夕方、訓練の指導を終えたジャンは、巨人研究所へとやって来ていた。
手近にいたハンジの分隊の調査兵に聞くところによると、なまえは、捕獲した2体の巨人の実験に付き合わされているということだった。
今度、その被験体である巨人のうなじの中がどうなっているのかを調べる実験を行う際に、うなじを削ぐ役目をリヴァイ班にお願いしようとして忙しいからと断られてしまい、なまえに白羽の矢が立ったらしい。
そして、今日は、その演習の為に、いきなり攫われたようだ。
そういえば、少し前になまえがそんな実験をすると言っていたっけ——。
そんなことを考えながら、研究所の中を通って、奥にある広場に出ると、ハンジにソニーとビーンと名付けられた2体の巨人のすぐそばに座って居眠りをしているなまえを見つけた。
実験道具を置いてある木箱が、ちょうど良い背もたれになってしまっている。
巨人の身体は杭や縄で拘束しているにしても、さすがに危険だ。
そばに他の調査兵達もいるが、興奮気味に何かを喚いているハンジの相手で忙しいらしく、おそらく、なまえが居眠りしていることにも気づいていない。

（あの人、俺がそばにいねぇと馬鹿な理由で死ぬな。）

ジャンから、ため息と呆れ、それから、苦笑が漏れた。
そして、迎えに来た相手の名前を呼ぶ———。

「なまえさ———。」
「なまえ！」

ジャンに被さったのは、リヴァイの声だった。
研究所の裏手からやって来たらしく、彼の方が、なまえとの距離が最初から近かった。
だから、目を覚ましたなまえが最初に見たのは、リヴァイだった。
思わず、ジャンは立ち止まってしまう。
視線の少し先で、リヴァイが眉を顰めて叱りながら、なまえに手を差し伸べていた。
なまえがヘラヘラと笑って、彼の手を掴む。そして、起こしてもらう。
それは、何度も見たことのある光景だった。
初めて、彼女の存在を認識した時から、彼らはそうだった。
見慣れていたジャンは、いつもなら、見過ごすことも出来たはずだった。
そのはずなのに、不快な感情がドロッと溢れ出るのを止められなかった。
リヴァイが、なまえの首筋の辺りを指さして何かを言う。
すると、彼女は顔を赤くして、慌てた様子で首筋を手で隠した。
呆れたようにため息を吐いて、リヴァイが何かを言えば、なまえは素直に頷く。
ジャンは、無意識に拳を握って、彼らを睨みつけていた。
そしてそのまま、リヴァイがハンジの元へ向かうまで、なまえに近づけなかった。