◇第六十五話◇靡かない印で愛を教える
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「なまえ、借りてくよーーーーー!!」
まだ眠りたいと腰を押さえて歩くなまえを引きずって部屋を出たところで、奇行種が猛スピードで現れた。
あっという間の出来事だった。
気づいたときには、なまえはもうハンジに攫われていた。
なまえを肩に抱え上げた奇行種が、現れたときと同じ猛スピードで走り去っていく。
そして、風の速さで小さくなっていく背中を、今日も朝から不憫な補佐官が追いかける。
「おはよう!悪い、ジャン!ちょっとなまえを借りる!!
研究所にいるから、訓練終わったら迎えに来てやってくれ!!」
走りながら振り向いたモブリットが、早口でジャンに言った。
そして、呆気にとられるジャンが返事をするのを待つ暇もなく、奇行種を追いかけて走り去っていった。
「…何なんだ。」
ジャンは首の後ろを掻きながら呟く。
とりあえず、なまえが攫われた場所も把握したし、モブリットも絡んでいるのなら、任務ではあるのだろう。
そう判断して、あっという間に去っていったハンジ達から背を向けて、廊下を歩き出した。
向かうのは、調査兵団兵舎に隣接されている訓練場だ。
今日の任務は、ミケ分隊に所属している調査兵歴2年以下の調査兵達の指導だった。
立体起動の得意なジャンに、ミケが頼んだカタチだ。
正直、なまえがいなくても問題はない。
決して、彼女の立体起動が下手だというわけではない。
むしろ逆で、学ぶべきところはたくさんある。
目にも止まらぬ速さで縦横無尽に飛び回るのに、無駄な動きは一切なく、初めて彼女の立体起動を見たときは、この人は本当に空を飛んでるんじゃないかと一瞬本気で思ってしまったくらいだ。
そして、さらに驚くのは、全てが終わった後、彼女のボンベには、ガスが多く残っていることだ。
ガスの消費量も最低限に抑えて、彼女は空を自由に飛び回っているのだ。
でも、なまえの立体起動術を手にしたいのなら、見て学ぶしかない。
運動神経もよく、経験値の高いなまえは、理屈ではなく、身体が感覚で覚えているのだ。
そして何よりも、彼女は、指導者には向いてなさすぎる。
ジャンも教えるということが得意なわけではないけれど、彼女よりは上手くやれる自信がある。
技巧室で立体起動装置を装着してから訓練場に向かうと、後輩調査兵達が準備やお喋りに勤しんでいた。
「ジャンさん!!おはようございます!!」
ジャンに気づいて、見覚えのある調査兵達が駆け寄ってくる。
その中には、以前、好きだと告白をしてきたフレイヤもいた。
あれから、会うのは初めてだった。
いろんなことがあって考える暇はなかったけれど、忘れていたわけでもない。
告白をされたことなんて初めてで驚いたし、これが15の自分なら両手をあげて喜んだ自信がある。
でも、誰を見ても、これがなまえなら、と思ってしまって感動が薄れてしまうのだ。
早く、彼女とのことを決着させなければ、とは思っている。
このままでは、うまくいくにしろ、そうではないにしろ、自分にとって良い結果にはならない。
「なまえさんも一緒に指導って聞いてたんですけど、
後から来るんですか?」
「あー…、さっき、ハンジさんに攫われてった。
だから今日は、指導は俺だけ。
副兵士長がいねぇからって、手ェ抜くなよ。」
ジャンがそう言えば、後輩調査兵達は、元気に返事を返した。
既に、後輩達が、巨人に模したハリボテや罠の仕掛け等、訓練の準備は終わらせてくれていたようだった。
それなら、早速、訓練に取り掛かろうと全員を呼び集めようとしたとき、1人の後輩調査兵が、ジャンの首元を指さして口を開いた。
「ジャンさん、そこどうしたんすか?怪我っすか?」
彼の指摘に、他の後輩達も、ジャンの首元へと視線を向ける。
不思議そうに首を傾げたり、心配そうにする表情の中に、顔を真っ赤にする初々しい反応もあった。
恐らく、それが何かを理解出来たのは、半数くらいだったはずだ。
首元を見てすぐに、嫌悪感を丸出しにして表情を歪めたフレイヤはきっと、理解した側だろう。
「あー、これ。」
ジャンは、自分の首筋に手を触れる。
襟の詰まっているシャツを着れば隠せるような絶妙な位置に咲いた紅い花には、今朝、鏡で確認済みだった。
そして、チェストの中から選んだのは、襟の開いたシャツだ。
「売約済みの印。」
ジャンは、左手の薬指で、キスマークの辺りを撫でた。
これは、フレイヤに向けた、メッセージだ。
「なまえさんにつけられたんすか。」
ニヤニヤと笑って、後輩調査兵が面白がる。
何のことだと首を傾げる後輩もいる中で、同じような顔をしている数名に「やめなよ。」と頬を赤らめている女の後輩調査兵も含めて、彼らはこの意味を理解したのだろう。
「他の女なわけねぇだろ。
なまえさん以外のもんになる気はねぇよ。」
ジャンは、フレイヤの方を見て言った。
ビクリ、と彼女が肩と瞳を揺らした。
可哀想な気もするけれど、面倒を避けるためにも、彼女がいつまでも叶わない相手を想い続けない為にも、ハッキリさせておいた方がいいことだ。
「なまえさんにも売約済みの印、ついてるんすか?」
「さぁ、どうだったかな。
———さ、雑談はここまで。訓練始めるぞ。」
「えーーーっ、教えてくださいよ~!!」
ニヤけている後輩を適当に交わしたジャンは、まだお喋りをしたいと騒ぐ後輩達を引き連れて、訓練場の中央へと向かう。
チラリと後ろを振り向くと、走り去っていくフレイヤの華奢な背中が見えた。
まだ眠りたいと腰を押さえて歩くなまえを引きずって部屋を出たところで、奇行種が猛スピードで現れた。
あっという間の出来事だった。
気づいたときには、なまえはもうハンジに攫われていた。
なまえを肩に抱え上げた奇行種が、現れたときと同じ猛スピードで走り去っていく。
そして、風の速さで小さくなっていく背中を、今日も朝から不憫な補佐官が追いかける。
「おはよう!悪い、ジャン!ちょっとなまえを借りる!!
研究所にいるから、訓練終わったら迎えに来てやってくれ!!」
走りながら振り向いたモブリットが、早口でジャンに言った。
そして、呆気にとられるジャンが返事をするのを待つ暇もなく、奇行種を追いかけて走り去っていった。
「…何なんだ。」
ジャンは首の後ろを掻きながら呟く。
とりあえず、なまえが攫われた場所も把握したし、モブリットも絡んでいるのなら、任務ではあるのだろう。
そう判断して、あっという間に去っていったハンジ達から背を向けて、廊下を歩き出した。
向かうのは、調査兵団兵舎に隣接されている訓練場だ。
今日の任務は、ミケ分隊に所属している調査兵歴2年以下の調査兵達の指導だった。
立体起動の得意なジャンに、ミケが頼んだカタチだ。
正直、なまえがいなくても問題はない。
決して、彼女の立体起動が下手だというわけではない。
むしろ逆で、学ぶべきところはたくさんある。
目にも止まらぬ速さで縦横無尽に飛び回るのに、無駄な動きは一切なく、初めて彼女の立体起動を見たときは、この人は本当に空を飛んでるんじゃないかと一瞬本気で思ってしまったくらいだ。
そして、さらに驚くのは、全てが終わった後、彼女のボンベには、ガスが多く残っていることだ。
ガスの消費量も最低限に抑えて、彼女は空を自由に飛び回っているのだ。
でも、なまえの立体起動術を手にしたいのなら、見て学ぶしかない。
運動神経もよく、経験値の高いなまえは、理屈ではなく、身体が感覚で覚えているのだ。
そして何よりも、彼女は、指導者には向いてなさすぎる。
ジャンも教えるということが得意なわけではないけれど、彼女よりは上手くやれる自信がある。
技巧室で立体起動装置を装着してから訓練場に向かうと、後輩調査兵達が準備やお喋りに勤しんでいた。
「ジャンさん!!おはようございます!!」
ジャンに気づいて、見覚えのある調査兵達が駆け寄ってくる。
その中には、以前、好きだと告白をしてきたフレイヤもいた。
あれから、会うのは初めてだった。
いろんなことがあって考える暇はなかったけれど、忘れていたわけでもない。
告白をされたことなんて初めてで驚いたし、これが15の自分なら両手をあげて喜んだ自信がある。
でも、誰を見ても、これがなまえなら、と思ってしまって感動が薄れてしまうのだ。
早く、彼女とのことを決着させなければ、とは思っている。
このままでは、うまくいくにしろ、そうではないにしろ、自分にとって良い結果にはならない。
「なまえさんも一緒に指導って聞いてたんですけど、
後から来るんですか?」
「あー…、さっき、ハンジさんに攫われてった。
だから今日は、指導は俺だけ。
副兵士長がいねぇからって、手ェ抜くなよ。」
ジャンがそう言えば、後輩調査兵達は、元気に返事を返した。
既に、後輩達が、巨人に模したハリボテや罠の仕掛け等、訓練の準備は終わらせてくれていたようだった。
それなら、早速、訓練に取り掛かろうと全員を呼び集めようとしたとき、1人の後輩調査兵が、ジャンの首元を指さして口を開いた。
「ジャンさん、そこどうしたんすか?怪我っすか?」
彼の指摘に、他の後輩達も、ジャンの首元へと視線を向ける。
不思議そうに首を傾げたり、心配そうにする表情の中に、顔を真っ赤にする初々しい反応もあった。
恐らく、それが何かを理解出来たのは、半数くらいだったはずだ。
首元を見てすぐに、嫌悪感を丸出しにして表情を歪めたフレイヤはきっと、理解した側だろう。
「あー、これ。」
ジャンは、自分の首筋に手を触れる。
襟の詰まっているシャツを着れば隠せるような絶妙な位置に咲いた紅い花には、今朝、鏡で確認済みだった。
そして、チェストの中から選んだのは、襟の開いたシャツだ。
「売約済みの印。」
ジャンは、左手の薬指で、キスマークの辺りを撫でた。
これは、フレイヤに向けた、メッセージだ。
「なまえさんにつけられたんすか。」
ニヤニヤと笑って、後輩調査兵が面白がる。
何のことだと首を傾げる後輩もいる中で、同じような顔をしている数名に「やめなよ。」と頬を赤らめている女の後輩調査兵も含めて、彼らはこの意味を理解したのだろう。
「他の女なわけねぇだろ。
なまえさん以外のもんになる気はねぇよ。」
ジャンは、フレイヤの方を見て言った。
ビクリ、と彼女が肩と瞳を揺らした。
可哀想な気もするけれど、面倒を避けるためにも、彼女がいつまでも叶わない相手を想い続けない為にも、ハッキリさせておいた方がいいことだ。
「なまえさんにも売約済みの印、ついてるんすか?」
「さぁ、どうだったかな。
———さ、雑談はここまで。訓練始めるぞ。」
「えーーーっ、教えてくださいよ~!!」
ニヤけている後輩を適当に交わしたジャンは、まだお喋りをしたいと騒ぐ後輩達を引き連れて、訓練場の中央へと向かう。
チラリと後ろを振り向くと、走り去っていくフレイヤの華奢な背中が見えた。