◇第十九話◇微睡みに零す本音
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久しぶりにぐっすり眠ったお陰か、ジャンにとっては目覚めのいい朝だった。
早朝の白い光を感じながら瞼を開くと、部屋はもうすっかり明るくなっていた。
腕の中からは、規則的な寝息が聞こえている。
目線を少し下に向ければ、見慣れたつむじと天使の輪を光らせた髪が見えた。
(あぁ…、抱きしめて寝たんだっけ。)
抱きしめたところまでは覚えているけれど、そこからすぐ記憶が飛んでいる。
壁外調査後の書類仕事で寝不足が続いた上に、前日はほとんど徹夜での長旅で、流石に身体が休息を求めていたのだろう。
それにしても———。
(へぇ、こうやって寝ればおとなしいんだな。)
ジャンは心の中で感心した。
普段は、布団を蹴飛ばしていたり、ベッドから片脚が落ちている、寝相の悪いなまえの姿を思い出す。
それに比べて今日は、睡魔に襲われたジャンが眠ってしまう直前の光景とあまり変わっていない。
あれから、勝手な補佐官の腕から逃げ出すこともしないで、なまえもそのまま眠ったのだろう。
腕の中は窮屈で、動く余裕がなかったのかもしれない。
無理やりにでも抜け出せばよかったのに———。
そう思わなくもないけれど、なまえがそうしないことは分かっていて、ご褒美をねだった。
調査兵団に残留できることに決まって感謝をしていた彼女は、適当な癖に律儀なところがある。
それが、我儘で勝手で、彼女にとって意味の分からないご褒美だとしても、一度、何でもあげると言ったものを引っ込めたりはしない。
それにどうせ、彼女のことだから、寝ている間にご褒美をあげられるのならラッキーだなんて思っていそうだ。
(で、大好きな騎士に抱きしめられてる妄想でもして、楽しんだんだろ。
感謝して欲しいね。)
嫌味なため息を、天使の輪の上に落としてみたけれど、規則正しい寝息が返ってきただけだった。
安心したように眠っているなまえを眺めながら、昨日、彼女が泣いてくれてよかったと心底思う。
覚悟を決めた様にキツく閉じた瞼から涙が零れたのを見たとき、彼女の逃げ道を奪って脅していた自分に気づいて、恐ろしくなった。
自分は、彼女が今まで出逢ったすべての中で、最も残酷なことを彼女にしてしまうところだったのだ。
そこまでして欲しいものではない。
少なくとも、上官と補佐官という関係を壊そうとは思っていない。
今は、成り行きで偽物の恋人なんて、不本意なものになってしまっているけれど———。
「リヴァ、イ…さん…。」
不意に、腕の中から、幸せそうな掠れ声が聞こえて来た。
どうやら、大好きな夢の中で、大好きなリヴァイに会っているらしい。
なんとなく違和感を覚えて、すぐにその理由に気がついた。
彼女は今、〝リヴァイ兵長〟と呼ばなかったからだ。
今は、調査兵のほとんどが、彼のことを〝兵長〟と呼ぶせいで、あまり聞き慣れていないから、不思議な気持ちだけれど、よく考えれば10年前はリヴァイだって、単なる調査兵だったのだ。
当然、彼女だけではなく、他の兵士達も彼のことを名前で呼んでいただろう。
今でも、エルヴィンやハンジは、彼を呼び捨てにしている。
でも、憲兵の両親から、上下関係を厳しく育てられてきた彼女は、リヴァイが兵士長という役職になったことで、呼び方も変わったのかもしれない。
ジャンは、幸せな夢を見ているらしいなまえの顎を掴んで上を向かせると、少し強めに頬を引っ張った。
柔らかい頬が横に伸びて、なんとも間抜けな顔になっている。
「朝ですよ。起きてください。」
「ん~~~、あとちょっと…。」
「ダメです。今日は、兵舎に帰る前に、
団長から預かった書類持って憲兵団本部に行くんでしょ。
早く支度しないと、今日のうちに帰れなくなりますよ。」
「ん~~~、団長の、ばかやろぅ~…。まゆげぇ~~。りりしすぎぃ~…。」
頬を引っ張られたまま、寝ぼけてなまえが漏らした悪口になっていない悪口が、間抜けすぎて、ジャンは思わず吹き出してしまう。
なんとも、悪者になりきれない彼女らしい。
「聞かなかったことにしてあげますから、起きますよ。」
「ん~~~、あとちょっと~…。」
「だから、」
同じことを10回繰り返して、やっとなまえはのっそりと身体を起こした。
結局、〝眉毛〟という悪口を、10回は聞かされてしまった。
早朝の白い光を感じながら瞼を開くと、部屋はもうすっかり明るくなっていた。
腕の中からは、規則的な寝息が聞こえている。
目線を少し下に向ければ、見慣れたつむじと天使の輪を光らせた髪が見えた。
(あぁ…、抱きしめて寝たんだっけ。)
抱きしめたところまでは覚えているけれど、そこからすぐ記憶が飛んでいる。
壁外調査後の書類仕事で寝不足が続いた上に、前日はほとんど徹夜での長旅で、流石に身体が休息を求めていたのだろう。
それにしても———。
(へぇ、こうやって寝ればおとなしいんだな。)
ジャンは心の中で感心した。
普段は、布団を蹴飛ばしていたり、ベッドから片脚が落ちている、寝相の悪いなまえの姿を思い出す。
それに比べて今日は、睡魔に襲われたジャンが眠ってしまう直前の光景とあまり変わっていない。
あれから、勝手な補佐官の腕から逃げ出すこともしないで、なまえもそのまま眠ったのだろう。
腕の中は窮屈で、動く余裕がなかったのかもしれない。
無理やりにでも抜け出せばよかったのに———。
そう思わなくもないけれど、なまえがそうしないことは分かっていて、ご褒美をねだった。
調査兵団に残留できることに決まって感謝をしていた彼女は、適当な癖に律儀なところがある。
それが、我儘で勝手で、彼女にとって意味の分からないご褒美だとしても、一度、何でもあげると言ったものを引っ込めたりはしない。
それにどうせ、彼女のことだから、寝ている間にご褒美をあげられるのならラッキーだなんて思っていそうだ。
(で、大好きな騎士に抱きしめられてる妄想でもして、楽しんだんだろ。
感謝して欲しいね。)
嫌味なため息を、天使の輪の上に落としてみたけれど、規則正しい寝息が返ってきただけだった。
安心したように眠っているなまえを眺めながら、昨日、彼女が泣いてくれてよかったと心底思う。
覚悟を決めた様にキツく閉じた瞼から涙が零れたのを見たとき、彼女の逃げ道を奪って脅していた自分に気づいて、恐ろしくなった。
自分は、彼女が今まで出逢ったすべての中で、最も残酷なことを彼女にしてしまうところだったのだ。
そこまでして欲しいものではない。
少なくとも、上官と補佐官という関係を壊そうとは思っていない。
今は、成り行きで偽物の恋人なんて、不本意なものになってしまっているけれど———。
「リヴァ、イ…さん…。」
不意に、腕の中から、幸せそうな掠れ声が聞こえて来た。
どうやら、大好きな夢の中で、大好きなリヴァイに会っているらしい。
なんとなく違和感を覚えて、すぐにその理由に気がついた。
彼女は今、〝リヴァイ兵長〟と呼ばなかったからだ。
今は、調査兵のほとんどが、彼のことを〝兵長〟と呼ぶせいで、あまり聞き慣れていないから、不思議な気持ちだけれど、よく考えれば10年前はリヴァイだって、単なる調査兵だったのだ。
当然、彼女だけではなく、他の兵士達も彼のことを名前で呼んでいただろう。
今でも、エルヴィンやハンジは、彼を呼び捨てにしている。
でも、憲兵の両親から、上下関係を厳しく育てられてきた彼女は、リヴァイが兵士長という役職になったことで、呼び方も変わったのかもしれない。
ジャンは、幸せな夢を見ているらしいなまえの顎を掴んで上を向かせると、少し強めに頬を引っ張った。
柔らかい頬が横に伸びて、なんとも間抜けな顔になっている。
「朝ですよ。起きてください。」
「ん~~~、あとちょっと…。」
「ダメです。今日は、兵舎に帰る前に、
団長から預かった書類持って憲兵団本部に行くんでしょ。
早く支度しないと、今日のうちに帰れなくなりますよ。」
「ん~~~、団長の、ばかやろぅ~…。まゆげぇ~~。りりしすぎぃ~…。」
頬を引っ張られたまま、寝ぼけてなまえが漏らした悪口になっていない悪口が、間抜けすぎて、ジャンは思わず吹き出してしまう。
なんとも、悪者になりきれない彼女らしい。
「聞かなかったことにしてあげますから、起きますよ。」
「ん~~~、あとちょっと~…。」
「だから、」
同じことを10回繰り返して、やっとなまえはのっそりと身体を起こした。
結局、〝眉毛〟という悪口を、10回は聞かされてしまった。