◆サイト再開記念特別編◆離れていても君はこの掌の上で踊ってる
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団長執務室には、もう数時間ほど、羽ペンを走らせる音だけが忙しなく響いていた。
壁外調査の一週間前になって中止が決まってから、1か月だ。そしてまだ、次回の壁外調査の日程も決まっていない。
いつまでこんな生活が続くのか————。
応接用のローテーブルで仕事をしていたアルミンは、羽ペンを走らせていた手を止めて顔を上げた。
団長の机の方へ視線を向ければ、ジャンが真面目に羽ペンを動かしている。
彼の向こうにある大きな窓からは、静かな雨が降り続いているのが良く見えて、憂鬱な気分に拍車がかかる。
「ジャン、少し休憩しようか。」
声をかけると、驚いたらしくてジャンの肩が少しだけ肩を跳ねた。
集中していたのだろう。
顔を上げたジャンは、机に置いた懐中時計を手に取ってから、僅かに目を細める。
「もうこんな時間かよ…。そうだな、休もう。
団長達が帰ってくる前に死んじまう。」
懐中時計と羽ペンを雑にデスクに放り投げたジャンは、大きな椅子に背中を預けるように寄りかかると、四肢も放り出す。
そして、ダラリとした恰好で天井を見上げ目を閉じてしまった。
寝る気らしい。
最初に団長の机に座ったときには、緊張しながらも興奮していたのに、もうすっかり慣れてしまったようだ。
「なんだかジャンが団長になったみたいだね。」
アルミンがクスクスと笑いながら言うと、ジャンの瞼が薄く開いた。
そして、天井を向いたままで、細めた目でアルミンの方に視線だけ動かす。
「勘弁だな。団長になんか死んでもなりたくねぇ。」
「へぇ、意外だな。ジャンならなりたいと思ってるのかと思ってた。
団長室で仕事する方が効率がいいからって、使用許可貰った時も、
自分が団長の机に座りたいって言ったのはジャンだったし。」
「俺もどうせ調査兵なんかになっちまったなら団長の座くらい狙わねぇと
やってられねぇと思ってたけど、団長の仕事と責任を負う方がやってられねぇ。」
「あぁ・・・確かに。」
アルミンは、心から納得して何度も頷いた。
そして、ジャンに向けていた視線を少しだけずらして、窓の向こうで振り続ける雨を見る。
「この雨、いつになったら止むんだろうね。」
「このままじゃ、いつまで経っても壁外調査に出られねぇ。」
ジャンが、天井を睨みつけて舌打ちをする。
一か月前に急遽として壁外調査が中止になったのは、豪雨が原因だった。
壁内に被害が出なかったことは幸いだったが、3日間降り続けた豪雨は、調査兵団が時間をかけて造り上げてきた航路だけではなく、仕掛けや拠点までも粉々にしてしまったのだ。
そして、エルヴィン団長の号令で壁外調査決行が可能かを確認するために調査に向かった精鋭兵達からの残念な報告により、断腸の思いで延期が決まった。
それからも毎日のように降り続く雨のせいで、現在の調査兵団は、拠点設営へ向けての壁外調査にすら出られていない状況だ。
だが、大規模な作戦が進められている壁外調査をいつまでも延期にはしていられない。
その為、今、雨が上がったらすぐに拠点設営や仕掛けのセットし直し等にすぐに取り掛かれるように、各々が出来ることをしている。
その中の一つが、幹部達のストヘス区の憲兵団本部への出張だ。
その間、兵舎での仕事は、幹部それぞれが兵舎に残した補佐達が、直属の上司の分を引き継ぐことになった。
さらに、団長の右腕として書記官を務めるアルミンと統率力に優れるジャンは、調査兵団の指揮を任されている。
その為、兵舎で普段はエルヴィンが担っている仕事を彼ら2人が手分けしているので、仕事のメインを団長室にするのが都合がよかったのだ。
今までもほとんどの上司の仕事を一人でこなしてきたから平気だと飄々としていたジャンだったけれど、さすがに、それに加えて調査兵団の指揮まで任されてしまうと、手をまわすのが大変なようだ。
「ハンジさんに、研究所の掃除を頼まれてたハンジ班のメンバーと
ライナーとベルトルトは、やっと掃除が終わったと思ったら、
今度は、巨人を小さくする薬を作れないか実験をしてくれって手紙が届いたらしいよ。」
「なんだそれ。
あの人、そろそろマジで巨人をペットにしようとしてんじゃねぇのか。」
「昨日、ライナーとベルトルトにあったんだけど、2人とも疲れ切った顔で生気失ってたよ。
綺麗になったばかりの研究室に泊まり込みで、絶対に完成しない薬を作らされてるんだって。」
「ハズレくじは、眠り姫ってよく言われるけど、俺、今確信したわ。
俺の方がマシだ。」
良い——とは言わないのだな、と思いつつも、ジャンの苦労を知っているアルミンは〝マシ〟という表現が正しいのも理解する。
「あ、そうだ。団長達、また帰ってくるのが延期になりそうだって。
さっき、早馬から手紙が届いたんだった。」
アルミンは、ついさっき得たばかりの残念な報告をする。
彼らが調査兵団の兵舎を出て、もう2週間以上が経つ。
その間にも、何度か調査兵達の様子を確認する内容ととともに『そろそろ帰れそうだ。』という手紙が団長から届いていたのだ。
でも、その度に、新たな問題の発生や大雨等の影響で延期になり続けている。
これ以上延期となってしまったら、調査兵団の兵舎に1か月も団長がいないことになる。
「いや、それは問題ねぇよ。
たぶんもうそろそろ帰ってくるから。」
ジャンが、椅子に預けていた背中を起こす。
自信満々な声色と同様に、意地悪く口の端が上がっている表情は、自分の発言に確信を持っているようだった。
そして、楽しそうにククッと喉を鳴らした。
何かを思い出しているのか、さっきまでの疲れた様子は消えて、とても楽しそうだ。
それが、ここ数日ずっとアルミンがジャンに対して消えなかった違和感を強くした。
(前とは全然違うな。)
前——というのは、以前にジャンと2人でストヘス区へ出張に行ったときのことだ。
あの時のジャンは、兵舎に残してきたなまえとリヴァイのことが気になって、不安で仕方がないという顔をしていた。
でも、今はどうだろうか。
全く、そんなようには見えないのだ。
忙しくて寂しさを感じている暇がないのだろうか———とも考えたのだけれど、平気そうになまえの名前を出すところを見ると、離れている時間のことをなんとも思っていないように思える。
「どうしてそう思うの?
団長からは延期の連絡の手紙が届いたよ。」
「その手紙を団長が書いたときには、俺がなまえさんに送った手紙は届いてねぇだろ。
遅くとも、今日の夕方までには届くだろうから、
そうだな…あと3日で帰ってこれたら褒めてやろうかな。」
ジャンが悪戯に口を歪める。
何か意地悪なことを手紙に書いたんだな———すぐに察した。
アルミンとエルヴィンが手紙で仕事のやり取りをしているとき、仕事をさぼってばかりの眠り姫とジャンは、いちゃついていたらしい。
「へぇ。その手紙、ローゼの山奥で爆発すればいいね。」
「は?」
アルミンは、休憩を中断して仕事を再開した。
壁外調査の一週間前になって中止が決まってから、1か月だ。そしてまだ、次回の壁外調査の日程も決まっていない。
いつまでこんな生活が続くのか————。
応接用のローテーブルで仕事をしていたアルミンは、羽ペンを走らせていた手を止めて顔を上げた。
団長の机の方へ視線を向ければ、ジャンが真面目に羽ペンを動かしている。
彼の向こうにある大きな窓からは、静かな雨が降り続いているのが良く見えて、憂鬱な気分に拍車がかかる。
「ジャン、少し休憩しようか。」
声をかけると、驚いたらしくてジャンの肩が少しだけ肩を跳ねた。
集中していたのだろう。
顔を上げたジャンは、机に置いた懐中時計を手に取ってから、僅かに目を細める。
「もうこんな時間かよ…。そうだな、休もう。
団長達が帰ってくる前に死んじまう。」
懐中時計と羽ペンを雑にデスクに放り投げたジャンは、大きな椅子に背中を預けるように寄りかかると、四肢も放り出す。
そして、ダラリとした恰好で天井を見上げ目を閉じてしまった。
寝る気らしい。
最初に団長の机に座ったときには、緊張しながらも興奮していたのに、もうすっかり慣れてしまったようだ。
「なんだかジャンが団長になったみたいだね。」
アルミンがクスクスと笑いながら言うと、ジャンの瞼が薄く開いた。
そして、天井を向いたままで、細めた目でアルミンの方に視線だけ動かす。
「勘弁だな。団長になんか死んでもなりたくねぇ。」
「へぇ、意外だな。ジャンならなりたいと思ってるのかと思ってた。
団長室で仕事する方が効率がいいからって、使用許可貰った時も、
自分が団長の机に座りたいって言ったのはジャンだったし。」
「俺もどうせ調査兵なんかになっちまったなら団長の座くらい狙わねぇと
やってられねぇと思ってたけど、団長の仕事と責任を負う方がやってられねぇ。」
「あぁ・・・確かに。」
アルミンは、心から納得して何度も頷いた。
そして、ジャンに向けていた視線を少しだけずらして、窓の向こうで振り続ける雨を見る。
「この雨、いつになったら止むんだろうね。」
「このままじゃ、いつまで経っても壁外調査に出られねぇ。」
ジャンが、天井を睨みつけて舌打ちをする。
一か月前に急遽として壁外調査が中止になったのは、豪雨が原因だった。
壁内に被害が出なかったことは幸いだったが、3日間降り続けた豪雨は、調査兵団が時間をかけて造り上げてきた航路だけではなく、仕掛けや拠点までも粉々にしてしまったのだ。
そして、エルヴィン団長の号令で壁外調査決行が可能かを確認するために調査に向かった精鋭兵達からの残念な報告により、断腸の思いで延期が決まった。
それからも毎日のように降り続く雨のせいで、現在の調査兵団は、拠点設営へ向けての壁外調査にすら出られていない状況だ。
だが、大規模な作戦が進められている壁外調査をいつまでも延期にはしていられない。
その為、今、雨が上がったらすぐに拠点設営や仕掛けのセットし直し等にすぐに取り掛かれるように、各々が出来ることをしている。
その中の一つが、幹部達のストヘス区の憲兵団本部への出張だ。
その間、兵舎での仕事は、幹部それぞれが兵舎に残した補佐達が、直属の上司の分を引き継ぐことになった。
さらに、団長の右腕として書記官を務めるアルミンと統率力に優れるジャンは、調査兵団の指揮を任されている。
その為、兵舎で普段はエルヴィンが担っている仕事を彼ら2人が手分けしているので、仕事のメインを団長室にするのが都合がよかったのだ。
今までもほとんどの上司の仕事を一人でこなしてきたから平気だと飄々としていたジャンだったけれど、さすがに、それに加えて調査兵団の指揮まで任されてしまうと、手をまわすのが大変なようだ。
「ハンジさんに、研究所の掃除を頼まれてたハンジ班のメンバーと
ライナーとベルトルトは、やっと掃除が終わったと思ったら、
今度は、巨人を小さくする薬を作れないか実験をしてくれって手紙が届いたらしいよ。」
「なんだそれ。
あの人、そろそろマジで巨人をペットにしようとしてんじゃねぇのか。」
「昨日、ライナーとベルトルトにあったんだけど、2人とも疲れ切った顔で生気失ってたよ。
綺麗になったばかりの研究室に泊まり込みで、絶対に完成しない薬を作らされてるんだって。」
「ハズレくじは、眠り姫ってよく言われるけど、俺、今確信したわ。
俺の方がマシだ。」
良い——とは言わないのだな、と思いつつも、ジャンの苦労を知っているアルミンは〝マシ〟という表現が正しいのも理解する。
「あ、そうだ。団長達、また帰ってくるのが延期になりそうだって。
さっき、早馬から手紙が届いたんだった。」
アルミンは、ついさっき得たばかりの残念な報告をする。
彼らが調査兵団の兵舎を出て、もう2週間以上が経つ。
その間にも、何度か調査兵達の様子を確認する内容ととともに『そろそろ帰れそうだ。』という手紙が団長から届いていたのだ。
でも、その度に、新たな問題の発生や大雨等の影響で延期になり続けている。
これ以上延期となってしまったら、調査兵団の兵舎に1か月も団長がいないことになる。
「いや、それは問題ねぇよ。
たぶんもうそろそろ帰ってくるから。」
ジャンが、椅子に預けていた背中を起こす。
自信満々な声色と同様に、意地悪く口の端が上がっている表情は、自分の発言に確信を持っているようだった。
そして、楽しそうにククッと喉を鳴らした。
何かを思い出しているのか、さっきまでの疲れた様子は消えて、とても楽しそうだ。
それが、ここ数日ずっとアルミンがジャンに対して消えなかった違和感を強くした。
(前とは全然違うな。)
前——というのは、以前にジャンと2人でストヘス区へ出張に行ったときのことだ。
あの時のジャンは、兵舎に残してきたなまえとリヴァイのことが気になって、不安で仕方がないという顔をしていた。
でも、今はどうだろうか。
全く、そんなようには見えないのだ。
忙しくて寂しさを感じている暇がないのだろうか———とも考えたのだけれど、平気そうになまえの名前を出すところを見ると、離れている時間のことをなんとも思っていないように思える。
「どうしてそう思うの?
団長からは延期の連絡の手紙が届いたよ。」
「その手紙を団長が書いたときには、俺がなまえさんに送った手紙は届いてねぇだろ。
遅くとも、今日の夕方までには届くだろうから、
そうだな…あと3日で帰ってこれたら褒めてやろうかな。」
ジャンが悪戯に口を歪める。
何か意地悪なことを手紙に書いたんだな———すぐに察した。
アルミンとエルヴィンが手紙で仕事のやり取りをしているとき、仕事をさぼってばかりの眠り姫とジャンは、いちゃついていたらしい。
「へぇ。その手紙、ローゼの山奥で爆発すればいいね。」
「は?」
アルミンは、休憩を中断して仕事を再開した。