◇第五十五話◇離れた場所でも君に一喜一憂
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「なまえさんのことが気になるのか?」
憲兵団本部の食堂、窓の向こうを眺めていたジャンは、友人の声に意識を朝食に戻した。
調査兵団では考えられないようなしっかりとした朝食メニューが、ここ1週間以上毎日続いている。
なまえだったら、お腹がいっぱいで眠たくなってきたと言い出して、朝から本当に居眠りを始めてしまいそうなボリュームだ。
「…いや。」
ジャンは、マルコの質問に短く答えると、朝食のスープをスプーンで掬った。
「今まで、ジャンがなまえさんを起こしてたからね。
ちゃんと起きれてるか心配なんだよね。」
「…そうだな。」
否定をしたはずなのに、肯定で話を進めていくアルミンに、ジャンは仕方なく頷くしかなかった。
毎朝、憲兵達が楽しそうに喋っている食堂で、自分だけはぼんやりとトロスト区の方を向いているという自覚ならある。
「毎朝毎朝、捨てられた子猫みたいな顔して窓の向こう見るのやめてくれる?
気持ち悪いから。」
アニは冷めた顔をして言う。
その横では、ヒッチがニヤニヤした顔をしている。
「アンタ、本当になまえさんに惚れてんのねぇ。」
「っせー。」
ジャンが不機嫌に答えると、ヒッチとアニが顔を見合わせて可笑しそうにクスリと笑った。
そこへ、マルロが爆弾を落とす。
「昨日、会議の為にストヘス区入りしたエルヴィン団長に聞いたんだが
お前がいない間は、リヴァイ兵長がなまえさんを毎朝起こしてるらしい。」
「…は?」
「朝から晩まで、お前の代わりにリヴァイ兵長がそばにいて
しっかりと守ってやっているらしいから、心配しなくても———。」
「はぁぁああッ!?」
ジャンが叫び声を上げて立ち上がった。
何事か、と憲兵達が彼へ視線を向ける。
マルロも、目を丸くして、立ち上がったジャンを見上げた。
「どうしたんだ、急に…。鉄分不足か?
お前の為に、俺がわざわざエルヴィン団長になまえさんのことを
訊ねるなんてらしくないことをして驚くのも分かるが、それにしても驚きすぎだ。」
「そこじゃないでしょ。」
アニが冷静につっこむ。
「クソッ。」
乱暴に椅子に腰を降ろしたジャンは、舌打ちをした。
長い時間をかけてなまえの心をこじ開けて、奇妙な関係になってからは、こじ開けた隙間を強引に広げて来た。
そして最近、少しずつだけれどなまえの自分に対する態度の変化を感じていたのだ。
良い方へ向かってきているはずだった。
そこへ、長期の出張を命じられただけでも不本意だったのに、自分がいない間、リヴァイがなまえのそばにいるなんて、考えうる限りの最悪だ。
だって、自分のものになったはずのなまえの心の隙間に、リヴァイなら簡単に入り込めるだろう。
仮装パーティーではなんとか繋ぎ止められた彼女を、今度こそ奪われる。
自分の苦労が馬鹿馬鹿しくなるくらいに、いとも容易く———。
「大丈夫だよ、なまえさんはジャンが大好きなんだから。」
アルミンが優しく微笑んで、ジャンの肩にそっと手を乗せた。
「ジャンに会えなくてなまえさんが寂しがってるかもと思って心配なんだろうけど、
その寂しさは、夜な夜な、リヴァイ兵長が埋めてくれてるだろうし、大丈夫だよ。」
「…!」
「それに、2人とも大人なんだから、ジャンが帰ってくれば
いつも通りの同僚という関係に戻って、ジャンに気づかれないようにしてくれる。
だから、心配しないで。ね?」
ジャンから、サーッと血の気が引いて行くようだった。
そして、彼の首が、まるで壊れかけて建付けの悪くなった扉のようにぎこちなく動き、アルミンの方を向く。
そこでジャンが見たのは、耳の辺りまで口の端を上げた悪魔の笑みだった。
「アルミン、ジャンをからかって遊ぶのはやめてあげてくれよ。」
マルコが困ったように言えば、ヒッチがもう堪えられないとばかりに腹を抱えて笑い出す。
その隣で、アニまで吹き出して、手の甲で必死に笑いを堪えている。
「人類最強の兵士が自分の婚約者を守ってくれてるんだから
顔色を真っ青にする必要なんかないだろう?
調査兵は本当に変わったやつばかりだな。」
マルロだけが、空気を読めずに、訝し気に眉を顰めていた。
憲兵団本部の食堂、窓の向こうを眺めていたジャンは、友人の声に意識を朝食に戻した。
調査兵団では考えられないようなしっかりとした朝食メニューが、ここ1週間以上毎日続いている。
なまえだったら、お腹がいっぱいで眠たくなってきたと言い出して、朝から本当に居眠りを始めてしまいそうなボリュームだ。
「…いや。」
ジャンは、マルコの質問に短く答えると、朝食のスープをスプーンで掬った。
「今まで、ジャンがなまえさんを起こしてたからね。
ちゃんと起きれてるか心配なんだよね。」
「…そうだな。」
否定をしたはずなのに、肯定で話を進めていくアルミンに、ジャンは仕方なく頷くしかなかった。
毎朝、憲兵達が楽しそうに喋っている食堂で、自分だけはぼんやりとトロスト区の方を向いているという自覚ならある。
「毎朝毎朝、捨てられた子猫みたいな顔して窓の向こう見るのやめてくれる?
気持ち悪いから。」
アニは冷めた顔をして言う。
その横では、ヒッチがニヤニヤした顔をしている。
「アンタ、本当になまえさんに惚れてんのねぇ。」
「っせー。」
ジャンが不機嫌に答えると、ヒッチとアニが顔を見合わせて可笑しそうにクスリと笑った。
そこへ、マルロが爆弾を落とす。
「昨日、会議の為にストヘス区入りしたエルヴィン団長に聞いたんだが
お前がいない間は、リヴァイ兵長がなまえさんを毎朝起こしてるらしい。」
「…は?」
「朝から晩まで、お前の代わりにリヴァイ兵長がそばにいて
しっかりと守ってやっているらしいから、心配しなくても———。」
「はぁぁああッ!?」
ジャンが叫び声を上げて立ち上がった。
何事か、と憲兵達が彼へ視線を向ける。
マルロも、目を丸くして、立ち上がったジャンを見上げた。
「どうしたんだ、急に…。鉄分不足か?
お前の為に、俺がわざわざエルヴィン団長になまえさんのことを
訊ねるなんてらしくないことをして驚くのも分かるが、それにしても驚きすぎだ。」
「そこじゃないでしょ。」
アニが冷静につっこむ。
「クソッ。」
乱暴に椅子に腰を降ろしたジャンは、舌打ちをした。
長い時間をかけてなまえの心をこじ開けて、奇妙な関係になってからは、こじ開けた隙間を強引に広げて来た。
そして最近、少しずつだけれどなまえの自分に対する態度の変化を感じていたのだ。
良い方へ向かってきているはずだった。
そこへ、長期の出張を命じられただけでも不本意だったのに、自分がいない間、リヴァイがなまえのそばにいるなんて、考えうる限りの最悪だ。
だって、自分のものになったはずのなまえの心の隙間に、リヴァイなら簡単に入り込めるだろう。
仮装パーティーではなんとか繋ぎ止められた彼女を、今度こそ奪われる。
自分の苦労が馬鹿馬鹿しくなるくらいに、いとも容易く———。
「大丈夫だよ、なまえさんはジャンが大好きなんだから。」
アルミンが優しく微笑んで、ジャンの肩にそっと手を乗せた。
「ジャンに会えなくてなまえさんが寂しがってるかもと思って心配なんだろうけど、
その寂しさは、夜な夜な、リヴァイ兵長が埋めてくれてるだろうし、大丈夫だよ。」
「…!」
「それに、2人とも大人なんだから、ジャンが帰ってくれば
いつも通りの同僚という関係に戻って、ジャンに気づかれないようにしてくれる。
だから、心配しないで。ね?」
ジャンから、サーッと血の気が引いて行くようだった。
そして、彼の首が、まるで壊れかけて建付けの悪くなった扉のようにぎこちなく動き、アルミンの方を向く。
そこでジャンが見たのは、耳の辺りまで口の端を上げた悪魔の笑みだった。
「アルミン、ジャンをからかって遊ぶのはやめてあげてくれよ。」
マルコが困ったように言えば、ヒッチがもう堪えられないとばかりに腹を抱えて笑い出す。
その隣で、アニまで吹き出して、手の甲で必死に笑いを堪えている。
「人類最強の兵士が自分の婚約者を守ってくれてるんだから
顔色を真っ青にする必要なんかないだろう?
調査兵は本当に変わったやつばかりだな。」
マルロだけが、空気を読めずに、訝し気に眉を顰めていた。