「ここだけの話なんだけどね、」

午後から始まった会議の休憩中、エルヴィンとリヴァイが部屋を出ていくと、なまえは、ハンジ班の精鋭達を集めて、コソコソと小声で喋り始めた。
内容は、〝聞いて驚け、巨人の衝撃の事実〟らしい。
精鋭達は興味津々に耳を傾けているが、ジャンだけは、そんなことはどうでもよかった。

『初めては、ジャンがいいの。惚れてる男は、ジャンなの。』

現実にはなかったはずのセリフまで付け足されているような気がしなくもないが、なまえの声が、ジャンの頭ではずっと鳴り響いていた。
でも、あれからもう1週間が経っているというのに、そういう雰囲気に全くならない。
ちょうどそのタイミングで訓練の時間が増えたこともあり、なまえは、夜になると、まるで突然意識を失うようにベッドで寝てしまうからだ。
でも、今日は違う。
朝から会議で、身体を使う任務はない。
今夜は、もう少し起きていてくれるのではないか———と期待しているのだ。

「巨人が元は人間だなんて話、にわかには信じ難いな。」

なまえの話を聞いていたライナーが、筋肉質な腕をくみ、訝し気に眉を顰めた。
僕もそう思う——とベルトルトも頷く。
それは、ハンジ班の他の班員であるケイジ達も同じだった。

「でも、エレンは人間だし、巨人になれるでしょ。
　だから、他の巨人も元は人間で、突然変異を起こしたんだよ。」
「もっと意味が分からない。細胞レベルで突然変異が起きても、人間が巨人になるわけがない。
　それにそんなことがあるのなら、壁の中で巨人が発生するはずだ。
　壁の外には、人類は存在しないんだからな。」

ライナーの言う通りだ、とジャンも思う。
突然変異で巨人になってしまったらたまったもんじゃない。
それに、その話が事実だとしたら、壁の外に人類がいることになってしまう。
そこを前提にしている時点で、その仮定はありえないのだ。
だが、なまえは、納得がいかない様子で、ライナーに食って掛かる。

「じゃあ、ライナーは、突然変異じゃないなら
　どうしてエレンは巨人になれると思うの？」
「それは…、
　————俺にも分からん。」

少し考えこんだ後、ライナーはため息交じりに首を横に振った。
この4年間、人類が知りたくて、誰にも解明できずにいる答えを、いきなり求められて、答えられるわけがない。

「でしょ？ライナーの言う通り、違うかもしれないし
　巨人が元人間っていうのが正解かもしれない。
　私達は何も知らないんだから、絶対に違うなんて誰にも決めつけられないんだよ。」
「まぁ…、確かにそうだね。」

ベルトルトが頷けば、ライナーはお手上げだとばかりに首を竦めた。
すると、ニファがクスクスと笑い出した。

「なんか、ハンジさんと話してるみたい。」

ニファが言い出したそれに、ケイジ達も大きく頷く。
チラリとハンジの方を向けば、休憩中に忙しく書類の添削をしているモブリットに、次回の壁外調査で奇行種を捕獲する作戦を一方的に聞かせている。

「そりゃそうだよ。だって、ハンジさんから聞いたんだもん。」

なまえは言いながら、椅子の背もたれに身体を預けた。
やっぱり———、そう思ったのはジャンだけではない。
分隊の隊長であるハンジに、たくさんの苦労を強いられてきたライナーとベルトルト、ニファ達が顔を見合わせた。

「それで、今度、ソニーとビーンを使って最後の実験をするらしいよ。」
「最後の実験って？」

ニファが不思議そうに訊ねる。
実験、となればハンジ班の彼らも他人事ではない。
危険な実験の手伝いや補佐をしなければならないし、ハンジ班の護衛役であるライナーやベルトルトは、ハンジが無茶をしないように見張りもしなければならない。

「ソニーとビーンのうなじをいい感じに切り取って、
　そこに人間が埋もれてないか調べ———。」
「なまえさーん、お客さんが来てますよ～。」

話の途中だったが、コニーに呼ばれたなまえは、ジャンと一緒に会議室を出た。