◇第五十二話◇恋人達の戯れに踊らされる
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勢いよく抱き着いた私を、ジャンが受け止める。
大きな腕に抱きしめられて、私は広い胸板に顔を埋めた。
「マジで俺が怒ったと思ったんですか?
本当に馬鹿な人っすね。」
よしよし——、と私の頭を撫でながら、ジャンが呆れたように言う。
でも、その声はとても優しくて、私にはとても心地よく聞こえた。
「だって…、ジャンが、凄く冷たい顔するから…。」
「妄想のネタになるなら、リアルがいいでしょ。」
「でも、ジャンに冷たくされるのは嫌…っ。」
「自分から意味の分からねぇ喧嘩を吹っかけてきたくせに、
本当に我儘ですね。」
「…だから、嫌い…?」
「いいえ、すげぇ面白…可愛いなって思いますよ。」
「…もういいや。嫌われてないなら、面白いって思われるくらい。」
「可愛いって言ったはずなのに、おかしいっすね。」
ジャンが、ククッと喉を鳴らした。
それさえも、私を安心させる。
今まで、何気なく交わしていた会話が、私にとってなくてはならないものだったのだと、教えてくれるようだった。
「もう、嫌いなんて、言わないで。」
埋めていた顔を上げた私は、ジャンに懇願する。
これは、心からのお願いだった。
もしも、これから私がとんでもなくヒドイことをして、彼に本当に嫌われたとして、それでも私は『嫌い』という言葉をジャンから聞きたくない。
そのときは、ただ背中を向けるだけにして欲しい。
すると、ジャンは、困ったように眉尻を下げた。
そして、私の目元を優しく撫でながら、答える。
「言いませんよ。
俺だって、嫌いなんて、嘘でも言いたくないですから。」
「そっか…、よかった。」
「俺、なまえさんが部屋に来るのをずっと待ってたんですよ?」
「私を?」
「そうですよ。今日はもう謝りに来ねぇのかと諦めて寝ようとしてたんですけど、
なまえさんが喧嘩を次の日まで持ち越す女じゃなくて良かったです。」
「…嫌だよ、ジャンとの喧嘩が次の日も続くなんて。
1秒だって、堪えられないのに。」
私は、もう一度、ジャンの胸板に頬を埋めて、彼の腰に抱き着いた。
ギュッと強く、縋るように抱きしめる。
そうすれば、ジャンも私を包み込むように抱き寄せた。
「なら、もう二度と、喧嘩がしたいなんて馬鹿なこと言うなよ。」
優しい腕で私を包んで、ジャンが叱るように言う。
あぁ、本当に馬鹿なことを言ってしまったと改めて実感する。
だから、絶対にもうそんなお願いはしないと自分にも、ジャンにも誓った。
「…でも、本当はちょっと、ちょうどいい機会だと思って、
今までの愚痴をぶちまけた?」
「あ、バレました?」
ジャンが意地悪く喉を鳴らした。
「バレるよ。だって、顔が本気だったんだから。」
「おかしいな。結構抑えたつもりだったのに。」
口元を手の甲で隠して、笑いを堪えるジャンの胸元を、私が不機嫌そうに軽く叩く。
そしたら、全く痛くないとか負けず嫌いなことを言われたから、今度は脇腹をつついてやった。
そこが弱いことなんて、もうとっくに知っているのだ。
身体をビクッと跳ねさせて変な声を出したジャンを馬鹿にして笑えば、両頬を摘ままれて、変な顔だと意地悪く言われた。
私は怒ったように眉を吊り上げたけれど、本当は、こうして、まるで子供みたいにじゃれ合えるのが嬉しい。楽しい。
皆が寝静まった真夜中に、私とジャンのいるこの場所だけが、遊園地になったみたいだ。
ジャンの冷たい目と背中を前にして、もう二度と触れられないかもしれないと絶望したから余計に、この時間を尊く思う。
このなんでもない時間が、たぶん、私は大好きだ。
もしかしたら、夢の中の世界にいるより———。
あれ、でも、こんな風にジャンとじゃれ合うようになったのは、いつからだろう。
「仲直りのキス、しましょうか。」
ジャンが、私の頬に手を添える。
さっきまで、意地悪く私をからかっていた癖に、ひどく優しい表情で、それなのにどこか色っぽい、男の人の顔をして——。
そんなジャンを前にしたら私は、魔法にでもかかったみたいに、自然に目を閉じて、彼の唇が近づくのを待つのだ。
ジャンの唇が重なる。
すると私は、夢の世界にいるみたいに、力が抜ける。
身体が舞って踊るように感じるのに、安心して地面に足をつけているような気さえする。
不安や恐怖、今まで感じた悲しかったことを、私はこのときだけ、忘れられるのだ。
もしも、このキスを永遠に貰えなくなったら、私はどうなるのだろう。
いつかそんな日が来ると分かっていても、今はまだ、怖くて想像したくない。
彼は、ただの生意気な部下だったはずなのに。
私は、ただの頼りがいのない上司のはずなのに。
いつから。
いつから、私は————。
大きな腕に抱きしめられて、私は広い胸板に顔を埋めた。
「マジで俺が怒ったと思ったんですか?
本当に馬鹿な人っすね。」
よしよし——、と私の頭を撫でながら、ジャンが呆れたように言う。
でも、その声はとても優しくて、私にはとても心地よく聞こえた。
「だって…、ジャンが、凄く冷たい顔するから…。」
「妄想のネタになるなら、リアルがいいでしょ。」
「でも、ジャンに冷たくされるのは嫌…っ。」
「自分から意味の分からねぇ喧嘩を吹っかけてきたくせに、
本当に我儘ですね。」
「…だから、嫌い…?」
「いいえ、すげぇ面白…可愛いなって思いますよ。」
「…もういいや。嫌われてないなら、面白いって思われるくらい。」
「可愛いって言ったはずなのに、おかしいっすね。」
ジャンが、ククッと喉を鳴らした。
それさえも、私を安心させる。
今まで、何気なく交わしていた会話が、私にとってなくてはならないものだったのだと、教えてくれるようだった。
「もう、嫌いなんて、言わないで。」
埋めていた顔を上げた私は、ジャンに懇願する。
これは、心からのお願いだった。
もしも、これから私がとんでもなくヒドイことをして、彼に本当に嫌われたとして、それでも私は『嫌い』という言葉をジャンから聞きたくない。
そのときは、ただ背中を向けるだけにして欲しい。
すると、ジャンは、困ったように眉尻を下げた。
そして、私の目元を優しく撫でながら、答える。
「言いませんよ。
俺だって、嫌いなんて、嘘でも言いたくないですから。」
「そっか…、よかった。」
「俺、なまえさんが部屋に来るのをずっと待ってたんですよ?」
「私を?」
「そうですよ。今日はもう謝りに来ねぇのかと諦めて寝ようとしてたんですけど、
なまえさんが喧嘩を次の日まで持ち越す女じゃなくて良かったです。」
「…嫌だよ、ジャンとの喧嘩が次の日も続くなんて。
1秒だって、堪えられないのに。」
私は、もう一度、ジャンの胸板に頬を埋めて、彼の腰に抱き着いた。
ギュッと強く、縋るように抱きしめる。
そうすれば、ジャンも私を包み込むように抱き寄せた。
「なら、もう二度と、喧嘩がしたいなんて馬鹿なこと言うなよ。」
優しい腕で私を包んで、ジャンが叱るように言う。
あぁ、本当に馬鹿なことを言ってしまったと改めて実感する。
だから、絶対にもうそんなお願いはしないと自分にも、ジャンにも誓った。
「…でも、本当はちょっと、ちょうどいい機会だと思って、
今までの愚痴をぶちまけた?」
「あ、バレました?」
ジャンが意地悪く喉を鳴らした。
「バレるよ。だって、顔が本気だったんだから。」
「おかしいな。結構抑えたつもりだったのに。」
口元を手の甲で隠して、笑いを堪えるジャンの胸元を、私が不機嫌そうに軽く叩く。
そしたら、全く痛くないとか負けず嫌いなことを言われたから、今度は脇腹をつついてやった。
そこが弱いことなんて、もうとっくに知っているのだ。
身体をビクッと跳ねさせて変な声を出したジャンを馬鹿にして笑えば、両頬を摘ままれて、変な顔だと意地悪く言われた。
私は怒ったように眉を吊り上げたけれど、本当は、こうして、まるで子供みたいにじゃれ合えるのが嬉しい。楽しい。
皆が寝静まった真夜中に、私とジャンのいるこの場所だけが、遊園地になったみたいだ。
ジャンの冷たい目と背中を前にして、もう二度と触れられないかもしれないと絶望したから余計に、この時間を尊く思う。
このなんでもない時間が、たぶん、私は大好きだ。
もしかしたら、夢の中の世界にいるより———。
あれ、でも、こんな風にジャンとじゃれ合うようになったのは、いつからだろう。
「仲直りのキス、しましょうか。」
ジャンが、私の頬に手を添える。
さっきまで、意地悪く私をからかっていた癖に、ひどく優しい表情で、それなのにどこか色っぽい、男の人の顔をして——。
そんなジャンを前にしたら私は、魔法にでもかかったみたいに、自然に目を閉じて、彼の唇が近づくのを待つのだ。
ジャンの唇が重なる。
すると私は、夢の世界にいるみたいに、力が抜ける。
身体が舞って踊るように感じるのに、安心して地面に足をつけているような気さえする。
不安や恐怖、今まで感じた悲しかったことを、私はこのときだけ、忘れられるのだ。
もしも、このキスを永遠に貰えなくなったら、私はどうなるのだろう。
いつかそんな日が来ると分かっていても、今はまだ、怖くて想像したくない。
彼は、ただの生意気な部下だったはずなのに。
私は、ただの頼りがいのない上司のはずなのに。
いつから。
いつから、私は————。