◇第四十二話◇眠り姫のベッドで悪夢を見る
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高熱で寝込んでいるジャンは、天井をぼんやりと見上げていた。
上官であるなまえの部屋に、ジャンだけがいることは以前からあったけれど、ベッドまで借りたの初めてだった。
それも当然だ。
上官の部屋にいる理由は、寝る為ではなく、仕事をする為で、デスクにいることが多いからだ。
なまえ自慢の特注のベッドは、昨日いつの間にかジャンを夢の中に落としただけあって、さすがの魔力で眠りに誘おうとしてくる。
でも、頭が痛くて、寝れそうにない。
昼間、仕事もしないで、なまえが看病をしてくれていたときは眠れたはずなのに———。
(何やってんだ、俺…。)
心の中で、自分にため息を吐く。
馬鹿でも風邪を引くことは、コニーを見ていたから知っていた。
だから、なまえも風邪を引いてしまえばいいと思ったくらいだ。
でも、どうして忘れていたのだろう。
コニーは、どんな高熱を出しても、いつも次の日にはケロッとしていたではないか。
馬鹿も、風邪は引くけれど、驚異的なスピードで回復するのだ。
なぜなら、身体も馬鹿だから。
あぁ、どうしてそんな肝心なことを忘れていたのか。
今頃、なまえは何をしているのだろう———。
考えないようにしていたことを思ってしまって、ジャンは強く瞼を閉じた。
すると、暗闇になった世界で、なまえとの最後の会話が聞こえてくる。
『大好きな騎士が待ってますよ。会いたかったんでしょ。
知ってましたよ、最初からずっと。』
『・・・本当に、いいの?』
高熱で魘される補佐官を心配しているなまえの背中は、大好きな騎士に引かれていた。
見ればわかったし、見なくたって、分かっていた。
だから、自分の為に兵舎に残ってくれるかもしれないなんて、正直、期待はしていなかった。
ほんの少しだって期待はしていない。
ただ、ほんの少しだけ、そうしてくれたらいいのに、と願ってしまっただけだ。
でも、なまえは、当然のように騎士を選んだ。
分かっていたことだ。
裏切られたとは思わないし、傷ついてなんか、いない。
傷つけられたつもりもない。
寝てれば治るのだから、わざわざ残ってもらう必要だってない。
大丈夫だ。
もしも、今頃———。
今頃、なまえが、騎士と楽しくやっていたって、別に構わない。
たとえば、彼女が大好きな騎士に攫われることを願うのなら、好きにさせてやってもいい。
熱で苦しくて、難しいことは今は考えたくないのだ。
それなのに、熱に浮かされた脳が、ジャンの言うことを聞くことが出来ずに、必要ない記憶を鮮やかに呼び起こしてくる。
いや違う。あれからずっと、その記憶が、瞼の裏にこびりついて消えないのだ。
リヴァイの腕を掴むなまえの華奢な手と、重なる唇———。
あれはきっと、なまえがずっと憧れていたワンシーンだ。
残念ながら高熱に魘された彼女の記憶には残らなかったようだったけれど、彼女が望めば、騎士は何度だってあのワンシーンを繰り返してくれるだろう。
あぁ、もしかしたら、彼らは今頃、昨日の続きをしているのかもしれない。
婚約者がいると知っていてなまえに手を出したのだから、リヴァイも覚悟を決めているはずだ。
むしろ、そうでないと困る。
だって、ジャンと偽物の婚約者になったのは、調査兵団に残るためなのだ。
彼女が調査兵団に残るためには、結婚相手が必要なのだ。
だから、ただ今まで誰のものでもなかった眠り姫が、急にパッと現れた男に奪われて惜しくなったから彼女に手を出してしまった、というだけでは困るのだ。
リヴァイからアプローチを受ければ、彼が覚悟をしていようが、気まぐれだろうが、なまえはきっとすぐに本気にしてしまう。
だって、それこそが、彼女がずっと待ち焦がれていたストーリーなのだ。
すぐに飛びつくに決まってる。
そのままずっと、リヴァイが彼女に夢を見せてくれるのならばいいけれど、その後、現実に引き戻された彼女が、独りぼっちになって、調査兵団にも残れない——なんてことになったら、最悪だ。
今までのジャンの努力が水の泡になるどころか、彼女はきっと、今度こそ壊れてしまう。
悲しさや寂しさを忘れる為に夢の中の泥沼にはまって、もう二度と現実には戻って来れなくなるだろう。
それは、彼女の為にはならない。
だから、リヴァイが結婚も視野に入れていないのならば、偽物の婚約者という関係を解消することはできない。
でも、なまえに本当の恋人が出来て、彼女も彼のことを心から愛していて、リヴァイが彼女と本気で結婚をしたいと思っているのなら、むしろ嬉しいことだ。
だから、自分は喜んで身を引こう———。
そう、思っているはずだ。
何度もそうやって、自分に言い聞かせたはずだ。
でも———。
「クソ…ッ。」
ジャンから出てくるのは、悔しそうな悪態ばかりだ。
強く唇を噛む。
こんなはずじゃなかった、と考えずにはいられない。
今頃きっと、なまえは————。
今頃きっと、リヴァイは————。
閉じた瞼の裏にこびりついた記憶が、今の彼らに重なって離れていかない。
そのとき、部屋の扉が、ゆっくりと開いた。
入ってきたのは————。
上官であるなまえの部屋に、ジャンだけがいることは以前からあったけれど、ベッドまで借りたの初めてだった。
それも当然だ。
上官の部屋にいる理由は、寝る為ではなく、仕事をする為で、デスクにいることが多いからだ。
なまえ自慢の特注のベッドは、昨日いつの間にかジャンを夢の中に落としただけあって、さすがの魔力で眠りに誘おうとしてくる。
でも、頭が痛くて、寝れそうにない。
昼間、仕事もしないで、なまえが看病をしてくれていたときは眠れたはずなのに———。
(何やってんだ、俺…。)
心の中で、自分にため息を吐く。
馬鹿でも風邪を引くことは、コニーを見ていたから知っていた。
だから、なまえも風邪を引いてしまえばいいと思ったくらいだ。
でも、どうして忘れていたのだろう。
コニーは、どんな高熱を出しても、いつも次の日にはケロッとしていたではないか。
馬鹿も、風邪は引くけれど、驚異的なスピードで回復するのだ。
なぜなら、身体も馬鹿だから。
あぁ、どうしてそんな肝心なことを忘れていたのか。
今頃、なまえは何をしているのだろう———。
考えないようにしていたことを思ってしまって、ジャンは強く瞼を閉じた。
すると、暗闇になった世界で、なまえとの最後の会話が聞こえてくる。
『大好きな騎士が待ってますよ。会いたかったんでしょ。
知ってましたよ、最初からずっと。』
『・・・本当に、いいの?』
高熱で魘される補佐官を心配しているなまえの背中は、大好きな騎士に引かれていた。
見ればわかったし、見なくたって、分かっていた。
だから、自分の為に兵舎に残ってくれるかもしれないなんて、正直、期待はしていなかった。
ほんの少しだって期待はしていない。
ただ、ほんの少しだけ、そうしてくれたらいいのに、と願ってしまっただけだ。
でも、なまえは、当然のように騎士を選んだ。
分かっていたことだ。
裏切られたとは思わないし、傷ついてなんか、いない。
傷つけられたつもりもない。
寝てれば治るのだから、わざわざ残ってもらう必要だってない。
大丈夫だ。
もしも、今頃———。
今頃、なまえが、騎士と楽しくやっていたって、別に構わない。
たとえば、彼女が大好きな騎士に攫われることを願うのなら、好きにさせてやってもいい。
熱で苦しくて、難しいことは今は考えたくないのだ。
それなのに、熱に浮かされた脳が、ジャンの言うことを聞くことが出来ずに、必要ない記憶を鮮やかに呼び起こしてくる。
いや違う。あれからずっと、その記憶が、瞼の裏にこびりついて消えないのだ。
リヴァイの腕を掴むなまえの華奢な手と、重なる唇———。
あれはきっと、なまえがずっと憧れていたワンシーンだ。
残念ながら高熱に魘された彼女の記憶には残らなかったようだったけれど、彼女が望めば、騎士は何度だってあのワンシーンを繰り返してくれるだろう。
あぁ、もしかしたら、彼らは今頃、昨日の続きをしているのかもしれない。
婚約者がいると知っていてなまえに手を出したのだから、リヴァイも覚悟を決めているはずだ。
むしろ、そうでないと困る。
だって、ジャンと偽物の婚約者になったのは、調査兵団に残るためなのだ。
彼女が調査兵団に残るためには、結婚相手が必要なのだ。
だから、ただ今まで誰のものでもなかった眠り姫が、急にパッと現れた男に奪われて惜しくなったから彼女に手を出してしまった、というだけでは困るのだ。
リヴァイからアプローチを受ければ、彼が覚悟をしていようが、気まぐれだろうが、なまえはきっとすぐに本気にしてしまう。
だって、それこそが、彼女がずっと待ち焦がれていたストーリーなのだ。
すぐに飛びつくに決まってる。
そのままずっと、リヴァイが彼女に夢を見せてくれるのならばいいけれど、その後、現実に引き戻された彼女が、独りぼっちになって、調査兵団にも残れない——なんてことになったら、最悪だ。
今までのジャンの努力が水の泡になるどころか、彼女はきっと、今度こそ壊れてしまう。
悲しさや寂しさを忘れる為に夢の中の泥沼にはまって、もう二度と現実には戻って来れなくなるだろう。
それは、彼女の為にはならない。
だから、リヴァイが結婚も視野に入れていないのならば、偽物の婚約者という関係を解消することはできない。
でも、なまえに本当の恋人が出来て、彼女も彼のことを心から愛していて、リヴァイが彼女と本気で結婚をしたいと思っているのなら、むしろ嬉しいことだ。
だから、自分は喜んで身を引こう———。
そう、思っているはずだ。
何度もそうやって、自分に言い聞かせたはずだ。
でも———。
「クソ…ッ。」
ジャンから出てくるのは、悔しそうな悪態ばかりだ。
強く唇を噛む。
こんなはずじゃなかった、と考えずにはいられない。
今頃きっと、なまえは————。
今頃きっと、リヴァイは————。
閉じた瞼の裏にこびりついた記憶が、今の彼らに重なって離れていかない。
そのとき、部屋の扉が、ゆっくりと開いた。
入ってきたのは————。