◇第百四十三話◇親友たち
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雑務を終えて自室に戻って来たジャンは、ソファに深く腰掛けると大きく息を吐いた。
今日も、朝から晩まで働き詰めの1日だった。
あの地獄のような壁外調査から帰還して5日が経つ。
想像をはるかに超えた残酷な現実を前に、途方に暮れて頭が働かなくなるのではないかと懸念していたけれど、それ以上に忙しすぎる日々のおかげでなんとかやっていけている。
共に支え合える104期の仲間がいたことも大きい。
2日前には、ライナー達の元へも行き、なまえが目を覚ませばきちんと話をすると約束を取り付けることも出来た。
相変わらず、彼らは尋問には答えないようだが、少しは会話が出来るようになってきているとモブリットから聞いている。
後は、なまえが目を覚ませばきっと、この世界で一体何が起こっているのかを彼らが話してくれるはずだ。
(なまえ…。)
ジャンは、ソファの背もたれに後頭部を乗せて天井を仰ぐ。
もう5日も経つのに、なまえは目を覚まさない。
出来る限りの検査を行った医者も理由が分からないと繰り返すばかりだ。
一体、彼女の身体に何が起こっているのだろうか。
「はぁ…。」
ジャンは大きなため息を吐きだした。
帰還した日、リヴァイの指示を受けてなまえのそばに付き添ったのが遠い昔のようだ。
あれからは、なまえの両親やリヴァイが彼女に付きっきりで、全く近寄れない。
そもそも、ジャンに隙を狙う時間すらないというのが正直なところだ。
ライナーとベルトルトの同期である104期調査兵は、帰還後すぐに調査兵幹部から聴取を受けた。彼らと本当に繋がっていなかったかを調べるためだ。
そこで疑惑が晴れたと思ったら、今度は高圧的な憲兵からも聴取を受けなければいけなくなった。
それもなんとか乗り越えた後は、今回の壁外調査の報告資料の作成や訓練だ。
ほとんど休みもなく働かされて、なまえの眠る病室の前を通り過ぎる暇すらない。
それでも、いつもなまえのことを考えている。
目を覚ましただろうか。苦しんではいないだろうか。痛くはないだろうか。せめて、楽しい夢を見ていてくれたらいい———彼女への想いは、募るばかりだ。
あの大規模作戦の渦中にいるときは、誰を敵に回しても
なまえの隣にいるべきなのは自分だと信じていた。だからこそ、地獄の中で戦えた。
けれど、こうして彼女と離れる時間ができると、いやでも冷静になってしまう。
なまえの隣にいるのは自分でいいのだろうか。そもそも、自分は振られた身だ。このまま身を引いて、リヴァイ兵長に全てを任せるのが1番いいのかもしれない。
「あ……!」
今日中にアルミンに渡さなければならない書類があったことを思い出した。
せっかくひと段落ついて休憩ができるとソファに座ったばかりだ。これから溜まりに溜まった書類の中からお目当てのものを探し当て、幹部フロアまで向かうのは気が重い。
けれど、疲弊のせいで愛想笑いを忘れてしまった友人に「まさか君まで僕の手を煩わせたりしないよね。」と釘を刺されたのはつい昨日のことだ。目の下に隈を作って、壊れたように口の端を押し上げた彼の狂気の笑みは、人を殺しかねない恐ろしさを纏っていた。
―仕方ない。
なまえのそばにいると忘れがちになってしまうが、そもそも今日が提出期限なのだから、アルミンに殺されるかもしれないからという理由は関係なく提出しなければならないのだ。
ジャンはため息を吐くと、のっそりとソファから立ち上がった。
そして、デスクの上に山積みになっている書類の中から、該当のものをなんとか見つけ出して部屋を出る。
廊下では数名の調査兵とすれ違った。今回のことで調査兵団兵舎まで来て毎日会議やら尋問やらを行っている憲兵もいる。
闇アルミンほどとは言わないが、それでも皆、疲れ切っていて生気のない顔をしていた。
憲兵にとっても、淡々と仕事をこなしてきたアニが人類の仇だったという事実はショックが大きいのだろう。
仲間や友人としての彼らを知っている者にとって、あまりにも残酷すぎる現実だった。
今すぐに現実から逃げて、楽になりたいーー。
幹部フロアまでたどり着いたジャンは、とにかく今は誰かに嫌味を言っていないと気が済まないらしい闇ミンに手早く書類を渡すと、急ぎ足で踵を返した。その時だった。
「ジャン!」
懐かしさを感じる声に、後ろから呼び止められた。
今日も、朝から晩まで働き詰めの1日だった。
あの地獄のような壁外調査から帰還して5日が経つ。
想像をはるかに超えた残酷な現実を前に、途方に暮れて頭が働かなくなるのではないかと懸念していたけれど、それ以上に忙しすぎる日々のおかげでなんとかやっていけている。
共に支え合える104期の仲間がいたことも大きい。
2日前には、ライナー達の元へも行き、なまえが目を覚ませばきちんと話をすると約束を取り付けることも出来た。
相変わらず、彼らは尋問には答えないようだが、少しは会話が出来るようになってきているとモブリットから聞いている。
後は、なまえが目を覚ませばきっと、この世界で一体何が起こっているのかを彼らが話してくれるはずだ。
(なまえ…。)
ジャンは、ソファの背もたれに後頭部を乗せて天井を仰ぐ。
もう5日も経つのに、なまえは目を覚まさない。
出来る限りの検査を行った医者も理由が分からないと繰り返すばかりだ。
一体、彼女の身体に何が起こっているのだろうか。
「はぁ…。」
ジャンは大きなため息を吐きだした。
帰還した日、リヴァイの指示を受けてなまえのそばに付き添ったのが遠い昔のようだ。
あれからは、なまえの両親やリヴァイが彼女に付きっきりで、全く近寄れない。
そもそも、ジャンに隙を狙う時間すらないというのが正直なところだ。
ライナーとベルトルトの同期である104期調査兵は、帰還後すぐに調査兵幹部から聴取を受けた。彼らと本当に繋がっていなかったかを調べるためだ。
そこで疑惑が晴れたと思ったら、今度は高圧的な憲兵からも聴取を受けなければいけなくなった。
それもなんとか乗り越えた後は、今回の壁外調査の報告資料の作成や訓練だ。
ほとんど休みもなく働かされて、なまえの眠る病室の前を通り過ぎる暇すらない。
それでも、いつもなまえのことを考えている。
目を覚ましただろうか。苦しんではいないだろうか。痛くはないだろうか。せめて、楽しい夢を見ていてくれたらいい———彼女への想いは、募るばかりだ。
あの大規模作戦の渦中にいるときは、誰を敵に回しても
なまえの隣にいるべきなのは自分だと信じていた。だからこそ、地獄の中で戦えた。
けれど、こうして彼女と離れる時間ができると、いやでも冷静になってしまう。
なまえの隣にいるのは自分でいいのだろうか。そもそも、自分は振られた身だ。このまま身を引いて、リヴァイ兵長に全てを任せるのが1番いいのかもしれない。
「あ……!」
今日中にアルミンに渡さなければならない書類があったことを思い出した。
せっかくひと段落ついて休憩ができるとソファに座ったばかりだ。これから溜まりに溜まった書類の中からお目当てのものを探し当て、幹部フロアまで向かうのは気が重い。
けれど、疲弊のせいで愛想笑いを忘れてしまった友人に「まさか君まで僕の手を煩わせたりしないよね。」と釘を刺されたのはつい昨日のことだ。目の下に隈を作って、壊れたように口の端を押し上げた彼の狂気の笑みは、人を殺しかねない恐ろしさを纏っていた。
―仕方ない。
なまえのそばにいると忘れがちになってしまうが、そもそも今日が提出期限なのだから、アルミンに殺されるかもしれないからという理由は関係なく提出しなければならないのだ。
ジャンはため息を吐くと、のっそりとソファから立ち上がった。
そして、デスクの上に山積みになっている書類の中から、該当のものをなんとか見つけ出して部屋を出る。
廊下では数名の調査兵とすれ違った。今回のことで調査兵団兵舎まで来て毎日会議やら尋問やらを行っている憲兵もいる。
闇アルミンほどとは言わないが、それでも皆、疲れ切っていて生気のない顔をしていた。
憲兵にとっても、淡々と仕事をこなしてきたアニが人類の仇だったという事実はショックが大きいのだろう。
仲間や友人としての彼らを知っている者にとって、あまりにも残酷すぎる現実だった。
今すぐに現実から逃げて、楽になりたいーー。
幹部フロアまでたどり着いたジャンは、とにかく今は誰かに嫌味を言っていないと気が済まないらしい闇ミンに手早く書類を渡すと、急ぎ足で踵を返した。その時だった。
「ジャン!」
懐かしさを感じる声に、後ろから呼び止められた。