◇第三十六話◇甘過ぎるホットミルク
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ジャンはデスクで書類仕事をしていて、なまえはベッドで眠っている。
ふ、といつもと何も変わらないことに気がついた。
書類にペンを走らせていた手が止まり、思わず苦笑する。
「ジャン…。」
掠れたような小さな声がして、ジャンは振り返る。
なまえが寝ているベッドから、白く細い手が弱々しく持ちあがって、何かを探しているようだった。
「起きたんですか。」
ジャンは立ち上がると、なまえの元へ向かう。
そして、ベッドの縁に腰かけ、彼女の額に手を乗せた。
今度はさすがに、思わず手を離すことはなかったが、さっきよりも熱い。
熱は下がるどころか上がっているようだ。
眠れているのなら、薬を飲ませるのは診察が終わってからにしようと思っていたのだが、こんなに熱が高いままだとキツいだろうし、風邪を治すどころか、体力を奪われてしまうだけだ。
解熱剤も貰ってきているし、飲ませておこう——そう考え、薬を取るために額から離れようとしたジャンの手に、驚くほど熱い手が乗った。
それは、添えるとか、引き留めるとか、そういうものではなくて、文字通り〝乗っかって〟いた。
力が入らない手は重力にそのまま身を預けているせいで、小さな手がとても重たく感じられた。
「ジャン…、どこ…?」
虚ろな目は、焦点が定まらないまま、天井を見上げていた。
相変わらずどこを見ているか分からない。
だが、自分の手の上に乗った小さな手の理由は理解した。
「ここです。
なまえさんが手を乗っけてるのが、俺の手です。」
「こお、り…?」
「俺の手って言ってるでしょ。
なまえさんの手が馬鹿みたいにクソ熱いだけです。
で、薬を取りたいんで、手どけますね。」
「や、だ…。」
「ダメです。」
ジャンは厳しく言って、なまえの手を掴み布団の中に戻すと、一旦、ベッドから離れて薬と白湯を準備した。
離れている間、なまえは、熱に浮かされ、うわ言のようにジャンの名前を呼んでいた。
だから、急いで薬の準備をしたのに———。
「飲んでください。」
ジャンが、何度、薬を渡そうとしても、なまえは受け取ろうとしない。
それどころか、こちらを向こうともしないのだ。
反対を向いて、鍵でもかけたように口を閉じてしまった。
頑なに薬を拒否するなまえに、途方に暮れるよりも先に、呆れと怒りが湧く。
そもそも、自分の忠告を聞かないからこんなことになるのだ、という思いがジャンの中から消えてはいなかったのだ。
そこへ、タイミングを見計らったように医療兵が診察にやってきた。
ちょうど今起きて薬を飲ませようとしていたところだったことを伝えた後、ジャンは、ベッド脇に座って診察を始めた医療兵の後ろに立って、診察が終わるのを待った。
身体を起こすのもきついというなまえを寝かせたままで、医療兵は、熱を計ったり、喉を確認したり、簡単な診察を行う。
結局———。
「典型的な、風邪だな。」
「ですよね。」
思った通りの診断結果に、ジャンはため息を吐いた。
昨日、雨の中を喜んでずぶ濡れで帰って来たのだということを教えてやると、医療兵は、なまえらしいと苦笑した。
「それで、熱もすげぇ高いんで、薬を飲ませたいんすけど
頑なに飲まねぇの一点張りで。やっぱ、飲まないとダメっすか?」
「そうだなぁ…。風邪の一番の薬は、しっかり食って寝ることだから
必ず風邪薬を飲まないといけないわけじゃないけど、
これだけ熱が高かったら、飲まないとむしろ本人がキツいと思う。」
医療兵は、苦しそうに息を吐いているなまえを見下ろして、心配そうに言う。
「そうっすよね…。」
「それに、明日は、リヴァイ班と一緒に
貴族の仮装パーティーに参加するんじゃなかったか?」
「そうなんすよ。それをすげぇ楽しみにし過ぎて、
テンション上がって雨に打たれたんです。馬鹿だから。」
「ハハ…、本当に馬鹿…。
それにどうしても出たいなら、ちゃんと薬は飲んでた方がいいな。
その方が治りも早い。」
「分かりました。」
医療兵は、最後にもう一度、なまえの状態を簡単に確認する。
それから、薬がどうしても飲めないのなら、せめて水分はたくさんとるようにという指示をジャンに出し、何かあればいつでも声をかけてくれと言って、帰っていった。
ふ、といつもと何も変わらないことに気がついた。
書類にペンを走らせていた手が止まり、思わず苦笑する。
「ジャン…。」
掠れたような小さな声がして、ジャンは振り返る。
なまえが寝ているベッドから、白く細い手が弱々しく持ちあがって、何かを探しているようだった。
「起きたんですか。」
ジャンは立ち上がると、なまえの元へ向かう。
そして、ベッドの縁に腰かけ、彼女の額に手を乗せた。
今度はさすがに、思わず手を離すことはなかったが、さっきよりも熱い。
熱は下がるどころか上がっているようだ。
眠れているのなら、薬を飲ませるのは診察が終わってからにしようと思っていたのだが、こんなに熱が高いままだとキツいだろうし、風邪を治すどころか、体力を奪われてしまうだけだ。
解熱剤も貰ってきているし、飲ませておこう——そう考え、薬を取るために額から離れようとしたジャンの手に、驚くほど熱い手が乗った。
それは、添えるとか、引き留めるとか、そういうものではなくて、文字通り〝乗っかって〟いた。
力が入らない手は重力にそのまま身を預けているせいで、小さな手がとても重たく感じられた。
「ジャン…、どこ…?」
虚ろな目は、焦点が定まらないまま、天井を見上げていた。
相変わらずどこを見ているか分からない。
だが、自分の手の上に乗った小さな手の理由は理解した。
「ここです。
なまえさんが手を乗っけてるのが、俺の手です。」
「こお、り…?」
「俺の手って言ってるでしょ。
なまえさんの手が馬鹿みたいにクソ熱いだけです。
で、薬を取りたいんで、手どけますね。」
「や、だ…。」
「ダメです。」
ジャンは厳しく言って、なまえの手を掴み布団の中に戻すと、一旦、ベッドから離れて薬と白湯を準備した。
離れている間、なまえは、熱に浮かされ、うわ言のようにジャンの名前を呼んでいた。
だから、急いで薬の準備をしたのに———。
「飲んでください。」
ジャンが、何度、薬を渡そうとしても、なまえは受け取ろうとしない。
それどころか、こちらを向こうともしないのだ。
反対を向いて、鍵でもかけたように口を閉じてしまった。
頑なに薬を拒否するなまえに、途方に暮れるよりも先に、呆れと怒りが湧く。
そもそも、自分の忠告を聞かないからこんなことになるのだ、という思いがジャンの中から消えてはいなかったのだ。
そこへ、タイミングを見計らったように医療兵が診察にやってきた。
ちょうど今起きて薬を飲ませようとしていたところだったことを伝えた後、ジャンは、ベッド脇に座って診察を始めた医療兵の後ろに立って、診察が終わるのを待った。
身体を起こすのもきついというなまえを寝かせたままで、医療兵は、熱を計ったり、喉を確認したり、簡単な診察を行う。
結局———。
「典型的な、風邪だな。」
「ですよね。」
思った通りの診断結果に、ジャンはため息を吐いた。
昨日、雨の中を喜んでずぶ濡れで帰って来たのだということを教えてやると、医療兵は、なまえらしいと苦笑した。
「それで、熱もすげぇ高いんで、薬を飲ませたいんすけど
頑なに飲まねぇの一点張りで。やっぱ、飲まないとダメっすか?」
「そうだなぁ…。風邪の一番の薬は、しっかり食って寝ることだから
必ず風邪薬を飲まないといけないわけじゃないけど、
これだけ熱が高かったら、飲まないとむしろ本人がキツいと思う。」
医療兵は、苦しそうに息を吐いているなまえを見下ろして、心配そうに言う。
「そうっすよね…。」
「それに、明日は、リヴァイ班と一緒に
貴族の仮装パーティーに参加するんじゃなかったか?」
「そうなんすよ。それをすげぇ楽しみにし過ぎて、
テンション上がって雨に打たれたんです。馬鹿だから。」
「ハハ…、本当に馬鹿…。
それにどうしても出たいなら、ちゃんと薬は飲んでた方がいいな。
その方が治りも早い。」
「分かりました。」
医療兵は、最後にもう一度、なまえの状態を簡単に確認する。
それから、薬がどうしても飲めないのなら、せめて水分はたくさんとるようにという指示をジャンに出し、何かあればいつでも声をかけてくれと言って、帰っていった。