「ほら、行きますよ。」

部屋を出てすぐに、ジャンが私の前に手を出した。
何かをくれるのかな———、なんて考えていると「なにもあげませんよ。」と言われてしまった。
たぶん、ジャンは、私の心を読む特殊能力を持っている。

「恋人なんですから、デート前くらいは手を繋いでいきますよ。」

あぁ、そういうことか———。
納得して、私はパフォーマンスとしてそれを受け入れて、ジャンの手を握った。
そして、調査兵達が忙しそうに歩き回っている廊下を、私は、重たい足を引きずるようにだらだらと歩く。
眠たすぎて、大きな欠伸を隠そうともしない。
休日だというのに朝から私を叩き起こした張本人のジャンは、カジュアルだけれどお洒落な服で身を包んでいた。
私も、ジャンが見繕ったワンピースを着ているけれど、靴は歩きやすそうなスポーツタイプのシューズだった。
お洒落がよく分からない私だって、ヒールを合わせるべきだったんじゃないかと思った。

『歩き疲れたらいけないんで。』

平然とそう答えたジャンを思い出して、私は欠伸のフリをしてため息を吐いた。
確かに、デートには、歩くというイメージがある。
でも、歩き疲れてしまうと最初から分かっているデートなんて、最悪だ。
まだ始まってもいないのに、もう帰りたい。

「やぁ、今日は休み？」

宿舎を出たところで、声を掛けて来たのは、ナナバだった。
これから立体起動の訓練だという彼女に、私はこれから残念ながら歩き疲れる予定のデートなのだと教えてやれば、苦笑されてしまった。