◇第百五十四話◇地獄はまた更新される
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滞りなく行われた取り調べにより、この世界の成り立ちや、壁の向こうの世界にいる「敵」の目的等、大まかな輪郭は見えてきた。
調査兵団としては、ライナー達の処遇も含め、今後のことについて、もっとじっくりと考えたいところだけれど、予定通りに到着した憲兵団によって、中断を余儀なくされている。
「ライナー達の護送準備が整いました。」
調査兵団兵舎の広場で、作戦書を確認していた私の元にジャンがやって来た。
後ろを振り向けば、籠付きの荷馬車に乗車済みのライナーの姿が、窓越しに見えた。その後ろの荷馬車にはベルトルト、さらにその後ろにはアニが乗っているはずだ。彼らは三人とも、背中に回された両手を頑丈に縛られた上で、全身も鎖で拘束されている。
今から、ライナー達を連れて向かうのは、王都だ。けれど、万が一、超危険人物である彼らを通常ルートで王都へ向かう道中で問題が起きれば、民間人にも被害が出る可能性がある。それだけは、どうしても避けなければいけない。
その為、エルヴィン団長の案により、調査兵団の精鋭兵を護衛につけた状態で、人の住んでいない地区を選び、遠回りをして王都へと向かうことになっている。通常の倍は時間のかかるルートになる為、食料等の荷物も多くなり、かなりの大掛かりな移動になってしまう。けれど、それもこれも、この世界を恐怖に陥れた超大型巨人らの移送なのだから、当然の処置だと言えるだろう。
今回の重要な護送の指揮官は、私だ。エルヴィン団長やナイル師団長には、他に重要な会議や仕事が残っているから、今回は同行しない。せめて、調査兵団の頭脳と呼ばれるアルミンがいてくれたら心強かったのだけれど、今や彼は団長の右腕だ。当然、エルヴィンについている。
私がやるしかない。エルヴィン団長とナイル師団長から任されたこの大役に、プレッシャーを感じていないと言えば大嘘になる。私は必ず、やり遂げなければならない。この世界のために。そして、夢の途中で死んでいった仲間達のためにもーーーー。
「ありがとう。じゃあ、ジャンは予定のルートで走行出来るように、精鋭兵と憲兵団の先導をお願いね。」
「了解です。」
ジャンの返事を聞いて、私は、ライナー達を乗せた荷馬車のある方へと向かう。
鉄の拘束だけでは心配だという憲兵団の懸念により、ベルトルトには私、ライナーにはリヴァイ兵長、アニにはミカサが付き、一緒に荷馬車に乗ることになっている。見張り兼何かあった時の討伐役というわけだ。
その為、私の補佐官であるジャンが、護送の先頭を走って、できる限りの指揮を行うことになった。もちろん、全ての責任は私にあるが、ある程度は、ジャンが自分で判断するようにお願いもしてある。
大抵のことであれば、ジャンは、私よりも冷静に判断し、正しい答えを出すことができるから、問題ないだろう。
だからどうか、ジャンが、自己判断できないような大きな問題が起きないことを願うばかりだ。
私が動き出したことに気がついたリヴァイ兵長とミカサが小さく頷いた。
彼らがに馬車に乗り込んだのを確認してから、私も荷馬車の踏み場に足を乗せる。けれど、すぐにジャンに腕を掴まれてしまった。
驚いて振り返れば、眉を顰めて怖い顔をしているジャンと目が合う。でも、彼は怒っているわけではない。不安で、苦しいのだろう。きっと、私が彼だったら、同じ顔をしていた自信がある。
「大丈夫だよ。私、ベルトルトより強いから。」
ニッと笑ってみたものの、ジャンの硬い表情は変わらない。
「何かあったら、俺が殺すから、なまえはすぐに俺の名前を呼んで。」
ジャンが言う。
でも、彼の視線の先にいるのは、荷馬車の中で項垂れるように座っているベルトルトだった。
殺気を感じたのか、ベルトルトがビクッと肩を震わせる。
「それは、補佐官として?」
「ーーーー恋人としてです!」
さっきまで怖い顔をしていたのに、途端に友人を前にして恥ずかしくなったのか、顔を赤くしたジャンが怒った顔のままで言って、背中を向けてしまった。大股で先頭の方へと向かう大きな背中が、どうしようもなく可愛くて、思わずプッと吹き出してしまう。
「ごめんね。出発前にイチャイチャしちゃって。」
ベルトルトの隣に腰を下ろし、腰にさしていたブレードを抜く。
「あ、ブレード抜きながら言うことでもなかったね。」
アハハと笑ってみたけれど、項垂れているベルトルトに反応はない。
まぁ、当然だろう。今から、自分たちがどこへ向かい、何をされるのかーーーー憲兵団や王政から詳しい説明はないものの、大体は察しがつく。
ライナー達は、私達が拍子抜けするほどに素直に、敵の計画から目的まで全てを調査兵団に暴露してしまった。つまり、|こっちの世界《・・・・・・》には、彼らをこのまま生かしておく理由がなくなったーーーというわけだ。
「それじゃ、荷馬車にシートを被せて。」
窓から顔を出し、荷馬車護衛班に声をかける。
今日、超大型巨人及び、鎧の巨人らが王都まで護送されることは、どうやら、情報通の誰かからトロスト区の民間人にも伝わってしまっているらしい。
一応、調査兵団が人類の仇を捕らえたことは大々的に報じられているものの、それが誰で、どんな人物なのかまではまだ伏せている状態だ。今後も民間人に公表するかは、隠しておきたい調査兵団と公表するべきだと考える憲兵団や王政、あくまでも中立を動かない駐屯兵団での議論がまだ続くと思われる。
とりあえず、今はまだ、民間人にライナー達の姿を見られてしまわないように、荷馬車にシートを被せて、中に乗っている人間が見えないようにしてもらうことをエルヴィン団長から提案し、憲兵団からも許可が出ている。
「はい!」
元気に返事をしてくれたのは、フレイヤだった。ルルから話は聞いていたけれど、最近のフレイヤは、率先して任務を遂行しようとしているし、本当に頑張ってくれているのがよく分かる。それに、同期の調査兵達と楽しそうに笑い合っている姿もよく見るようになった。
荷馬車にシートを被せて少しすると、先頭の方からジャンが号令をかける声が響いた。それからすぐに、荷馬車が動き出す。
「私はさ、」
そっと、口を開く。
私が握るブレードの切先は、ベルトルトを向いている。
残酷な真相を知った今も、やっぱり、どうして今、私がこんなことをしているのか、分からない。心が追いつかない。
「いつか、ベルトルトとアニがイチャイチャしてるところも見たいなって、今も思ってるんだよね。」
それは、願望なのか。現実逃避か。それとも、ベルトルトが心の前に築いてしまった大きな壁を、どうにかして崩そうとしているのか。
自分でも分からないまま溢れたその言葉は、ガタゴトと揺れる荷馬車の床に落ちて、消えていった。
「そういえば、今回の航路の近くに、コニーとサシャの故郷があるんだって。
どんなところなんだろうね。素直でまっすぐなコニーとサシャが育った場所だから、きっとすごく素敵なところなんだろうなぁ。」
そんな彼らの友人に、ブレードの切先を向けながら、話す話題ではないのは、分かっていた。
ベルトルトは首を垂れて、痛いくらいに目を閉じて、口を噤む。その痛々しい姿はまるで、この世界から消えてしまおうとしているみたいだった。
調査兵団としては、ライナー達の処遇も含め、今後のことについて、もっとじっくりと考えたいところだけれど、予定通りに到着した憲兵団によって、中断を余儀なくされている。
「ライナー達の護送準備が整いました。」
調査兵団兵舎の広場で、作戦書を確認していた私の元にジャンがやって来た。
後ろを振り向けば、籠付きの荷馬車に乗車済みのライナーの姿が、窓越しに見えた。その後ろの荷馬車にはベルトルト、さらにその後ろにはアニが乗っているはずだ。彼らは三人とも、背中に回された両手を頑丈に縛られた上で、全身も鎖で拘束されている。
今から、ライナー達を連れて向かうのは、王都だ。けれど、万が一、超危険人物である彼らを通常ルートで王都へ向かう道中で問題が起きれば、民間人にも被害が出る可能性がある。それだけは、どうしても避けなければいけない。
その為、エルヴィン団長の案により、調査兵団の精鋭兵を護衛につけた状態で、人の住んでいない地区を選び、遠回りをして王都へと向かうことになっている。通常の倍は時間のかかるルートになる為、食料等の荷物も多くなり、かなりの大掛かりな移動になってしまう。けれど、それもこれも、この世界を恐怖に陥れた超大型巨人らの移送なのだから、当然の処置だと言えるだろう。
今回の重要な護送の指揮官は、私だ。エルヴィン団長やナイル師団長には、他に重要な会議や仕事が残っているから、今回は同行しない。せめて、調査兵団の頭脳と呼ばれるアルミンがいてくれたら心強かったのだけれど、今や彼は団長の右腕だ。当然、エルヴィンについている。
私がやるしかない。エルヴィン団長とナイル師団長から任されたこの大役に、プレッシャーを感じていないと言えば大嘘になる。私は必ず、やり遂げなければならない。この世界のために。そして、夢の途中で死んでいった仲間達のためにもーーーー。
「ありがとう。じゃあ、ジャンは予定のルートで走行出来るように、精鋭兵と憲兵団の先導をお願いね。」
「了解です。」
ジャンの返事を聞いて、私は、ライナー達を乗せた荷馬車のある方へと向かう。
鉄の拘束だけでは心配だという憲兵団の懸念により、ベルトルトには私、ライナーにはリヴァイ兵長、アニにはミカサが付き、一緒に荷馬車に乗ることになっている。見張り兼何かあった時の討伐役というわけだ。
その為、私の補佐官であるジャンが、護送の先頭を走って、できる限りの指揮を行うことになった。もちろん、全ての責任は私にあるが、ある程度は、ジャンが自分で判断するようにお願いもしてある。
大抵のことであれば、ジャンは、私よりも冷静に判断し、正しい答えを出すことができるから、問題ないだろう。
だからどうか、ジャンが、自己判断できないような大きな問題が起きないことを願うばかりだ。
私が動き出したことに気がついたリヴァイ兵長とミカサが小さく頷いた。
彼らがに馬車に乗り込んだのを確認してから、私も荷馬車の踏み場に足を乗せる。けれど、すぐにジャンに腕を掴まれてしまった。
驚いて振り返れば、眉を顰めて怖い顔をしているジャンと目が合う。でも、彼は怒っているわけではない。不安で、苦しいのだろう。きっと、私が彼だったら、同じ顔をしていた自信がある。
「大丈夫だよ。私、ベルトルトより強いから。」
ニッと笑ってみたものの、ジャンの硬い表情は変わらない。
「何かあったら、俺が殺すから、なまえはすぐに俺の名前を呼んで。」
ジャンが言う。
でも、彼の視線の先にいるのは、荷馬車の中で項垂れるように座っているベルトルトだった。
殺気を感じたのか、ベルトルトがビクッと肩を震わせる。
「それは、補佐官として?」
「ーーーー恋人としてです!」
さっきまで怖い顔をしていたのに、途端に友人を前にして恥ずかしくなったのか、顔を赤くしたジャンが怒った顔のままで言って、背中を向けてしまった。大股で先頭の方へと向かう大きな背中が、どうしようもなく可愛くて、思わずプッと吹き出してしまう。
「ごめんね。出発前にイチャイチャしちゃって。」
ベルトルトの隣に腰を下ろし、腰にさしていたブレードを抜く。
「あ、ブレード抜きながら言うことでもなかったね。」
アハハと笑ってみたけれど、項垂れているベルトルトに反応はない。
まぁ、当然だろう。今から、自分たちがどこへ向かい、何をされるのかーーーー憲兵団や王政から詳しい説明はないものの、大体は察しがつく。
ライナー達は、私達が拍子抜けするほどに素直に、敵の計画から目的まで全てを調査兵団に暴露してしまった。つまり、|こっちの世界《・・・・・・》には、彼らをこのまま生かしておく理由がなくなったーーーというわけだ。
「それじゃ、荷馬車にシートを被せて。」
窓から顔を出し、荷馬車護衛班に声をかける。
今日、超大型巨人及び、鎧の巨人らが王都まで護送されることは、どうやら、情報通の誰かからトロスト区の民間人にも伝わってしまっているらしい。
一応、調査兵団が人類の仇を捕らえたことは大々的に報じられているものの、それが誰で、どんな人物なのかまではまだ伏せている状態だ。今後も民間人に公表するかは、隠しておきたい調査兵団と公表するべきだと考える憲兵団や王政、あくまでも中立を動かない駐屯兵団での議論がまだ続くと思われる。
とりあえず、今はまだ、民間人にライナー達の姿を見られてしまわないように、荷馬車にシートを被せて、中に乗っている人間が見えないようにしてもらうことをエルヴィン団長から提案し、憲兵団からも許可が出ている。
「はい!」
元気に返事をしてくれたのは、フレイヤだった。ルルから話は聞いていたけれど、最近のフレイヤは、率先して任務を遂行しようとしているし、本当に頑張ってくれているのがよく分かる。それに、同期の調査兵達と楽しそうに笑い合っている姿もよく見るようになった。
荷馬車にシートを被せて少しすると、先頭の方からジャンが号令をかける声が響いた。それからすぐに、荷馬車が動き出す。
「私はさ、」
そっと、口を開く。
私が握るブレードの切先は、ベルトルトを向いている。
残酷な真相を知った今も、やっぱり、どうして今、私がこんなことをしているのか、分からない。心が追いつかない。
「いつか、ベルトルトとアニがイチャイチャしてるところも見たいなって、今も思ってるんだよね。」
それは、願望なのか。現実逃避か。それとも、ベルトルトが心の前に築いてしまった大きな壁を、どうにかして崩そうとしているのか。
自分でも分からないまま溢れたその言葉は、ガタゴトと揺れる荷馬車の床に落ちて、消えていった。
「そういえば、今回の航路の近くに、コニーとサシャの故郷があるんだって。
どんなところなんだろうね。素直でまっすぐなコニーとサシャが育った場所だから、きっとすごく素敵なところなんだろうなぁ。」
そんな彼らの友人に、ブレードの切先を向けながら、話す話題ではないのは、分かっていた。
ベルトルトは首を垂れて、痛いくらいに目を閉じて、口を噤む。その痛々しい姿はまるで、この世界から消えてしまおうとしているみたいだった。
