◇第四十九話◇弾けそうなことだけは言えない
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優しく撫で続けてくれるジャンの手は、とても心地よかった。
広い胸板に抱きしめられて、目を閉じれば、自然に心が落ち着いていく。
乱れた呼吸を整えて、いつの間にか手放していた理性が戻ってきた私を、今度は羞恥心が支配していく。
ジャンの指が私の中に入って、そして、初めてのイクという感覚を、彼の腕の中で覚えてしまった。
これから、私はどうなってしまうんだろう———。
期待とは違う、でも、不安や恐怖とも違う、私が今まで知らずに生きていた何かが、水の中に閉じ込められていた気泡みたいに、ぷくりぷくりと心の奥で弾けるのを待っているのを感じていた。
「落ち着きました?」
不意に、ジャンが手の動きを止めて、私の顔を覗き込んだ。
目が合うのが恥ずかしくて、私は顔を伏せてから答える。
「もう、大丈夫…っ。」
「身体は、つらくないですか?」
「うん…っ、ない…っ。」
「ならよかったです。」
ジャンはそう言って、私の両肩を握るとそっと身体を離した。
そして、乱れた私のシャツを器用に着せて、スカートを綺麗に整えた。
「じゃあ、俺、そろそろ行きますね。」
ジャンの手が、私から離れる。
それは、この続きはもうない、ということを意味していた。
思考が戻って来ていた私の頭が、それを理解していなかったわけがない。
だからこそ、たぶん私は、ジャンの腕を掴んだのだと思う。
でも、なぜ引き留めてしまったのかまでは分からないまま、ほとんど無意識だったそれに、驚いたのは私だった。
だから余計に、ジャンはひどく落ち着いているように見えた。
それがなんだかすごく———。
「どうしました?」
「もう、任務に戻るの?」
「戻るってか、まずは食堂で昼飯食ってから、研究所に行くつもりですけど。
ハンジさん、なまえさん並みに人使い荒いの知ってるでしょ。
飯食わないと倒れちまいますよ。」
ジャンは、疲れたように首をすぼめると、どうしてそんなことを聞くのか、と不思議そうに訊ねる。
もしかしたら私はまだ、思考は戻っていても、頭で考えてからそれを言葉にするという機能が、うまく働いていなかったのかもしれない。
だから、自分でも信じられないことを言ってしまったのだ。
「最後まで、しないの…?」
私の質問に、ジャンもさすがに驚いたようだった。
見開いた目を見て、私はやっと、何てことを言ってしまったのだろうと後悔した。
出してしまった質問を飲み込んでなかったことにしたくなる。
でも、私は、ジャンの指と言葉に身体と心を弄ばれながら、このまま最後までいってしまうのだと信じていたのだ。
覚悟をしていたのかどうかは、今となってはもう分からないけれど———。
それなのに、ジャンは———。
「しませんよ。」
ジャンが、とても呆気なく、でも、白を白だと言うくらいにハッキリと答える。
それは、私がジャンから初めて向けられた〝拒絶〟だった。
私は、ショックを受けていた。
最後までしないと言われたことが、じゃない。
ジャンが、私にはまるで興味がないと言っているみたいで、傷ついたのだ。
あぁ、どうして、そんなことがこんなに悲しいんだろう———。
傷ついたことを、ジャンに知られたくなかった。
でも、さっきまでの余韻が確かに残っている頭と身体を引きずる私には、誤魔化す余裕がなかった。
傷ついた顔を、私がしていたのだろうか。
ジャンが、苦笑した。
「なんて顔してるんすか。俺をあのクズ野郎と一緒にしないでくださいよ。
後から後悔するのは、男じゃなくて、なまえさんですよ。
ファーストキスを夢見てたなまえさんなら、初体験だって大切でしょ?」
一度離れたばかりのジャンの手が、また私に伸びる。
そして、さっきのように髪に触れたのだけれど、今度は、優しく撫でるのではなくて、子供にするみたいに髪を雑にクシャリとした。
「そういうのは、惚れてる男とだけしてください。」
ジャンは、至極真っ当なことを、ひどく優しく言う。
そして、今度こそ、私に触れていた手を離すと、ベッドから立ち上がった。
「そんなに気持ちいい躾にハマったなら、
またいつでもしてあげますよ。」
ジャンは意地悪くニッと笑って最後にそれだけ言うと、今度こそ部屋でおとなしくするようにという忠告だけを残して、部屋を出て行った。
静かに扉が閉まると、私は乱れたベッドの上で1人になった。
ジャンが整えてくれたシャツを胸元に手繰り寄せるように握りしめて、締め付けられるような胸の痛みを抱きしめる。
どうして私は、傷ついているんだろう。
どうして私は、赦しているのだろう。
躾なんて勝手なことを言って、身体を好きなように弄ばれたことに傷ついているわけじゃない自分が、怖かった。
これ以上、私を汚そうとはしないで呆気なく向けられた背中に傷ついていることに、私は傷ついている。
あれがもし、あの先輩兵士の手だったら、私はどうなっていたのだろう。
同じように、身体を抱きしめて震えていた気がする。
全く、違う理由で———。
「こわい…。」
震える声が、静かな部屋で、乱れたベッドに落ちると、あっという間に吸い込まれた。
あぁ、怖い。
身体が知ってしまった初めての感覚、大きな手と、あの指と、声と、それから———。
広い胸板に抱きしめられて、目を閉じれば、自然に心が落ち着いていく。
乱れた呼吸を整えて、いつの間にか手放していた理性が戻ってきた私を、今度は羞恥心が支配していく。
ジャンの指が私の中に入って、そして、初めてのイクという感覚を、彼の腕の中で覚えてしまった。
これから、私はどうなってしまうんだろう———。
期待とは違う、でも、不安や恐怖とも違う、私が今まで知らずに生きていた何かが、水の中に閉じ込められていた気泡みたいに、ぷくりぷくりと心の奥で弾けるのを待っているのを感じていた。
「落ち着きました?」
不意に、ジャンが手の動きを止めて、私の顔を覗き込んだ。
目が合うのが恥ずかしくて、私は顔を伏せてから答える。
「もう、大丈夫…っ。」
「身体は、つらくないですか?」
「うん…っ、ない…っ。」
「ならよかったです。」
ジャンはそう言って、私の両肩を握るとそっと身体を離した。
そして、乱れた私のシャツを器用に着せて、スカートを綺麗に整えた。
「じゃあ、俺、そろそろ行きますね。」
ジャンの手が、私から離れる。
それは、この続きはもうない、ということを意味していた。
思考が戻って来ていた私の頭が、それを理解していなかったわけがない。
だからこそ、たぶん私は、ジャンの腕を掴んだのだと思う。
でも、なぜ引き留めてしまったのかまでは分からないまま、ほとんど無意識だったそれに、驚いたのは私だった。
だから余計に、ジャンはひどく落ち着いているように見えた。
それがなんだかすごく———。
「どうしました?」
「もう、任務に戻るの?」
「戻るってか、まずは食堂で昼飯食ってから、研究所に行くつもりですけど。
ハンジさん、なまえさん並みに人使い荒いの知ってるでしょ。
飯食わないと倒れちまいますよ。」
ジャンは、疲れたように首をすぼめると、どうしてそんなことを聞くのか、と不思議そうに訊ねる。
もしかしたら私はまだ、思考は戻っていても、頭で考えてからそれを言葉にするという機能が、うまく働いていなかったのかもしれない。
だから、自分でも信じられないことを言ってしまったのだ。
「最後まで、しないの…?」
私の質問に、ジャンもさすがに驚いたようだった。
見開いた目を見て、私はやっと、何てことを言ってしまったのだろうと後悔した。
出してしまった質問を飲み込んでなかったことにしたくなる。
でも、私は、ジャンの指と言葉に身体と心を弄ばれながら、このまま最後までいってしまうのだと信じていたのだ。
覚悟をしていたのかどうかは、今となってはもう分からないけれど———。
それなのに、ジャンは———。
「しませんよ。」
ジャンが、とても呆気なく、でも、白を白だと言うくらいにハッキリと答える。
それは、私がジャンから初めて向けられた〝拒絶〟だった。
私は、ショックを受けていた。
最後までしないと言われたことが、じゃない。
ジャンが、私にはまるで興味がないと言っているみたいで、傷ついたのだ。
あぁ、どうして、そんなことがこんなに悲しいんだろう———。
傷ついたことを、ジャンに知られたくなかった。
でも、さっきまでの余韻が確かに残っている頭と身体を引きずる私には、誤魔化す余裕がなかった。
傷ついた顔を、私がしていたのだろうか。
ジャンが、苦笑した。
「なんて顔してるんすか。俺をあのクズ野郎と一緒にしないでくださいよ。
後から後悔するのは、男じゃなくて、なまえさんですよ。
ファーストキスを夢見てたなまえさんなら、初体験だって大切でしょ?」
一度離れたばかりのジャンの手が、また私に伸びる。
そして、さっきのように髪に触れたのだけれど、今度は、優しく撫でるのではなくて、子供にするみたいに髪を雑にクシャリとした。
「そういうのは、惚れてる男とだけしてください。」
ジャンは、至極真っ当なことを、ひどく優しく言う。
そして、今度こそ、私に触れていた手を離すと、ベッドから立ち上がった。
「そんなに気持ちいい躾にハマったなら、
またいつでもしてあげますよ。」
ジャンは意地悪くニッと笑って最後にそれだけ言うと、今度こそ部屋でおとなしくするようにという忠告だけを残して、部屋を出て行った。
静かに扉が閉まると、私は乱れたベッドの上で1人になった。
ジャンが整えてくれたシャツを胸元に手繰り寄せるように握りしめて、締め付けられるような胸の痛みを抱きしめる。
どうして私は、傷ついているんだろう。
どうして私は、赦しているのだろう。
躾なんて勝手なことを言って、身体を好きなように弄ばれたことに傷ついているわけじゃない自分が、怖かった。
これ以上、私を汚そうとはしないで呆気なく向けられた背中に傷ついていることに、私は傷ついている。
あれがもし、あの先輩兵士の手だったら、私はどうなっていたのだろう。
同じように、身体を抱きしめて震えていた気がする。
全く、違う理由で———。
「こわい…。」
震える声が、静かな部屋で、乱れたベッドに落ちると、あっという間に吸い込まれた。
あぁ、怖い。
身体が知ってしまった初めての感覚、大きな手と、あの指と、声と、それから———。