◇第百四十八話◇恋人がいるということ
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眠れない————。
今日は訓練で身体を酷使し、本格的に副兵士長の補佐官に復帰したことで激増した書類仕事もこなした。
身体は休息を求めているはずだ。
しかし、ジャンはいつまで経っても眠りにつけずにいた。
それでも必死に眠ろうと努力はしているのだ。
いつもよりも長めにシャワーを浴びて身体を温めたし、ベッドに入ってからは瞼を下ろして何も考えないように心を落ち着けようとした。
羊を数えたのなんて子供の頃以来だ。
けれど、努力の結果も虚しく、扉の向こうにある廊下から人の声が聞こえなくなってからもうだいぶ時間が過ぎている。
こんな夜に限って、窓の外を吹く風は音もなく静かで、シーンという音さえ聞こえないほどの静けさに頭がおかしくなりそうだった。
いや、実際、少しは頭がおかしくなった方がいいのかもしれない。
もしくは、既に頭がおかしくなっているという可能性も否定できない。
だって、何度も何度も眠りにつこうと努力をする度に、頭の中に『恋人』というワードが浮かんできて、心が高揚するのだ。
ついに———。
ついに、だ————。
ついに、なまえと恋人になった。もちろん、偽物ではない。本物だ。
『私は…、ジャンが好きです。
これからもずっと、ずっとずっとジャンだけが好き…!』
記憶にしっかりと刻んでおいたなまえの声が、気持ちの昂りに拍車をかけていく。
なまえは、自分のことが好きなのだ。
リヴァイではなく、他の誰でもなく、自分だけを好きだと言ってくれた。
もうずっと長い間片想いをしてきた人の好きな人の名前は、ジャン・キルシュタイン。自分の名前なのだ。
今、彼女の澄んだ綺麗な瞳が映すのは、自分だけなのだ。
(俺は今…、なまえさんの恋人。なまえは、俺の恋人。)
頭の中で事実を復唱してみても、実感が湧かない。
それなのに、だらしなく頬は緩んでいき、口元はニヤついた。
敢えて、誰かにそれを宣言することはしていないし、するつもりもない。
けれど、終わったと思われていたなまえとジャンの関係が、ジャンを守る為のなまえとリヴァイの芝居だと分かったことで、今では皆が二人のことを『婚約者』だと認識している。
あの後、病室に顔を出したなまえの両親もそうだった。
リヴァイから、初めからすべて演技だと教えられていたらしいなまえの両親は、ジャンとなまえが無事に帰って来て、また婚約者に戻れたことを喜んでいた。
正確には、2人は今漸く恋人になれたばかりで婚約はしていない。けれど、それを訂正するつもりだってない。
そうすることで、必然的に、なぜ婚約を解消したのかという説明も必要になってくるからだ。
けれど、なまえはそうは思えないようだった。
嘘が苦手な彼女は、また仲間や両親を騙すことになるのを気にしていたのだ。
『いいじゃないっすか。どうせ、なまえは俺と結婚するんだから、嘘じゃないでしょ?』
ジャンがそう言えば、なまえは少し驚いた顔をした後に頬を赤らめた。
素直で可愛らしい初めての恋人は、扱いやすくて助かる。
本音は、婚約者から恋人に格下げされたと勘違いをした畜生が、なまえに手を出さないための牽制だ。
そんな意地の悪い策士の考えなんて、素直で優しい彼女は想像もしないのだろう。
「あー…、本当に俺でいいのかな。」
不意に、そして、ついに、本音が零れてしまった。
眠れない原因は、高揚する気持ちのせいだけではない。
不安なのだ。
自分が彼女に相応しいなんて、本当は一度だって思ったことないのだから———。
今日は訓練で身体を酷使し、本格的に副兵士長の補佐官に復帰したことで激増した書類仕事もこなした。
身体は休息を求めているはずだ。
しかし、ジャンはいつまで経っても眠りにつけずにいた。
それでも必死に眠ろうと努力はしているのだ。
いつもよりも長めにシャワーを浴びて身体を温めたし、ベッドに入ってからは瞼を下ろして何も考えないように心を落ち着けようとした。
羊を数えたのなんて子供の頃以来だ。
けれど、努力の結果も虚しく、扉の向こうにある廊下から人の声が聞こえなくなってからもうだいぶ時間が過ぎている。
こんな夜に限って、窓の外を吹く風は音もなく静かで、シーンという音さえ聞こえないほどの静けさに頭がおかしくなりそうだった。
いや、実際、少しは頭がおかしくなった方がいいのかもしれない。
もしくは、既に頭がおかしくなっているという可能性も否定できない。
だって、何度も何度も眠りにつこうと努力をする度に、頭の中に『恋人』というワードが浮かんできて、心が高揚するのだ。
ついに———。
ついに、だ————。
ついに、なまえと恋人になった。もちろん、偽物ではない。本物だ。
『私は…、ジャンが好きです。
これからもずっと、ずっとずっとジャンだけが好き…!』
記憶にしっかりと刻んでおいたなまえの声が、気持ちの昂りに拍車をかけていく。
なまえは、自分のことが好きなのだ。
リヴァイではなく、他の誰でもなく、自分だけを好きだと言ってくれた。
もうずっと長い間片想いをしてきた人の好きな人の名前は、ジャン・キルシュタイン。自分の名前なのだ。
今、彼女の澄んだ綺麗な瞳が映すのは、自分だけなのだ。
(俺は今…、なまえさんの恋人。なまえは、俺の恋人。)
頭の中で事実を復唱してみても、実感が湧かない。
それなのに、だらしなく頬は緩んでいき、口元はニヤついた。
敢えて、誰かにそれを宣言することはしていないし、するつもりもない。
けれど、終わったと思われていたなまえとジャンの関係が、ジャンを守る為のなまえとリヴァイの芝居だと分かったことで、今では皆が二人のことを『婚約者』だと認識している。
あの後、病室に顔を出したなまえの両親もそうだった。
リヴァイから、初めからすべて演技だと教えられていたらしいなまえの両親は、ジャンとなまえが無事に帰って来て、また婚約者に戻れたことを喜んでいた。
正確には、2人は今漸く恋人になれたばかりで婚約はしていない。けれど、それを訂正するつもりだってない。
そうすることで、必然的に、なぜ婚約を解消したのかという説明も必要になってくるからだ。
けれど、なまえはそうは思えないようだった。
嘘が苦手な彼女は、また仲間や両親を騙すことになるのを気にしていたのだ。
『いいじゃないっすか。どうせ、なまえは俺と結婚するんだから、嘘じゃないでしょ?』
ジャンがそう言えば、なまえは少し驚いた顔をした後に頬を赤らめた。
素直で可愛らしい初めての恋人は、扱いやすくて助かる。
本音は、婚約者から恋人に格下げされたと勘違いをした畜生が、なまえに手を出さないための牽制だ。
そんな意地の悪い策士の考えなんて、素直で優しい彼女は想像もしないのだろう。
「あー…、本当に俺でいいのかな。」
不意に、そして、ついに、本音が零れてしまった。
眠れない原因は、高揚する気持ちのせいだけではない。
不安なのだ。
自分が彼女に相応しいなんて、本当は一度だって思ったことないのだから———。