぇ。」
「そうだね。僕も…っ、そう、思うよ…っ。」
急に強気になったジャンが可笑しくて、吹き出しそうになったアルミンは、右手の甲で口を抑えて、漏れそうになる笑いを必死に堪えた。