◇第四十三話◇扉の向こうの彼と彼女の秘めキス
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ゆっくりと、扉を開いた。
薄暗い部屋は、ベッドのヘッドボードに置かれたランタンの灯りで淡く照らされていた。
必ずいると思っていた補佐官の姿はなく、扉を叩いても返事がなかったのはそのせいかと納得する。
その代わり、熱を出して寝込んでいると聞いていたなまえが、ベッドの上で身体を起こしていた。
体調はどうか——、そう訊ねようとしたリヴァイよりも先に、なまえが口を開いた。
「ジャ、ン…?」
部屋に入って来たリヴァイを見ながら、なまえが補佐官の名前を小さく呟く。
ジャンの帰りを待っていたから、身体を起こしていたのかもしれない。
体型も全く違うどころか、婚約者の男とただの同僚の自分を勘違いしてしまうくらいに、なまえは、高熱で視界も頭もぼんやりしてしまっているのだろう。
「お前の補佐官は見てねぇ。仕事じゃねぇのか。」
適当に答えながら、リヴァイはベッドへ近寄る。
今朝のうちに、なまえが熱を出して寝込んでいることは、エルヴィンから聞いていた。
昨日、馬鹿みたいに雨に濡れていたし、あまり驚きはしなかった。
ハンジも、エルヴィンから聞いて知っているようだったけれど、昔のように、リヴァイになまえの看病を押し付けようとはしなかった。
だって、なまえには、エルヴィンも認めるほどに仕事の出来る補佐官がついているし、その男はいつの間にか婚約者にまでなっていた。
彼女にはもう、誰よりもそばにいて、頼れる男がいるのだ。
だから、リヴァイも、昔のように、熱を出した彼女の元へすぐに向かうことはしなかった。
こうして任務が終わって、自分のことがすべて終わってから、様子を見に来ただけだ。
「体調はどうだ?ちゃんと薬は飲んでるんだろうな。」
リヴァイは、ベッドの縁に座ると、相変わらず身体を起こしたままのなまえの額に自分の手をそっと乗せる。
想像していた以上に熱くて驚いた。
こんなに熱が高いのなら、明日の仮装パーティーには参加出来ないだろう。
とても楽しみにしていたのは知っていたけれど、熱があるのなら仕方がない。
「きもちいい。」
なまえが、ふにゃりと頬を緩める。
何のことかと思ってすぐに、額に乗せた自分の手の冷たさのことを言っているのだと気づいた。
「まだ熱が高ぇ。とにかく寝とけ。」
リヴァイは、なまえの両肩を押して、少し強引にベッドに寝かせようとした。
でも、なまえが、それを嫌がって、首を横に振る。
「いや…。」
なまえが、弱々しく言って、リヴァイの腰に抱き着いた。
「何やってんだ。
しっかり寝てねぇとお前の大好きな補佐官に叱られ——。」
「また、どこか行っちゃうんでしょ…?」
なまえは、ひどく寂しそうに言いながら、リヴァイの肩に顔を埋める。
「どこにも行かねぇから、寝ろ。」
引き剥がそうとして肩を押せば、なまえがゆるゆると離れて行った。
でも、寝る気はないようで、熱で潤んだ瞳で、懇願するようにリヴァイを見上げる。
「じゃあ、チュー、して…?」
なまえが言う、その相手を間違えていることを、リヴァイは知っていた。
彼女を今、誰よりも近くで守っているのも、彼女が今、誰よりも頼っているのも、ジャンだ。
だから、リヴァイは、なまえを引き離そうとしたのだ。
後は、掴んだなまえの肩を押し返すだけだった。
彼女が、あんなこと、言わなければ———。
「ジャン…、好きなの…。好き…。」
なまえの瞳が、ひどく切なそうにリヴァイを見つめる。
華奢な手が、強く求めるように、リヴァイの腕を握りしめる。
でも、彼女は、ジャンにそうしているつもりでいる。
だって、今の彼女を誰よりもそばで守っているのも、何かあれば彼女が一番に頼るのも、ジャンだからだ。
でも、昔、それはリヴァイだった。
たぶん、ハンジやエルヴィンもそう考えていたから、なまえに何かがあれば、リヴァイに声をかけていた。
面倒だと思いながらも、そそっかしくて、いつもふわりふわりと空を飛んでいるように生きている彼女を守ってきたのは、リヴァイだった。
ほとんど同期のようなものだったし、リヴァイ班の補佐につくことの多かったなまえとは、彼女が副兵士長という役職を与えられて特殊任務を任されるようになるまでは、仕事もよく一緒にしていた。
だから、今のなまえとジャンがそうなように、数年前までは、自分と彼女がセットのように見られていたのかもしれない。
でも、もう、彼女には自分は必要ない。
彼女の面倒を押し付けられるのも、彼女が助けを求めるのも、彼女を守るのも、ジャンなのだ。
あぁ、でも———。
昔は、自分だったのだ。
ジャンではなく、自分だった———。
リヴァイは、なまえの腰を抱き寄せた。
なまえが、慣れたようにそっと目を閉じる———、それが、自分の知らない彼女とジャンのいつもの行為をリヴァイに連想させた。
眉を顰めるようにして、リヴァイも目を閉じる。
そして、早急に彼女の唇に自分の唇を重ねた。
初めて触れた彼女の唇はひどく熱くて、火傷しそうだった。
そして、その熱で、脳みそを溶かされた。
だからだ。理性が、遠くへ消えてしまったのだ。
彼女には、婚約者がいて、彼女は彼を愛していて、我儘に攫ってはいけないことは、分かっていたはずなのに———。
薄暗い部屋は、ベッドのヘッドボードに置かれたランタンの灯りで淡く照らされていた。
必ずいると思っていた補佐官の姿はなく、扉を叩いても返事がなかったのはそのせいかと納得する。
その代わり、熱を出して寝込んでいると聞いていたなまえが、ベッドの上で身体を起こしていた。
体調はどうか——、そう訊ねようとしたリヴァイよりも先に、なまえが口を開いた。
「ジャ、ン…?」
部屋に入って来たリヴァイを見ながら、なまえが補佐官の名前を小さく呟く。
ジャンの帰りを待っていたから、身体を起こしていたのかもしれない。
体型も全く違うどころか、婚約者の男とただの同僚の自分を勘違いしてしまうくらいに、なまえは、高熱で視界も頭もぼんやりしてしまっているのだろう。
「お前の補佐官は見てねぇ。仕事じゃねぇのか。」
適当に答えながら、リヴァイはベッドへ近寄る。
今朝のうちに、なまえが熱を出して寝込んでいることは、エルヴィンから聞いていた。
昨日、馬鹿みたいに雨に濡れていたし、あまり驚きはしなかった。
ハンジも、エルヴィンから聞いて知っているようだったけれど、昔のように、リヴァイになまえの看病を押し付けようとはしなかった。
だって、なまえには、エルヴィンも認めるほどに仕事の出来る補佐官がついているし、その男はいつの間にか婚約者にまでなっていた。
彼女にはもう、誰よりもそばにいて、頼れる男がいるのだ。
だから、リヴァイも、昔のように、熱を出した彼女の元へすぐに向かうことはしなかった。
こうして任務が終わって、自分のことがすべて終わってから、様子を見に来ただけだ。
「体調はどうだ?ちゃんと薬は飲んでるんだろうな。」
リヴァイは、ベッドの縁に座ると、相変わらず身体を起こしたままのなまえの額に自分の手をそっと乗せる。
想像していた以上に熱くて驚いた。
こんなに熱が高いのなら、明日の仮装パーティーには参加出来ないだろう。
とても楽しみにしていたのは知っていたけれど、熱があるのなら仕方がない。
「きもちいい。」
なまえが、ふにゃりと頬を緩める。
何のことかと思ってすぐに、額に乗せた自分の手の冷たさのことを言っているのだと気づいた。
「まだ熱が高ぇ。とにかく寝とけ。」
リヴァイは、なまえの両肩を押して、少し強引にベッドに寝かせようとした。
でも、なまえが、それを嫌がって、首を横に振る。
「いや…。」
なまえが、弱々しく言って、リヴァイの腰に抱き着いた。
「何やってんだ。
しっかり寝てねぇとお前の大好きな補佐官に叱られ——。」
「また、どこか行っちゃうんでしょ…?」
なまえは、ひどく寂しそうに言いながら、リヴァイの肩に顔を埋める。
「どこにも行かねぇから、寝ろ。」
引き剥がそうとして肩を押せば、なまえがゆるゆると離れて行った。
でも、寝る気はないようで、熱で潤んだ瞳で、懇願するようにリヴァイを見上げる。
「じゃあ、チュー、して…?」
なまえが言う、その相手を間違えていることを、リヴァイは知っていた。
彼女を今、誰よりも近くで守っているのも、彼女が今、誰よりも頼っているのも、ジャンだ。
だから、リヴァイは、なまえを引き離そうとしたのだ。
後は、掴んだなまえの肩を押し返すだけだった。
彼女が、あんなこと、言わなければ———。
「ジャン…、好きなの…。好き…。」
なまえの瞳が、ひどく切なそうにリヴァイを見つめる。
華奢な手が、強く求めるように、リヴァイの腕を握りしめる。
でも、彼女は、ジャンにそうしているつもりでいる。
だって、今の彼女を誰よりもそばで守っているのも、何かあれば彼女が一番に頼るのも、ジャンだからだ。
でも、昔、それはリヴァイだった。
たぶん、ハンジやエルヴィンもそう考えていたから、なまえに何かがあれば、リヴァイに声をかけていた。
面倒だと思いながらも、そそっかしくて、いつもふわりふわりと空を飛んでいるように生きている彼女を守ってきたのは、リヴァイだった。
ほとんど同期のようなものだったし、リヴァイ班の補佐につくことの多かったなまえとは、彼女が副兵士長という役職を与えられて特殊任務を任されるようになるまでは、仕事もよく一緒にしていた。
だから、今のなまえとジャンがそうなように、数年前までは、自分と彼女がセットのように見られていたのかもしれない。
でも、もう、彼女には自分は必要ない。
彼女の面倒を押し付けられるのも、彼女が助けを求めるのも、彼女を守るのも、ジャンなのだ。
あぁ、でも———。
昔は、自分だったのだ。
ジャンではなく、自分だった———。
リヴァイは、なまえの腰を抱き寄せた。
なまえが、慣れたようにそっと目を閉じる———、それが、自分の知らない彼女とジャンのいつもの行為をリヴァイに連想させた。
眉を顰めるようにして、リヴァイも目を閉じる。
そして、早急に彼女の唇に自分の唇を重ねた。
初めて触れた彼女の唇はひどく熱くて、火傷しそうだった。
そして、その熱で、脳みそを溶かされた。
だからだ。理性が、遠くへ消えてしまったのだ。
彼女には、婚約者がいて、彼女は彼を愛していて、我儘に攫ってはいけないことは、分かっていたはずなのに———。