◇第八十話◇魔女の悲劇【前編】
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駐屯兵団本部精鋭班所属のリコ・ブレツェンスカは、本部1階にある会議室にいた。
今日は、午前中からずっと会議が続いていた。
議題は、調査兵団が行う次回の壁外調査に伴う援護作戦についてだ。
カラネス区から出発する調査兵団の為に、外門付近の巨人を遠ざける、もしくは討伐する援護班は、駐屯兵団の精鋭班が担うことになっている。
その為、壁外調査前になるとこうして、調査兵団と合同で会議を行うのが通例なのだ。
ただ、今回は壁外調査の日程が決まってはいない。それでも、日程が決まったらすぐにでも出発できるようにしておきたいという調査兵団の要望により、早めの会議を行うことになった。
だが、午後に再開された会議は、途中で中断を余儀なくされてしまう。
例年以上だと噂される高い気温のせいで、会議室はサウナ状態だ。
茹だるような熱気と思うように進まない会議のせいで、やる気を削がれた兵士達は、だらしなく椅子に寄りかかり、あろうことか会議資料で風を仰いでいる。
それも、窓を全開にしてみたところで、なんとなくぬるい風が流れてくる程度のこの状況なら仕方がないのかもしれない。
だらしのない兵士達を前にして思うことがあるリコも、鬼になりきることは出来なかった。
「失礼します。」
思いがけず休憩が入って30分程経った頃、1人の若い調査兵が扉を叩いた。
書類を持ってやって来た調査兵には見覚えがあった。あの地獄の日を訓練兵として乗り越えるしかなかった104期だ。
あの日、チラッと見たときよりも随分と身長も伸びて、髭まで生やしたおかげで雰囲気もだいぶ大人っぽく変わってはいたが、いつでも不機嫌そうに見える吊り気味の目は変わらないように思えた。
確か、彼の名前は、ジャン・キルシュタイン。
噂だけなら、巨人化出来る唯一の人間であるエレン・イェーガーの次によく耳に入ってくる。
彼の噂をよく聞くようになったのは、2年前に、まだ入団2年という異例のスピードで副兵士長の補佐官に選ばれた頃からだ。
何故、殆ど新人のような調査兵が———、と駐屯兵達の間でも大ブーイングが起きるくらいの大抜擢だった。
調査兵達はもっと許せなかったはずだ。
けれど、訓練兵時代から優秀な成績をおさめていた確かな実力に加え、元からあった指揮官としての素質を存分に発揮し、今では調査兵達を引っ張る精鋭として活躍していると聞く。
それから、最近では、副兵士長で彼の上官でもある調査兵団の〝眠り姫〟と婚約をしたことが、駐屯兵団本部でも大きな話題になっている。
調査兵達の間では、美人で有名な彼女と婚約まで漕ぎつけた彼のことを羨む声が多いようだったが、駐屯兵達は違う。
誰も、彼女のことを〝眠り姫〟とは呼ばない。
駐屯兵達は、己の欲の為なら周囲のどんな犠牲も厭わない彼女のことを、我儘に姫を喰らう〝魔女〟と呼び、あの魔女と婚約をしてしまった彼のことを、魔女に魅入られた不憫な男だと思っている。
あの地獄の日の後から駐屯兵団に入団した若い兵士達を除き、駐屯兵達のほとんどが、あの〝眠り姫〟を嫌っている。
いや、そんな可愛いものではない。
心底、憎んでいるのだ。
それこそ、いつか壁の外で、巨人に身体を食いちぎられて死んでしまえばいい———と誰もが1度は願ったことがあるほどに。
今日は、午前中からずっと会議が続いていた。
議題は、調査兵団が行う次回の壁外調査に伴う援護作戦についてだ。
カラネス区から出発する調査兵団の為に、外門付近の巨人を遠ざける、もしくは討伐する援護班は、駐屯兵団の精鋭班が担うことになっている。
その為、壁外調査前になるとこうして、調査兵団と合同で会議を行うのが通例なのだ。
ただ、今回は壁外調査の日程が決まってはいない。それでも、日程が決まったらすぐにでも出発できるようにしておきたいという調査兵団の要望により、早めの会議を行うことになった。
だが、午後に再開された会議は、途中で中断を余儀なくされてしまう。
例年以上だと噂される高い気温のせいで、会議室はサウナ状態だ。
茹だるような熱気と思うように進まない会議のせいで、やる気を削がれた兵士達は、だらしなく椅子に寄りかかり、あろうことか会議資料で風を仰いでいる。
それも、窓を全開にしてみたところで、なんとなくぬるい風が流れてくる程度のこの状況なら仕方がないのかもしれない。
だらしのない兵士達を前にして思うことがあるリコも、鬼になりきることは出来なかった。
「失礼します。」
思いがけず休憩が入って30分程経った頃、1人の若い調査兵が扉を叩いた。
書類を持ってやって来た調査兵には見覚えがあった。あの地獄の日を訓練兵として乗り越えるしかなかった104期だ。
あの日、チラッと見たときよりも随分と身長も伸びて、髭まで生やしたおかげで雰囲気もだいぶ大人っぽく変わってはいたが、いつでも不機嫌そうに見える吊り気味の目は変わらないように思えた。
確か、彼の名前は、ジャン・キルシュタイン。
噂だけなら、巨人化出来る唯一の人間であるエレン・イェーガーの次によく耳に入ってくる。
彼の噂をよく聞くようになったのは、2年前に、まだ入団2年という異例のスピードで副兵士長の補佐官に選ばれた頃からだ。
何故、殆ど新人のような調査兵が———、と駐屯兵達の間でも大ブーイングが起きるくらいの大抜擢だった。
調査兵達はもっと許せなかったはずだ。
けれど、訓練兵時代から優秀な成績をおさめていた確かな実力に加え、元からあった指揮官としての素質を存分に発揮し、今では調査兵達を引っ張る精鋭として活躍していると聞く。
それから、最近では、副兵士長で彼の上官でもある調査兵団の〝眠り姫〟と婚約をしたことが、駐屯兵団本部でも大きな話題になっている。
調査兵達の間では、美人で有名な彼女と婚約まで漕ぎつけた彼のことを羨む声が多いようだったが、駐屯兵達は違う。
誰も、彼女のことを〝眠り姫〟とは呼ばない。
駐屯兵達は、己の欲の為なら周囲のどんな犠牲も厭わない彼女のことを、我儘に姫を喰らう〝魔女〟と呼び、あの魔女と婚約をしてしまった彼のことを、魔女に魅入られた不憫な男だと思っている。
あの地獄の日の後から駐屯兵団に入団した若い兵士達を除き、駐屯兵達のほとんどが、あの〝眠り姫〟を嫌っている。
いや、そんな可愛いものではない。
心底、憎んでいるのだ。
それこそ、いつか壁の外で、巨人に身体を食いちぎられて死んでしまえばいい———と誰もが1度は願ったことがあるほどに。