◇第五十二話◇恋人達の戯れに踊らされる
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
廊下を少し歩いた先にあるジャンの部屋の扉の前で、私は立ち止まった。
扉をノックしようとして、躊躇する。
いつもなら、扉をノックすらしないで、勝手に開くこともある。
そこに、扉を感じたことがなかったからだ。
どこだって通り抜けることが出来る透明人間になったみたいに、簡単に、私はジャンの部屋に入っていた。
それなのに今私は、一枚の木の板を、この世界で最も分厚い壁のように感じている。
ジャンのことを、こんなに遠く感じたことだって、初めてだった。
会うのが怖い。
でも、このままずっと、この状態が長引く方が怖かった。
シンと静まり返った廊下に、落ち着こうとして私がした深呼吸がやけに響いて聞こえた。
勇気を出して、ノックをしてすぐに、怖くなって後悔する。
眠っていますように———。
そう願いながらも、返事がないまま、1人で肩を落として自分の部屋に帰る自分を想像すると、絶望しそうになった。
「はい。」
低い声が聞こえてすぐに、扉が開いた。
よかった、起きていた——。
そう思ってすぐに、訪問者が私だと気づいたジャンが眉を顰めたのを見てしまって、泣きそうになる。
「何すか。」
ジャンは、私を部屋に入れようとしなかった。
扉も半分ほどしか開かず、拒絶されているのは明らかだった。
「謝ろうと、思って…。」
「何をですか。」
「何を…か…は、考えてなかった…。」
何をしに来たんだろう——。
私は、自信を無くして目を伏せる。
「馬鹿ですか。」
「…それは、うん、たぶん、そう。
でも…、ジャンとこのままは嫌だから…。」
そこまで言って、拳を握って、私は顔を上げた。
ジャンと目が合う。
相変わらず、冷たく細められている。
本当に、私を嫌いになってしまったみたいに見える。
でも、私は———。
私は、ジャンを嫌いじゃない。
勇気を出して謝ろうと思ったのに、喧嘩なんてやめにしようと言おうと思ったのに、ダメになりそうになる。
ジャンに冷たくされると、逃げたくなる。泣きそうになる。
だって、私は———。
私は、ジャンを———。
何も言い出せない私に呆れたのか、頭上からため息が落ちて来た。
「ここで立ち話も疲れるんで、話しがあるなら中に入ってください。」
「ごめん。ありがとう。」
ジャンから、部屋に入る許可を貰って、私は少しだけホッとしたのだ。
扉をノックしようとして、躊躇する。
いつもなら、扉をノックすらしないで、勝手に開くこともある。
そこに、扉を感じたことがなかったからだ。
どこだって通り抜けることが出来る透明人間になったみたいに、簡単に、私はジャンの部屋に入っていた。
それなのに今私は、一枚の木の板を、この世界で最も分厚い壁のように感じている。
ジャンのことを、こんなに遠く感じたことだって、初めてだった。
会うのが怖い。
でも、このままずっと、この状態が長引く方が怖かった。
シンと静まり返った廊下に、落ち着こうとして私がした深呼吸がやけに響いて聞こえた。
勇気を出して、ノックをしてすぐに、怖くなって後悔する。
眠っていますように———。
そう願いながらも、返事がないまま、1人で肩を落として自分の部屋に帰る自分を想像すると、絶望しそうになった。
「はい。」
低い声が聞こえてすぐに、扉が開いた。
よかった、起きていた——。
そう思ってすぐに、訪問者が私だと気づいたジャンが眉を顰めたのを見てしまって、泣きそうになる。
「何すか。」
ジャンは、私を部屋に入れようとしなかった。
扉も半分ほどしか開かず、拒絶されているのは明らかだった。
「謝ろうと、思って…。」
「何をですか。」
「何を…か…は、考えてなかった…。」
何をしに来たんだろう——。
私は、自信を無くして目を伏せる。
「馬鹿ですか。」
「…それは、うん、たぶん、そう。
でも…、ジャンとこのままは嫌だから…。」
そこまで言って、拳を握って、私は顔を上げた。
ジャンと目が合う。
相変わらず、冷たく細められている。
本当に、私を嫌いになってしまったみたいに見える。
でも、私は———。
私は、ジャンを嫌いじゃない。
勇気を出して謝ろうと思ったのに、喧嘩なんてやめにしようと言おうと思ったのに、ダメになりそうになる。
ジャンに冷たくされると、逃げたくなる。泣きそうになる。
だって、私は———。
私は、ジャンを———。
何も言い出せない私に呆れたのか、頭上からため息が落ちて来た。
「ここで立ち話も疲れるんで、話しがあるなら中に入ってください。」
「ごめん。ありがとう。」
ジャンから、部屋に入る許可を貰って、私は少しだけホッとしたのだ。