◇第六十七話◇蝶々が舞うパーティー
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
なまえを夢中にする夢の世界から引きずり出したいと身としては、許しがたい感情だった。
でも、ドレスの裾を気にしながら階段を降りてくる彼女を見上げた時、ジャンは、まるで夢の世界へと迷い込んだような錯覚を起こしたのだ。
普段は化粧っ気のない彼女は、生まれ持った美貌で、すっぴんでも綺麗なのは、皆が知っての通りだ。
そんな彼女が、丁寧に化粧を施せば、この世のものとは思えない美しさを手に入れてしまう。
少なくとも、ジャンにとってはそうだった。
肩を出すデザインのドレスは、華奢でスタイルの良い彼女にとても似合っていた。
白く綺麗な陶器のような肌に照明が反射して、キラキラと輝きを放つ。
赤い小花が散りばめられたドレスを身に纏う彼女こそが、花になったようだった。
パーティーに強制参加させられるなまえの同伴を、補佐官のジャンはもう何度も担ってきた。
ドレス姿は見慣れたつもりでいた。
でも、今夜の彼女は、初めてドレス姿を見たとき以上に、美しく見えたのだ。
少なくとも、ジャンにとってはそのはずだった。
でも実際、それは、彼だけではなかったのだ。
「———なんだ、あれ。」
エルヴィンに雑用を頼まれてほんの10数分程、パーティーホールを離れただけだった。
だが、ジャンが戻って来たときにはもう、鼻の下を伸ばした貴族の男達がなまえの周りを取り囲んでいた。
ドレスに着替え終えたなまえを連れて、リヴァイやエルヴィンと共にパーティー会場となるこの屋敷にやって来たときから、男達の視線を感じていた。
彼女が隣にいると、それはよくあることだった。
でも、今回はいつもよりもそれが強い気がした。
そしてそれは、自分の心の変化がそう感じさせているだけなのだとも思っていたのだ。
でも———。
「あ~、今夜のなまえさん、凄く綺麗だもんね。」
ジャンの視線の先を見つけたヒッチが言う。
今夜は、警護の為に憲兵が多く配置されていた。ヒッチもそのうちの1人のはずなのだけれど、雑用を終えてホールに帰る途中だったジャンを見つけて、暇つぶしの気満々で声をかけ、とうとうここまでついてきたのだ。
「お前にもそう見える?」
「なにアンタ、惚気てんの。ウザいんですけど。」
ヒッチが、あからさまに嫌な顔をした。
だが、ジャンにとってはそれなりに真剣な質問だったのだ。
他の男達だけではなく、ヒッチにも、今夜の彼女が綺麗に見えているその理由は、何なのか。
顔が変わったわけではないし、痩せたり太ったりしたわけでもない。
でも、彼女が纏う雰囲気が、眩いくらいに美しく輝いて、見たものの目を釘付けにするのだ。
そして、心惹かれてしまう———。
遠くで、なまえは、言い寄る男達を無邪気な笑みで交わしている。
とても楽しそうに見えるし、もしかして期待してもいいんじゃないかと勘違いしている男もいるかもしれない。
でも、誰も相手にされていないのは、ジャンにはよく分かった。
彼女はいつもああやって、下心丸出しの男達を煙に巻くのだ。
何も気づいていないような顔をして、彼女はたぶん、策士だ。
だから、真正面から挑んだってダメなのだ。
たくさんの罠と策をあちこちに仕掛けて、ひとりではどうしようもなくなってしまった彼女が、自分がいないとダメだと勘違いしたところで、救ってやるフリをして手を差し伸べるくらいしないと、手に入れられない。
そう、蜘蛛の巣にかかって身動きが取れなくなった蝶々を絡めとるみたいに———。
「今夜のなまえさん、蝶々みたいよね。」
不意に、ヒッチが不思議なたとえをした。
でも、なぜか、しっくりと来たのだ。
「ふわふわ舞って、蝶々の粉みたいに、
フェロモンをまき散らしてる。」
「フェロモン?」
「そう。それに男が寄って行ってるって感じ。
いつもは無垢なお姫様って感じなのに、今夜は妙に色っぽいもん。
そのせいじゃないの。いつもよりも綺麗に見えるの。」
「あぁ…、そういうことか。」
やっと、ジャンは納得出来た。
さすが、ヒッチだと感心してしまう。
これがアニだったら、別にいつもと同じだとクールに聞き流されていたはずだ。
「蛹を蝶にしたのって、アンタ?」
「俺?」
「だって、アンタもいつもより・・・、いや、なんでもない。」
「はぁ?言えよ、なんだよ。」
「嫌だ。調子に乗りそうだから、絶対に嫌だ。」
結局、ヒッチははぐらかすように、仕事に戻ると離れて行った。
ジャンは小さく舌打ちをして、なまえの元へ向かう。
蝶になってしまったらしい彼女は、今夜も、無垢な笑顔を纏って、高級な花畑に見向きもせずに、高い空を飛んでいた。
でも、ドレスの裾を気にしながら階段を降りてくる彼女を見上げた時、ジャンは、まるで夢の世界へと迷い込んだような錯覚を起こしたのだ。
普段は化粧っ気のない彼女は、生まれ持った美貌で、すっぴんでも綺麗なのは、皆が知っての通りだ。
そんな彼女が、丁寧に化粧を施せば、この世のものとは思えない美しさを手に入れてしまう。
少なくとも、ジャンにとってはそうだった。
肩を出すデザインのドレスは、華奢でスタイルの良い彼女にとても似合っていた。
白く綺麗な陶器のような肌に照明が反射して、キラキラと輝きを放つ。
赤い小花が散りばめられたドレスを身に纏う彼女こそが、花になったようだった。
パーティーに強制参加させられるなまえの同伴を、補佐官のジャンはもう何度も担ってきた。
ドレス姿は見慣れたつもりでいた。
でも、今夜の彼女は、初めてドレス姿を見たとき以上に、美しく見えたのだ。
少なくとも、ジャンにとってはそのはずだった。
でも実際、それは、彼だけではなかったのだ。
「———なんだ、あれ。」
エルヴィンに雑用を頼まれてほんの10数分程、パーティーホールを離れただけだった。
だが、ジャンが戻って来たときにはもう、鼻の下を伸ばした貴族の男達がなまえの周りを取り囲んでいた。
ドレスに着替え終えたなまえを連れて、リヴァイやエルヴィンと共にパーティー会場となるこの屋敷にやって来たときから、男達の視線を感じていた。
彼女が隣にいると、それはよくあることだった。
でも、今回はいつもよりもそれが強い気がした。
そしてそれは、自分の心の変化がそう感じさせているだけなのだとも思っていたのだ。
でも———。
「あ~、今夜のなまえさん、凄く綺麗だもんね。」
ジャンの視線の先を見つけたヒッチが言う。
今夜は、警護の為に憲兵が多く配置されていた。ヒッチもそのうちの1人のはずなのだけれど、雑用を終えてホールに帰る途中だったジャンを見つけて、暇つぶしの気満々で声をかけ、とうとうここまでついてきたのだ。
「お前にもそう見える?」
「なにアンタ、惚気てんの。ウザいんですけど。」
ヒッチが、あからさまに嫌な顔をした。
だが、ジャンにとってはそれなりに真剣な質問だったのだ。
他の男達だけではなく、ヒッチにも、今夜の彼女が綺麗に見えているその理由は、何なのか。
顔が変わったわけではないし、痩せたり太ったりしたわけでもない。
でも、彼女が纏う雰囲気が、眩いくらいに美しく輝いて、見たものの目を釘付けにするのだ。
そして、心惹かれてしまう———。
遠くで、なまえは、言い寄る男達を無邪気な笑みで交わしている。
とても楽しそうに見えるし、もしかして期待してもいいんじゃないかと勘違いしている男もいるかもしれない。
でも、誰も相手にされていないのは、ジャンにはよく分かった。
彼女はいつもああやって、下心丸出しの男達を煙に巻くのだ。
何も気づいていないような顔をして、彼女はたぶん、策士だ。
だから、真正面から挑んだってダメなのだ。
たくさんの罠と策をあちこちに仕掛けて、ひとりではどうしようもなくなってしまった彼女が、自分がいないとダメだと勘違いしたところで、救ってやるフリをして手を差し伸べるくらいしないと、手に入れられない。
そう、蜘蛛の巣にかかって身動きが取れなくなった蝶々を絡めとるみたいに———。
「今夜のなまえさん、蝶々みたいよね。」
不意に、ヒッチが不思議なたとえをした。
でも、なぜか、しっくりと来たのだ。
「ふわふわ舞って、蝶々の粉みたいに、
フェロモンをまき散らしてる。」
「フェロモン?」
「そう。それに男が寄って行ってるって感じ。
いつもは無垢なお姫様って感じなのに、今夜は妙に色っぽいもん。
そのせいじゃないの。いつもよりも綺麗に見えるの。」
「あぁ…、そういうことか。」
やっと、ジャンは納得出来た。
さすが、ヒッチだと感心してしまう。
これがアニだったら、別にいつもと同じだとクールに聞き流されていたはずだ。
「蛹を蝶にしたのって、アンタ?」
「俺?」
「だって、アンタもいつもより・・・、いや、なんでもない。」
「はぁ?言えよ、なんだよ。」
「嫌だ。調子に乗りそうだから、絶対に嫌だ。」
結局、ヒッチははぐらかすように、仕事に戻ると離れて行った。
ジャンは小さく舌打ちをして、なまえの元へ向かう。
蝶になってしまったらしい彼女は、今夜も、無垢な笑顔を纏って、高級な花畑に見向きもせずに、高い空を飛んでいた。