◇第十六話◇千年先も続く愛を誓う
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とうとう、実家に辿り着いてしまった。
大きな扉の前で、私は目を閉じて、大きく深呼吸をした。
それからすぐ、肩の辺りで何かが動いた気配を感じる。
あ——、そう思って私が目を開けたときには、ジャンが平然な顔をして呼び鈴のベルを叩いていた。
信じられない———。
彼はどうしてこうも、いつも堂々としていられるのだろう。
この2年間で、彼が焦ったのを見たのなんて、引き出しから出て来た気持ちの悪い虫にパニックになった私に叩き起こされて、トロスト区の悪夢が再来したと勘違いしてしまったあのときの1回きりだ。
澄ました顔で玄関を見ている人相の悪い横顔を、目を丸くして見上げながらそんなことを考えていたら、玄関の扉がすぐに開いた。
私とジャンを見て、大きな瞳をパァッと輝かせたのは、母だ。
華奢で細くて、いくつになっても〝可愛い〟という形容詞が似合う彼女は、私が知る限りでは、歳をとっていないんじゃないかと思う。
だって、彼女に関して変わったことがあるとすれば、それは、私が幼い頃は小さな顎のラインからの視界だったのが、今では同じ目線になったことくらいだ。
「いらっしゃいっ!待っていたのよっ!
ジャンくんも大きくなったわねぇっ。髭まで生やして、大人っぽくなっちゃってっ。」
「お久しぶりです。さすがに2年振りですから、変わりますよ。
それより、マリアさんが全く変わらず、若くてお綺麗なままで驚いてます。」
「まぁまぁ、そんな素敵なお世辞まで言えるようになっちゃってっ。
どうしましょう、娘が私にヤキモチ妬いちゃうわ。」
困ったように眉尻を下げながらも、母は嬉しそうに頬を染めていた。
19歳の若い男のお世辞を本気に出来てしまう素直な母にも驚いたけれど、私は、ジャンがこんなキザな台詞をサラリと言えてしまう男になっていたことが信じられなかった。
初めて私の両親に会った時に、緊張でガチガチに固まっていたのが嘘みたいだ。
開いた口が塞がらない。
「これ、お土産です。
ウォール・ローゼで最近人気のお茶菓子で、
紅茶によく合うそうですよ。」
「まぁまぁ、そんな気を遣わなくていいのに…!」
「いきなりお邪魔させて頂くことを、快く受け入れて頂いたお礼です。」
「ふふ、そうなの?それなら、ありがたくいただくわね。
本当は、このお菓子、ずっと気になってたの。
後で、皆で一緒に食べましょう。さ、入って。
———あなた~!ジャンくんとなまえが来ましたよ~!」
母は、私とジャンを家に招き入れると、2階の書斎にいるらしい父に声をかけた。
玄関を上がり、リビングへ続く廊下を歩きながら、私はジャンのスーツの裾を引っ張った。
「ん?」
顔を見上げて手招きする私に気がついたジャンが、不思議そうにしながら、少しだけ身体を屈めた。
そして、私の口元に耳を近づける。
私がどうして欲しいのかをすぐに察してくれるのは、こういうときも凄く助かる。
「お母さん達、どうしてジャンが来ること知ってたの?
団長が話したのかな?」
私は小声で、ジャンに訊ねた。
すると、ジャンは少し納得したような顔をした後に答えた。
「いきなり歳下の補佐官が来たら驚くでしょうから、
先に、俺が行きますってご挨拶の手紙を送っておいたんです。
俺が手紙の返事を出すタイミングだったんで、ちょうどよかったです。」
「手紙の返事?」
「あ~、そういえば、言ってませんでしたね。
なまえさんのご両親と俺、2年間ずっと手紙のやり取りしてたんですよ。」
「え!?」
驚いた私は、思わず大きな声を上げてしまった。
耳元で響いた大音量に、ジャンが眉を顰める。
私の大きな声に驚いたのは、前を歩いていた母も同じだった。
振り返った母は、顔を近づけて話していた私とジャンに気づくと「若いっていいわねぇ。」と楽しそうに頬を染めていた。
目を丸くして固まる私と、大きな声が鼓膜に響いて眉を顰めるジャンを見て、恋人同士がじゃれ合っているように見えた母を、我ながら幸せな人だと感心してしまった。
そして、今回は、その幸せな性格に、助けられた。
大きな扉の前で、私は目を閉じて、大きく深呼吸をした。
それからすぐ、肩の辺りで何かが動いた気配を感じる。
あ——、そう思って私が目を開けたときには、ジャンが平然な顔をして呼び鈴のベルを叩いていた。
信じられない———。
彼はどうしてこうも、いつも堂々としていられるのだろう。
この2年間で、彼が焦ったのを見たのなんて、引き出しから出て来た気持ちの悪い虫にパニックになった私に叩き起こされて、トロスト区の悪夢が再来したと勘違いしてしまったあのときの1回きりだ。
澄ました顔で玄関を見ている人相の悪い横顔を、目を丸くして見上げながらそんなことを考えていたら、玄関の扉がすぐに開いた。
私とジャンを見て、大きな瞳をパァッと輝かせたのは、母だ。
華奢で細くて、いくつになっても〝可愛い〟という形容詞が似合う彼女は、私が知る限りでは、歳をとっていないんじゃないかと思う。
だって、彼女に関して変わったことがあるとすれば、それは、私が幼い頃は小さな顎のラインからの視界だったのが、今では同じ目線になったことくらいだ。
「いらっしゃいっ!待っていたのよっ!
ジャンくんも大きくなったわねぇっ。髭まで生やして、大人っぽくなっちゃってっ。」
「お久しぶりです。さすがに2年振りですから、変わりますよ。
それより、マリアさんが全く変わらず、若くてお綺麗なままで驚いてます。」
「まぁまぁ、そんな素敵なお世辞まで言えるようになっちゃってっ。
どうしましょう、娘が私にヤキモチ妬いちゃうわ。」
困ったように眉尻を下げながらも、母は嬉しそうに頬を染めていた。
19歳の若い男のお世辞を本気に出来てしまう素直な母にも驚いたけれど、私は、ジャンがこんなキザな台詞をサラリと言えてしまう男になっていたことが信じられなかった。
初めて私の両親に会った時に、緊張でガチガチに固まっていたのが嘘みたいだ。
開いた口が塞がらない。
「これ、お土産です。
ウォール・ローゼで最近人気のお茶菓子で、
紅茶によく合うそうですよ。」
「まぁまぁ、そんな気を遣わなくていいのに…!」
「いきなりお邪魔させて頂くことを、快く受け入れて頂いたお礼です。」
「ふふ、そうなの?それなら、ありがたくいただくわね。
本当は、このお菓子、ずっと気になってたの。
後で、皆で一緒に食べましょう。さ、入って。
———あなた~!ジャンくんとなまえが来ましたよ~!」
母は、私とジャンを家に招き入れると、2階の書斎にいるらしい父に声をかけた。
玄関を上がり、リビングへ続く廊下を歩きながら、私はジャンのスーツの裾を引っ張った。
「ん?」
顔を見上げて手招きする私に気がついたジャンが、不思議そうにしながら、少しだけ身体を屈めた。
そして、私の口元に耳を近づける。
私がどうして欲しいのかをすぐに察してくれるのは、こういうときも凄く助かる。
「お母さん達、どうしてジャンが来ること知ってたの?
団長が話したのかな?」
私は小声で、ジャンに訊ねた。
すると、ジャンは少し納得したような顔をした後に答えた。
「いきなり歳下の補佐官が来たら驚くでしょうから、
先に、俺が行きますってご挨拶の手紙を送っておいたんです。
俺が手紙の返事を出すタイミングだったんで、ちょうどよかったです。」
「手紙の返事?」
「あ~、そういえば、言ってませんでしたね。
なまえさんのご両親と俺、2年間ずっと手紙のやり取りしてたんですよ。」
「え!?」
驚いた私は、思わず大きな声を上げてしまった。
耳元で響いた大音量に、ジャンが眉を顰める。
私の大きな声に驚いたのは、前を歩いていた母も同じだった。
振り返った母は、顔を近づけて話していた私とジャンに気づくと「若いっていいわねぇ。」と楽しそうに頬を染めていた。
目を丸くして固まる私と、大きな声が鼓膜に響いて眉を顰めるジャンを見て、恋人同士がじゃれ合っているように見えた母を、我ながら幸せな人だと感心してしまった。
そして、今回は、その幸せな性格に、助けられた。