◇第四十四話◇独り占めの夜
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ゆっくりと開いた扉から最初に入ってきたのは、夜の時間を楽しんでいる仲間達の声だった。
ベッドのヘッドボードに置かれたランタンの淡い明かりしかない薄暗い部屋に、廊下の明かりが入り込む。
そして、まるでスポットライトのように、そっと入って来た彼女を照らした。
扉が閉まり、また薄暗いだけの部屋になると、ベッドで横になったままで、ジャンは、近づいてくる彼女をぼんやりと見ていた。
「起きてたんだね。体調はどう?」
ベッドの縁に座った彼女に、そう訊ねられたけれど、ジャンは口を開こうとはしなかった。
熱でまだ頭がぼんやりとするジャンは、それが夢なのか現実なのか、分からなかったのだ。
いや、どちらかといえば、それは夢なのだと認識していた。
だって—。
「熱はまだあるかな?」
彼女が、ジャンの額に手を乗せる。
夜風にあたっていたせいなのか、冷たいその手が、ひどく気持ちが良くて、ジャンは驚いた。
だって、夢の世界の彼女には、触れられないはずだったのだ。
ドレスを身に纏う彼女は、夢の世界に住む眠り姫だ。
今頃きっと、愛する騎士に攫われて、幸せな時間を過ごしているはずで———。
「なん、で…?」
驚きと熱で掠れた声が漏れるように、ジャンは彼女に訊ねた。
「何が?」
彼女が、不思議そうに首を傾げる。
「パー、ティーは…?
最後まで楽しむんじゃ…。」
熱で掠れている上に、驚きと、戸惑いが声に乗ってしまったジャンの声は、情けないくらいに弱々しかった。
仮装パーティーは、夜中の0時まで続くと聞いていた。
それが、魔法が解ける時間なのだそうだ。
だから、それまでは夢の世界で、夢の住人達と楽しむというコンセプトの仮装パーティーだったのだ。
それがどうして、まだまだ夢の時間が続くはずの世界から、眠り姫が帰ってきているのか。
それは、太陽が夜に昇ってしまうくらいに、ありえないことだ。
「あぁ…、」
ジャンの疑問を知った彼女は、納得したように小さな声を漏らした。
そして———。
「ジャンがいないと楽しくなくって、帰って来ちゃった。」
彼女が眉尻を下げて、苦笑気味に言う。
「は…?」
思わず、空気が漏れるようなソレは、人生で一番、間抜けな声だった自信がある。
「それに、仮装パーティーよりもジャンの方が大事だから。」
眠り姫の姿で、彼女がニコリと笑う。
想像もしていなかったことを言われた。
そのはずなのに、屈託のないその笑顔は、ジャンのよく知るなまえのものだった。
だからやっと、ジャンは、彼女が、夢ではないのだと理解出来たのだ。
「白々しいっすね。
高熱でぶっ倒れてる俺を置いて、遊びに行ったくせに。」
じとっとした目をして、ジャンが責めるように口を尖らせれば、なまえが面白そうに笑いながら謝る。
悪いと思っているようには見えない。
むしろ、どこかご機嫌で、楽しそうなのだ。
「何か良いことでもありました?」
「ふふ、バレた?」
なまえが、悪戯っ子な笑みを浮かべた。
どうせ、騎士絡みだろうことは簡単に予想できた。
でも、あまり気にならなかったのは、彼女が、大好きな夢の世界から帰って来たという奇跡の衝撃から、まだ抜け出せていなかったからかもしれない。
自分を選んでくれた———、今の状況は、そうだとしか思えなかった。
「でもよかった。思ったよりもジャンが元気で。」
なまえがホッとしたように言って、ジャンの額に手を乗せた。
ひんやりと冷たい手の感触が気持ち良くて、思わず目を細めてしまう。
「さっきまでは死ぬかと思うくらいキツかったんですよ。」
「そうなの?もう大丈夫なの?」
「なまえさんの顔を見たら、治りました。」
「えー、私は風邪薬じゃないよ~。」
変なヤツ——、となまえがまた面白そうに笑う。
確かに変なのかもしれない、とジャンは自分自身に苦笑する。
まだ熱も高いし、頭もぼんやりとしているし、身体はひどくツライのだ。
それなのに、これでよかったと思っていた。
だって、今夜、本当は、0時まで続く夢の世界で笑っていたはずの彼女を、古びた兵舎の小さな部屋で、独り占め出来たから————。
ベッドのヘッドボードに置かれたランタンの淡い明かりしかない薄暗い部屋に、廊下の明かりが入り込む。
そして、まるでスポットライトのように、そっと入って来た彼女を照らした。
扉が閉まり、また薄暗いだけの部屋になると、ベッドで横になったままで、ジャンは、近づいてくる彼女をぼんやりと見ていた。
「起きてたんだね。体調はどう?」
ベッドの縁に座った彼女に、そう訊ねられたけれど、ジャンは口を開こうとはしなかった。
熱でまだ頭がぼんやりとするジャンは、それが夢なのか現実なのか、分からなかったのだ。
いや、どちらかといえば、それは夢なのだと認識していた。
だって—。
「熱はまだあるかな?」
彼女が、ジャンの額に手を乗せる。
夜風にあたっていたせいなのか、冷たいその手が、ひどく気持ちが良くて、ジャンは驚いた。
だって、夢の世界の彼女には、触れられないはずだったのだ。
ドレスを身に纏う彼女は、夢の世界に住む眠り姫だ。
今頃きっと、愛する騎士に攫われて、幸せな時間を過ごしているはずで———。
「なん、で…?」
驚きと熱で掠れた声が漏れるように、ジャンは彼女に訊ねた。
「何が?」
彼女が、不思議そうに首を傾げる。
「パー、ティーは…?
最後まで楽しむんじゃ…。」
熱で掠れている上に、驚きと、戸惑いが声に乗ってしまったジャンの声は、情けないくらいに弱々しかった。
仮装パーティーは、夜中の0時まで続くと聞いていた。
それが、魔法が解ける時間なのだそうだ。
だから、それまでは夢の世界で、夢の住人達と楽しむというコンセプトの仮装パーティーだったのだ。
それがどうして、まだまだ夢の時間が続くはずの世界から、眠り姫が帰ってきているのか。
それは、太陽が夜に昇ってしまうくらいに、ありえないことだ。
「あぁ…、」
ジャンの疑問を知った彼女は、納得したように小さな声を漏らした。
そして———。
「ジャンがいないと楽しくなくって、帰って来ちゃった。」
彼女が眉尻を下げて、苦笑気味に言う。
「は…?」
思わず、空気が漏れるようなソレは、人生で一番、間抜けな声だった自信がある。
「それに、仮装パーティーよりもジャンの方が大事だから。」
眠り姫の姿で、彼女がニコリと笑う。
想像もしていなかったことを言われた。
そのはずなのに、屈託のないその笑顔は、ジャンのよく知るなまえのものだった。
だからやっと、ジャンは、彼女が、夢ではないのだと理解出来たのだ。
「白々しいっすね。
高熱でぶっ倒れてる俺を置いて、遊びに行ったくせに。」
じとっとした目をして、ジャンが責めるように口を尖らせれば、なまえが面白そうに笑いながら謝る。
悪いと思っているようには見えない。
むしろ、どこかご機嫌で、楽しそうなのだ。
「何か良いことでもありました?」
「ふふ、バレた?」
なまえが、悪戯っ子な笑みを浮かべた。
どうせ、騎士絡みだろうことは簡単に予想できた。
でも、あまり気にならなかったのは、彼女が、大好きな夢の世界から帰って来たという奇跡の衝撃から、まだ抜け出せていなかったからかもしれない。
自分を選んでくれた———、今の状況は、そうだとしか思えなかった。
「でもよかった。思ったよりもジャンが元気で。」
なまえがホッとしたように言って、ジャンの額に手を乗せた。
ひんやりと冷たい手の感触が気持ち良くて、思わず目を細めてしまう。
「さっきまでは死ぬかと思うくらいキツかったんですよ。」
「そうなの?もう大丈夫なの?」
「なまえさんの顔を見たら、治りました。」
「えー、私は風邪薬じゃないよ~。」
変なヤツ——、となまえがまた面白そうに笑う。
確かに変なのかもしれない、とジャンは自分自身に苦笑する。
まだ熱も高いし、頭もぼんやりとしているし、身体はひどくツライのだ。
それなのに、これでよかったと思っていた。
だって、今夜、本当は、0時まで続く夢の世界で笑っていたはずの彼女を、古びた兵舎の小さな部屋で、独り占め出来たから————。