◇第四十一話◇騎士は姫を攫う
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「私…、何か、言いました…?」
途切れ途切れに訊ねてしまったのは、私がそうでないことを願っていたからだ。
ずっと心の奥に仕舞い込んでいた気持ちを、私は零してしまったのだろうか。
昨日は、ひどく心細くて、寂しくて、そばにいてほしくて、高熱に魘されていた身体よりも心が弱っていた気がする。
「散歩でもするか。」
全く答えの返事になっていないことを言って、リヴァイ兵長が立ち上がった。
そして、わけがわからず戸惑う私に手を差し伸べる。
「庭を見て回りたくて降りてきたんだろ。行くぞ。」
「あ、はいっ。」
命令のように言われてしまったら、条件反射だった。
私は、リヴァイ兵長の手を握って立ち上がる。
立ち上がるために手を貸してくれただけだと思ったのだ。
でも、リヴァイ兵長は、私の手を握ったままで歩き始める。
「あ、あの…っ、手…っ。」
歩くのが速いリヴァイ兵長に手を引かれながら、私は早足で追いかける。
でも、リヴァイ兵長は、私のことなんて気にしないどころか、綺麗な庭園を散歩する気もないような速度で歩き続ける。
手も離しては貰えず、強引に手を引かれる私は、まるで、騎士にお城から連れ去られるお姫様みたいで———。
「なんだか、攫われたお姫様になったみたい。」
思ってしまったことが、そのまま口から零れてしまった。
ハッとして口を噤んだ時にはもう、リヴァイ兵長は立ち止まって、振り返っていた。
マズいと思って目を見開く私と、何を考えているのか分からないリヴァイ兵長の視線が重なる。
「なら俺は、お前を他の男に奪われたくねぇ騎士だな。」
冗談を言ってるような顔ではないのに、冗談みたいなことを、リヴァイ兵長が言う。
私を見つめ続ける瞳の色は、月明かりに照らされて藍色に光っていて、庭園の噴水の澄んだ輝きに似ていた。
だから、それはとても熱っぽくて、まるで、愛を宿しているように見えてしまって———。
「ア、ハハ…っ、リヴァイ兵長でも冗談を言・・・っ———。」
緊張を笑って誤魔化そうとした私は、慌てて手を離す。
無意識に後退ってしまった焦り過ぎた足が、ドレスの裾を踏んでしまった。
「キャァ…っ。」
バランスを崩して身体が後ろに倒れていく。
それはほんの、一瞬だった。
妖しい満月が見えた次の瞬間には、視界のすべてが、私を見下ろすリヴァイ兵長でいっぱいになった。
倒れそうになった身体を片腕で支えているリヴァイ兵長の細くて硬い腕を、腰に感じながら、私は見開く目で彼を見上げていた。
『アンタ、本当に何やってんすか。』
不意に聞こえてきたのは、自慢の補佐官の呆れたような声だった。
きっと、ここにいたのがジャンだったら、そうやってため息交じりに言われたんだろう。
呆れたように叱りながら、私を支えてくれたと思う。
でも、今目の前にいるのは、リヴァイ兵長で、彼は、呆れたような顔もしていなければ、裾を踏まないように気をつけろと忠告したのも忘れてこけそうになった私のことを怒っているような様子もない。
月明かりが消えた世界で、瞳を深い藍色に変えて、ただじっと私を見つめるのだ。
そして私は、深い藍色の瞳に、吸い込まれていく。
それはまるで、催眠術にでもかけようとしているみたいに、私を魅了した。
「お前はずっと、夢を見て笑ってればいい。」
リヴァイ兵長が、私の頬に触れる。
そして、強く押しながら頬をなぞっていく。
それは徐々に上がり、私の両目を隠した。
リヴァイ兵長すら見えなくなった世界で、そのままゆっくりと撫でるように手がおろされて、私の瞼が閉じていく。
途端に訪れる闇の世界、急に怖くなってしまった私の腰をリヴァイ兵長が強く抱き寄せた。
息遣いを、こんなに近くに感じたことってない。
今、唇が重なりそうな距離に、彼がいる。
「こうしてれば、なまえと俺だけだ。」
リヴァイ兵長の声が私の頬を撫でて、熱い唇が耳たぶをくすぐった。
思わず身震いをした私の髪を、まるで、守るように彼が撫でる。
「俺は、お前を命を懸けて守ってやる。
お前はもうツラい思いをしなくていい。悪くねぇだろ、な?」
私の耳元を、愛おしい人の声が独占していた。
その向こうに、さらさらと流れていく噴水の穏やかな音が微かに聞こえる。
暗闇の世界で聞こえてくるそれは、まるで、魔力を持った言葉みたいに、弱い私の心を引きつけた。
とても魅力的な響きで、私の思考のすべてを奪っていこうとする。
「それが、いいです…。」
導かれるようにそう答えて、私の手が、闇の中で宙を彷徨いだす。
そして、目の前にいる騎士の服にすぐに辿り着く。
ゆっくり、ゆっくりと上がっていった手は、心臓の鼓動を見つけて動きを止める。
愛おしい人の胸に手を添えて、私は知るのだ。
彼もドキドキしてること、私と同じ気持ちだってことを———。
「俺が望むのは、ひとつだけだ。」
あぁ、もうすぐだ。
私を奪うセリフが、ずっと恋焦がれていた綺麗な唇が告げるまで、あと1秒もない———。
私は、夢の世界で、ただ静かに続きを待つ。
だって、愛おしい人の声と噴水で水が流れる柔らかくて心地の良い音しか届かないこの場所に今いるのは、彼と私の2人だけだから。
唯一、いけない逢瀬を見ている月だって、惹かれ合ってはいけないと私達を叱ったりしない。
ただ黙って、見守ってくれている。
ここでは、『愛し合ってはいけない』と私達を引き裂こうとするものは何もない。
私は、彼に身を任せてもいい。
心を、捧げてもいいのだ——。
「俺になまえを攫わせてくれ。」
「…はい。」
それ以外の答えを、私は知らない。
だって、ずっと、その言葉を待っていたのだ。
ずっと、ずっと、待ち焦がれていた。
この残酷な現実の世界で、囚われの身になっている私を、あなたが攫ってくれたらいいのにって———。
途切れ途切れに訊ねてしまったのは、私がそうでないことを願っていたからだ。
ずっと心の奥に仕舞い込んでいた気持ちを、私は零してしまったのだろうか。
昨日は、ひどく心細くて、寂しくて、そばにいてほしくて、高熱に魘されていた身体よりも心が弱っていた気がする。
「散歩でもするか。」
全く答えの返事になっていないことを言って、リヴァイ兵長が立ち上がった。
そして、わけがわからず戸惑う私に手を差し伸べる。
「庭を見て回りたくて降りてきたんだろ。行くぞ。」
「あ、はいっ。」
命令のように言われてしまったら、条件反射だった。
私は、リヴァイ兵長の手を握って立ち上がる。
立ち上がるために手を貸してくれただけだと思ったのだ。
でも、リヴァイ兵長は、私の手を握ったままで歩き始める。
「あ、あの…っ、手…っ。」
歩くのが速いリヴァイ兵長に手を引かれながら、私は早足で追いかける。
でも、リヴァイ兵長は、私のことなんて気にしないどころか、綺麗な庭園を散歩する気もないような速度で歩き続ける。
手も離しては貰えず、強引に手を引かれる私は、まるで、騎士にお城から連れ去られるお姫様みたいで———。
「なんだか、攫われたお姫様になったみたい。」
思ってしまったことが、そのまま口から零れてしまった。
ハッとして口を噤んだ時にはもう、リヴァイ兵長は立ち止まって、振り返っていた。
マズいと思って目を見開く私と、何を考えているのか分からないリヴァイ兵長の視線が重なる。
「なら俺は、お前を他の男に奪われたくねぇ騎士だな。」
冗談を言ってるような顔ではないのに、冗談みたいなことを、リヴァイ兵長が言う。
私を見つめ続ける瞳の色は、月明かりに照らされて藍色に光っていて、庭園の噴水の澄んだ輝きに似ていた。
だから、それはとても熱っぽくて、まるで、愛を宿しているように見えてしまって———。
「ア、ハハ…っ、リヴァイ兵長でも冗談を言・・・っ———。」
緊張を笑って誤魔化そうとした私は、慌てて手を離す。
無意識に後退ってしまった焦り過ぎた足が、ドレスの裾を踏んでしまった。
「キャァ…っ。」
バランスを崩して身体が後ろに倒れていく。
それはほんの、一瞬だった。
妖しい満月が見えた次の瞬間には、視界のすべてが、私を見下ろすリヴァイ兵長でいっぱいになった。
倒れそうになった身体を片腕で支えているリヴァイ兵長の細くて硬い腕を、腰に感じながら、私は見開く目で彼を見上げていた。
『アンタ、本当に何やってんすか。』
不意に聞こえてきたのは、自慢の補佐官の呆れたような声だった。
きっと、ここにいたのがジャンだったら、そうやってため息交じりに言われたんだろう。
呆れたように叱りながら、私を支えてくれたと思う。
でも、今目の前にいるのは、リヴァイ兵長で、彼は、呆れたような顔もしていなければ、裾を踏まないように気をつけろと忠告したのも忘れてこけそうになった私のことを怒っているような様子もない。
月明かりが消えた世界で、瞳を深い藍色に変えて、ただじっと私を見つめるのだ。
そして私は、深い藍色の瞳に、吸い込まれていく。
それはまるで、催眠術にでもかけようとしているみたいに、私を魅了した。
「お前はずっと、夢を見て笑ってればいい。」
リヴァイ兵長が、私の頬に触れる。
そして、強く押しながら頬をなぞっていく。
それは徐々に上がり、私の両目を隠した。
リヴァイ兵長すら見えなくなった世界で、そのままゆっくりと撫でるように手がおろされて、私の瞼が閉じていく。
途端に訪れる闇の世界、急に怖くなってしまった私の腰をリヴァイ兵長が強く抱き寄せた。
息遣いを、こんなに近くに感じたことってない。
今、唇が重なりそうな距離に、彼がいる。
「こうしてれば、なまえと俺だけだ。」
リヴァイ兵長の声が私の頬を撫でて、熱い唇が耳たぶをくすぐった。
思わず身震いをした私の髪を、まるで、守るように彼が撫でる。
「俺は、お前を命を懸けて守ってやる。
お前はもうツラい思いをしなくていい。悪くねぇだろ、な?」
私の耳元を、愛おしい人の声が独占していた。
その向こうに、さらさらと流れていく噴水の穏やかな音が微かに聞こえる。
暗闇の世界で聞こえてくるそれは、まるで、魔力を持った言葉みたいに、弱い私の心を引きつけた。
とても魅力的な響きで、私の思考のすべてを奪っていこうとする。
「それが、いいです…。」
導かれるようにそう答えて、私の手が、闇の中で宙を彷徨いだす。
そして、目の前にいる騎士の服にすぐに辿り着く。
ゆっくり、ゆっくりと上がっていった手は、心臓の鼓動を見つけて動きを止める。
愛おしい人の胸に手を添えて、私は知るのだ。
彼もドキドキしてること、私と同じ気持ちだってことを———。
「俺が望むのは、ひとつだけだ。」
あぁ、もうすぐだ。
私を奪うセリフが、ずっと恋焦がれていた綺麗な唇が告げるまで、あと1秒もない———。
私は、夢の世界で、ただ静かに続きを待つ。
だって、愛おしい人の声と噴水で水が流れる柔らかくて心地の良い音しか届かないこの場所に今いるのは、彼と私の2人だけだから。
唯一、いけない逢瀬を見ている月だって、惹かれ合ってはいけないと私達を叱ったりしない。
ただ黙って、見守ってくれている。
ここでは、『愛し合ってはいけない』と私達を引き裂こうとするものは何もない。
私は、彼に身を任せてもいい。
心を、捧げてもいいのだ——。
「俺になまえを攫わせてくれ。」
「…はい。」
それ以外の答えを、私は知らない。
だって、ずっと、その言葉を待っていたのだ。
ずっと、ずっと、待ち焦がれていた。
この残酷な現実の世界で、囚われの身になっている私を、あなたが攫ってくれたらいいのにって———。