◇第七十九話◇名無しから届く最高の婚約祝い
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ジャンは、団長のエルヴィンから預かった書類を両手に抱えてなまえの執務室へ向かっていた。
時間は昼過ぎ、補佐官という名の見張りが団長に呼ばれいなくなったのをいいことに、今頃、なまえはベッドの上で夢の中だろう。
花火デートの日、勢いでしてしまった告白は届かず、ジャンとなまえの関係は、何も変わっていない。
沢山の店を見て回りたいとワクワクしていたなまえも、花火が終わる頃には『疲れたから眠たい』と言い出して、結局、兵舎に戻ってからダラダラしながら買ってきたフルーツサンドやソーセージを食べただけだ。本当に花火を見るだけのデートだった。
あれから数日、仕事嫌いの上司と厳しい補佐官、曖昧な関係の偽物の婚約者、という関係はそのままで、穏やかな日々を過ごしている。
壁外調査の準備は進んできているものの、日程はなかなか決まらないままで、仕事面も何の進展もない。
(どうやって起こしてやろうかな。)
あらゆる想定をしながらククッと喉を鳴らして、ジャンは執務室の扉を開ける。
でも、開いた扉は、途中で何かに当たって止まった。
足元を覗き込むと、封の開いた段ボールがあった。これが扉前に置いてあったので、扉にぶつかってしまったようだ。
思いがけないものは段ボールだけではなかった。
てっきり寝ていると思っていたなまえが起きているのだ。
だが、仕事をしているというわけではない。
ベッドの縁に座っているなまえは、手にぬいぐるみを持って、なにやら嬉しそうににやけている。
「何すか、それ。」
両手に抱えていた書類を片手に持ちかえたジャンは、開いたままの段ボールをもう片方の手で拾い上げると、ベッドへ近づきながら眉を顰める。
少し引き気味だったのは、なまえが嬉しそうに持っているぬいぐるみが気味が悪かったからだ。
テディベアや、うさぎ、いぬ———女の子達が気に入るぬいぐるみのイメージはそんなものだ。
でも、彼女が持っているのはそのどれとも違う。そもそも、おそらく、この世に本当に存在している動物ではない。
いや、絶対に存在していて欲しくない。
ジャンにそう思わせるそのぬいぐるみの容姿は、熊の胴体に虎のように尖った爪と筋肉隆々の四肢、牛の尻尾に像のように長い鼻を携え、口元には牙も生えていた。
ぬいぐるみを嬉しそうに持っているなまえは、その気味の悪い動物を、あろうことか可愛いと思っているようだ。
「届いたの!いいでしょっ。」
なまえは、ジャンの方を見ると、嬉しそうに言った。
長い鼻の伸びるぬいぐるみの頬に自分の頬を寄せて、頬擦りまでしているのを目の当たりにして、彼女は美的感覚までも異常だということを四年越しに知った。
「届いたって?誰からっすか。」
デスクの上に資料を置いたジャンは、段ボールを持ってなまえの隣に腰を降ろした。
きっと、その気味の悪いぬいぐるみは、この段ボール箱に入って届けられたのだろう。
そう思って、段ボールに宛名書きがあるかと探してみるが、『婚約祝い』と手書きで書いてある以外は何もない。
「これが婚約祝い…。」
「ね、いいでしょっ。」
趣味が悪い———頂いたものに対して、そんな失礼なことを口に出しては言えないけれど、正直言って、趣味が悪い。
なまえとジャンの元へ婚約祝いが届いたのは、今回が初めてではなかった。
今までも、婚約を発表してから時々こうして、祝いの品が届いている。
たとえば、祝いのカードや花束がよくある例だ。さすがにお金が届いたときには、調査兵という自分達の立場上、今後どうなるか分からないからという言い訳をして、お断りさせてもらった経緯もある。
「まぁ、なまえが気に入ったんならいいんじゃねぇの。」
わざわざ送ってきた相手を探して返すほどのものでもない———そう思い直して、なまえが嬉しそうに持っているぬいぐるみの頭を撫でてみた。
こっちを見るぬいぐるみの顔と目が合う。目つきまで悪いらしい。やっぱり、気色悪い。
「それより、団長から資料を預かってきました。
壁外調査のときに必ず見つけてほしい書籍の一覧を————。」
「このコと一緒に眠っちゃおうかな~。あぁ、でも良い夢が見れない気がする。」
「そりゃそうだろ。アンタは今から仕事するんだよ。」
ぬいぐるみを抱きしめてベッドに寝転がったなまえの首根っこを引っ張って、強引に起き上がらせた。
壁外調査にいつでも行けるように準備しておかなければならないのだ。
気持ちよく眠って、夢を見ている場合じゃない。
時間は昼過ぎ、補佐官という名の見張りが団長に呼ばれいなくなったのをいいことに、今頃、なまえはベッドの上で夢の中だろう。
花火デートの日、勢いでしてしまった告白は届かず、ジャンとなまえの関係は、何も変わっていない。
沢山の店を見て回りたいとワクワクしていたなまえも、花火が終わる頃には『疲れたから眠たい』と言い出して、結局、兵舎に戻ってからダラダラしながら買ってきたフルーツサンドやソーセージを食べただけだ。本当に花火を見るだけのデートだった。
あれから数日、仕事嫌いの上司と厳しい補佐官、曖昧な関係の偽物の婚約者、という関係はそのままで、穏やかな日々を過ごしている。
壁外調査の準備は進んできているものの、日程はなかなか決まらないままで、仕事面も何の進展もない。
(どうやって起こしてやろうかな。)
あらゆる想定をしながらククッと喉を鳴らして、ジャンは執務室の扉を開ける。
でも、開いた扉は、途中で何かに当たって止まった。
足元を覗き込むと、封の開いた段ボールがあった。これが扉前に置いてあったので、扉にぶつかってしまったようだ。
思いがけないものは段ボールだけではなかった。
てっきり寝ていると思っていたなまえが起きているのだ。
だが、仕事をしているというわけではない。
ベッドの縁に座っているなまえは、手にぬいぐるみを持って、なにやら嬉しそうににやけている。
「何すか、それ。」
両手に抱えていた書類を片手に持ちかえたジャンは、開いたままの段ボールをもう片方の手で拾い上げると、ベッドへ近づきながら眉を顰める。
少し引き気味だったのは、なまえが嬉しそうに持っているぬいぐるみが気味が悪かったからだ。
テディベアや、うさぎ、いぬ———女の子達が気に入るぬいぐるみのイメージはそんなものだ。
でも、彼女が持っているのはそのどれとも違う。そもそも、おそらく、この世に本当に存在している動物ではない。
いや、絶対に存在していて欲しくない。
ジャンにそう思わせるそのぬいぐるみの容姿は、熊の胴体に虎のように尖った爪と筋肉隆々の四肢、牛の尻尾に像のように長い鼻を携え、口元には牙も生えていた。
ぬいぐるみを嬉しそうに持っているなまえは、その気味の悪い動物を、あろうことか可愛いと思っているようだ。
「届いたの!いいでしょっ。」
なまえは、ジャンの方を見ると、嬉しそうに言った。
長い鼻の伸びるぬいぐるみの頬に自分の頬を寄せて、頬擦りまでしているのを目の当たりにして、彼女は美的感覚までも異常だということを四年越しに知った。
「届いたって?誰からっすか。」
デスクの上に資料を置いたジャンは、段ボールを持ってなまえの隣に腰を降ろした。
きっと、その気味の悪いぬいぐるみは、この段ボール箱に入って届けられたのだろう。
そう思って、段ボールに宛名書きがあるかと探してみるが、『婚約祝い』と手書きで書いてある以外は何もない。
「これが婚約祝い…。」
「ね、いいでしょっ。」
趣味が悪い———頂いたものに対して、そんな失礼なことを口に出しては言えないけれど、正直言って、趣味が悪い。
なまえとジャンの元へ婚約祝いが届いたのは、今回が初めてではなかった。
今までも、婚約を発表してから時々こうして、祝いの品が届いている。
たとえば、祝いのカードや花束がよくある例だ。さすがにお金が届いたときには、調査兵という自分達の立場上、今後どうなるか分からないからという言い訳をして、お断りさせてもらった経緯もある。
「まぁ、なまえが気に入ったんならいいんじゃねぇの。」
わざわざ送ってきた相手を探して返すほどのものでもない———そう思い直して、なまえが嬉しそうに持っているぬいぐるみの頭を撫でてみた。
こっちを見るぬいぐるみの顔と目が合う。目つきまで悪いらしい。やっぱり、気色悪い。
「それより、団長から資料を預かってきました。
壁外調査のときに必ず見つけてほしい書籍の一覧を————。」
「このコと一緒に眠っちゃおうかな~。あぁ、でも良い夢が見れない気がする。」
「そりゃそうだろ。アンタは今から仕事するんだよ。」
ぬいぐるみを抱きしめてベッドに寝転がったなまえの首根っこを引っ張って、強引に起き上がらせた。
壁外調査にいつでも行けるように準備しておかなければならないのだ。
気持ちよく眠って、夢を見ている場合じゃない。