◇第八十六話◇騎士の憂いは杞憂に終わるのか
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リヴァイは、扉の前に立っていた。
ノックをしようとあげた手は、なかなか動き出せない。
早朝、キルシュタイン夫妻がやってきたことを、リヴァイが知ったのは、午後の休憩が終わった後だった。
必要な書類をエルヴィンの元へ提出した後に、事後報告として知らされたのだ。
なまえとジャンが、婚約者のフリをしていたのだと聞いた時は、驚きよりも、妙に納得したという方が強かったのを覚えている。
でも、彼らの想いまでは、疑えなかった。
だからこそ、今のなまえの気持ちを思うと、居ても立っても居られなかったのだ。
それなのに、エルヴィンの部屋からの帰りに、真っ直ぐになまえの部屋に来たにも関わらず、この扉をどうしてもノック出来ないのだ。
この向こうで、なまえが傷ついていたら。泣いていたら。
自分に何が出来るだろうか、と考えると、どうしてもこの先を知ることを躊躇してしまうのだ。
だって、彼女を救えるのは、自分ではないと知っているから———。
「開けるぞ。」
ひとつ、息を吐いた後、リヴァイはノックをせずに扉に手をかけた。
急ぎもせず、だからといって時間をかけることもせずに、扉を開く。
ベッドの中で落ち込んでいると思っていたなまえは、意外にもデスクに向かって仕事をしていた。
部屋は、相変わらず、脱ぎ捨てられた服や、いつ提出するべきなのかも分からないほどにクシャクシャになった書類やらで、足の踏み場がないほどに散らかっていて、これ以上、先に入るのに躊躇する。
荒れ果てた部屋の様子は、なにがなんでも、ジャンには目を覚まして貰わないと困ると、リヴァイに強く思わせた。
「あれ?リヴァイ兵長、どうしたんですか?」
振り向いたなまえは、こちらが驚くほどに平然としていた。
いつもと違うのは、仕事をしている、というところだけだ。
でもそれは、彼女に限っては、とても混乱しているということと同義のようにも思える。
「お前、大丈夫なのか?」
「大丈夫…?あぁ…!ジャンのご両親のことですか?」
数秒、不思議そうに首を傾げた後、なまえはすぐに気づく。
なんだか、心配したこちらが馬鹿みたいなほどのあっけらかんとした態度に、張りつめていた空気が抜けていくようだった。
そんなリヴァイを尻目に、なまえが続ける。
「リヴァイ兵長が言ったんですよ。
ジャンは、私のことをきっと許してくれるって。
そもそも、怒ってもいないと思うんでしょう?」
確かに、そう言った。
だから、リヴァイは頷くしかなかった。
でも、ジャンの両親に、自分は人殺しだと告げたことで、婚約の解消と、今後一切、彼に近づくなと強く求められたと聞いている。
それも、怒りのままに怒鳴られ、なまえはひどく悲しそうにしていたとエルヴィンまで心配していたのだ。
「ジャンのご両親に嫌われてしまったのはツラいです。
私は、彼らのことがとても好きですし、
もちろん、ジャンにとっても、心から大切な人ですから。」
まるで、リヴァイの心を読んだかのような言葉だった。
実際、なまえは、リヴァイの考えていることが分かっていて、こんなことを言ったのかもしれない。
きっとそれほど、リヴァイは、心の声を顔に出してしまっていたのだろう。
「これで、いいんです。」
なまえが、柔らかく微笑む。
それは、昔からよく見ていた屈託のない笑みとはどこか違う。
でもそれに、見覚えがないわけでもない。
ジャンが、隣にいるときの、なまえの微笑みだ。
幸せ———そのすべてを心底感じているような、可愛らしい微笑みだった。
なまえが、素直な心を吐露していく。
それは今、ここにいる自分が聞くべき言葉ではないと理解していながら、必死に耳を傾けた。
長い間、彼女を想い続けていた自分の気持ちに、現実を思い知らせるために。今ここにいないジャンが、聞きそびれてしまった時に、伝えてやれるように———。
「———。
だから、目を覚ましたジャンを怒らせないように
私はしっかりと自分が任されている仕事をしなくちゃ。」
なまえが、羽ペンを持っている手を強く握って、気合を入れるようなポーズをとる。
これで、彼女が珍しく仕事をしていた理由にも合点がいく。
「仕事の前に部屋を片付けろ。
この惨状を見たら、ジャンがまた寝ちまう。」
的確だと思われたリヴァイの指摘を、なまえは笑って誤魔化した。
ノックをしようとあげた手は、なかなか動き出せない。
早朝、キルシュタイン夫妻がやってきたことを、リヴァイが知ったのは、午後の休憩が終わった後だった。
必要な書類をエルヴィンの元へ提出した後に、事後報告として知らされたのだ。
なまえとジャンが、婚約者のフリをしていたのだと聞いた時は、驚きよりも、妙に納得したという方が強かったのを覚えている。
でも、彼らの想いまでは、疑えなかった。
だからこそ、今のなまえの気持ちを思うと、居ても立っても居られなかったのだ。
それなのに、エルヴィンの部屋からの帰りに、真っ直ぐになまえの部屋に来たにも関わらず、この扉をどうしてもノック出来ないのだ。
この向こうで、なまえが傷ついていたら。泣いていたら。
自分に何が出来るだろうか、と考えると、どうしてもこの先を知ることを躊躇してしまうのだ。
だって、彼女を救えるのは、自分ではないと知っているから———。
「開けるぞ。」
ひとつ、息を吐いた後、リヴァイはノックをせずに扉に手をかけた。
急ぎもせず、だからといって時間をかけることもせずに、扉を開く。
ベッドの中で落ち込んでいると思っていたなまえは、意外にもデスクに向かって仕事をしていた。
部屋は、相変わらず、脱ぎ捨てられた服や、いつ提出するべきなのかも分からないほどにクシャクシャになった書類やらで、足の踏み場がないほどに散らかっていて、これ以上、先に入るのに躊躇する。
荒れ果てた部屋の様子は、なにがなんでも、ジャンには目を覚まして貰わないと困ると、リヴァイに強く思わせた。
「あれ?リヴァイ兵長、どうしたんですか?」
振り向いたなまえは、こちらが驚くほどに平然としていた。
いつもと違うのは、仕事をしている、というところだけだ。
でもそれは、彼女に限っては、とても混乱しているということと同義のようにも思える。
「お前、大丈夫なのか?」
「大丈夫…?あぁ…!ジャンのご両親のことですか?」
数秒、不思議そうに首を傾げた後、なまえはすぐに気づく。
なんだか、心配したこちらが馬鹿みたいなほどのあっけらかんとした態度に、張りつめていた空気が抜けていくようだった。
そんなリヴァイを尻目に、なまえが続ける。
「リヴァイ兵長が言ったんですよ。
ジャンは、私のことをきっと許してくれるって。
そもそも、怒ってもいないと思うんでしょう?」
確かに、そう言った。
だから、リヴァイは頷くしかなかった。
でも、ジャンの両親に、自分は人殺しだと告げたことで、婚約の解消と、今後一切、彼に近づくなと強く求められたと聞いている。
それも、怒りのままに怒鳴られ、なまえはひどく悲しそうにしていたとエルヴィンまで心配していたのだ。
「ジャンのご両親に嫌われてしまったのはツラいです。
私は、彼らのことがとても好きですし、
もちろん、ジャンにとっても、心から大切な人ですから。」
まるで、リヴァイの心を読んだかのような言葉だった。
実際、なまえは、リヴァイの考えていることが分かっていて、こんなことを言ったのかもしれない。
きっとそれほど、リヴァイは、心の声を顔に出してしまっていたのだろう。
「これで、いいんです。」
なまえが、柔らかく微笑む。
それは、昔からよく見ていた屈託のない笑みとはどこか違う。
でもそれに、見覚えがないわけでもない。
ジャンが、隣にいるときの、なまえの微笑みだ。
幸せ———そのすべてを心底感じているような、可愛らしい微笑みだった。
なまえが、素直な心を吐露していく。
それは今、ここにいる自分が聞くべき言葉ではないと理解していながら、必死に耳を傾けた。
長い間、彼女を想い続けていた自分の気持ちに、現実を思い知らせるために。今ここにいないジャンが、聞きそびれてしまった時に、伝えてやれるように———。
「———。
だから、目を覚ましたジャンを怒らせないように
私はしっかりと自分が任されている仕事をしなくちゃ。」
なまえが、羽ペンを持っている手を強く握って、気合を入れるようなポーズをとる。
これで、彼女が珍しく仕事をしていた理由にも合点がいく。
「仕事の前に部屋を片付けろ。
この惨状を見たら、ジャンがまた寝ちまう。」
的確だと思われたリヴァイの指摘を、なまえは笑って誤魔化した。