ゆらゆら、ゆらゆら————空に浮かぶゆりかごで眠っているみたい。気持ちがいい。
暖かくて、優しい気持ちになる。
まるで、ジャンの愛に包まれていた頃みたいだ。
あぁ、思い出す。
いや、違う。
私は彼を忘れたことなんてない。
空想に耽る私に呆れていても、いつも忍耐強く私を見守ってくれる切れ長の瞳が好きだ。
仕事をサボってばかりいる私を怖い顔で怒っているくせに、優しく引っ張ってくれる大きな手が好きだ。
寄り道もしたいし、鼻歌を歌いながらのんびり歩きたい私の隣を歩くためだけに、歩幅を合わせてくれる長い脚が好きだ。
普段は友人や仲間と軽口を叩き合っているのに、2人きりになると甘い愛を囁いてくれる唇が好きだ。
愛を交える為に私を必死に抱いて汗だくになる、筋肉質で引き締まった胸元が好きだ。
でも本当は、乱暴で意地悪な言葉の向こうに隠れてる温かい愛が私は大好きなんだってこと、ジャンは知っていただろうか。
たぶん一生知らないまま、彼は私の元から去ってしまった。
ゆらゆら、ゆらゆら、揺れる———。
私の気持ちはいつだって、まっすぐにジャンに向かっている。
ゆらゆら、ゆらゆら、揺れる———。
ゆりかごの中で、私はあの日からずっと、ジャンの夢を見ている。
夢の中でなら、あの切れ長の瞳に逢える。
夢の中でなら、あの大きな手に触れてもらえる。
夢の中でなら共に歩いて、夢の中でなら愛を語り合える。
夢の中でなら、私は私らしく、自由奔放に、マイペースに、意地悪な彼の軽口に歯向かっては心から笑えるのだ。
あぁ、夢が愛おしい。あぁ、夢だけが救い。
そして、夢がこんなにも悲しいのも初めてだ。
あの日まで現実だった日々が、夢になってしまった。
だから私は、夢の中で生きたい。ずっと、ずっと、このままで——————。