◇第六話◇嘘つきの天才が世界一の愛を誓う
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翌日の朝、私とジャンは、調査兵団兵舎内にある団長の執務室を訪れていた。
今月末の退団を希望していた私の退団願い取り下げの為だ。
昨日、お互いに腹を括った後、書類仕事もそこそこに、私達は、団長への報告をどのように行うか、慎重に慎重を重ねて作戦を練った。
あまり凝った設定にしてしまってもどこかで辻褄が合わなくなってしまうに決まっているし、だからと言って、いきなり昨日恋人になったでは信憑性に欠ける——。
そういう結論に至った私達は『実は、1年前からこっそり交際していた。』ということにした。
それを公にしなかったのは、ジャンがまだ未成年であり、さらには、上官とその補佐という立場にあるため、堂々とは出来なかったからという言訳も用意した。
さすがに、18歳と恋人になったというのは犯罪なのではないかと思ったのだけれど、『なら19なら問題ないんすか?』とジャンに言われてしまって、そんなこと気にしている問題ではないことに気がついた。
どちらにしろ、ジャンはまだ19歳で、私はそんな若い彼に恋人役を押しつけようとしているのだ。
昨日の夜からずっと不安だった私は、全ての説明をジャンに任せると、大きな背中に隠れて、彼の兵団ジャケットの裾を握り、目を伏せていた。
これも、策士のジャンに指示されたパフォーマンスだ。
壊滅的に嘘が下手らしい私は、喋るどころか、顔を見られるだけで、勘の鋭い団長に見抜かれてしまうから、こうやって歳下の彼氏に守られているフリをして、後ろに隠れて顔を隠すのが一番良いのだそうだ。
でも、正直、私もそう思う。
頼りになる補佐からのその指示は、とても助かった。
だって、こんな日に限って、団長は普段はあまりみない眼鏡をかけていて、それがまるで、より良い視界で私達の嘘を見抜こうとしているみたいに見えたのだ。
私は、退団願い取り下げを希望する理由を説明するどころか、ジャンの後ろに隠れているだけでも、嘘がバレるのではないかという不安と、団長に嘘を吐いているという罪悪感から、吐き気を催していた。
あぁ、本当に——。
今にも吐けそうだ。
私は、ジャンの兵団ジャケットの裾を握る手に力を込めた。
どうしよう、早く終わらせたい。
そうしないと、私が吐き出してしまった今朝のパンとスープを受け止めたジャンの背中が、散らかったトレイみたいになってしまう。
「申し訳ない。少し、ぼんやりしていたのかもしれない。
うまく理解が出来なかったようだ。
もう一度、突然、退団願いの取り下げを希望することになった理由を聞いてもいいだろうか。」
ジャンの説明をすべて聞き終わった団長は、僅かに眉間に皴を寄せると、訝し気な表情を浮かべる。
「はい、団長に彼女の退団を取り消してもらえるまで、
何度でも説明します。」
背筋を真っすぐに伸ばし、ジャンが答えた。
団長に向かって堂々と嘘を吐くジャンが、私は信じられなかった。
上官の私に対しても平気で軽口を叩くし、ミケ分隊長とも堂々と話しているから、肝の据わっている後輩だとはずっと思っていた。
でも、ここまでだとは正直思っていなくて、驚いている。
彼の上官であるはずの私は、今にも、団長への報告の前にエネルギーをつけなくては、と思って必死に押し込んできた朝食を、すべてなかったことにしてしまいそうになっているというのに——。
「やはり、聞き間違いではなかったようだ。」
身体を少し前のめりにして、ジャンの話に真剣に耳を傾けていた団長は、説明が終わるとゆっくりと身体を起こしながら言った。
そして、内容を確かめるように、ジャンの説明を復唱し始めた。
「そうか…、君たちは1年前から男女の仲にあったんだな?」
団長の言い方がやけに生々しくて、耳が痒かった。
でも、ジャンは澄ました顔で「はい、そうです。」なんて答えている。
彼は、嘘を吐く天才なのかもしれない。
「それで、なまえは、まだ未成年の彼との結婚は望めないと考えて、
ご両親の元へ戻ろうとしたが、昨晩、退団が決まったことと
その理由を知った君が、20になるまで待って欲しいと彼女を引き留めた、と。」
「はい。」
ジャンは、ハッキリと返事をした。
不安になって、私はジャンの背中からこっそり団長の様子を伺った。
ジャンの返事を聞いた団長は、ゆっくりと眼鏡を外した。
そして、デスクに肘をついて顔を伏せると、鼻の付け根を指でつまみ「うーん。」と眉を顰め小さく唸った。
あまりに突拍子もない話過ぎて、信じてもいいか、考えあぐねているのかもしれない。
やっぱり、団長を騙すなんて無理がありすぎたのだ。
そう思ったのだけれど、団長は意外なことを言い出した。
「いや…、君達の話を信じていないわけではない。
振り返れば、そういうことかと納得できるところもある。」
「え、うそ。」
思わず、声が漏れてしまった。
団長と目が合って、私は慌てて大きな背中の後ろに隠れた。
でも、首だけを捻って後ろを向いたジャンに見下ろされて、思いっきり睨まれてしまった。
≪ごめん…‼≫
眉尻を下げて、私は目だけで謝った。
少しだけまだ眉を顰めていたジャンだったけれど、反省は伝わったようで、私を睨むのをやめて前を向いた。
「人前ではただの上官と補佐でいたつもりだったのですが、さすが団長ですね。
上手く隠しているつもりだったので、彼女も驚いてしまったみたいです。」
「あぁ…そうか。でも、私も正直、とても驚いている。
なまえは、リヴァイとそういう仲なのかと思っていた。」
「え!?」
ポツリ、と本音を漏らすように団長が言ったそれが信じられなくて、私はまた声を出してしまった。
しかも今度は、だいぶ大きなボリュームだったおかげで、静かな執務室に響いてしまった。
チラリと後ろを向いたジャンが、怖い顔で私を睨む。
すぐに謝ろうとしたけれど、ジャンは、私が謝るのを待たずに、団長の方を向いてから口を開いた。
「団長、俺の前でそれを言いますか?だいぶ傷つくんですけど。」
「あぁ…、すまない。そうやって並んでいるのを見ると、
君達はとてもお似合いだ。」
とってつけたような団長のフォローだったけれど、ジャンがそれ以上何かを言うことはなかった。
とりあえず、団長が、私達の嘘を信じてくれていることにホッとするのと同時に、罪悪感が増した。
「なまえは調査兵団にとって大切な戦力だった。
彼女の特殊な能力にも助けられている。本当に調査兵団に残ってもらえるのなら、
私だけではなく、人類にとっても嬉しいことだ。だが—。」
団長は、そこまで言うと、一旦、言葉を切った。
そして、一度、小さな深呼吸をした後に、私の両親の許可がなければ認めるわけにはいかないのだ、と小さく横に首を振った。
無意識に、ジャンの兵団ジャケットの裾を握る手に力がこもった。
両親が、6つも歳下の恋人がいることを許してくれるだろうか。
そして、彼が20歳になるまであと1年待って欲しいなんて、そんな我儘を認めてくれるだろうか。
すると、不安で震える私の手を、骨ばった大きな手が包み込んだ。
痛いくらいに強く握られて、震えが強制的にピタリと止まる。
驚いて顔を上げると、後ろ手で私の手を握りしめたままで、ジャンは真っすぐに団長を見据えていた。
そして、不安に負けそうな私とは対照的に、眩しいくらいに堂々と答えた。
「この世界で、なまえさんを幸せに出来るのは、俺だけです。
彼女の幸せを誰よりも願うご両親が、許可を出さない理由がありません。」
「それはまた、凄い自信だな。」
「確かに、戦死数が一番多い調査兵団に10年も在籍し、
素晴らしい功績を残してきたなまえさんの結婚相手としては、
悔しいですが、俺はまだまだです。ですが、彼女を想う気持ちは誰にも負けません。」
ジャンは、真っすぐに答えた。
その真っすぐな眼差しを、団長もしっかりと受け止めている。
これが本当の恋人同士なら、今頃私は胸を躍らせて、ドキドキして、惚れ直しているのだろうと思う。
たとえば、お姫様と彼女を守る騎士が身分違いの恋をしてしまったとか。
そして、騎士は、お姫様の父親である王様に、自分がどれほど彼女を愛しているのかを訴えて、結婚を認めてほしいと懇願する——。
こんな風に、不安な私の手を握って、凛々しい騎士が、堂々と愛を誓ってくれたら、どんなにロマンチックだろう。
私の思考が、また夢の世界へと旅立っていた頃、現実の世界では、ジャンが団長に、とても男らしい宣言をしていた。
「来年、世間が俺を大人だと認めてくれる歳になる頃には、彼女の功績を越える結果を残し、
兵士としても男としても、誰よりも彼女の隣が相応しいのは俺だと、
なまえさんのご両親だけではなく、世界中に認めさせてみせます。」
「そうか。それは頼もしいな。
彼女の功績を越えるのは大変だとは思うが、最近の君の仕事ぶりを思えば、
そう難しいことだとは感じない。これからの君にも期待している。」
「は!!」
背筋をしゃんと伸ばし敬礼を返すために、ジャンは握っていた私の手を離した。
そこで漸く、私は、お姫様と凛々しい騎士が愛を誓いあっていた夢の世界から戻って来た。
「あれ?終わったの?」
背中から顔を出して、私はジャンを見上げて訊ねた。
敬礼したまま私を見下ろしたジャンが、大きなため息を吐いた。
そんな私達に苦笑を浮かべながら、団長が答えてくれた。
「日程を調整後、数日以内に君達に休暇を出そう。
2人でなまえのご両親にご挨拶に行ってきなさい。
そこで許可を貰えれば、私はいつでも、喜んでこれを破り捨てよう。」
団長はそう言って、私が自分に嘘ばかりをついて書いた退団願いの封筒を見せた。
今月末の退団を希望していた私の退団願い取り下げの為だ。
昨日、お互いに腹を括った後、書類仕事もそこそこに、私達は、団長への報告をどのように行うか、慎重に慎重を重ねて作戦を練った。
あまり凝った設定にしてしまってもどこかで辻褄が合わなくなってしまうに決まっているし、だからと言って、いきなり昨日恋人になったでは信憑性に欠ける——。
そういう結論に至った私達は『実は、1年前からこっそり交際していた。』ということにした。
それを公にしなかったのは、ジャンがまだ未成年であり、さらには、上官とその補佐という立場にあるため、堂々とは出来なかったからという言訳も用意した。
さすがに、18歳と恋人になったというのは犯罪なのではないかと思ったのだけれど、『なら19なら問題ないんすか?』とジャンに言われてしまって、そんなこと気にしている問題ではないことに気がついた。
どちらにしろ、ジャンはまだ19歳で、私はそんな若い彼に恋人役を押しつけようとしているのだ。
昨日の夜からずっと不安だった私は、全ての説明をジャンに任せると、大きな背中に隠れて、彼の兵団ジャケットの裾を握り、目を伏せていた。
これも、策士のジャンに指示されたパフォーマンスだ。
壊滅的に嘘が下手らしい私は、喋るどころか、顔を見られるだけで、勘の鋭い団長に見抜かれてしまうから、こうやって歳下の彼氏に守られているフリをして、後ろに隠れて顔を隠すのが一番良いのだそうだ。
でも、正直、私もそう思う。
頼りになる補佐からのその指示は、とても助かった。
だって、こんな日に限って、団長は普段はあまりみない眼鏡をかけていて、それがまるで、より良い視界で私達の嘘を見抜こうとしているみたいに見えたのだ。
私は、退団願い取り下げを希望する理由を説明するどころか、ジャンの後ろに隠れているだけでも、嘘がバレるのではないかという不安と、団長に嘘を吐いているという罪悪感から、吐き気を催していた。
あぁ、本当に——。
今にも吐けそうだ。
私は、ジャンの兵団ジャケットの裾を握る手に力を込めた。
どうしよう、早く終わらせたい。
そうしないと、私が吐き出してしまった今朝のパンとスープを受け止めたジャンの背中が、散らかったトレイみたいになってしまう。
「申し訳ない。少し、ぼんやりしていたのかもしれない。
うまく理解が出来なかったようだ。
もう一度、突然、退団願いの取り下げを希望することになった理由を聞いてもいいだろうか。」
ジャンの説明をすべて聞き終わった団長は、僅かに眉間に皴を寄せると、訝し気な表情を浮かべる。
「はい、団長に彼女の退団を取り消してもらえるまで、
何度でも説明します。」
背筋を真っすぐに伸ばし、ジャンが答えた。
団長に向かって堂々と嘘を吐くジャンが、私は信じられなかった。
上官の私に対しても平気で軽口を叩くし、ミケ分隊長とも堂々と話しているから、肝の据わっている後輩だとはずっと思っていた。
でも、ここまでだとは正直思っていなくて、驚いている。
彼の上官であるはずの私は、今にも、団長への報告の前にエネルギーをつけなくては、と思って必死に押し込んできた朝食を、すべてなかったことにしてしまいそうになっているというのに——。
「やはり、聞き間違いではなかったようだ。」
身体を少し前のめりにして、ジャンの話に真剣に耳を傾けていた団長は、説明が終わるとゆっくりと身体を起こしながら言った。
そして、内容を確かめるように、ジャンの説明を復唱し始めた。
「そうか…、君たちは1年前から男女の仲にあったんだな?」
団長の言い方がやけに生々しくて、耳が痒かった。
でも、ジャンは澄ました顔で「はい、そうです。」なんて答えている。
彼は、嘘を吐く天才なのかもしれない。
「それで、なまえは、まだ未成年の彼との結婚は望めないと考えて、
ご両親の元へ戻ろうとしたが、昨晩、退団が決まったことと
その理由を知った君が、20になるまで待って欲しいと彼女を引き留めた、と。」
「はい。」
ジャンは、ハッキリと返事をした。
不安になって、私はジャンの背中からこっそり団長の様子を伺った。
ジャンの返事を聞いた団長は、ゆっくりと眼鏡を外した。
そして、デスクに肘をついて顔を伏せると、鼻の付け根を指でつまみ「うーん。」と眉を顰め小さく唸った。
あまりに突拍子もない話過ぎて、信じてもいいか、考えあぐねているのかもしれない。
やっぱり、団長を騙すなんて無理がありすぎたのだ。
そう思ったのだけれど、団長は意外なことを言い出した。
「いや…、君達の話を信じていないわけではない。
振り返れば、そういうことかと納得できるところもある。」
「え、うそ。」
思わず、声が漏れてしまった。
団長と目が合って、私は慌てて大きな背中の後ろに隠れた。
でも、首だけを捻って後ろを向いたジャンに見下ろされて、思いっきり睨まれてしまった。
≪ごめん…‼≫
眉尻を下げて、私は目だけで謝った。
少しだけまだ眉を顰めていたジャンだったけれど、反省は伝わったようで、私を睨むのをやめて前を向いた。
「人前ではただの上官と補佐でいたつもりだったのですが、さすが団長ですね。
上手く隠しているつもりだったので、彼女も驚いてしまったみたいです。」
「あぁ…そうか。でも、私も正直、とても驚いている。
なまえは、リヴァイとそういう仲なのかと思っていた。」
「え!?」
ポツリ、と本音を漏らすように団長が言ったそれが信じられなくて、私はまた声を出してしまった。
しかも今度は、だいぶ大きなボリュームだったおかげで、静かな執務室に響いてしまった。
チラリと後ろを向いたジャンが、怖い顔で私を睨む。
すぐに謝ろうとしたけれど、ジャンは、私が謝るのを待たずに、団長の方を向いてから口を開いた。
「団長、俺の前でそれを言いますか?だいぶ傷つくんですけど。」
「あぁ…、すまない。そうやって並んでいるのを見ると、
君達はとてもお似合いだ。」
とってつけたような団長のフォローだったけれど、ジャンがそれ以上何かを言うことはなかった。
とりあえず、団長が、私達の嘘を信じてくれていることにホッとするのと同時に、罪悪感が増した。
「なまえは調査兵団にとって大切な戦力だった。
彼女の特殊な能力にも助けられている。本当に調査兵団に残ってもらえるのなら、
私だけではなく、人類にとっても嬉しいことだ。だが—。」
団長は、そこまで言うと、一旦、言葉を切った。
そして、一度、小さな深呼吸をした後に、私の両親の許可がなければ認めるわけにはいかないのだ、と小さく横に首を振った。
無意識に、ジャンの兵団ジャケットの裾を握る手に力がこもった。
両親が、6つも歳下の恋人がいることを許してくれるだろうか。
そして、彼が20歳になるまであと1年待って欲しいなんて、そんな我儘を認めてくれるだろうか。
すると、不安で震える私の手を、骨ばった大きな手が包み込んだ。
痛いくらいに強く握られて、震えが強制的にピタリと止まる。
驚いて顔を上げると、後ろ手で私の手を握りしめたままで、ジャンは真っすぐに団長を見据えていた。
そして、不安に負けそうな私とは対照的に、眩しいくらいに堂々と答えた。
「この世界で、なまえさんを幸せに出来るのは、俺だけです。
彼女の幸せを誰よりも願うご両親が、許可を出さない理由がありません。」
「それはまた、凄い自信だな。」
「確かに、戦死数が一番多い調査兵団に10年も在籍し、
素晴らしい功績を残してきたなまえさんの結婚相手としては、
悔しいですが、俺はまだまだです。ですが、彼女を想う気持ちは誰にも負けません。」
ジャンは、真っすぐに答えた。
その真っすぐな眼差しを、団長もしっかりと受け止めている。
これが本当の恋人同士なら、今頃私は胸を躍らせて、ドキドキして、惚れ直しているのだろうと思う。
たとえば、お姫様と彼女を守る騎士が身分違いの恋をしてしまったとか。
そして、騎士は、お姫様の父親である王様に、自分がどれほど彼女を愛しているのかを訴えて、結婚を認めてほしいと懇願する——。
こんな風に、不安な私の手を握って、凛々しい騎士が、堂々と愛を誓ってくれたら、どんなにロマンチックだろう。
私の思考が、また夢の世界へと旅立っていた頃、現実の世界では、ジャンが団長に、とても男らしい宣言をしていた。
「来年、世間が俺を大人だと認めてくれる歳になる頃には、彼女の功績を越える結果を残し、
兵士としても男としても、誰よりも彼女の隣が相応しいのは俺だと、
なまえさんのご両親だけではなく、世界中に認めさせてみせます。」
「そうか。それは頼もしいな。
彼女の功績を越えるのは大変だとは思うが、最近の君の仕事ぶりを思えば、
そう難しいことだとは感じない。これからの君にも期待している。」
「は!!」
背筋をしゃんと伸ばし敬礼を返すために、ジャンは握っていた私の手を離した。
そこで漸く、私は、お姫様と凛々しい騎士が愛を誓いあっていた夢の世界から戻って来た。
「あれ?終わったの?」
背中から顔を出して、私はジャンを見上げて訊ねた。
敬礼したまま私を見下ろしたジャンが、大きなため息を吐いた。
そんな私達に苦笑を浮かべながら、団長が答えてくれた。
「日程を調整後、数日以内に君達に休暇を出そう。
2人でなまえのご両親にご挨拶に行ってきなさい。
そこで許可を貰えれば、私はいつでも、喜んでこれを破り捨てよう。」
団長はそう言って、私が自分に嘘ばかりをついて書いた退団願いの封筒を見せた。