◇第一話◇早朝の悪夢と眠り姫
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そこが巨人の領域だろうが、どこであろうが、朝は必ずやって来る。
人類が生きることの出来なくなった〝ウォール・マリア〟南東にある巨人に破壊されて廃墟と化した建物。それが、調査兵団の兵団拠点だった。
壁外の朝は早い。
夜になると動きが鈍る巨人達が、日の出とともに活動し始めるためだ。
彼らに見つかるよりも先に兵団拠点を出発し、シガンシナ区への行路を作らなくてはならない。
だが、その日の朝は、いつもの壁外の朝とは違っていた。しかも最悪の方に、だ。
恐ろしい地響きを聞いた調査兵達は、まだ眠っている仲間を叩き起こし、立体起動装置とブレードを身につけた。
奴らは、すぐにその姿を現した。
数としては、軽く20体は超えている。いや、もっと多いかもしれない。
こんな朝早くについていない——。
逃げるという選択肢もあったはずだが、団長のエルヴィンは、仲間の命を幾つも犠牲にし漸く建てることが出来た兵団拠点を守ることに決めた。
この拠点は、シガンシナ区への行路を作るのに重要な役割を担うことになるのは、調査兵全員が理解していた。
誰も、彼の決定に異論はなかった。
兵団拠点となっているこの廃墟が、比較的高い建物だったのも、エルヴィンが巨人討伐を部下に命じた理由のひとつだろう。
この建物をうまく利用すれば、人的被害も比較的少なく済ませられると考えたのだ。
班長達が所属班の新兵や入団歴の浅い調査兵達を建物の最上階へ移動させている間に、精鋭兵やベテラン兵が、ブレードを構えて巨人の大群を待ち構える。
巨人が近づいてきたタイミングで、精鋭兵が立体起動装置を駆使して飛び上がった。
それに続け——とベテラン兵達もブレードを振り上げる。
そこには、仲間から〝奇行種〟と揶揄される眼鏡の兵士もいた。
第四分隊の分隊長として活躍する彼女は、巨人の謎を解明させるという情熱が常識の範疇を越え、突拍子もないことを始めることも多く、トラブルの元になるのは日常茶飯事だ。
「ねぇ!!この中のどれかを捕獲してもいい!?」
空を飛び上がりながら、眼鏡の兵士は好奇心旺盛の目を輝かせていた。
その隣にいた兵士が、目を丸くする。彼は、彼女と同じ第四分隊で副隊長を担っている。
右腕、補佐、助手、哀れな人——。
彼を揶揄する言葉は幾つもある。
「いい加減にしてくださいよ!!今は拠点防衛が第一優先です!!」
「それは分かってるよぅ。でもさ、リヴァイ班もエレン達もいるし、きっとそこは大丈夫だよ!
だから私達の班はさ、巨人捕獲作戦に移行しない?」
「分隊長!!あなたはまだ寝ぼけてるんですか!?」
「いいじゃーん、ね?2体だけ!」
「気は確かですか!?」
建物の屋上へ退避し終わった新兵達の耳に、哀れな人の叫び声が聞こえて来た。
兵団拠点の周囲には、3mや7m級の比較的小型な巨人に混じり、15m級の巨人も多数接近していた。
高い建物とは言え、大型の巨人が襲って来れば彼らも戦わなければならない。
先輩兵士達が命をかけて戦っている勇姿を屋上から見守りながら、彼らも震える手でブレードの柄を握りしめた。
「モブリットさんって、すげぇよな…。」
兵団拠点の屋上へ逃げていた兵士の1人が、ポツリ、と呟いた。
それはちょうど、哀れな彼が、暴走している上司の指示に仕方なく従うために、巨人の右足を切り落としたときだった。
それに続くように、数名の新兵達が、勝手に巨人捕獲作戦を始めてしまったハンジ班と、それに巻き込まれてしまった数名の精鋭兵へと視線を向けた。
「俺…、ハンジ分隊長の部下には絶対になりたくねぇな…。
まぁ…、なりたいって言ってなれるようなもんじゃねぇけどさ。」
「調査兵団で一番キツい任務がハンジ分隊長の補佐だよな。」
ハンジ班の様子を青い顔で眺めていた若い兵士達のほとんどが同意したが、そのうちの1人だけが首を横に振った。
「もっとキツいのは、あっちだと思う。」
彼はそう言いながら、巨人捕獲作戦を行っている場所を向いて東の方向を指さした。
そこにいたのは、あの二度目の地獄、巨人襲来の日に、トロスト区奪還作戦を生き抜いた訓練兵だった。
あれから4年が経ち19歳になった彼は、今では、調査兵団の精鋭と呼ばれるまでに成長していた。
人の上に立つのは苦手だと本気で言いながらも、状況把握能力に長け、まわりをよく見ている彼は、面倒見もよく、後輩兵士達からの信頼も厚い。
立体起動装置の扱いは調査兵団でトップクラスの実力で、長い手足をうまく利用し、何体もの巨人を華麗に討伐していく様は、頼りになる先輩兵士そのものだ。
だが、彼の戦い方はいつもと違っていた。
いつもは両手で振り下ろしているブレードを、右手にしか持っていなかったのだ。
そうせざるを得ない理由は、彼の左腕にあった。
なぜか彼は、左腕で、華奢な女兵士を抱えていたのである。
怪我でもしているのか——。
一瞬そう思った若い兵士達だが、どうやら様子がおかしい。
近くで巨人討伐をしているリヴァイ班も気づいたらしく、彼を見て面食らっている。よく舌を噛む兵士は、驚きすぎて、また舌を噛んでいた。
調査兵団が誇る人類最強の兵士は、驚きで目を見開いた後、怖い顔をして怒鳴ったが、左腕で華奢な女兵士を抱えた彼は、首を竦めて小さく首を横に振るだけだ。
諦めてくれ——、そんな声が聞こえてくるようだった。
それは、人類最強の兵士にも届いたらしく、口を真一文字に結ぶと、怖い顔はさらに険しくなった。
「ジャンさん…、なんで、なまえさんを抱えてるの?」
若い女の兵士が訊ねた。
答えたのは、さっき、調査兵団で一番キツい任務は、ハンジの補佐ではないと首を振った若い兵士だ。
「寝てるから。」
思った通りの返答に「あぁ…。」とそばにいた若い兵士達から諦めのような声が漏れた。
果たして、調査兵団の任務で最もキツいのは〝奇行種〟の補佐か、それとも——。
若い兵士達の問答は続く。
そして、調査兵団の名物〝眠り姫〟も、危機感の欠片もない無防備な寝顔を浮かべ、命をかけて戦う補佐の腕の中で安心したように眠り続けていた———。
人類が生きることの出来なくなった〝ウォール・マリア〟南東にある巨人に破壊されて廃墟と化した建物。それが、調査兵団の兵団拠点だった。
壁外の朝は早い。
夜になると動きが鈍る巨人達が、日の出とともに活動し始めるためだ。
彼らに見つかるよりも先に兵団拠点を出発し、シガンシナ区への行路を作らなくてはならない。
だが、その日の朝は、いつもの壁外の朝とは違っていた。しかも最悪の方に、だ。
恐ろしい地響きを聞いた調査兵達は、まだ眠っている仲間を叩き起こし、立体起動装置とブレードを身につけた。
奴らは、すぐにその姿を現した。
数としては、軽く20体は超えている。いや、もっと多いかもしれない。
こんな朝早くについていない——。
逃げるという選択肢もあったはずだが、団長のエルヴィンは、仲間の命を幾つも犠牲にし漸く建てることが出来た兵団拠点を守ることに決めた。
この拠点は、シガンシナ区への行路を作るのに重要な役割を担うことになるのは、調査兵全員が理解していた。
誰も、彼の決定に異論はなかった。
兵団拠点となっているこの廃墟が、比較的高い建物だったのも、エルヴィンが巨人討伐を部下に命じた理由のひとつだろう。
この建物をうまく利用すれば、人的被害も比較的少なく済ませられると考えたのだ。
班長達が所属班の新兵や入団歴の浅い調査兵達を建物の最上階へ移動させている間に、精鋭兵やベテラン兵が、ブレードを構えて巨人の大群を待ち構える。
巨人が近づいてきたタイミングで、精鋭兵が立体起動装置を駆使して飛び上がった。
それに続け——とベテラン兵達もブレードを振り上げる。
そこには、仲間から〝奇行種〟と揶揄される眼鏡の兵士もいた。
第四分隊の分隊長として活躍する彼女は、巨人の謎を解明させるという情熱が常識の範疇を越え、突拍子もないことを始めることも多く、トラブルの元になるのは日常茶飯事だ。
「ねぇ!!この中のどれかを捕獲してもいい!?」
空を飛び上がりながら、眼鏡の兵士は好奇心旺盛の目を輝かせていた。
その隣にいた兵士が、目を丸くする。彼は、彼女と同じ第四分隊で副隊長を担っている。
右腕、補佐、助手、哀れな人——。
彼を揶揄する言葉は幾つもある。
「いい加減にしてくださいよ!!今は拠点防衛が第一優先です!!」
「それは分かってるよぅ。でもさ、リヴァイ班もエレン達もいるし、きっとそこは大丈夫だよ!
だから私達の班はさ、巨人捕獲作戦に移行しない?」
「分隊長!!あなたはまだ寝ぼけてるんですか!?」
「いいじゃーん、ね?2体だけ!」
「気は確かですか!?」
建物の屋上へ退避し終わった新兵達の耳に、哀れな人の叫び声が聞こえて来た。
兵団拠点の周囲には、3mや7m級の比較的小型な巨人に混じり、15m級の巨人も多数接近していた。
高い建物とは言え、大型の巨人が襲って来れば彼らも戦わなければならない。
先輩兵士達が命をかけて戦っている勇姿を屋上から見守りながら、彼らも震える手でブレードの柄を握りしめた。
「モブリットさんって、すげぇよな…。」
兵団拠点の屋上へ逃げていた兵士の1人が、ポツリ、と呟いた。
それはちょうど、哀れな彼が、暴走している上司の指示に仕方なく従うために、巨人の右足を切り落としたときだった。
それに続くように、数名の新兵達が、勝手に巨人捕獲作戦を始めてしまったハンジ班と、それに巻き込まれてしまった数名の精鋭兵へと視線を向けた。
「俺…、ハンジ分隊長の部下には絶対になりたくねぇな…。
まぁ…、なりたいって言ってなれるようなもんじゃねぇけどさ。」
「調査兵団で一番キツい任務がハンジ分隊長の補佐だよな。」
ハンジ班の様子を青い顔で眺めていた若い兵士達のほとんどが同意したが、そのうちの1人だけが首を横に振った。
「もっとキツいのは、あっちだと思う。」
彼はそう言いながら、巨人捕獲作戦を行っている場所を向いて東の方向を指さした。
そこにいたのは、あの二度目の地獄、巨人襲来の日に、トロスト区奪還作戦を生き抜いた訓練兵だった。
あれから4年が経ち19歳になった彼は、今では、調査兵団の精鋭と呼ばれるまでに成長していた。
人の上に立つのは苦手だと本気で言いながらも、状況把握能力に長け、まわりをよく見ている彼は、面倒見もよく、後輩兵士達からの信頼も厚い。
立体起動装置の扱いは調査兵団でトップクラスの実力で、長い手足をうまく利用し、何体もの巨人を華麗に討伐していく様は、頼りになる先輩兵士そのものだ。
だが、彼の戦い方はいつもと違っていた。
いつもは両手で振り下ろしているブレードを、右手にしか持っていなかったのだ。
そうせざるを得ない理由は、彼の左腕にあった。
なぜか彼は、左腕で、華奢な女兵士を抱えていたのである。
怪我でもしているのか——。
一瞬そう思った若い兵士達だが、どうやら様子がおかしい。
近くで巨人討伐をしているリヴァイ班も気づいたらしく、彼を見て面食らっている。よく舌を噛む兵士は、驚きすぎて、また舌を噛んでいた。
調査兵団が誇る人類最強の兵士は、驚きで目を見開いた後、怖い顔をして怒鳴ったが、左腕で華奢な女兵士を抱えた彼は、首を竦めて小さく首を横に振るだけだ。
諦めてくれ——、そんな声が聞こえてくるようだった。
それは、人類最強の兵士にも届いたらしく、口を真一文字に結ぶと、怖い顔はさらに険しくなった。
「ジャンさん…、なんで、なまえさんを抱えてるの?」
若い女の兵士が訊ねた。
答えたのは、さっき、調査兵団で一番キツい任務は、ハンジの補佐ではないと首を振った若い兵士だ。
「寝てるから。」
思った通りの返答に「あぁ…。」とそばにいた若い兵士達から諦めのような声が漏れた。
果たして、調査兵団の任務で最もキツいのは〝奇行種〟の補佐か、それとも——。
若い兵士達の問答は続く。
そして、調査兵団の名物〝眠り姫〟も、危機感の欠片もない無防備な寝顔を浮かべ、命をかけて戦う補佐の腕の中で安心したように眠り続けていた———。