◇第六十八話◇クモに囚われた心は追いかけ始める
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「それで、他の奴らも俺じゃねぇと任せられねぇとか言い出してよ~。」
参ったぜ———なんて言いながら、自慢話ばかりを聞かせてくるのは、訓練兵時代の頃の同期の男だった。
名前は、ロクだったかハチだったか忘れたけれど、覚えていなくても今後の私の未来に支障はないから確かめようとも思わない。
訓練兵時代から、いつも威張っていて、他人を小馬鹿にするような態度があまり好きになれなかった。
しかも、女性軽視なところがあって、私やナナバが彼よりも成績が良いことが気に入らないようだった。
それに加えて、私が貴族出身の両親を持っていて、彼らが憲兵のOBということも彼の嫉妬の標的になったらしく、わざわざ調査兵団を志願して訓練兵になった馬鹿野郎だと、陰口どころか、堂々と目の前で罵られたこともある。
それなのに、今になって私の前に現れたのは、調査兵団で何度も死にかけた馬鹿とは違って、自分は着実に出世しているというのを自慢したいのだろう。
今は、幹部のすぐ下の役職まで貰っているらしい。
調査兵団とは数が全く違う憲兵では、出世するのは難しい。
だから、素直に、彼は凄いと思う。
実力というよりも、世渡り上手なだけなのだとしても、凄いことに変わりはない。
でも、彼の自慢を聞くのは、現実を見ているよりもつまらないし、地獄のようだった。
「なまえさん、お待たせしました。」
「あぁ、よかった。お疲れ。待ってたよ、おかえりなさい。」
ジャンがやって来て、私はホッ吐息を吐く。
ついさっきも団長に雑用を頼まれて離れていたジャンは、戻って来てすぐに、前回の出張で知り合った憲兵にも仕事を頼まれて忙しくしていた。
ここで、私に自慢話を聞かせている役職付きの憲兵よりも、よっぽど仕事も出来るし、むしろ、仕事をしている。
「なんだ、お前。」
ロクだかハチだかの名前の同期が、ギロリとジャンを睨みつけた。
リヴァイ兵長よりも少し背が高い程度の同期は、見上げながら長身のジャンを睨みつけるから、なんだか馬鹿みたいだ。
これがリヴァイ兵長だったら、凄みとオーラを感じるのだけれど、彼の場合は薄っぺらすぎて、阿保みたいだ。
ジャンが、無意識に寄せた眉間の皴には、彼への嫌悪感が滲んでいた。
「調査兵団所属、副兵士長の補佐官をしています、
ジャン・キルシュタインです。」
こんな馬鹿の為に丁寧に答えなくてもいいのに———、ジャンは眉間にしわを寄せたままで、言葉だけは綺麗に答えた。
すると、同期は意地悪くニヤリと口の端を片方だけ上げた。
その顔には、見覚えがあった。
訓練兵時代、誰かがミスをしたのを目ざとく見つけたときの顔だ。
この後、この男は、勝ち誇った顔で相手を見下すのだ。
でも私には、ジャンが何かミスをしたとは思えなかったし、同期がジャンを見下す理由が分からなかった。
でも、彼にとってはとても大きな理由があった。
それは、私とジャンが〝調査兵〟だということだ。
「へぇ、まだクソガキのくせに一丁前に補佐官かよ。
さすが、人手不足の調査兵団だな。」
「そうっすね。」
勝ち誇ったように小馬鹿にする同期を、長身のジャンが面倒くさそうに見下ろしていた。
凸凹なやり取りが、より一層に、つまらないプライドの塊の同期を間抜けに見せていた。
でもそんなこと、自分が世界で一番イケていると信じている彼には分からないのだろう。
そして、信じられないことに、同期は、ジャンよりも自分の方が女性をエスコートするのにふさわしい男だと思っているようだった。
「こんなガキのエスコートじゃ、お姫様は満足出来ねぇだろ。
俺が代わりに守っててやるから、お前は俺の代わりに働いとけ。」
「は?」
「何か文句があんのかよ。」
思いきり眉を顰めたジャンに、同期は不機嫌に顔を歪めた。
理不尽なことを言っているのは、誰から見ても同期の方なのに、彼は自分が正しいと信じているようだった。
「いえ、別に。」
「なら、さっさとどっか行きやがれ。
俺は今から、なまえと大事な話があるんだよ。」
「え、そんなのない———。」
「分かりました。なら、俺は離れます。」
「えっ、なんでっ。」
ショックを隠し切れずに、私はジャンを見上げた。
すると、ジャンは、首を竦めて理由を教えてくれる。
「さっき、マルコに頼み事されたんですよ。
なまえさんのお守りがあるから無理だって断ったんすけど、
エスコート役が他にいるなら、俺が残る必要もないんで。」
「でもだからって…。」
私は、チラリと同期の方を見た。
勝ち誇ったように口の端を上げていて、本当に腹が立つし、気持ちが悪い。
ジャンの親友のマルコには会ったことがある。
責任感が強くて、柔らかい雰囲気からは想像もつかないくらいに強い信念を曲げずに戦える強く賢い男だ。
副兵士長の同伴で来たことを知っている上で、彼がジャンに頼みごとをしたのなら、きっと、それはそれなりに理由があるのだろう。
でも、だからって———。
この何処からどう見ても、顔が少しいいだけの残念な男と2人きりで取り残されるなんて、絶対に嫌だ。
それなのに———。
「じゃあ、先輩。なまえさんをよろしくお願いします。
誰が来ても諦めないで、なまえさんを口説き続けてくださいね。
応援してます。」
「生意気な見た目の割には、物分かりがいいじゃねぇか。」
「貴方ならきっと大丈夫だと思いますから、
安心してなまえさんを任せられるだけですよ。」
ジャンは、同期に向かってニッと白い歯を見せて笑った。
途端に、単純な同期は機嫌が良くなる。
「なんだ、お前、分かってんじゃねぇか。」
呆気なく背を向けて離れて行くジャンの背中を、同期が嬉しそうに見送る。
私は、これからも続くことが決定した地獄に、絶望していた。
参ったぜ———なんて言いながら、自慢話ばかりを聞かせてくるのは、訓練兵時代の頃の同期の男だった。
名前は、ロクだったかハチだったか忘れたけれど、覚えていなくても今後の私の未来に支障はないから確かめようとも思わない。
訓練兵時代から、いつも威張っていて、他人を小馬鹿にするような態度があまり好きになれなかった。
しかも、女性軽視なところがあって、私やナナバが彼よりも成績が良いことが気に入らないようだった。
それに加えて、私が貴族出身の両親を持っていて、彼らが憲兵のOBということも彼の嫉妬の標的になったらしく、わざわざ調査兵団を志願して訓練兵になった馬鹿野郎だと、陰口どころか、堂々と目の前で罵られたこともある。
それなのに、今になって私の前に現れたのは、調査兵団で何度も死にかけた馬鹿とは違って、自分は着実に出世しているというのを自慢したいのだろう。
今は、幹部のすぐ下の役職まで貰っているらしい。
調査兵団とは数が全く違う憲兵では、出世するのは難しい。
だから、素直に、彼は凄いと思う。
実力というよりも、世渡り上手なだけなのだとしても、凄いことに変わりはない。
でも、彼の自慢を聞くのは、現実を見ているよりもつまらないし、地獄のようだった。
「なまえさん、お待たせしました。」
「あぁ、よかった。お疲れ。待ってたよ、おかえりなさい。」
ジャンがやって来て、私はホッ吐息を吐く。
ついさっきも団長に雑用を頼まれて離れていたジャンは、戻って来てすぐに、前回の出張で知り合った憲兵にも仕事を頼まれて忙しくしていた。
ここで、私に自慢話を聞かせている役職付きの憲兵よりも、よっぽど仕事も出来るし、むしろ、仕事をしている。
「なんだ、お前。」
ロクだかハチだかの名前の同期が、ギロリとジャンを睨みつけた。
リヴァイ兵長よりも少し背が高い程度の同期は、見上げながら長身のジャンを睨みつけるから、なんだか馬鹿みたいだ。
これがリヴァイ兵長だったら、凄みとオーラを感じるのだけれど、彼の場合は薄っぺらすぎて、阿保みたいだ。
ジャンが、無意識に寄せた眉間の皴には、彼への嫌悪感が滲んでいた。
「調査兵団所属、副兵士長の補佐官をしています、
ジャン・キルシュタインです。」
こんな馬鹿の為に丁寧に答えなくてもいいのに———、ジャンは眉間にしわを寄せたままで、言葉だけは綺麗に答えた。
すると、同期は意地悪くニヤリと口の端を片方だけ上げた。
その顔には、見覚えがあった。
訓練兵時代、誰かがミスをしたのを目ざとく見つけたときの顔だ。
この後、この男は、勝ち誇った顔で相手を見下すのだ。
でも私には、ジャンが何かミスをしたとは思えなかったし、同期がジャンを見下す理由が分からなかった。
でも、彼にとってはとても大きな理由があった。
それは、私とジャンが〝調査兵〟だということだ。
「へぇ、まだクソガキのくせに一丁前に補佐官かよ。
さすが、人手不足の調査兵団だな。」
「そうっすね。」
勝ち誇ったように小馬鹿にする同期を、長身のジャンが面倒くさそうに見下ろしていた。
凸凹なやり取りが、より一層に、つまらないプライドの塊の同期を間抜けに見せていた。
でもそんなこと、自分が世界で一番イケていると信じている彼には分からないのだろう。
そして、信じられないことに、同期は、ジャンよりも自分の方が女性をエスコートするのにふさわしい男だと思っているようだった。
「こんなガキのエスコートじゃ、お姫様は満足出来ねぇだろ。
俺が代わりに守っててやるから、お前は俺の代わりに働いとけ。」
「は?」
「何か文句があんのかよ。」
思いきり眉を顰めたジャンに、同期は不機嫌に顔を歪めた。
理不尽なことを言っているのは、誰から見ても同期の方なのに、彼は自分が正しいと信じているようだった。
「いえ、別に。」
「なら、さっさとどっか行きやがれ。
俺は今から、なまえと大事な話があるんだよ。」
「え、そんなのない———。」
「分かりました。なら、俺は離れます。」
「えっ、なんでっ。」
ショックを隠し切れずに、私はジャンを見上げた。
すると、ジャンは、首を竦めて理由を教えてくれる。
「さっき、マルコに頼み事されたんですよ。
なまえさんのお守りがあるから無理だって断ったんすけど、
エスコート役が他にいるなら、俺が残る必要もないんで。」
「でもだからって…。」
私は、チラリと同期の方を見た。
勝ち誇ったように口の端を上げていて、本当に腹が立つし、気持ちが悪い。
ジャンの親友のマルコには会ったことがある。
責任感が強くて、柔らかい雰囲気からは想像もつかないくらいに強い信念を曲げずに戦える強く賢い男だ。
副兵士長の同伴で来たことを知っている上で、彼がジャンに頼みごとをしたのなら、きっと、それはそれなりに理由があるのだろう。
でも、だからって———。
この何処からどう見ても、顔が少しいいだけの残念な男と2人きりで取り残されるなんて、絶対に嫌だ。
それなのに———。
「じゃあ、先輩。なまえさんをよろしくお願いします。
誰が来ても諦めないで、なまえさんを口説き続けてくださいね。
応援してます。」
「生意気な見た目の割には、物分かりがいいじゃねぇか。」
「貴方ならきっと大丈夫だと思いますから、
安心してなまえさんを任せられるだけですよ。」
ジャンは、同期に向かってニッと白い歯を見せて笑った。
途端に、単純な同期は機嫌が良くなる。
「なんだ、お前、分かってんじゃねぇか。」
呆気なく背を向けて離れて行くジャンの背中を、同期が嬉しそうに見送る。
私は、これからも続くことが決定した地獄に、絶望していた。